シャイン 〜みんな輝いてる〜 第32話 妹の恋 「恋はしてほうがいい。でも汚れちゃいけないよ。一恵」 「え?何。何のこと?」 鏡に向かって身なりチェック。 明らかに浮かれていることが分かる。 口紅の色がいつもより少し濃い目。 登代子はすぐに感づく。 「”女”丸出しなんだよ。あんたは分かりやすい・・・」 「な、何。お母さん」 「・・・自分を大切にできる恋をしな・・・」 (お母さん・・・) 母の言葉。 まるで娘の恋の行く末を予知しているような・・・。 「・・・お母さんは、リハビリをがんばればいいの! 第一、私は恋なんてしてないから。じゃ、 買い物いってきまーす!」 声が上ずっている。それだけで登代子はお見通し。 「アンタ・・・。年頃の娘は・・・。心配だよ」 「大丈夫ですよ。一恵ちゃんも光ちゃんもしっかりした 娘ですから・・・」 「ええ・・・」 (アタシャ・・・娘達の荷物にならないように・・・ 頑張るだけなんだけどね・・・) 登代子はそういいながら、雅代の手を借りて お手玉を握る・・・ 少しでも娘の負担を軽くしたい どんな恋でも・・・まっとうできるように・・・ 「こんにちは!俊也さん」 駅前。 俊也がカメラを持って待っていた。 ”一恵チャン。モデルやんない?” 携帯でそう俊也に呼び出された一恵。 二時間かけてメイクに気合をいれた。 「おー。今日もかわいいねぇー」 「いやだぁ。一発目から誉め殺しですか」 でも確実に顔が嬉しそうな一恵・・・。 「あの・・・、も、モデルって話ですけど・・・。 わ、私なんかでいいんですか?」 「うん。一恵チャンじゃないと出来ないの」 (私でないと・・・か。ふふ) お茶らけ調子でも一恵にとっては心ときめくフレーズ。 「あ、それからオレの”助手”がもうすぐ来るんだ」 (助手?) 「あー。こっちこっち」 俊哉が手招きして呼ぶのは・・・ 「お姉ちゃん!」 帽子をかぶった光だった。 「おー。光ちゃん悪いねー。来てもらって」 「一恵が”変な男”に付きまとわれてるって 電話が・・・」 俊哉はにこにこ顔で自分お顔を指さしている。 「・・・。確かにな。変な男だ」 「どういうことですか!俊也さん!」 「いやー。ちょっとオレの今日の”被写体”が 手がかかるんでねー。人手がほしかったの」 と、なにやらボックスをみせる。 ごそごそ。 その中から出てきたのは子犬2匹。 「きゃあ。可愛い〜」 「そいつ、コロンちゃんとヒカルちゃん。 その子達がモデルなの」 「こ、この子達がモデル・・・(汗)」 一恵も光も俊也の罠?にまんまの乗せられた・・・と やっと自覚したようで。 公園につれてこられて。 「おい!反射板!もっと右に!」 光は銀色の反射板を持たされ、 「一恵チャン、子犬、もっとあやしてて」 猫じゃらしでベンチに座る子猫の機嫌取り・・・ (なんなのよ・・・。メイクに時間かけた私って(汗)) 俊也が初めてもらった仕事だという。 小さなカタログの写真らしいが。 子猫にレンズを向ける晃 (って何で人の名前つけるんだ(汗)) 「さー。ヒカルちゃん。もっと笑ってねー。 可愛いねー。あとでチューちてあげますねー」 (わざといってやがるな?ったく) 反射板を持ちながら何故か照れる光 (・・・お姉ちゃんも俊也さんも・・・) 甘い会話こそないものの・・・ なんとなく二人の間にある、二人が共有している 空気を感じる・・・ 苛苛。 言葉で言うなら嫉妬という名前なのだろうが (一人で熱くなっててもしょうがない) 恋愛ドラマのキャラクターじゃない。 理性でコントロールしなければ。 「はい!ご苦労様でした!いやーありがとね。 お二人さん」 撮影が終わり、俊也は光と一恵をいきつけのカフェへに 招くという。 