シャイン 〜みんな輝いてる〜 第29話 ”塵(ちり)”の価値 一恵が会社を辞めた。これは横山家の経済事情とっては重大な問題だ。 一恵本人は 「私かわいーから、すぐみつかるよー♪」 といって、お気に入りの角度の写真を履歴書に貼って連日面接しまくっていた。 「うぬぬ。これはいかんな。よし。ともかく食費の足しに なることでもなんでもしよう!」 というわけで光は思いつくことをすぐ、行動に移した。 以前、働いていた弁当のし出し屋など手当たり次第に電話。 そして光がみつけてきたのは ドサ。 ダンボールの中にあふれる割り箸の山。 「おねーちゃんなにそれ」 「んー?今日の私の大切な”ジョブ”」 「内職でしょ。だたの」 「内職を馬鹿にする無かれ。昔の日本の奥さんはこういうので 子供を育てもんなんだ」 光は割り箸を細い割り箸入れにひょいひょい いれていく。 「よーし!今日は500本はがんばるぞー!」 (・・・お姉ちゃんってば・・・また無理して) 実は光が見つけてきた内職はこれだけではない。 「最近の内職は”秋葉系”なんだな。面白い」 キャラクター人形の箱詰めだったり 「機械じゃ見つけれないものはやっぱり 人間の目だね」 工場で作られた下着などの糸とのほつれをカット する内容だったり それも一つ10円とか一枚20円とかはっきりいって 収入といえば微々たるものだ。 「おねーちゃん・・・」 わりばしの束の中で横に鳴って眠る光。 (・・・無理しすぎ・・・。逆に私、プレッシャー感じるじゃないの) そっと光に毛布をかける一恵・・・。 「・・・ん・・・?一恵、帰ったのか・・・?」 目を擦って起きる光。 「いや・・・。それより・・・。一恵、気にしなくていいからな」 「え?」 「・・・私が内職してることは私の意志なんだから・・・。 一恵にプレッシャーかけてたら・・・ごめんな」 (おねーちゃん・・・) 恋愛には鈍感でも・・・ 人の心には敏感だ。 人が考えない点にまで気を回して、優しさを配る・・・。 (・・・こっちが切なくなるじゃないの・・・もう・・・) 自分のために社長の家に乗り込んで 光自身は悪くは無いのに警察に注意されても ずっと見方でいてくれる・・・。 「・・・。おねーちゃん・・・。抱きしめてもいい?」 「な!?なんだ。突然。」 「・・・嗚呼。どうして私達姉妹に生まれたのかしら・・・。 じゃなかったら、私、おねーちゃんに恋してた」 「・・・!?????か、一恵ッ、気は確かか!?」 慌てる光。 そんな光がまた可愛らしく見え・・・。 「私も手伝うわ!さ、姉妹の愛で、今夜に割り箸つめちゃいましょ」 (し、姉妹の・・・愛(汗)) 姉の優しさ 妹の思いやりと一緒に 割り箸一本一本が袋に詰められていく。 「光。ソレ、何やってるんだ?」 「あー。コレ?タオル詰め。広告にもなるんだよ」 美容室。誰も来ない時間帯に、光は商店街の店の名前と電話番号が 印刷されたタオルの袋詰めをせっせとこなしている。 「商店街のおばちゃんになにかすることないかって 聞いたら、この作業わけてくれたんだ。在り難いことだよ」 せっせと作業を集中してこなす光。 その真剣な横顔が・・・ (・・・可愛い) 「・・・光・・・って」 「ん?ナンダ?」 「・・・いや・・・。キレイだなって・・・。 心が・・・澄んだ小川みたいだ」 「・・・!?そ、それは誉め言葉かどっちだ。 て、照れていいのかわからないぞ(汗)」 誉め言葉に弱い光。 混乱する光も可愛い。 「ふふふ。光・・・可愛い」 「・・・!?私をて、照れさせるて喜ぶ、その悪い癖なおしてくれ! もう・・・///」 光とのこんなやりとりが 晃にとっては至福のときだ。 光と繋がっている気がする。 光の心に触れている気がする・・・。 