シャイン 〜みんな輝いてる〜 第33話 光の涙 一恵の想いを知った光。 俊也にはっきりと言わなければと・・・ (・・・って何をどういうんだ。だ、だから こういう色恋がらみなことは・・・) ”妹泣かせるな” 「違うなぁ・・・」 ”妹は嫁にやれん” 「・・・絶対違うなぁ」 味噌汁を煮立たせながら考える。 「光!鍋にたってるよ!」 「わぁ」 味噌汁の匂いに包まれて。光は一生懸命考える・・・。 一方。その頃・・・。 俊也のマンション。 「・・・ひ・・・ひと殺しッ!!」 顔中が口元から血を流した中年の女が、俊也の部屋から飛び出していく・・・。 散らかり放題の部屋・・・ リビングに俊也が大の字になって笑っている・・・ 「・・・ふふククク・・・」 ”としちゃん・・・としちゃん・・・。 ママ、恋してたいの・・・。恋してたいの・・・” 耳に残る母の・・・女の声・・・ 「・・・ククク・・・」 久しぶりの会った母は・・・。昔の同じ”女”の顔・・・。 「・・・ババア・・・。キモイ・・・」 自分に・・・息子に 口付けを迫った・・・殴った・・・ 「キモイ・・・ってんだよ・・・」 女じゃない 母親じゃない 同じ人間じゃない・・・ 「ハハ・・・。なんか・・・眠りてぇ・・・」 ラクになりたい  壊れそうな精神を保つために 楽に・・・ 俊也は・・・ポケットの中の薬袋を取り出して・・・ 錠剤を口の中にか切れてビールでひとのみした・・・ カラン・・・ ビール缶が転がる・・・。 「楽に・・・、シテクダサイナ・・・神・・・様・・・」 目を閉じる俊也・・・ このまま・・・。天国へいけたら。 このまま・・・ (・・・光・・・) PPP〜 携帯が鳴った。 「・・・!」 一瞬はっと我に帰って・・・携帯に出た・・・ 「あの・・・もしもし・・・。一恵です」 「・・・ナン・・・だ・・・一・・恵ちゃんか・・・」 「・・・?俊也さん?どうかしたんですか?」 呂律がまわらない俊也・・・ 「バイチャ〜・・・」 プツ! 「あ・・・」 明らかに普通の様子じゃないことを感じる一恵・・・ (・・・嫌な予感がする・・・) 「お姉ちゃん!お願い、一緒に来て!」 「な、なんだよ!」 不安に駆られた一恵は光と共に俊哉のマンションへ 車を飛ばした。 チャイムを何度も鳴らすが出てこない・・・。 「お邪魔します!」 バタン!二人は開きっぱなしの玄関を通って リビングに走った。 「俊也さん!!」 倒れている俊也に駆け寄る一恵。 「俊也さん!!どうしたの!?しっかりして!!」 目が空ろ・・・意識が朦朧として 俊也は返事を返さない。 「と、俊也さん・・・」 一恵は動揺して気が回らず・・・ 光は足元に転がっていたカプセルの殻を見つけ、俊也が薬を 大量に飲み込んでしまったと察知した。 「一恵!コップ一杯、水持ってきて!!」 「え、う、うん」 光は俊也に水を飲ませ、背中をさすって 「ゲホッゴホッ」 「・・・きゅ、救急車っ」 「車で運んだ方が早い!この近所にすぐ 救急外来の病院あるから!一恵!手、貸して!」 「で、でも・・・っ」 光はひょいっと俊也の腕を肩に担ぎ玄関へ連れて行く 軽々と・・・ (・・・汗) 「一恵、俊也の保険証とか持ってきて!!」 「え、う、うん」 一恵は慌てて、晃のバックや机の中を探した。 机の引き出しに保険証と財布が入っていた。 (あ・・・) 若い母親と・・・少年の写真。 皺くちゃの・・・ (これ・・・) 「一恵!!早く!!」 「あ、う、うんッ・・・」 写真と一緒に保険証を自分のバックに入れて・・・ 一恵は病院へ向かった。 