シャイン 〜みんな輝いてる〜 第36話 恋は紡ぐもの 育むもの 俊也が退院する日。 一恵は毎日病院に通い、退院する今日も朝から 迎えに行っている。 「・・・だからあの男は要注意だっていったんだ。 アタシャ」 ベットの横で洗濯物をたたむ光・・・。 「・・・でも一恵は本気みたいだ。気持ちは尊重 してあげないと・・・」 「・・・ま。好きにしな。アタシの娘は身を滅ぼすような 色恋をするほど馬鹿じゃない。ね、」 登代子は仏壇の中の写真に向かっていった。 「・・・アタシと光一のように・・・。 粋な恋をしてほしいもんだね」 「”粋な恋”?魚屋でデートでもしたのか?」 「・・・(汗)」 恋愛には疎い娘だとは思っていたが、疎いばかりでなく トンチンカンだったと気がつく登代子。 「光一はねぇ・・・。職人肌でまぁ無口な男だった・・・」 (始まった(汗)母さんの恋愛武勇伝) 「私が弁当もっていっても”すまねぇ”の一言だけで・・・。 けどその”すまねぇ”がニヒルでいいだよねぇ・・・」 登代子の恋愛武勇伝が始まると30分以上は喋りっぱなし。 大工見習いの光一と知り合った登代子。 必要以外のことは本当に喋らなかった 「デートなんて洒落たことはできなかったけど・・・。 ふ。黙ってオレについてこいって川原を歩いたもんだ・・・」 「へいへい。ごちそーさまです」 「今時のすーぐいちゃつきたがる若いもんと違って・・・。私との時間を 育ててくれた・・・」 「育てる?」 「ああそうさ・・・。恋愛だろうが親子だろうがね・・・。 人間関係は時間をかけて育てないとね・・・」 光一の写真を持ってきてと光に促す・・・ 「・・・ホントにアンタは父さん似だ・・・。 いい”男”だろ?」 「・・・(汗)誉めてるの?」 「姿かたちもそうだけど・・・。恋愛には不器用だけど・・・。 誠実で真面目だ・・・。それでいい」 (母さん・・・) 夫の写真を懐かしそうに撫でる登代子・・・。 きっととても幸せな 一緒にいた時間が生きる力に変わるような そんなとても幸せな恋だったのだろう 登代子の穏やかな微笑を見つめながら光は感じた。 (私も・・・そういうのがいいな) 庭に植えた椿の木。 まだつぼみはついていなけれど きっといつかはつくだろう 一緒にそんな時を過ごせるような誰かと寄り添えたら・・・ 光は椿の木を静かに でも優しい気持ちで見つめていたのだった・・・。 「ごめんなさいねぇ」 「いーえ。今日は天気もいいし散髪びよりです」 光に一本の予約の電話が入った。 近所に住む松子さん。御歳80歳 花の独身だ。 今日は少し小奇麗で、お化粧もしている。 若々しく、モモイロのブラウスにベージュの ズボンでウキウキしていた。 髪をパーマ液で固めて、暫し待つ。 「あのね・・・。今日会うんだ・・・」 「あ・・・メール友達の”ツネジロウ”さんに・・・!」 松子さんはぽっと顔を緩めて肩を細くて照れた。 松子さんは対半年前にパソコンを覚えた。 そしてメール友達をつくって今日、いよいよ会うことに。 「でもねぇ・・・。こんなもうろくばあさんが めかしこんでおかしくないかと・・・」 「そんなことないですよ。松子さんからこう・・・ 幸せオーラ出てます。私、元気感じてるんですよ!」 光はVサインした。 「・・・そう・・・?ふふ。うれしいわぁ 光ちゃんに言ってもらうとこっちが元気でる」 「いやぁ・・・」 だが松子さんはまだ少し浮かない顔をしている。 「松子さん?」 「・・・。死んだ爺ちゃんのことと考えたらね・・・ 申し訳ない気がして・・・」 「・・・。松子さん・・・」 松子さんには子供も居ない。 ずっと旦那さんと二人で生きてきた。 その旦那さんも亡くなって・・・10年。 