シャイン
〜みんな輝いてる〜
第23話 想う人へ
〜バレンタイン・ストーリー〜
「・・・そういう季節か」
街中はバレンタイン一色。
・・・だが
「あんなもんはチョコレート会社の陰謀だ」
と思う女の子がここに一人。
バクバクと醤油せんべいをかじって3時のおやつの光。
(・・・(汗))
晃はちょっとがっかり(?)しつつお茶をすする。
「大体、甘いもんは虫歯になるし」
「まぁな・・・。でも・・・。やっぱり嬉しいよ」
「何が?」
「・・・。好きな人からの・・・贈り物は・・・」
(・・・な、なんちゅう視線してるんだ、晃(汗)
わ、私は知らんなんにも知らない///)
意味深なに光は5枚目のせんべいに手を伸ばす。
「・・・。そ、そうだ。私もあげようかな。バレンタイン」
「え?」
(・・・(汗)あ、晃。あからさまに期待した顔しないでくれ)
「ほ、ほら。母さんにだよ」
「え、あ、なんだ・・・」
(・・・あからさまに残念な顔しないでくれ(汗))
・・・時々少し怖いと思うときがある。
自分の言ったことが
晃の心を一喜一憂させている。
・・・”自惚れ”ではなくて。
(・・・。やっぱり・・・晃にはもっと・・・お似合いの
可愛い人との出会いがあるんじゃないかって・・・思ってしまう)
”美女と野獣”的なカップルは結構認められても
その逆は黙殺されている。
それに・・・
(・・・。自分自身の気持ちも分からないままな私が・・・)
人間不信
男性不信
その意識の中にいる中途半端な自分が相手でいいのだろうか。
「光?どうかしたか?急に」
「い、いや・・・なんでもない(汗)さ、さーて3時のおやつはおしまいだ」
光はそそくさと下の美容室に降りていった。
(・・・。光・・・)
光との間にある
言葉では表せない複雑な溝。
それは誰のせいでも
誰が悪いわけでもない。
”応援してますから”
一恵から認められた。
(・・・オレ・・・。待つから・・・待つから・・・)
晃は光が使った湯飲み茶碗をそっと
手に包んだ・・・
※
帰宅途中の一恵の携帯が鳴る。
「・・・。俊也さんだ・・・」
一恵は少し嬉しそうにでも少しうんざりした複雑な気分で携帯に出る。
「おこんばんはーv俊哉君でぇーす」
「はいはい。ご用件は?」
「うふふ。今日の”光ちゃんご報告”はどうかなー」
こうしてしょちゅう光と晃の様子を探りに一恵に電話してくる。
「あのですねー。私は俊也さんの小間使いじゃないんですよ。
お姉ちゃんと真柴さんは一週間ほど合ってないみたいです。お互いに
忙しいらしくて」
「キツイとこはおねーちゃん譲る何だからー。ふふそうか。
一週間あってないのか。んじゃばチャンスだー♪アリガトねー」
こうしておチャらけぶりは変わらないが女の勘は鋭いもの。
お茶らけの奥にある本心を一恵は敏感に感じ取っていた。
「・・・ふぅ・・・」
P!
携帯を切った一恵の横を腕を組んだカップルが通り過ぎていく・・・。
(・・・恋・・・か・・・)
携帯を見つめる一恵・・・。
(そんな・・・。甘いことやってる暇なんてないのよ。現実は・・・)
テレビドラマでも見てればそれでいい。
「ただいまー」
「おー!お帰り!」
一恵が帰ると居間に続く廊下で登代子に肩をかす光の姿が・・・。
「一恵、今、母さん自分でトイレできたんだよ!」
「デカイ声で報告すんじゃないよ!あたしゃ子供じゃないんだから」
「だって・・・。だってさ。だってさ・・・。凄いじゃないか。
嬉しいんだよ・・・」
光は少し薄っすら目をにじませて・・・。
倒れた直後。
入院していた頃は尿瓶を使っていた時期も合って・・・。
心苦しくてたまらかった。
女性として最低限のプライド・・・。
守りたい領域。
それが不自由になるということは・・・。
(母さんがまた一つ・・・。元気になったんだな)
「・・・光。あんた最近湿っぽくなりやすいねぇ。あたしゃ
湿っぽいの苦手なんだってば。ほれ、手貸しな。夕食にするよ」
「え、あ、あぁ・・・」
光は目をすっと拭って登代子に肩を貸して居間に連れて行く・・・。
その後姿を見つめる一恵。
(甘い甘い恋愛も悪くないけど・・・。家族の時間だって・・・
大切よ)
そう思いながらも・・・。
俊也のメールが気になる一恵・・・。
女は幾つになっても
どんな状態になっても
心をときめかせたい
「さてと。秋のソナタへ見ようかね」
テレビのリモコンを人差し指で上手くコントロールして
ビデオを再生する登代子。
「母さんもすきだねぇ。こんなベタベタな恋愛もの」
だが光は知っていた。
・・・出てくる俳優が父・光一に似ているのだ。
(母さん・・・。父さんのこと大好きなんだな・・・)
ふと・・・。光は仏壇の中の父の写真に視線を送る・・・。
毎朝。どんなに体が辛くてもベットから出て
仏壇の前に車椅子で行って手を合わせる・・・。
(・・・父さん。私、いいこと思いついた。母さんが
元気になれる方法が!名づけて”バレンタイン
大作戦!”)