「うふふ。パスタがちょーおいしいんだ。 もち、オレのおごりね」 休みの日。ショッピング街のアーケードは カップルが目立つ。 三人は俊也を真ん中にならんで歩いていたが・・・。 (・・・) 通り過ぎて様に振り返る。 元ホストbPと道を歩けばスカウトされまくる妹。 絵になるはず。 そのとなりに”一匹”違う生き物が いるとなれば (・・・色んな意味で目立つわな(汗)) 光、二人から一歩下がって歩く。 帽子も深くかぶり直した。 (お姉ちゃん・・・) 光の気遣いを感じながらも、俊也のとなりで歩ける・・・ 弾む心を抑えられなかった。 「あの、すいません。ちょっといいですか?」 カメラを持った若い女性が近づいてきた。 俊也たちに名刺を見せて。 『タウン誌・COM』 街角で見かけたカップルや若者にインタビューして タウン誌に載せたいという。 「いや、久しぶりにいい女といい男のカップルに出会っちゃいました。 是非!一枚お願いできませんか?」 「えー。こ、困ったナぁ」 一恵はそう言いながらもどこか嬉しそう。 「いやー。嬉しいけどオレ達、”まだ”カップルまで はいってないびみょーなカンケイなんですよ」 俊也はそう言って名刺をつっかえした。 (・・・なんか・・・。さり気に告白返しされたような・・・汗) 一恵の乙女心は鋭いらしい。 「あ、でもぉ。こっちの娘とならオレ、 とりたいなぁ。おいで、ヒカルちゃん」 「わっ。ヤメロ!」 一恵の後ろの背を向けて隠れていた光の手を引っ張った。 「え・・・そ、そちらの方・・・ですか?」 タウン誌の記者は光を見て、一瞬、顔をゆがめた。 「・・・。んだよ。てめぇ。オレの女に文句あんのか」 「あ、あの・・・で、出来ましたら・・・。そ、 その、そちらの方の方が・・・」 「・・・失礼な奴だな。てめぇ」 記者に眼をとばす俊也。 その俊也を切ない視線を送る一恵に気づく光。 「・・・。いいよ。私写真、嫌いだし・・・。一恵、 映してもらいな。私、さき帰る」 「え?あ、あのお姉ちゃん、ちょっと・・・」 光は一恵に手を振って雑踏の中に消えていった・・・。 (お姉ちゃん) 「じゃあ、そちらの方とご一緒ということで、 是非・・・」 女性記者がカメラを構えたが分捕る俊也。 「おれら。カップルじゃないって言ってんだろ? 行こう。一恵チャン」 「あ、は、ハイ・・・」 少し不機嫌に俊也の後を追いかける・・・ ”俺らカップルじゃないって言ってんだろ” 胸に痛みを感じながら・・・。 そして夕方。 「ただいま・・・」 少しトーンが低い。一恵は帰るなり光の部屋に直行。 「お姉ちゃん。話があるんだけど」 「な、なんだ。その剣幕は(汗)」 鋏の手入れをしていた光。 「お姉ちゃん。単刀直入に言う。お姉ちゃん。 俊也さんのことどう思ってるの」 「え、な、なんだいきなり」 「いいから応えなさい!いい? スキかきらいかの二者選択よ」 仁王立ちして詰問・・・ 「ど、どうって・・・。き、きらいでも ないし特別すきってわけでも・・・」 「却下!すきなのきらいなの!?男の人として」 顔面近づけて、鋏をもったまま・・・ 「こ、怖いぞ(汗)か、一恵、落ち着け」 「いいから応えなさい」 「・・・わ、わからん!!」 光はそう応えるしかなくて・・・。 一恵は鋏を光に返してコートのまま座る・・・ 「”長期戦でもオレ、一途ってキャラ やってみたい”だってさ」 「あ?」 「・・・俊也さんがそう言ってた・・・。 本気みたいだよ」 「・・・。アイツの言うことはどこまで本気か・・・」 一恵の背中・・・ 明らかに落胆している 「・・・お姉ちゃん、いつまでも”恋愛が怖い”なんて 言ってるのずるいんだから!はっきりしてよ!」 