「・・・。うちの母が言ってました。”素敵な恋は生きる元気になる”って・・・。 今日の出会いが、もし・・・松子さんの”生きる元気”になるなら・・・きっと 旦那さんも見守ってくれてると思います」 「光ちゃん・・・」 光はセットを終えると、 松子さんのブラウスの襟元に、椿のブローチをつけた。 「うん・・・。よし!よくお似合いです!」 「かわいい・・・。これ、光ちゃんがつくったの?」 「ええ。あはは。うちにあった木の破片で ちょこちょこっと・・・。下手くそですが・・・」 「そんなことないわ・・・ありがとう。大切に使わせてもらうわね」 「いえ。こちらこそ・・・!」 松子さんは何度も光に頭を下げて 少し軽い足取りでデートに向かった・・・ (・・・松子サン・・・。ガンバッテ・・・! どうか、素敵な恋の出会いになりますように・・・) 松子さんの背中を見送って・・・。 「光。いい顔してるな」 「あ、晃!」 一部始終を見せの外で聞いていた晃。 ずっと優しい目で見ていた・・・。 「・・・汗。な、中入ってくれ。お茶入れるよ」 「ああ。じゃあお邪魔します」 何故だか緊張してポットにお湯を注ぐ光。 (今日は初っ端から・・・”晃視線”だな・・・汗) 二階の畳の間で。二人で湯飲みをにぎって一休み・・・ 「穏やかで生きる元気がでる恋・・・か。お母さん いい言葉いうよな」 「ああ・・・」 「きっと光のお母さんとお父さんは・・・。 優しい気持ちで寄り添える・・・素敵なカンケイだったんだな・・・」 「・・・うん」 ほわほわ 二つの湯飲みから湯気が わたがしみたいにのぼっていく。 湯気が消えて・・・ 晃の優しい眼差しに気づく光。 (・・・。汗、な、なんだその・・・確信的な視線は) 「・・・お、おかわりしよう(汗)」 照れを必死に隠してこぽこぽと湯を注ぐ。 「光・・・。急須じゃないよ。ソレ」 「えっ」 湯飲みには透明なお湯だけ。 「・・・(汗)」 「ふ。ふふふ・・・」 「わ、笑うなッ。アチッ」 慌てふためく光。 自分が投げかけた分の想いは返ってこなくても 光が頬をそめてそばにいてくれるだけで 満たされる 満たされる時間・・・ 「・・・光」 「な、ななな、なんだ?」 「・・・光」 (どっどっからそんな優しい声だすんだ。嗚呼また なんかカッカしてくるじゃないか・・・) 「・・・。だ、だからなんだ」 「・・・光・・・。いい名前・・・だ」 (うっ) 名前を誉められるなんて初めてなので なんか右わき腹辺りがこそばゆくなった。 「・・・///あ、新たな戦法に出たな?晃・・・」 「・・・戦法だなんて・・・」 「・・・く、くそ・・・。晃。今度来るときアイマスクして 来いよな///」 甘く台詞も ドキドキする行動もないけれど 二人なりの 二人だからこその ・・・時間。 その時間が最近とても大切に感じる光・・・。 PPPPP! 穏やかな時間をさえぎるけたたましい携帯の着信音。 「・・・?これは・・・」 一恵の携帯からだ。 「もしもし?一恵か?」 「あ、おっはよーん。ひっかるちゃん。この間は ありがとね」 俊也がでた。 しかも朝からハイテンション。 「な、なんで一恵の携帯にアンタが出るンだ!?アンタの退院 付き添ってたはずじゃ・・・。さては一恵になんかしたのか!?」 「そーじゃなくて・・・。あのさ。ちょっと一恵チャンを 迎えに来てくれない?」 「え!?」 ”女の闘いさせちゃった” 俊也の退院に付き添った一恵。 病院の玄関で、俊也の並み染み客の女と出くわした。 ”アタシの俊也に障らないで!!” 俊也にご執心だった女は突然一恵に詰め寄って 突き飛ばした。 負けず嫌いな一恵も感情的になり掴み合いのけんかになったという。 