シャイン 〜みんな輝いてる〜 第28話 初恋は泥棒の始まり? チーン 枕元の仏壇に手を合わせる登代子。 亡き夫。生涯でただ一人惚れぬいた夫。 「最近本当に・・・光はアンタに似てきたよ。 顔も性格も」 光が生まれたとき、堅物の光一が涙を始めて流した。 喜びのあまり。 「あたしゃその涙にまた惚れちまって・・・。はは。 子作り励んだねぇ・・・」 微かに丸い物も握れるようになった右手で杯を写真に向かって 乾杯。 「・・・アンタ・・・。あの世で浮気してたら・・・。 承知しないからね。ふふ・・・」 なくなる直前まで引っ込み思案だった光のことを 心配していた光一・・・ 「心配しなさんなって。光も年頃・・・。 ちょっとアンタ似で不器用だけど・・・。 あの子を好いてくれてる人もいる・・・」 晃の写真を見せる。 「結構色男だろ・・・?ふふ・・・。光のことを 大切に想ってくれてるんだ。在り難いことだ・・・」 自分の不自由な体のせいで娘の色恋も不自由になることは 耐え難い 「見守って・・・おくれね・・・」 写真の中の光一はただ・・・微笑んでいた・・・。 「・・・そっか。よかったね。んじゃ新しい職場も見つかったんだ」 「はい。私って可愛いから即採用で♪」 カフェオレを嬉しそうに飲む一恵。 俊也は頬杖をついて窓の外を見ていた。 (ホントに対照的だなぁ、この姉妹は) 会社を辞めてからすぐ、一恵はちゃっかり次の職場を見つけ てきた。要領がいいところは相変わらずで。 「んで。今日はオレ、光ちゃんをお誘いしたはずなのに なんで君がいるわけ?」 「”こたつはぐって掃除する予定。一恵、代わりに 珈琲おごってもらいな”って言ってましたよへへ」 「・・・オレはこたつに負けたのか。はぁ・・・」 きっと光からみれば自分のちょっかいは ただからかっているようにしか見えないのだろう。 正直、俊也自身も最初はそう思っていた。 (・・・。なんでこんなショックなのかしらん) 誰かに拒まれることに痛みをかんじるなんて・・・。 「んで。今日はおねーちゃんお掃除日なの?」 「ううん・・・。好きな人のために・・・ケーキつくってる」 「え?」 光宅キッチン。 こたつの布団を干し終えた光は 泡だて器でシャカシャカと小麦粉をまぜていた。 「それから・・・ペーキングパウダーをいれて・・・」 お菓子の本を見ながら鼻の頭を白くさせてケーキ作り。 「ほれ!卵もっと溶かして!」 ベットの上から、登代子が現場監督。 「うるさいなー。別に母さんのケーキじゃないんだから」 「へん!人様にあげるものなら尚更丁寧につくらないとね!」 (まして色恋の相手なら・・・。恋は一番勝負ってね!) 晃の誕生日が近い。 光は誰に上げるものだとは言わないが光の顔を見ればすぐ分かる登代子。 (ったく。なんで母親が娘の色恋心配しなきゃいけないんだろうね。 でもこの子にとっては・・・) 小さな恋。でも光からみればたったひとつの初めての・・・。 「ほら!オーブン、温度たかすぎ!」 「あ、はいはい」 「クリームはもっとなめらかに!」 「ほいほい」 手厳しい現場監督のコーチのおかげで・・・ 「おおーー!出来た出来た」 シンプルだがチョコで晃へのメッセージを 描いた世界でたった一つのケーキが出来あがりました。 「・・・我ながら・・・。まぁまぁの出来」 腕組みをしてケーキの出来栄えを見つめる光。 「光。あんた、今日午後、買い物に行ってきな」 「え?何、突然。でも午後は・・・」 「いーから!午後は隣の徳子さんと一緒に秋ソナ見る 約束してんだ。あんた邪魔なんだよ」 と、強引に登代子に追い出された光。 (・・・なんでケーキを持たされて追い出されたのやら・・・) 理由はただ一つ。 晃の誕生日を過ごす時間をつくってくれた。 (・・・。ありがとな。母さん) 母の想いを感じながら・・・光は晃のマンションへ向かった。 ・・・晃のマンションの部屋の前。 (・・・。ど、どうするべきか) 合鍵を見つめながら、悩む光。 (ドアにひっかけて置いてかえるか・・・。 でも生ものだしな・・・冷蔵庫にいれておくか・・・) 管理人にチラ見されつつ合鍵を見つめて決断に迷って一時間近く。 (よ、よし・・・。ケーキを冷蔵庫にいれるだけだ。 そして帰ろう!) ガチャリ。 そーっと扉を開けて玄関に入る・・・。 (・・・ふ不法侵入者じゃないぞ・・・?ちゃ、ちゃんと 許可はとってある・・・。