シャイン
〜みんな輝いている〜
第3話 光の鋏(はさみ) 晃と1年ぶりの再会を果たした光・・・。 二人を引き合わせたのは、病の床にあった母だった。 (母さん、ありがとう・・・) 母の想いがただただ有難い・・・。 光の部屋で二人は2年ぶりにじっくり話す・・・。 「・・・光・・・。本当にごめんな・・・。手紙、引っ越してるの知らなくて・・・ それに・・・」 ”愛美が光からの手紙を渡さなかった” 流石にそれは言えない晃。 「いいんだ。気にしないでくれ。晃。晃のことは 雑誌やテレビで元気そうにやってるの見ていたから」 微笑んで珈琲を飲む光・・・ ”姉は真柴さんが載った記事を全部切り抜いてストック してました” 登代子の手紙の一文が過ぎる・・・ (ずっと・・・見ててくれたんだな・・・) 嬉しさと愛しさが今にも溢れそうだ・・・。 「・・・晃は今・・・HANAOKAの本社で働いているだろ?すごいな」 「いや・・・。俺はただ恩師の手伝いをしてただけで・・・。 本当は光とまた・・・頑張りたいって思ってる・・・」 「・・・晃・・・」 だが・・・互いに抱える現実がある。 「・・・いいよ。晃。私・・・。晃がそう思ってくれてるだけで嬉しいから・・・」 「光・・・」 「・・・ただちょっと残念なのは・・・。晃からもらった 鋏が使う機会ないってことかな」 光は引き出しから晃からもらった新品の鋏を取り出した。 「ピカピカにいつも磨いてる。ふふ。どうだ?綺麗だろ?」 「ああ」 「私、鋏のシャキシャキって音、すごく好きなんだ。ふふ・・・」 鋏を鳴らす光・・・。 自分があげた鋏をこんなに大事に嬉しそうに 持っていてくれたと思うと・・・。 (鋏こと光を抱きしめたくなるよ・・・) 「・・・そうだ。これ・・・。俺の携帯の番号とメールアドレス。 プライベート用だからいつでもかけてきてくれていい・・・」 「うん。ありがとう」 「光・・・」 「ん・・・?」 「・・・。本当に・・・。会いたかった・・・」 じっと光を見つめる晃・・・。 「・・・だ、だから。直視されるの苦手だってば(照)」 「・・・照れ方も変わってない・・・」 「///だ、だからっ。見つめるのやめてくれって」 鼻の頭と頬が同時に染まる・・・。 ずっと本当に会いたかった。 くすぐったい空気が部屋に流れていた・・・。 二人の会話を・・・ 一恵が聞いていて登代子に伝えて・・・。 (光・・・。あんたのやりたいこと・・・わたしはさせてやりたい・・・) 登代子はとあることを思いついたのだった・・・。 「母さん。ベット、上げようか。テレビ見づらいだろ?」 「ああ頼むよ」 ベットのハンドルを回して起こす光。 登代子が毎朝楽しみにしている朝ドラにチャンネルを合わせた。 朝食の後片付けと洗濯も終わり・・・ 光と登代子の一息できる時間に・・・。 「光」 「ん?」 「わたしゃ・・・。お手伝いさん頼もうかと思ってるんだよ」 「・・・え?」 光はテレビのリモコンで電源を切った。 「どういうことだ・・・?母さん」 「・・・私の知り合いでね。日中の数時間だけ私の介助も含めて 手伝いに来てくれるっていうんだよ。その人は元ヘルパーさん だし申し分ないだろ?」 「だ、だってそんな・・・急になんで・・・私なら大丈夫だよ」 光は胸をポンポンと叩いて訴えた。 「・・・。娘に・・・負担ばかりかけてる親の気持ちも分からないかい? 有難いと心底思ってる・・・。けど・・・。親として情けなくて辛いんだよ・・・」 「母さん・・・」 「・・・親の言うことも聞く・・・。それの親孝行だよ? 空いた時間・・・。光の思うように過ごして欲しいんだ」 「・・・」 母の気遣いは光にも痛いほど伝わる。 光が頑張れば頑張るほど、 登代子の中の申し訳なさが募っていって・・・。 (・・・でも・・・。家族以外の人に頼むのは心配だ・・・。それに・・・) 空いた時間、何を過ごしていいのか・・・ 分からない。 「・・・あたしゃもう決めたんだからね。それから 病院にも自分で行く」 「ええ!??」 「・・・今のタクシーは便利だよー。車椅子ごと乗っけてってくれる」 「で、でも・・・」 「うるさいね。母親のプラス思考を尊重しな!娘なら!」 ピ! 登代子は心配そうな光を余所にテレビのリモコンのスイッチを 押して、朝ドラの続きを見た・・・。 (母さん・・・) 登代子らしい行動。 決して支えられるだけの存在にはなりたくない。 少しでもいいから誰かを支える存在になりたい・・・ (・・・母さんには参る・・・。でも・・・ありがとうな・・・) 光はテレビを夢中で見ている登代子に心の中で何度も ありがとうを呟いた・・・。 「じゃ、あとはお任せあれ!お嬢さん。お母さんの親友に任せて」 「は、はあ・・・」 翌日から早速、登代子の友人が手伝いにやってきた。 親友で気心がしれているせいか、登代子は何の違和感もなく 招き入れて・・・。 「光。3時まであんたの自由時間だよ。好きなとこ、行ってきな」 と登代子に光は家を追い出され・・・ (これからどうしようか・・・) 途方にくれていた。 (ん?) ジーンズのポケットにメモが。 『二丁目の美容院へお行き。あんたがしたいことが待ってるはずだ』 登代子がワープロで打った文字。 すっかりはまったらしく毎日リハビリだと言って打っている。 (母さんってば・・・。ふふ。でも・・・。二丁目の美容院って・・・確か さよおばちゃんの美容院じゃ・・・) 光が幼い頃から通った美容院。 古い民家を買い取って一人で細々と営んでいる。 (どういう意味だろう。ま、とにかく行って見るか) 光はメモの通りに2丁目美容室へ向かった。 カラン。 「こんにちはー」 ドアを開けて入っていくと・・・。 パアン! (な・・・?) いきなりクラッカーで出迎えられた。 「光ちゃん、よく来たね〜!」 「お、おばちゃん!?」 よく見ると、近所の顔見知りの主婦やおばあちゃん達が何人も 顔をそろえていた。 「ど、どういうことなんだ・・・?」 「あのね・・・。実は光ちゃんにお願いがあって」 「何?」 「・・・ここを光ちゃんに任せたいの」 「え!?」 突然の申し出に驚く光。 「ほら・・・。私のお姑さんが病気がきでね・・・。なかなか ここを続けていくの、難しくなってたの。閉めようか迷っていたら、登代子さんが・・・」 ”そんならうちの娘、使ってやってください。ちょっと 人見知りは多少する娘ですが腕は確かです” 「って言ってくださって・・・。すごく有難いと思ったの」 「そうそう。ここがなくなったら私たちも困るのよ。 ほらだって、こんなおばちゃんや年寄りが気兼ねなくいける 美容院てなかなかないでしょ・・・?」 主婦達はうん、うん、と相槌を打った。 「で、でも・・・。私・・・私なんかで・・・」 「光ちゃんだからいいのよ。そこら辺の若い人になんて 頼めないわ。気心知れてる光ちゃんだから・・・」 さよおばさんはにこっと笑って光に鋏を渡した。 「慣れるまでは私が側についてヘルプするから・・・。お願い。 光ちゃん・・・」 「・・・おばちゃん・・・」 光は鋏を静かに受け取った。 「ヨロシク・・・お願いします」 「きゃー♪よかったぁ♪」 おばちゃんたちは一斉に拍手。 ”お前のやりたいことが待ってるはずだ” 光は登代子のメモの意味がやっとわかった。 (母さんは・・・。本当に何でもお見通しなんだな・・・。参ったよ・・・) 光がしたかったこと。 誰かを綺麗に、笑顔にしてあげたい・・・という想い。 (ありがとう。母さん。母さんは日本一だよ・・・) 母の粋な計らいにただただ・・・ 感謝する光だった・・・。 このことを早速光はメールで晃に送った。 (光・・・。よかったな・・・) 穏やかに晃の顔が微笑む。 メールから光の喜びが伝わるようで・・・。 (・・・でも俺は・・・。結局光に何もしてやれなかった・・・) 1年前・・・。 アメリカで力を付けて帰ってくると約束したが・・・。 現実はどうだ。 ディスクの上の書類の山を見上げる晃・・・。 (・・・恩師のためだなんて言って・・・。結局俺は光との夢 のために何かできているか・・・?) 光と一緒に・・・頑張りたい。 (俺は・・・金儲けのこんな会社のために頑張りたいんじゃない・・・) 晃は引き出しの中から・・・ 光と同じ型の鋏を取り出した。 (・・・もう恩義も返した・・・。潮時だ) 晃は封筒と便箋を取り出した。 そして封筒に『辞表』と書いて・・・ 愛美の机に静かに置き・・・ オフィスを去ったのだった・・・。 (光・・・。これから・・・これからまた一緒に頑張ろう・・・。 光・・・) 光への想いを募らせて・・・。