シャイン 〜みんな輝いてる〜 第31話 君の髪 〜精一杯の想い〜 ”お前も自分の中の理屈すてて素直になれよな” 俊也の言葉がひかかっている光。 「ちょいと!光・・・。お湯わいてるよ」 「え、あ、ああ」 あわてて台所に走ってガスを止める・・・ 「・・・ハァ・・・」 深いため息をつく光・・・。そんな光の背中を登代子は 見守っている。 (・・・恋煩いかい?なら成長したもんだ) いっぱい色んな経験をして欲しい。 (お前の人生はこれからなんだから・・・) 光の恋路を願わずには居られない。 美容室。光は窓を拭きながら、考えていた。 (・・・自分の気持ち・・・。か。はぁ・・・) 「あ・・・。いらっしゃいま・・・」 ドキ・・・。 晃の姿に光は妙に意識してしまう。 「・・・光。おはよう・・・」 「あ、お、おはようッ。今日もいい天気ですなぁッ!!」 「え、ああ、でも曇り空だぞ?」 「え(汗)」 どんより灰色の空。 「あ、えーと・・・。ま、まぁ、晃のダンナ、はいっておくんなせぇ」 光、動揺する心を隠すために?何故か江戸弁。 「ふふ。光、緊張してるんだ?」 「ちっ違うワイッ///」 雑巾を頭に乗っけて照れる光。 そんな光が晃は・・・ (・・・可愛いなぁ・・・。なんか・・・) こんな瞬間・・・。 最近少しだけ・・・ 光の心に近づける気がする・・・。 (ほんの・・・少しだけだけど・・・) 「そ、それで晃。今日は何の用だ?」 「・・・。用がなくちゃ・・・会いに来ちゃだめか?」 (う、うおッ、き、キタッ。晃の真っ直ぐ視線ッ) それを見返すと頬が真っ赤になるので防止策を考えた。 すっと視線をそらす 「えッ・・・、べ、別に私は構わんが・・・」 「そうか・・・。よかった・・・」 (な・・・。なんか・・・今日の晃はいつにも増して・・・。 スイッチが・・・) 光はなんだか落ち着かない・・・ (そーじの続きしようそーじ・・・) 光は脚立にのぼり、電球の傘の周りを拭く。 コチコチコチ・・・。 時計の針の音が・・・ やけに聴こえる・・・ (・・・お、お客さん来ないかな・・・) だがこの時間帯はあまり来ない・・・ コチコチ・・・。 時計の音すら なんだか緊張を煽る・・・。 「光」 「え、な、ナンダ!?」 「・・・雑巾・・・。洗った方がいいんじゃないか?」 「え、ああ、そうだな・・・わッ」 脚立がバランスを崩して倒れる光 「光!!」 ドサッ! 「イタタタ・・・」 (はっ) 気がつくと・・・。光が晃に馬乗りになるような体勢に・・・。 そして晃の顔が間近に・・・ (あ・・・) (・・・) 晃が・・・ 見てる・・・ 鼓動が早くなる・・・ 晃が・・・ ”お岩!ゲロ女!!” (・・・!!) 頭の隅で誰かが悪意を囁いた・・・ 「・・・あ・・・。ご、ご、ごめんッ」 光はぱっと晃から離れる・・・ 「・・・」 「・・・」 微妙な空気が流れる・・・。 光が線をひいた・・・ 光の空気と晃の空気が混ざり合う瞬間に・・・。 「光・・・。怪我はないか?」 「あ、う、うん・・・っ平気だ・・・」 いつもこうなる・・・。 (私が・・・私が悪いんだ) 晃が伝えて来る想いを・・・。 髪をカットするようにばっさりと切ってしまう・・・。 「・・・。晃・・・。あの・・・あの・・・」 「いいんだ。俺のほうこそごめん・・・。 なんか・・・。一方的で・・・」 「晃・・・」 「ごめん・・・。ごめんな」 晃に謝らせてる (いつまでも自分の殻に篭っているから・・・) 「・・・。私の方こそ・・・。ごめん・・・。 ごめん・・・」 いつになったら言えるのだろう いつになったら壊せるだろう・・・ (駄目だ・・・なんか・・・) どうやったら・・・ 伝えられるだろう 晃のことは嫌いじゃないというキモチを・・・。 (そ、そうだ・・・) 「・・・。晃。あの・・・。頼みがあるんだ」 「何・・・?」 「あ、あの・・・。