怪我はなかったものの、一恵を落ち着かせようと自分のマンションへ 連れてきたが、いまだ興奮状態の一恵を 迎えに来てくれと俊哉からの一報だった。 「光。オレもいく」 晃の車で光は俊也のマンションへ向かう。 「一恵さん・・・。そんなにアイツのこと、 想ってたのか・・・」 「・・・。一恵・・・」 ”穏やかで元気がでる恋をして欲しい” 登代子の言葉とは正反対な道に進む一恵。 奇麗事なのだろうか。 手垢がつくような巷で流行の純愛を手本にしろとは言わないけれど (・・・自分を大切にしてほしい・・・。一恵) かわいい妹。 妹の恋が泥沼にならないでほしい。 「・・・どうしておねえちゃんが来るの」 「一恵・・・。アンタ・・・どうしてケンカなんか」 「だって・・・」 「あ、一恵チャンは悪くないんだよ。光」 俊哉の説明によると、相手の女は光のことを知っていたらしく。 一恵が光の妹だと知って・・・。 ”横山・・・?アンタ、あのゲテモノ女の妹なの!? キモイのよッ。姉妹して!!” 「・・・ってなことを馬鹿女がいったもんだから・・・。 だから一恵ちゃん、キレちゃったんだ」 「一恵・・・」 一恵はポロっと涙を流した。 「・・・ごめん。私一瞬、誤解した・・・。 一恵が自分の感情でケンカしたって・・・。そうか。 私のせいだったんだな」 「違う・・・。違うから。私が幼稚なだけだったの。 あんな女の言うこと真に受けた私が・・・」 光はそっと一恵の頭を撫でた。 自分のせいで妹に公衆の面前で乱闘騒ぎをおこさせた・・・ 堪らない光。 「・・・誰のせいでもないって。いや、 女癖が悪い俺のせいか。ごめんね。お二人さん」 (・・・) 俊也はそう言ってビールをぐいっと飲む。 「・・・。おい・・・。酒はいいけど、酒と一緒に薬は もう飲むなよな」 光は注意を促す。 「わかってるって。はは。だーってオレッちには、 オレのこと好きでいていてくれる一恵チャンもいるし ね、一恵ちゃん」 一恵は頬を染めて俯く。 「・・・でもごめん・・・。オレっち・・・。とーぶん 恋愛ごとはやっぱいーや。とーぶん、コイツがコイビト」 カメラのレンズにキスをする俊也。 「・・・。分かってます・・・。俊也さんの本心は・・・。 でもいいの。私、それを応援したいの」 「うん。一恵チャンの気持ち、嬉しい。 確かに受け取った。ありがとうね」 一恵と俊也のお茶らけモードと純愛モードのテンションの違いに 光はただ戸惑う。 本当に俊也はわかっているのだろうか。 俊也のそばにいるかぎり、今日みたいな騒ぎがおきるかもしれない。 光は俊也の本心だけは確かめたいと思った。 「・・・。おい。俊也・・・。一恵の気持ち分かってるなら・・・。 いい加減な態度だけはしないでくれ」 「ああ・・・分かってる。でもさ。じゃあお前の気持ちは?」 「え?」 「妹思いはいいよ。でもな・・・。この四画関係の 焦点はお前の本心なんだぜ?」 光、一恵、晃 そして俊也・・・ リビングの4人は互いに顔を見合った。 (私の・・・本心・・・) 光は急に怖くなった。 四角関係なんだ。 知らない世界に放り出されたようで怖い・・・ 足がすくんできた 「・・・もういいだろう!光を追い詰めることはない!」 俊也と光の間に割ってはいる晃。 「お前が一番知りたいことを言ってやったんだぜ。 でもまぁ・・・。そうだな。光の心は光自身でしか割れない・・・。 急かす権利は誰にもねぇしな」 (・・・) 「・・・帰ろう。光。一恵さんも・・・」 3人は静かに部屋を出て行く・・・。 「光」 俊也の呼びかけてに振り返る光。 「オレは”苺キャンディ”が一番好きだ。 あれにまさるモンはねぇな。マジでここんとこ、癒えた」 心臓の辺りを指さす俊也。 「・・・。