シャイン 〜みんな輝いている〜 第30話 色んなココロ。 「こんなドロドロのドラマ、どこがいいんだ」 昼、登代子がはまっているドラマは姉妹で一人の男を 取り合うという定番なドラマだ 「いいじゃないか。そのドロドロが刺激的でいいんだよ」 光にテレビのリモコンでチャンネルを変えさせる登代子。 (ま・・・。現実ではそういう設定は親としては勘弁だけどね) 娘二人。 年頃で、色恋の話もあるだろう。 「こーんにっちは♪おかーさま☆」 登代子の好物の饅頭をひっさげて俊也が久しぶりに横山家にやってきた。 「なんだい。チャラ男くんかい」 「・・・あ、あいかわらず辛口ですこと。おかーさま。 おかげんいかが?」 「なにしにきたんだい?光にちょっかい出しにきたのなら 饅頭はいらないよ」 「おかー様!僕はですね、真剣に光さんと お付き合いをデスね・・・」 ぎろ! いい加減なことが大きらいな登代子。 登代子の睨みは今も健在です。 (わっ。流石に肝っ玉か母さんにはつうじねぇか) 「あ・・・オレ、光ちゃんお向かいにいってきまーす!」 パタン。 俊也が去っても香水が部屋に残る。 「・・・ったく。相変わらず・・・。真面目にカメラに 夢かけてるのかと思えば・・・」 一恵は洗濯物を畳ながら呆れ顔。 「根は真面目な奴なんだろうけど・・・。アタシは好かないね。 たんなる軽い奴って感じじゃない」 どこか、歪んでいる。 根っこが幼さを感じる登代子・・・。 「・・・。で、でも・・・さ。写真は本気みたいよ。 私、結構俊也さんの写真好きだし」 「・・・一恵。アンタ・・・」 じっと観察眼の登代子。 「あ、さーってと洗濯物残ってたんだー」 籠をもって洗い場へ走って逃げ去る一恵・・・。 (・・・はぁ・・・。嫌だよアタシャ姉妹ドロドロなんて・・・。 でもま・・・。それも人生の一味かな・・・) ピ。 リモコンでテレビの電源を入れる登代子。 年毎の娘達を持つ母の悩みは尽きないのだった・・・。 「おーっし。今日は大漁だ。大漁だ」 魚屋で3匹30円のさんまを購入してご満悦の光。 「早く帰って母さん達に食べてもらおう!」 駆け足で歩道を走っていると・・・。 プップー! (このクラクションは・・・) 「お魚くわえた光ちゃん。おおっかけえてぇ♪ 車で、お向い、ハンサムな俊也☆」 替え歌をうたいながら降りてくる俊也。 「光ちゃん。今日もおつかいえらいでちゅねー」 「・・・生魚,口に突っ込むぞ」 早速光は威嚇。 「最近なんか、威嚇もバージョンアップしてない?」 「そうさせるのは誰なんだ。ったく・・・」 光は俊也を無視するように早足で歩く。 (こりゃ真面目な話題で今日はせめてみますか) 俊也はきりっと真面目顔にチェンジ。 「光のお母さん・・・。大分顔色よくなったんだな」 「ん?あ、ああ・・・。でも・・・。動ける範囲はベット の周囲だけだし右手の骨折もまだ直ってないし・・・」 「大丈夫さ。光の健気な母親への愛が・・・。 直してくれるさ」 「・・・ぷ。あはははは!」 突然立ち止まって大笑いする光。 「あ、アンタの口から愛だなんて単語・・・。 アハハハ」 「・・・ギャグだっていいたいのね。はぁー・・・」 (正攻法も通じねぇか。でもま・・・。 貴重な可愛らしいスマイルも見られたからいっか♪) 俊也は自分で不思議で仕方ない。 こんなに自分以外の誰かにこだわったことなんて無かった。 「あ、・・・雨だ。光ちゃん、僕の車に乗らない?」 「やめとくよ。雨宿りはあそこでいい」 光はシャッターの閉まった本屋の軒先に走った。 「じゃぼーくも」 俊哉もお供。 (・・・今日はねばってみましょうか) 何だか今日は・・・ もっと光の心に近づけそうな気がする。 