私の髪・・・。今きってくれないか・・・?」 「え・・・?」 「ほ、ほら・・・。え、襟足とかけ先がちょっと伸びてるだろ? だ、だから・・・さ」 光は少しもじもじしながら言う・・・ 「いいけど・・・。オレでいいの?」 「・・・あ、晃じゃないと嫌だ。あ、晃以外の人には・・・ さっさささささわ、さわ、触られたく・・・ないからッ」 恥ずかしいさでいっぱいの光 (こ、これが私の今の”精一杯の告白”だ。 あ、甘い台詞はい、い、言えん・・・(汗)) 俯いてさっと椅子に座った。 (・・・光・・・) 晃の心は弾む ”晃がいい。晃以外の人には触られたくない” (・・・。舞い上がるよ・・・?光・・・突然 そんな台詞言うと・・・オレは・・・) 「カセット持ってくればよかった・・・」 「・・・え?」 「・・・今の台詞・・・。録音して何度も聞きたいから・・・」 「・・・(汗)そ、そ、それはやめてくれッ あ、あの・・・(汗)」 鏡の中の光・・・ 精一杯の言葉を発して ホッペから湯気がでそうなくらいに・・・火照ってる。 「ふふ・・・。照れ症・・・だな」 「・・・!!わ、笑うなッ。じ、持病は 治らんもんなんだ(汗)」 (嗚呼もう分けの分かん・・。難しいもんだ・・・) キモチを伝える・・・ それも 自分の中でまだあやふやな・・・ キモチ・・・ それでも・・・ (心の欠片でも伝われば・・・) 「それじゃあ・・・カットはじめまーす・・・」 「おねがいしまーす」 「前髪と・・・襟足でいいんだな?」 「はい。頼む」 晃に髪をカットしてもらうのは久しぶり・・・ (晃の手は・・・冷たくてなんかきもちいいなぁ) 人に触られることはやっぱり 苦手だ 髪だけは・・・ 大丈夫だ (私に障りたいなんて奴いないだろうけど・・・な) シャキ・・・ シャキ・・・ 静かに 光の髪が切られていく・・・ 「・・・。綺麗な音・・・。晃の鋏の音・・・」 「そんなことないさ・・・。光の髪がサラサラで 切りやすいからだよ・・・」 「・・・ありがとう・・・。晃にそういわれると・・・ 素直に・・・。嬉しい・・・」 (光・・・) 今日は・・・ 心が躍ることが多くて・・・ (抱きしめて帰りたいよ・・・) シャキ・・・ シャキ・・・ 優しい鋏の音が・・・ 響く・・・ 髪でもいい 光の大切な体の一部 (触れられるだけで・・・。幸せだ・・・) こんなに近くで こんなにそばで・・・ ”晃以外の人には触られたくない” 立った一言で 曇り空が晴れた空にさえ見える・・・ 晃の手のぬくもりから 想いが伝わってくる・・・ シャキ・・・ シャキ・・・ (・・・。お父さんの手・・・みたいだ・・・) 幼い頃・・・ 髪を撫でてくれた・・・あの手・・・ 「光・・・?」 「スー・・・」 鏡に映る光は・・・ すっかり夢の中へ・・・ 「・・・。ふふ・・・。本当によく眠るな・・・」 髪を切り終えて・・・ 晃は自分が着ていたジャケットをそっと 光に着せた・・・。 ”晃以外の人には・・・触られたくない” 「光・・・」 ”晃以外のひとには・・・” 「光・・・」 止まらない・・・ 光の精一杯のメッセージ・・・ 想いが・・・ 「・・・今だけ・・・。今だけ・・・抱きしめさせてくれ・・・」 椅子の背もたれごと・・・ 晃の腕は光を包み込んだ・・・。 「・・・光・・・。オレ・・・。期待しても・・・ いいんだ・・・よな?」 「・・・スー」 「光・・・。オレ・・・待つから・・・。一生でも待つから・・・」 吐息をはくように 晃は呟く・・・ 「光・・・」 「うみゃ」 妙な寝言で返事する光。 「・・・ふふ・・・。暫しおやすみ・・・」 ずっと抱えてきた想い・・・ 光にちゃんと届いている そして光もまた・・・ ・・・不器用で 臆病で 遠慮がちな・・・ 小さな想い いつかきっと・・・伝えようと 光は夢の中の自分自身に告げていたのだった・・・。