と思う(汗)) と、突っ込みつつ、入る。 (綺麗にしているなぁ・・・。) 男の一人暮らしといえば、多少散らかっていても いいものだが、ホコリ一つないほどに綺麗だ。 フリーリングの床には髪の毛一本落ちてないし、 テレビの画面だって指でこすっても黒くなってない。 (・・・小姑か。私は(汗)) 晃は一人きりのとき・・・。一体どんなことを考えているのだろう。 どんな風に過ごしているのだろう。 部屋をまじまじと見てしまう。 自分の知らない晃がいたら・・・。知りたい。 (・・・はっ。これでは本当に不法侵入のコソドロではないか!) 光は我に返り、本題のケーキを冷蔵庫に入れて 用件を済ました。 「よし。これで終わり・・・」 (・・・でも・・・。なんかもう少し居たいな) この気持ちは何なのだろうか。 相手のことを知りたい。 俗に言えば”恋”なのだろうが、光にとっては・・・ 初めての感覚。 「・・・ん?」 机の上の本棚。何冊も同じ色のノートが目に付いた。 そしてその瞬間 バサッ 「わッ」 一冊机の下に落ちた。びびる光。 (・・・。まるで・・・。私に”見ていいよ”いわんばかりな タイミングで落ちたような・・・) ”誰か”の念力か? 光は静かに拾って・・・ (美容の勉強のノートかな・・・) と思いつつぺらぺらと流してめくる。 だがすぐに気づいた。それは・・・ (これ・・・。日記だ) 表紙にいつからいつまでと日付がしっかり書いてあった。 (駄目だ!いくらなんでもこれは!!盗み見は 犯罪だ!い、いかん!!) 光は慌ててノートを本棚にしまおうと押し込んだ ドサササ!! 「ぎゃあ!」 焦って、本立て自体を机の上から落としてしまう。 日記、数冊全部床にばら撒いて中がみえるように 落ちて・・・。 (・・・。だ、だから。 み、見たくないんだってば!見ちゃいけないんだって!!) 光は慌てて日記をたばね、本立てを元に戻す。 (・・・。嗚呼なんか・・・。本当にコソドロの気分だ) 本当は見てみたい。 (・・・私の名前・・・。一回ぐらいでてくるかな・・・。なんて。 でも駄目だ。親しき仲にも礼儀ありっていうし。あ、意味深に親しく はないけれど・・・って、何突っ込みいれてんだ。私は) めまぐるしく思考を回転させつつ、ノートを拾ったとき 一つだけ気がついた。 数冊のノートの日付。 その日付は・・・。 (私が・・・。あのアパートで一人暮らしし始めた日にちだ) 一番目のノートの日付がそうだった。 偶然だろう。 偶然だ。 くすぐったい気持ちと少しの戸惑いで光の心は混乱する。 (晃・・・。晃の心を知りたいけど・・・。でも 知っちゃいけない気がする。私は・・・) この混乱する感情がいわゆる”恋”というやつに 属するものなのか。 分からないけれど・・・ 晃に伝えたいことは (・・・誕生日おめでとう) それだけ伝えたくて。 「・・・。また電話するね。晃」 静かな部屋に呟いて出て行こうと玄関へ向かった光。 だが人の気配と声に気づいた。 (ん!?あの声は・・・。晃と・・・愛美さん!?) 「どどどど、どうすんだ!?」 (ホンマにコソドロの気分じゃッ!!と、とにかく隠れんと!!) 光は玄関で右往左往してともかくスニーカーを持って ベランダへ走った。 ガチャリ。 それと同時に晃が入ってきて・・・。 (ふぅ。間一髪セーフ・・・) ほっと光は安心。 けれど玄関先の晃と愛美の会話がやっぱり気になる。 「・・・お前にはもう用はないけど?」 「私にはあるわよ・・・?」 相変わらず・・・。愛美の声は・・・ (カナリヤのように・・・綺麗だなぁ・・・) ベランダの外で耳を澄ます光。 「・・・悪いけど書類つくらねぇといけないんだ。 帰ってくれ」 「誕生日おめでとう」 「え?」 (・・・。愛美さんも・・・プレゼント持ってきたんだ・・・) ちらっと・・・カーテン越しに玄関の様子をチラ見・・・ (なんだろうな・・・。きっとセンスのいいものなんだろうな) 「・・・自分の誕生日忘れるほど・・・忙しいの?」 「・・・ああ。充実してる。自分の誕生日なんて 興味ない」 「でも私は興味あるの。だって・・・。好きな人の 記念日だもの・・・」 女優並みに言葉に想いを詰め込んで。 (・・・どっから・・・そういう可愛い台詞が出てくるんだろう(汗)) 自分には出来ないし、言えない。 照れくさいのもあるが そこまで・・・強い想いが自分の中にあるだろうか・・・ 「悪い。