病院へつくと処置室に運ばれ、俊也はすぐに胃の検査と洗浄の治療を 施された。 発見が早かったため、重症にはならなかったものの 念のため数日の入院となり・・・。 細かい手続きが終わった頃には夜10時を回って・・・ 病室で俊也の寝顔を見守る一恵。 「・・・。はい。一恵・・・。一服しよう」 缶コーヒーを一恵に渡す光。 「・・・。お姉ちゃんって・・・。やっぱ度胸 すわってるよね」 「え?」 「・・・倒れてる俊也さん目の前にして・・・。 てきぱきこなすんだもの・・・。やっぱり凄いよ・・・」 「・・・別に・・・」 一恵はそっとあの写真を光に見せた。 「これは・・・?」 「・・・多分・・・。俊也さんとお母さん・・・。だと思う・・・」 何度も破いたと見える写真。 テープで繋ぎとめられて・・・ 「・・・。あんなことした理由は・・・。 この写真・・・なのか?」 「・・・わからないけど・・・。そんな気がする・・・」 おちゃらけ俊也。 人を寄せ付けないうらに何かあるとは思っていたが・・・。 「・・・。だからって・・・。あんな・・・」 「・・・。お姉ちゃんだって分かるでしょ・・・。 息もできなくなるような苦しみ・・・。誰だって楽になりたい って思うこと・・・あるよ・・・」 「・・・一恵・・・」 写真に堕ちる一恵の涙・・・。 一恵の想いの強さを感じた・・・ 「ん・・・。あらぁ。お二人さん」 「と、俊也さん!」 ケロっとした顔でVさんして目覚めた俊也・・・。 「あらぁ・・・。ボクちゃん。天国へいきそびれちったみたいね〜。 残念残念」 「な・・・俊也さん何言って・・・」 「ってごめんねー。二人にめーわくかけたみたいでさー。 いやー。ほんとにごめんチャイナ!ニャハハハ」 おちゃらけ俊也全開で、一恵も光も唖然。 「あ、アンタな・・・。一恵がどれだけ心配したか・・・ッ」 俊哉に詰めようろうとした光を止める一恵・・・ 「・・・ちょっとぉ。ま、あれですよ。 ドラマのキャラになってみたかっていうか・・・あはは。ほら ”自虐的キャラ”っているでしょ?あれに。 でもやりすぎちゃいましたねー」 (この・・・ッ) 光は思わず手を上げて俊也の頬に打ちつけようとした。 「光ちゃんおこった?ぶっていいよ。はい。どうぞ!」 「・・・」 かっとなった光を煽るように 頬を差し出して指を指す俊也・・・ そんな俊也のおちゃらけぶりが・・・ 光にも一恵にも逆に俊也の中の弱さを感じさせた・・・ 静かに手を下ろす光・・・ 「あれ?どうしちゃったの。遠慮しないで! ほら、ばっちーんってうっちゃっていいから」 「・・・」 ポタ・・・ (・・・。どうしてだ・・・。なんで・・・) 哀しくなってきた 怒っているはずなのに ポタ・・・ どこからきたかわからない涙。 「・・・。おいおい・・・。光ちゃん。なんで泣いてんの・・・?」 「・・・」 分からない。 ただ 俊也の笑顔が 哀しく見えて ・・・痛そうで・・・ 「・・・。痛そうだ・・・。手首の傷口が・・・ 痛そうで・・・。点滴の針が・・・皮膚にささって・・・ 痛そうで・・・痛そうで辛い・・。アンタの心に突き刺さってるみたいで・・・」 言葉じゃ表現できない 感覚。 「は・・・はぁ?あのねぇ。点滴の針なんてチクっと一瞬でしょ? ひっかるちゃんは感受性強いなぁー・・・」 (わけわかんねえことでないてんじゃねぇよ) 光の突然の涙に 俊也の心にも今まで感じたことのない動揺が走った。 女の涙など幾度と見てきたのに 「・・・。何の涙だぁ?あはは。