本気になれるもんが2つも見つかったんだ。 オレぇ、幸せだ。ま、とーぶんは、カメラの方に愛を込めますがねぇ」 顔はお茶らけているけれど 今の言葉だけは・・・ (本心言ってるのね・・・) 一恵はそう感じた。 「・・・わた・・・しは・・・」 (分からない分からない分からない) 言葉がどもる光。 「光。行こう」 応える前に晃たちは部屋を出て行った・・・ 帰り・・・ 晃の運転が少しだけ荒い。 ”オレは苺キャンディが一番好きだ” 俊也の宣誓が晃の心に荒波を起こす 「晃!青になったぞ」 「あ、ああ・・・」 はっと我に返ってアクセルを踏む。 車の中・・・。少しよどんだ空気に3人は黙ったまま・・・。 「お姉ちゃん・・・ご、ごめんね。心配かけて・・・」 「・・・いや・・・。怪我がなかったならいいよ」 「・・・。俊也さん・・・今度は自分のこと・・・ 大切にしてくれるよね。そう信じたい」 「そうだな・・・」 (光・・・) 光の応え・・・。光の本心が晃の心を一層荒立てる。 「・・・お姉ちゃん。私に”変な気”だけ使わないでね。 ベタな少女漫画じゃないんだから」 「変な気ってなんだ・・・。私は一恵が哀しまなければそれで・・・」 「お姉ちゃん・・・。傷つかない、悲しまない恋愛なんてないよ。 誰だってね、人を好きになったら独占したいもの。その人のことは・・・」 「・・・そ、そういうモンなのか・・・汗」 光は考え込む。 ”穏やかで元気になれる恋愛” そういったらきっと一恵は”奇麗事だよそんなの”と 返すに違いない、そう言われたら反論できない。 (どー返す、どう返そう・・・) 一恵の言葉にどう返そうか、どう向き合おうか 眉を八の字にして・・・。 其の顔が、バックミラーに映って・・・。 「ぷ。うふふふ・・・」 「・・・な、なんで笑う・・・!?わ、私は 一恵の恋愛感をだな、分かろうと必死に・・・」 「あー。もう。だからお姉ちゃんのこと、責める気になれないのよ。 真面目すぎて」 「・・・だ、だったら最初から責めないでくれ・・・汗。 私は言葉上手じゃないから・・・」 真面目すぎる姉。 人間の欲まみれの心にまでも 真面目に真剣に考えようとする・・・。 そんな姉の恋愛感を否定する権利は誰にもない (・・・。お姉ちゃんは・・・お姉ちゃんなりの・・・恋が あるはず・・・) 「真柴さん」 「は、はい」 「ほんっとーにメンドクサくてぶきよーな恋しかできないと 思いますけど。ま、長い目でみてやってくださいな。 そのうちちゃんと自覚しますから」 「ど、どういう意味だ(汗)」 今度はさっきのお返しに一恵が光の髪をなでなで。 「あー。きもちいー。お姉ちゃんの髪は さわり心地がいい。真柴さんも触りました?」 「なっ・・・何を言うんだッ///」 くしゃくしゃに光のショートカットが。 「あー。あるんだ。お姉ちゃん達でも その”程度”の触れ合いはあるのね。よしよし」 「な、納得するな!一恵、お前は・・・っ」 「あはははは・・・」 後部座席で笑いあう姉妹・・・。 晃の顔も自然と綻んだ。 (・・・そうだ・・・。光には光の・・・。オレにはオレの・・・ ペースがある) ”オレは苺キャンディが一番好きだ” ストレートな想いをあらわすこともいい。 けれど、自分の想いを温めて温めて・・・ 育てる想いもあっていい。 「なぁ・・・。お母さんに鯛焼き買っていってあげないか? 美味しい店、知ってるんだ」 「いいな!晃、私、白アンがいい」 「私はあづきよ!絶対!」 お菓子を笑って食べあえるそんな誰かを見つけたい (・・・私も・・・ちゃんと頑張らないとな・・・。 ちゃんと・・・) 晃の笑顔を見つめながら 光は自分の心に前向きになろうと 改めて思ったのだった・・・。