貰えない」 「友情の印だから・・・」 「受け取れない。友情だろうとなんだろうと・・・」 晃ははっきりとした確かな声で断った。 「・・・。そう・・・。じゃあ・・・”彼女”からなら 受け取るの?」 「・・・」 沈黙は愛美にとっては言葉よりも明確な晃の答え。 「ごめん。意地悪な質問だったわね。もう帰るわ」 「・・・待ってくれ」 呼び止められて声が愛美の高鳴る 「え?」 「・・・もう来ないでくれ。さよならだ」 バタン・・・!! 荒々しくドアが閉められた・・・。 (晃・・・) 完全なる拒絶・・・。 淡い期待も消し去った。 それは晃の優しさだと愛美はわかるけれど・・・。 (・・・やっぱり痛いよ・・・。晃・・・) 滲む涙をぐっと堪え、愛美は真っ直ぐ前を向いて帰っていたのだった・・・。 「・・・ごめん・・・」 ドアを閉めた晃が一言・・・。 (・・・) 光は二人の一部始終をただ戸惑いの感情の中、聞いていた。 (・・・。晃・・・) 自惚れてはいけない 自惚れたくもない。 ただ・・・ (・・・私が悪いんだ・・・。はっきりしない私が・・・) それだけは分かっていた。 自分の中の”壁”を超えられないから・・・。 靴を持ったまま光が悶々としていると。 「ん・・・?なんだこりゃ」 (あ!!) 晃が冷蔵庫のケーキに気づいたようで。 「光が・・・来て行ったのか・・・?」 (あ、いや、ごめん。不法侵入するつもりはなかったんだ!!) 焦る光。 さらに。 ケーキを取り出してぺろっと嬉しそうに舐める晃。 「・・・うん。おいしい。光の味がする」 (な、何を言うか!??キャラ違うだろう!!晃! アンタは私を照れさせる天才か!??) かっと照れる光。 (錯乱してみ、見つかる前に退散しよう!!) 光はベランダをまたぎ、バッと思い切って下の芝生へジャンプ。 「いでぇえ!!」 尻餅ついて着地。 「・・・!?光!?」 (や、やべぇ!!) 物音に気づいた晃がベランダに出てきた。 光は慌てて茂みに隠れた。 「・・・。いない・・・いないけど、光が着地した形跡が」 芝生が思いっきり丸くあとついてます。 「・・・ありがとう。光。ケーキ嬉しかった!」 (そ、そうですか。で、でも頼むから大声で 叫ぶのは辞めてけれ(汗)) 「・・・嬉しかったから。本当にーー!!」 臆面もなく晃は叫ぶ。 (わ、わかったちゅうにーーー!!ロミオとジュリエット じゃないんだから(汗)) 「あ、ごめん・・・、携帯かかってきた。また連絡する・・・。 必ず」 晃は部屋の中へ入っていって・・・光るはほっとする。 (よかったよかった・・・) テレ症の光は安堵した。 そしてよっこらしょ、と立ち上がる。 「イタタタ・・・」 お尻を押さえつつ、光は歩いて帰る・・・。 (・・・。晃・・・誕生日・・・。おめでとう・・・) もう一度 晃へハッピーバースディーを伝えながら・・・。 「・・・光・・・」 携帯を切った後、も晃はマンション出て辺りを見回すが 光の姿はなかった。 (出来たらケーキ・・・。一緒に食いたかったな) 光が落下した芝生のあとを見てくすっと笑う。 (でも光、大丈夫だったか。怪我してないといいけど・・・) 部屋に戻ってもう一つ晃は気がついた。 机の上の本立て。 日記はきちんと収まってはいるが・・・。 「番号が逆だよ。光」 1、2、3、4、5と並んでたはずなのに 5,4,3,2,1と並べられていた。 (ふふ。慌てて入れ替えたんだな。ふふ) 目に浮かぶ光の慌てよう。 日記に触れた形跡が在るということは。 (中・・・。読んだのか・・・?) 読んでもよかった。 いや・・・読んで欲しい。 日記には・・・。晃の想いが詰っている。 ぺらぺらと日記をめくる。 どの日にも「光」という文字が必ず記されている。 最初のノートは光がアパートで一人暮らしをし始めた頃からの 様子がかかれていた。 (・・・。でもこんなの読んだら・・・。ストーカー っぽく思われたかもな・・・) 自分の想いが凝縮されている。 数冊ノート達に 「・・・光・・・」 いつか届くか 届くだろうか 応えてくれるだろうか ・・・愛してくれるだろうか・・・ ”誕生日おめでとう 晃” 「・・・来年も・・・再来年も・・・。くれるかな・・・。 光・・・」 晃にとっても 光にとっても 初めての恋 そして・・・たったひとつの恋 その行く末は二人しかしらない・・・