ザー・・・。 雨は激しさをマシて・・・。 「雨宿りってさー・・・。まだやまないんだけど?車の中の 方がヨクナイ?」 「じゃ・・・。一人で乗ってれば・・・?」 ポチャン ポチャン・・・。 軒先から滴る雨だれ 下に出来る水溜りをじっと しゃがんで光は見ている・・・。 「・・・イケメンより水溜りみてるほうが楽しいか?」 「・・・ああ。綺麗だ。波紋が」 「そうですか・・・」 (・・・。また”不思議ワールド”へ一人でスイッチオンかよ) 自分の世界をさっさと 作ってしまう。 男が隣で口説いているのにも関わらず・・・? (わからねぇな。その心理描写は) 純粋というべきなのかただの子供的発想というべきか・・・。 だがそんな光を静かに眺めているのもいいと 思う自分にも気がついた俊也。 「なぁ」 「ん?」 「恋愛ってさ。単なる麻薬なんだって。 脳の中で恋愛ホルモンっていう化学物質が甘い言葉を 言わせたり、クサイ行動とらせたりするんだとさ。 浪漫がないよなぁ。そんな話。」 光は効いているのか聞いていないのか じっと水溜りを見ている。 「・・・。お前はどう思う・・・?恋愛って単なる生物的発情 の演出だって思う?」 ポチャン ポチャン 水音が どこか寂しげに・・。 どこか・・・ 切なげに・・・。 「・・・。オレの今のこの気持ちは・・・。どっち なんだろうな・・・?」 「・・・」 光のこたえを・・・ 俊也はじっと 水音に耳を済ませて待つ・・・。 「小難しい理屈は・・・分からん」 「・・・あ、そうですか(汗)」 「でも・・・。大切な人が苦しんでたら・・・ 体が勝手に動く・・・。t助けたいって思う・・・。必死になって・・・。 それじゃあ応えになってないか?」 「いーえ。光ちゃんらしい。すばらしいお答えです」 パチパチと俊也は大げさに拍手。 「・・・。茶化してるな。ふん・・・」 「茶化してねぇよ。ホント・・・」 光が言う理屈じゃない”何か” (オレはずっとそれが欲しかった) カタチじゃない 理屈じゃない 確かな・・・ものが ぽちゃん・・・ ぽちゃん・・・ 俊也もしゃがんで水溜りを眺めてみる。 水溜りなんてスーツが汚れるし きらいだったけど・・・ 「・・・車の中だとわからねぇな。水溜りの ”色”は・・・」 「・・・。アンタ、なんか悪いもんでも食べたか?」 「失敬な。オレだってね、写真やってるゲイジュツカなの。 情緒的になりますよ?ふふふ」 「・・・芸術家・・・。ねぇ・・・」 ポチャン 光が水溜りに触れてみる。 小さな波紋。 (オレの心にも波紋・・・ってね。情緒的になってみるか。 たまには) 今まで感じたことのない波紋。 それに名前をつけるとしたら 果たして恋なのか愛なのか 「気持ちに・・・。名前なんていらねぇな」 「は?」 「うん。そうだ。名前なんていらねぇんだ。あはは」 囚われていたのは いつも自分。 素直になるきっかけさえあれば・・・ 「あ、雨やんだな。お約束的に虹でもでればいいのに」 俊也はちょっと演技臭く空を指差して言って見る。 「・・・出ればいいな。うん」 生憎。 虹はでなかったけど・・・ 「残念でしたね。光ちゃん」 「・・・。水溜りの”光り”がみられる・・・ほら」 「おお」 雲の間から出る太陽の頭が 水たまりに映って・・・星型に見える。 「光・・・。お前って・・・」 「ん?」 「・・・幼稚園児的な感覚だよな。あはは」 「・・・(怒)アジ、鼻の穴に突っ込むぞ」 「きゃー!こわいですわぁ♪」 こんなやりとりも 心地いい 自分の心の変化に (素直になるか・・・。でもオレだけじゃ 駄目だ) 「じゃあな。雨宿り付き合ってくれてありがとう」 「いーえ。