「・・・一恵・・・」 訴える一恵の瞳・・・ ”恋”をしている女の目。 かわいい妹の顔じゃなくて生身の女・・・。 「・・・一恵は・・・”女の人”だよな・・・」 「え?」 「好きな誰かのためにお洒落したり・・・。嫉妬したり・・・。 とっても”女の人”だ」 光は手鏡をそっと持って鏡の中の自分を見つめる。 「はぁ?お姉ちゃんだって立派な女じゃない」 「女・・・だけどなんていうか・・・”生々しく”なれない。 格好つけてるって言われそうだけど、どうしても 誰かに心ときめいたりする自分が想像できないんだ・・・」 「・・・想像しなくてもときめくときはときめくわよ」 「・・・。はは。そうだな・・・」 鏡の中の自分。 外見だけの事だけじゃなくて 自分の中の知らない自分を知ることが怖い。 臆病者といわれても仕方ないが 長年蓄積した負の感情を押さえ込むことがなかなかできない。 「それ・・・。かわいいスカートだな」 「え?」 白のニットのミニ。 一恵の綺麗な足がいっそう魅力的に見える。 「スカートを履くこと自体・・・。怖いんだ。違和感あって 落ち着かない・・・。例え、好きな人がスカート好きだって言っても 私は・・・。履かないと思う。いや自分の気持ち優先させる、弱虫なんだ」 「お姉ちゃん・・・」 「・・・こんな気持ち・・・。説明しようがないけど・・・ 一恵・・・。私ってやっぱり変か?馬鹿みたいか?」 「お姉ちゃん・・・」 (そんな言い方ずるい・・・。もう責められないじゃないの・・・) 通り過ぎざまに”気持ち悪いッ”といわれつづけて そんな経験をし続けてきた心など分かりようが無い。 想像も出来ない。 だから恋愛ごとに消極的になることは当たり前だろう。 (・・・全部・・・。理屈なんだよな・・・。自分を守るだけの・・・) 「分かってる・・・。ちゃんと素直になれるよう努力するから・・・。 だから一恵。もう少し・・・もう少し時間をくれないか・・・?」 「お姉ちゃん・・・」 手鏡をそっと机に置いた。 「俊也・・・アイツは何か抱えてる・・・。 深い・・・深い何か・・・。それと向き合うのが怖いから カメラや私で和ませてるだけなんだ。勝手な解釈だが・・・」 「・・・分からないでしょ。人の心なんて・・・。 少なくとも俊也さんはカメラは本気だよ」 「ああ。そう思う・・・思いたい・・・」 光の口ぶり・・・ 一恵は光の心はどこにあるか感じた。 (・・・おねえちゃんはやっぱり・・・) 「・・・わかった。もういいよ。お姉ちゃんは お姉ちゃんの”恋愛ペース”でいけばいい」 「一恵・・・」 「ただし・・・!絶対にマイナス思考には ならないこと・・・」 「ありがとう。一恵」 姉には姉の 妹には妹の 恋のスピードがある。 「一恵」 振り返る一恵・・・ 「・・・。あ、いやなんでもない」 「おやすみ」 一恵の背中・・・ 何を言いたかったのだろう自分は・・・。 ”少なくともカメラは本気よ。俊也さんは” (・・・。一恵は本気・・・なんだな・・・) 一恵の声・・・ 力いっぱいお腹から出ていた 光に訴えていた (・・・妹の恋愛を上手に応援もできない 姉なんて・・・。ごめんな。一恵・・・) 妹の恋 それに自分が”関わる”としたら 恋愛ごとが苦手だなんて理由は通用しない。 自分が誰かに想われる存在だなんて 自惚れることも恐縮してしまう。 だが 一恵が本気で俊也に想いを寄せるなら ちゃんと向かわなければ。 (けじめだけは・・・きちんとしなければ・・・) 光は今度俊也に会った時、 一恵のこととそして、俊也の本心と・・・ ・・・曖昧なままだけど自分の心と・・・ 向き合わなければ・・・ 手鏡のをもう一度見つめる 鏡の中の自分に呟く光だった・・・