シャイン 〜みんな輝いてる〜 第22話 想いの強さ深さ 「じゃあな!晃!」 ガラガラ。 晃を見送る光。 最近、晃は以前より頻繁に光の家をたずねるようになった。 だが一恵はいまだに戸惑いを覚えていた。 (・・・。一度・・・。聞いてみなきゃいけない) 大好きな姉の心を傷つけた原因を作った主。 (・・・真柴さんの・・・。気持ちがどれほど強いのか・・・。 お姉ちゃんのコンプレックスごと受け止める器の男かどうか) 姉の心の”襞”の深さを誰より知っている。 (お姉ちゃんが誰かを好きになる・・・ってことは どんれくらいのエネルギーと葛藤が必要なことか・・・。 男不審どころか人間不信克服からスタートしなくちゃいけないのに・・・) 一恵の中の晃への不信感を拭うためにも・・・。 (お姉ちゃんの恋を応援したんだ・・・。心から・・・) 「真柴さん。ちょっと・・・。お時間いいですか?」 「あ、はい・・・」 一恵は晃を商店街の喫茶店に呼び出した。 一恵とこうして面と向かって話すのは・・・ 二回目くらいだろうか。 晃自身は自分に対して一恵が快く思っていないことは 自覚している。 (当然だ・・・。オレはそれだけのことを光に背負わせたのだから) 「・・・。真柴さんがアメリカに行ってから・・・。 うちの家族には色々ありました。母が倒れ、姉は看病と家事に追われ・・・。 正直、何の音沙汰もなかった真柴さんを私は恨みました」 「・・・」 一恵はストレートに言い放つ。 晃の本心が聞きたいから 晃の心が知りたいから・・・。 「・・・でも姉は・・・。真柴さんをずっと信じていた。 ”きっとアメリカで頑張ってるんだ。私も頑張らないと”って・・・」 「・・・」 「・・・姉の真柴さんへの気持ちが”恋”なのかどうかは・・・。 私にもわかりません。でも・・・。心の其処から真柴さんを信じている ことは確かなんです。とても大切に想っていることは・・・」 「・・・光・・・」 一恵の言葉はキツイ言葉が混じっているが・・・ 姉を想う心が伝わってくる・・・。 「真柴さん・・・。姉のことを・・・。待てますか?」 「え・・・?」 「姉が・・・。誰かを本気で好きになって・・・。それを伝える ことは・・・。どれだけ時間がかかるか・・・。自分の心の傷を 乗り越えることが・・・」 晃は珈琲を一口口に含んで静かに置いた。 「・・・逆に・・・。俺が聞きたいです・・・。 ”待ってていいのか”って・・・」 「・・・」 「・・・オレの知り合いに一度言われたことが有ります・・・」 ”同情交じりの愛情で・・・。ただ執着してるだけじゃないのか。 光がもし、火傷を負っていなかったら・・・。誰でもよかったんだろう” ”他にこだわるものがないから・・・。自分の罪悪感に酔いしれて ドラマつくってんじゃないのか” 「・・・幼い頃の俺は・・・。感情が止まった子供でした・・・。 とにかく嫌なことを忘れられることなら何でもやった・・・」 「・・・」 「・・・あ、俺のガキの頃のことなんてどうでもいいですよね。 でも・・・熱い熱いと地面を転げまわる・・・光の姿が忘れられない。 そのとき初めて・・・他人の痛みに俺は気がついたんです・・・」 「真柴さんの自己満足の代償ですか・・・。姉とっては とてつもない代償ですよね」 「俺の心から・・・。”罪悪感”が微塵も消えることはないでしょう・・・」 晃のその言葉に・・・。 一恵は一瞬、落胆した・・・。 だが最後まで聞かなければ・・・。 「・・・でも・・・。罪悪感がスタートでも、俺は・・・俺は ずっと光を見てきた・・・。高校時代も・・・それからも・・・」 光が通う学校に編入し、光が一人暮らしを始めたときも 同じアパートに引っ越して・・・。 光のことだけがいつも真ん中だった。 光が生きていく上での要だった。 「光が泣いてアパートに帰って来た夜は・・・。 オレも眠らなかった。光がカーテン閉めて部屋に篭った休みも オレは部屋を暗闇に居た・・・。オレは・・・オレは・・・っ」 晃は興奮してきたのか少し息を荒くして話す・・・ 「真柴さん・・・」 (・・・この人は・・・。人一倍・・・純粋すぎて・・・真っ直ぐすぎて・・・。 そして人を求めることが強い・・・) 罪悪感から始まった気持ちも真っ直ぐすぎる愛に 変えてしまう。 それはどこか・・・危うさを秘めた想い。 「・・・あ・・・すみません。