今度は夜這いに付き合ってもらうから」 「・・・(怒)」 アジのパックを袋から出して威嚇する光。 光は挨拶もせず歩き出した。 「光」 振り返る光。 「・・・お前もさ・・・。”恋愛”と向き合えよな。 難しいことじゃないぜ?」 「・・・」 「”私は色恋言ってる場合じゃない。家族が大変なときに” とか、”顔”がどうのとかって・・・理屈は抜きでさ」 「・・・」 「・・・ま。素直じゃない俺が言える立場じゃないけれど・・な。 じゃあな!」 お茶目で小悪魔な笑顔を残して 俊也の真っ赤なスポーツカーは元気にエンジン吹かせて走り去った。 「・・・。理屈抜きで・・・か」 水たまりに映る自分の顔をじっと見る光。 (・・・。でもまだ怖い・・・) 自分の容姿だけじゃなく 自分の知らない心を知ることが・・・。 (・・・もう少し・・・。もう少し・・・時間が欲しい・・・) 恋愛ってどういうものなのか 自分みたいな醜い人間が恋だの愛だの言ってもいいのか 家族が大変なのに、色恋に神経使うなんておかしくないか それは許されるのか 沸いてくるのは、言い訳がましい理屈・・・? (・・・分からない・・・) 誰にいっているのか。 自分自身とそして・・・ (晃・・・) ”自分らしい応え”が見つかるまで・・・。もう少し・・・。 「・・・よお」 「なんだ。お前は」 晃のマンションの前に赤いスポーツカー。 仕事帰りの晃を待ち伏せしていた。 「今日ははっきりとした宣戦布告しにきたぜ」 「どういう意味だ」 晃は立ち止まって振り返った。 「光ちゃん、やっぱりオレ、マジみたいね。へへ」 「・・・。そんなふざけた口調の話は聞きたくねぇな・・・」 「ふざけてません!でもまだ”興奮”はしてません。流石に そこまではねぇ。でもー。恋でも愛でもない。恋でも愛でもある・・・ そーんなキモチ♪」 ドン! 晃は車の窓を激しく叩いた・・・。 「まぁー。何熱くなってんの? まっすぐ過ぎるんだよ。真面目ぷってるけど ヒステリックと紙一重じゃねぇか。お前の感情は・・・この”一人昼ドラ”男」 「やかましい!!」 まるで俊也に心を見透かされたようで悔しい・・・。 「・・・ふふ。でもお前みたいなキャラ 一人いねぇと、恋愛沙汰はつまらねぇって。ただ・・・。 これだけはいっとく」 「・・・」 俊也はポケットから苺キャンディを取り出した。 「恋愛じゃなくても・・・。俺が生きている上で”コイツ”は なーんか必要ってことだけはわかったから」 苺キャンディに軽くキスする俊也。 「昼ドラな展開はきらいだけど・・・。曖昧にだけは しねぇから・・・。んじゃな」 ヴォン!! けたたましいエンジン音・・・ 今までに無く警戒心を感じる晃・・・。 走り去るスポーツカーの赤が・・・ 憎らしく見えた・・・。 ”真っ直ぐすぎるんだよ。下手すりゃヒステリーと紙一重じゃねぇか” 悔しいけれど 俊也の言葉に反論できない。 「・・・光・・・」 この想いは光にとって重過ぎるものでしかないのだろうか 強すぎるだけで光には苦痛なのだろうか ・・・苦痛に思う程までな・・・存在じゃないのだろうか・・・。 「・・・光・・・。それでもオレは・・・」 明日、光に会いたい 明後日も 明々後日も 「・・・光・・・」 光からもらった苺キャンディ。 他の男も持っていたという事実だけで 心が壊れそうだ 「・・・。オレ・・・待ってても・・・いいよな・・・? いつまでも待つから・・・」 光の心の窓が開くまで。 光が心のコンプレックスと向き合うまで。 星を見上げる。 「今日は・・・見えない・・・か」 嫉妬と迷いと寂しさで潰れそうな心。 せめて夜空は晴れてくれと・・・晃は願ったのだった・・・