まぁオレのために ないてくれてるんだったらうれちぃなぁ☆」 (・・・。たかが涙でどうしてこんな・・・) 産みの母の出来事より 胸が痛い。 光の涙が痛い。 光は涙をごしっとジャケットで拭いて・・・。 光はポケットからあれを取り出した・・・ 甘い匂いがふわっとただよう・・・ そう 苺キャンディ 「何があるのか知らないけど・・・。 天国にいくなんて・・・。言うな・・・」 「・・・」 「俊也の写真・・・。また見たいんだ・・・」 キャンディに最後の一滴が落ちた・・・。 「・・・。アンタが生きててよかった・・・。よかった・・・」 苺キャンディをそっと俊也のてに握らせて・・・ 静かに病室を出て行った。 「あ、お姉ちゃんまって・・・!俊也さん、 また明日来ます!今日はユックリ休んでくださいね」 一恵は俊也のバックをそっと枕元に置いて 病室を後にした・・・ 苺キャンディ・・・ ゆるくて 柔らかい甘み・・・ やっと 目が覚めてきた・・・ ”アンタの写真・・・またみたいんだ・・・” (・・・なんか・・・。やべぇな・・・。びびってきた・・・) 光の涙が 急に俊也に死の恐怖を呼び起こさせた。 「・・・ったく光チャンは・・・不器用な顔して・・・。オレを口説くのが 上手いんだから・・・」 楽になりたいと思った 嫌なこと全部、一瞬だけ忘れられたら・・・。 ”簡単に天国へいくなんていうな・・・” 「そだねー・・・。天国なんか行ったらこのキャンディ食べられなくなる・・・」 口に含むと・・・ つかれきった体が・・・ 軽くなる・・・ 「・・・甘めぇ・・・」 あのまま・・・永遠の眠りについてしまったなら・・・ この甘さが もう味わえなくなる (・・・怖くなって・・・きやがった・・・) たった1個の飴が・・・ 俊也に伝える・・・。メッセージ・・・。 ”簡単に言うな・・・” 俊也は何度も何度も・・・ キャンディを味わった・・・ 「・・・俊也さん・・・。大丈夫かな・・・」 真っ暗な田園を・・・光が運転する軽4が走る・・・ 「・・・。お姉ちゃん。心配じゃないの?俊也さん 傷ついてるのよ・・・」 「・・・。アイツの痛みは・・・アイツしか分からない・・・。 下手な・・・慰めじゃアイツの心には・・・届かない・・・」 「お姉ちゃん・・・」 正論だ・・・と一恵は思うが どこか冷たい光の態度が腑に落ちない・・・ 「お姉ちゃん・・・。悟った人みたいね」 「え?」 「そりゃお姉ちゃんは・・・。普通の人より色んな 痛み知ってるのかもしれないけど・・・。もっと 俊也さんに寄り添ってあげても・・・」 「・・・。一恵・・・」 刺々しい一恵の声・・・ (一恵・・・) ”女”を生々しく感じさせる・・・。 「お姉ちゃん。私・・・。俊也さんのこと支えてあげたい・・・。 ううん。支えるから・・・」 「・・・」 「・・・俊也さんの本心見えなくても・・・。 そばにいてあげたいの・・・」 昨日見た・・・恋愛ドラマ・・・ 精神的に参った恋人に寄り添うヒロインの台詞と同じだ・・・ (・・・恋愛って・・・。人を優しくするんだな・・・) どうしてこんな第三者的な見方しかできないのか ”お姉ちゃん冷たいよ” (一恵の言うとおりだ・・・。私は・・・。自分の殻を 未だに・・・守ってるだけだ・・・) ”怖い。人の心と深く触れ合うのは・・・!” 頭の片隅で警鐘を鳴らしている それを消すことがまだ出来ない・・・ 誰かを本気で好きになる自分が怖い (・・・私は・・・私は・・・) 自分の中の怯えを打ち消すように 光はアクセルを強く強く踏むのだった・・・