あの頃のこと 思い出して感情的になってしまって・・・」 「いえ・・・。あの・・・。真柴さん。姉を・・・。 あまり”神聖化”しないでください」 「しん・・・聖化・・・?」 「真柴さんの想いの強さは分かりました。でも・・・。 姉にとってその想いは・・・。真柴さんにどう応えていいか悩み苦しむ・・・。 真柴さんが姉に”恋愛”を求めても、姉の中で”恋愛”というのは『恐怖』 でしかない。男性不信、人間不信、凝り固まって姉の心今も”沈殿”してるんです・・・」 「・・・」 「・・・恋愛なんて精神的エネルギーがいる こと・・・お姉ちゃんが恐れるのも無理ないですよね・・・。 お姉ちゃんは否定され続けてきたんだから・・・ッ! 生きてちゃいけないみたいに・・・ッ!」 一恵の脳裏に光が味わってきた 嫌な痛い記憶が蘇る・・・ ・・・感情が押えられない・・・ 姉妹で道を歩くとき少し離れて歩いた光の気遣い ”妹の一恵チャンはかわいいわねぇ・・・” ”光ちゃんは外見が『あんな』だからせめて 性格美人にならないと・・・ってどちらにしても・・・可哀想” お手軽に哀れまれても 言い返すこともしなかった光。 ”お前のねーちゃんすげー顔。ギャハハ。 バーカ” 一恵が学校でからかわれて帰って来るたびに ごめんねと何度も言って抱きしめてくれた。 でも ・・・部屋のなかでこっそり泣いていた背中だけ覚えている・・・ 「”自分の中の『被害妄想』との戦いだ”って姉の口癖です・・・。 お姉ちゃんが街を歩いたらみんな、顔を背ける。煙たがる。 ・・・唾を吐く。どうして姉が・・・ッ姉がそんな思いするんです!? 何にも悪いことしてないのに・・・ッ!!生きてること自体否定されて どうして・・・ッどうして・・・ッ」 一恵は興奮して 息があがってきた 晃はそんな一恵をただ・・・ 黙って受け止める 聞く。 自分に対する怒りも訴えも・・・。 「真柴さん、まだ貴方は姉の本当の痛みを知らなさ過ぎます・・・ッ! 都合のいい理屈で姉に恋愛関係なんて求めないでください!!」 「・・・」 (・・・何を偉そうに・・・。私だって知らない。 お姉ちゃんの本当の痛みだなんて・・・) だけど止まらなかった。 どうしても晃の本心が信じきれない。 ・・・光が大好きだから・・・ ふと・・・ 晃と一恵の視線が窓の外に同時に流れた。 可愛らしい制服をきた高校生。 そして大学生くらいの男女。 手をつないで歩いている。 あれが世の中でいう”普通”という。 なにが普通なのだろう。 「・・・。お姉ちゃんは・・・。一緒に並んで歩くことさえ・・・ 遠慮するでしょうね・・・。真柴さんまで変な目でみられないように・・・」 「・・・」 ”醜い形の人間は愛を語っちゃいけない” 暗黙の了解だ。 光はそれを知っている、自覚している。 『器』が綺麗なものを求めるのは”人間の本能” ・・・。 暗黙の了解だ。 けど誰が決めた? ”本当に綺麗なもの”って・・・なんだ? ・・・恋ってなんだ? 愛って・・・ なんだ・・・? 「恋愛なんて姉には・・・”恐怖の荒海”・・・。でも姉の心は・・・『愛』ならいっぱい心に持ってます・・・。 人より何倍も・・・」 今朝も登代子の気晴らしにと 一緒に銭湯へ行った。 『美人の湯があるんだってさ。母さん若返りにいこうよ』 登代子を背負い、 嬉しそうに・・・。 「・・・。すみません。なんか・・・。感情爆発しちゃって・・・」 「いえ・・・」 「・・・もう一度いいますが・・・。姉を・・・ 姉の中の”恐怖”を乗り越えられるまで待てますか・・・?」 ”晃・・・。ごめんもう少し待ってくれ・・・” 一恵の口を通して 光が頼んでいるように 晃には思えて・・・。 「心の傷なんて可愛い言葉じゃ片付けられません。”視線が怖い” 姉は闘ってます。帽子を持ち歩いて出かけてます。そんな 姉を・・・待てますか?」 晃は少し間をおいて口を開いた。 「・・・待っていてもいいですか・・・? 何十年でもオレは・・・待ちます・・・」 「真柴さん・・・」 「・・・不甲斐ない男ですでも・・・。お願いです。オレから・・・ オレの心から光・・・お姉さんへの想いを持つことを許して 下さい。お願いします・・・お願いします・・・」 一恵に頭を下げる晃・・・。 (・・・なんて正直な人なだろう・・・。でも・・・) 言葉だけじゃ 伝わりきらない。 信じ切れない。 もっと確かな”何か”が欲しい。 一恵の心は揺れていた・・・。 