バレンタインは恋人たちのお祭り。
(母さんにも・・・思い出してほしい)
恋心。
若者だけの特権じゃない。
「おい。一恵。あんたも手伝いな」
「んー?もうなによー」
目をこすりながら起きる一恵。
光はその夜とあるプランを練った。
それは・・・。
「母さん!父さんとデートしないか?」
「はぁー?」
『横山登代子&光一。思い出デートプラン』
チラシの裏にかいた計画を見せた。
「なんだい。コレ」
「ふふ。父さんと母さん、デートするんだ。ね。
明日天気だって行ってたし、母さんと父さんがデートした場所へ
行ってみよう!」
「そうそう。娘孝行させてよね」
「あー?わけが分からないね。ま、今日は外も晴れてるし・・・
娘達の孝行に付き合ってやろうかね」
というわけで・・・
娘2人の母親孝行の旅。
運転手は免許取立て光・・・のはずだったのだが
”あんたの運転なんて寿命が縮まるよ!”
強い登代子の反対に負けて。
「ごめんな。晃。休みなのに運転手させて・・・」
「いや・・・。光の頼みなら断れないさ」
「・・・(照)」
前の席の二人の会話に
少し呆れ顔の後部座席の一恵と登代子です。
最初に向かったのは登代子と光一の新婚旅行で回った
岬。
その名も『出逢い岬』
「うおー!これは絶好のデートスポットだよねぇ」
広い駐車場が岬の下に完備。
岬の赤い灯台まで、なんとエレベーターまで出来ていた。
「・・・。ラクだけど階段で行こう。母さん」
光は登代子を背負って
エレベーターの隣にあった階段を登る。
薄っぺらい木の切れ端が埋め込まれた急な階段。
ボタンをおせば30秒で岬まではいける
でもそれでは登代子と光一の思い出を辿れない。
「・・・やっぱり親子だねぇ」
「え?」
「アタシもこうやって・・・父ちゃんに背負われたんだよ。
柄にもなくハイヒールはいてたんでね」
「えー。母さんがハイヒール?サンダルの間違いじゃないのか?」
パコン!
すばやく登代子の突っ込みが入る。
「あははー。お姉ちゃんのまけー」
「うー・・・うるさいッ///」
(・・・テレ顔も・・・そっくりだ)
押し黙って
自分を背負ってくれた光の父・光一の背中。
顔は見なかったけれどきっと・・・今の光のように照れていたに違いない。
光の背中の温もりと潮の香りが
登代子を若き日の甘い想いを蘇らせていく・・・。
「え・・・。写真?いいのか?光」
「うん。あ、でもあの・・・携帯のカメラで、少し遠くから
撮ってくれ。わがままいってごめん」
「・・・わかったよ。じゃあ撮るよ」
写真嫌いな光。
だが、両親の思い出の地で記念を遺したい。
「・・・無理することないんだよ。光」
「大丈夫・・・。私が撮りたいんだ。父さんの思い出の地
でさ・・・」
「・・・バカ娘・・・」
登代子の肩に添えた光の手。
登代子は頬を摺り寄せて
慈しみを伝える・・・
晃はその場面を静かに携帯で撮った・・・
(いい写真が撮れたよ。光・・・)
携帯の小さな画面だけど・・・
母と娘2人の微笑ましい瞬間を確かにとらえていた・・・。
そして、4人は登代子と光一が回った場所を回りお昼過ぎ・・・。
昼食をとるための一室を、旅館に予約していた。
「で。ここがアタシと父ちゃんが初めて結ばれた
旅館さ」
晃が凝固している
「・・・(汗)か、母さんもっと表現ないのか(汗)」
「何言ってんだい。光、あんたの”製造”場所でもあるんだよ
覚えときな」
「そ、そんなもん覚えんわいッ///」
旅館の前で笑われる光。
(・・・。ど、どんな新婚だったんだ・・・(汗))
どれもが思い出。
「ああ・・・この部屋だ。よく覚えてくれて・・・
女将、ありがとうございます」
旅館の柱の模様も窓から見える景色も皆思い出。
登代子をその当時に引き戻す。
当時泊まった部屋は
そのときそのままの光景で・・・。
(母さんの時間だけ・・・昔に戻ってるんだね)
特別豪華でもない部屋。