「よし!オレもやるよ!光。競争しようぜ! 一分間で何個つめられるか」 「いいよー!あ、でも晃、これ納品するものだから 綺麗にいれてくれよ」 「はいはい。じゃあ。ヨーイ・・・ドン!!」 二人で時間を計って、ビニール袋に新しいタオルを 入れ、山積みにしていく・・・。 光と、こんなに馴染んで同じときを過ごせる 今が晃はとても愛しくて・・・。 「・・・光。美容院終わったら、ラーメンでも 食べに行くか?」 「うん。いいよ」 晃は光を駅前に新しく出来たラーメン屋に連れて行った。 「へー。知らなかったな。こんなお店できたなんて」 「ああ。味は保証する」 二人はそろって味噌ラーメンを頼んだ。 「おまちどうさまでした」 ラーメンが運ばれて、晃は割り箸を光に渡した。 「・・・?どうかしたか?」 「・・・。この割り箸・・・私と一恵が箸折りにいれたんだ」 見覚えのある箸折りの絵柄。 商店街の業者さんはここに卸していると言っていた。 「へぇ・・・。じゃあ姉妹の絆がこの割り箸たちには つまっているってわけなんだ」 「へへ。大げさだよ。でも・・・。うんそうだな。 一恵の優しさはつまってる」 自分があれやこれやと内職を見つけてきたことが逆に 一恵にとって妙なプレッシャーにならないかと気になっていた。 「・・・。いい・・・姉妹だな」 「・・・うん・・・。私は幸せだよ・・・。 母さんにも一恵にも・・・優しさをいっぱいもらってる」 「そうか・・・」 (でもな・・・光) 美味しそうにラーメンをすする光を見つめながら思う・・・。 (お母さんも一恵さんも・・・。あったかいものを 光からもらってるんだよ。そして・・・オレも・・・な) たった一本の割り箸を嬉しそうに使って 笑う・・・。 些細なこと 割り箸を箸折りに入れる作業のように 些細なことでも 光は”小さな優しさ”に変える・・・。 そしてもう一つ。 「開店記念の粗品です。よろしかったらどうぞ」 食事を終え、レジを済ませたとき、店員が光と晃に手渡した。 「あ・・・!晃、これ・・・!」 「あ・・・」 一昨日、二人で詰めたタオル・・・。 「・・・ここのタオルだったんだ・・・」 笑いながら、競争しながら 袋詰めした黄色いタオル・・・。 「・・・ふふ。運命かな」 「ああ。運命だ」 くすっと笑いあう。 二人の穏やかなひと時がタオルと一緒に袋に詰ってる・・・ 「このタオル・・・。勿体無くてつかえないな。オレは」 「え?」 「だってこの袋にはオレと光の”二人の愛”が詰まってるから」 「あ・・・///(汗)」 立ち止まって固まって照れる光。 「・・・あははは!光、真っ赤だぞ。本当に 光は照れ屋だなぁ」 「こら!晃っからかうなって言っただろ!!」 「はははは・・・」 光とこうして笑い会えるなんて。 晃はこんな時間がもっともっと増えて欲しいと心から思う・・・。 「光、ありがとな」 「・・・?」 (オレに・・・優しさをくれて) 首を傾げる光。 きょとんとする光。 「・・・なんのお礼かわからんが、わかったよ」 「ああ。ふふふ。それにしてもまだ顔、赤いぞ」 「・・・っ。だぁかぁらーー!」 タオルをそっとポケットにしまう晃・・・。 (・・・本当に使えないな・・・。オレにとっては 光が関わった物はみんな宝物だから) 些細なことが 些細なものに 知らないところで色んなエピソードがある。 塵のようなものでも 小さなことでも 価値が無いことなんてない 「うおーし!今日は定番の造花もの、ぐぅあんばるぞ!」 光が作る造花でも その製品がどこかの誰かの家に飾られて喜ばれるという エピソードがあるかもしれない 塵にも 些細なものにも 価値はある ・・・心に穏やかな時間がながれるかぎり・・・。