「あ・・・。光・・・」 「え?」 窓の外。道路の反対側を自転車に乗った光が 歩いていた。 「お姉ちゃん?」 「・・・あ・・・!」 横断歩道が青になって・・・ 歩き出す光。 「・・・光・・・ッ!!!」 だが50メートルほど向こうからバイクが信号無視して 光めがけて走ってきた・・・ ガタン!! 晃は店を飛び出して 「光ーーーーーッ!!!」 大声で叫んだ晃の声に・・・ 光が立ち止まった。 「晃・・・?」 ビュン!!! 「わッ」 立ち止まった直前・・・バイクは光すれすれに走り去って・・・。 「・・・光・・・ッ!!!」 「晃・・・」 光に駆け寄る晃・・・。 「光、怪我はないか!?どこか痛いところは!??」 「え?あ、いや・・・。無傷だ。晃こそ・・・大丈夫か!?」 「オレのことはどうでもいいッ!!」 声を荒げる晃・・・。 「怖かった・・・。本当に・・・怖かったんだからな・・・」 晃の手が震えている・・・ ガタガタと 青ざめた顔で・・・。 「・・・頼むから・・・。自分を大事にしてくれ・・・。 頼む・・・」 「うん・・・。ごめんな・・・。晃・・・」 (・・・真柴さん・・・) 互いを気遣いあう・・・ 真剣な眼差しに一恵は感じる。 二人の間にある空気。 言葉では表現できない”空気” 二人の心の繋がりを漂わせる空気・・・ (もう・・・。私の迷いなんて超えるんだね・・・。 私が口挟む理由もないんだね・・・) 寂しいような嬉しいような・・・ 大好きな姉を取られたような・・・ 不思議な気分。 ただ願うのは・・・ (お願い。お姉ちゃん・・・。自分の恋愛に・・・ 自信をもってね・・・。私はいつでも味方だからね・・・) 姉の幸せ。 人一倍痛みを知っている姉の幸せ。 「・・・あれ?一恵・・・?そういえばなんで晃と・・・?」 「あ、いえちょっとね。秘密」 「あ?おい。コラ。一恵。晃になんか説教でもかましたんじゃないのか?」 (す、鋭い・・・(汗)) 晃と一恵は同時にそう思った。 「晃。一恵が何言ったかは知らんが、真に受けないでくれ。 私は私の意志があるんだから」 「いい・・・妹さんをもって幸せだよ。光は?」 「え?」 「幸せだよ・・・」 優しい視線を送る晃。 光と一恵はちらっと顔を見合った。 「・・・(汗)そ、そうか?まぁ多少姉には辛口なトコが 難点だがね」 「えー。それは愛のムチってやつよ。ふふ。じゃ、 お邪魔虫はたいさんしよーっと」 「あ、ちょっと待て・・・」 晃と光に背を向けて呟く・・・。 「お姉ちゃん・・・。応援するから・・・お姉ちゃんが・・・”恋愛”出来るように・・・」 「え?」 「じゃあね!ちょっと買い物して帰るから!」 「あ・・・一恵・・・ッ」 二人に手を振って一恵は雑踏の中に消えていった。 ”応援してるから” (・・・一恵さん・・・。ありがとう) 晃に伝わった一恵の答え。 自分の恋愛を応援してくれる人が出来た。 ・・・こんな心強いことはない。 「・・・。晃。一恵と本当に何を話していたんだ・・・?」 「秘密・・・って一恵さんが言ってからオレも秘密」 「お、おい・・・(汗)」 「そうだ・・・。光。帰ろう。お母さんが待っているんだろう?」 「あ、う、うん・・・」 赤い自転車を押して二人は住宅街を通る・・・ (・・・) 光は人がいないことを確認してから 晃の隣に肩を並べて歩いた。 ”お姉ちゃんは一緒に横に並んであるくことさえ 遠慮するだろうな・・・” 「・・・。前でも後ろでもいいよ」 「え?」 「一緒に歩く”位置”なんてどこだっていい・・・。オレは・・・光をちゃんと見てる」 「・・・///。な、なんだ。急に・・・」 「・・・。なんでもない。一緒にいられるだけで 幸せ・・・ってことさ」 「・・・(汗)」 (ほんとに一恵、晃になに言ったんだか・・・。 家帰ったら事情聴取せねば(汗)) 「少し・・・。ゆっくり歩いて帰ろう・・・。 焦らなくていいから・・・」 「・・・そ、そうか・・・。ありがとう」 手をつなぎたい。 寄り添いたい 好きだから 想いが強いから けど・・・ そうしなくても 同じ空を見てるだけでも 幸せ 「おー。あの筋雲見てたらごぼう食べたくなってきた」 「くははは。想像力が豊かだなぁ。光は」 「・・・晃には負けるよ(汗)」 少し前後に距離を置いて歩く二人。 それが丁度いい。 でも 心の距離は・・・ 確かに近づきつつあること 二人は感じていた・・・