だが登代子はしみじみと・・・
眺める・・・。
そして混浴ではいった風呂に。
「じゃあ私、母さんとひとっ風呂浴びてくるよ」
タオルを首にかけ、部屋を出る光。
「・・・(汗)お姉ちゃんこそ、親父っぽい
口調どうにかしたらいいと思うよ」
「ふん。じゃあ晃と一恵、留守番頼む」
晃と一恵。ふたりきりに・・・。
(・・・。な、何を話そうか・・・。一恵さんは
応援してくれるって言ったけど・・・)
晃は必死で話題を探す。
「・・・一恵さんはお風呂いいんですか?」
「着替えもってきてないんで」
「そ、そうですか」
(・・・)
話題が途切れてしまった。
晃はまた必死で話題を探す。
「真柴さん」
「は、ハイ・・・ッ」
「・・・母のためにこの旅行を思いついた姉・・・。いい女でしょ?」
「え?」
「家事も裁縫もばっちり。空手&合気道黒帯で、
強い。そんな姉を・・・。絶対に不幸にしないでくださいね」
「一恵さん・・・」
ガラガラッ。
部屋の窓を開け、海の風を入れる
「はー・・・。いい風・・・。露天風呂、きっと
気持ちいいだろうなー・・・」
「ええそうですね・・・」
(ありがとう。一恵さん・・・)
晃の心にも
ふうっと・・・ありがとうの優しい風が吹いた・・・。
「うおー・・・。一杯飲みたいねぇ」
「はいはい(汗)」
岩で出来た露天風呂。
無色透明で匂いもない。
光と登代子はゆったり気分で湯に浸かっている。
「母さん。どう?湯加減は」
「いいねぇ・・・。ああ、父ちゃんと一緒にはいったんだ
顔真っ赤にしてた」
「父さんも照れ屋だったんだな」
「・・・ああ。でもそこが女心くすぐってねぇ・・・。
ああ天国で浮気してないかね?」
青い空に呟くとよ子。
「してないさ。父さんは・・・」
「はは・・・そうだね。アンタの父親だ。
純粋な男だから」
「・・・ごちそうさまです」
くすっと笑いあう。
母と娘。
裸の付き合い。
「・・・。何さっきからじろじろと」
「いやー・・・。アンタ、乳、そんなにあったかね?」
「・・・ちッ・・・(動揺)乳言うなッ(汗)」
二人の会話は留守をする一恵と晃の部屋まで筒抜けで・・・
顔を真っ赤にしている
「だそうです。真柴さん。胸もそこそこある
姉はヤッパリいい女でしょ?」
「///あ、あの・・・(汗)」
「あははは。あー。純情だよねぇー・・・」
豪快に笑う一恵。
その豪快さは登代子伝来だと晃は思った。
(ひ、光のお母さんの血が受け継がれてるんだな・・・(汗))
バレンタインの日帰り旅行。
「血糖値あがるから食べすぎだめだってばーー!!」
午後はチョコレートケーキと紅茶で締めくくったのだった・・・。
「晃。今日は本当にありがとう」
「いやこちらこそ楽しい休日だった」
光の自宅前。
一日運転手だった晃を見送る光。
「じゃあおやすみ」
「あ、あの晃・・・」
「ん・・・?」
「え、えっと・・・車のダッシュボード見てくれ。じゃッおやすみ・・・!」
光は少し頬を染めてバタバタと家の中に入っていった・・・。
(ダッシュボード・・・?)
言われたとおりダッシュボードを開けてみると・・・
「あ・・・!」
薄い黄色の包装紙でラッピング。
ピンクのリボンがついた四角の箱が一つ入っていた・・・
そしてメッセージカードが。
『あ、晃。今日はありがとう。お礼に受け取ってください。
・・・ち、ちなみに男の人にチョコあげるのは初めてです。 光』
”私もあげようかな”
あれは勘違いじゃなかったんだ
「・・・光・・・」
包みを開けると
小さいホワイトチョコが・・・
一口食べてみる・・・
(・・・優しくて甘い・・・)
苺ジャム入りのチョコ・・・
「・・・光。ありがとう・・・。最高のバレンタインだよ・・・」
晃はチョコを一口一口
ゆっくり味わった・・・。
2月14日。
大切な人へ想いを伝える日。
優しい想いが皆様に伝わりますように・・・