シャイン 〜みんな輝いてる〜 第36話 一日を大切に生きる ”オレは・・・苺キャンディが一番好きだ” 「あっはー。告白しちゃいました。ボク。 というわけでぇー・・・。早速恋のあったく開始ー!」 ということで俊也。光宅に朝から尋ねている。 「・・・なんか・・・。お軽い男が一人いるねぇ」 「ほっとけばいいのさ。母さん。布団のシーツ取り替えるね」 「あ、ボクのことはおかまいなくー!」 こたつにはいってほくほくしている俊也。 俊也を無視して光は登代子を抱っこして 床に敷いた布団に寝かせる。 そして布団のシーツをはぎとって洗濯機へ、布団は乾燥機で干す。 てきぱき。 家事をこなす光。 俊也はこたつにはいってじっと一部始終を見ている。 (・・・いいねぇ・・・。オレの日本の男なのかなー) いや違う。普段の光の姿が見たかった。 (光の色んな顔を撮りたい・・・。本気でそう思うのに) この気持ちが愛情なのかは分からないが とにかく光を撮りたい。 「あ。へび、死んでるな」 (ね、へ、へび!?・・・汗) 庭で光がシャベルを持って穴を掘っている。 (・・・。ま、まさか) 俊也、庭に出てそーっとしゃがんでいる光を覗き込む。 すると穴の中にへびの死骸が・・・ (う、うお(汗)) 俊也、ちょっと爬虫類とか苦手らしく顔を背けた。 「・・・。なんだ。男の癖に。へびはね、縁起がいいんだよ?」 「そ、そうなの。で、でも光。お前、平気なの?」 「えー?んー・・・そりゃ平気じゃないけど・・・。埋めてあげないと 可哀想だろ?昔は草ッ原が住みかだったんだろうに。 この辺りは全部宅地になっちゃってねぇ・・・」 光は穴に土を生めて、手を合わせた。 (・・・や、野生児的な魅力もいいけど・・・ちょっとね・汗) 「この辺も・・・ビルが多くなって蛇も行き場所がないんだな。 はぁ。自然が恋しい・・・」 (光ちゃんの哲学・・・見たり。はは) 一緒に居る時間が長いと 色んな面が見えてくる。 「あー・・・母さん、足、洗おうか」 母親の足を洗面器に淹れた水で静かに洗う。 丁寧に 優しく優しく・・・ (この瞬間・・・撮りたいなぁ。 慈愛・・・タイトルにしよう。ふふ) ぱしゃり。 いい写真がとれたと思ってもっと沢山撮ろうと張り切る俊也だが。 「ふぅぉーー!!えいやぁ!!」 アルミ缶を手でペチャリと平たくおりまげて、ゴミ袋にいれて 分別。 「分別しないとね。えいやぁあ!!」 (・・・巻き割りならぬ、アルミ缶折り・・・。光ちゃん。 武士だね(汗)) いろんな顔が見えてくる。 ”被写体に常識的な主観を持つな” 学校の教師の一言を思い出す。 (確かに・・・。主観はもっちゃいけねぇな。 でも愛情はもってもいいでしょう) それにしても・・・ 俊也は感じた。 (・・・よくもまぁ・・・動けるもんだな) 家事だけじゃなく、母親の介助・・・ (フツウの顔でやってるから・・・大変にみえねぇんだけど) 過剰にそれを健気だというのも大げさかもしれないが 現実、光以外の誰もいない。 「光・・・。アンタ今日ちょっと動きすぎだよ。 休みなさい」 「えー。うん。じゃあぬかづけやっちゃってから 少し寝るよ」 「ふぅー・・・。最後までやりきらないと気がすまない・・・。 誰に似たのかね・・・」 光と登代子の会話から俊也は母娘の絆を感じる・・・ 登代子は自分の体のせいで娘に頼ってしまっているという 自責の念。 光からは母の自責の念さえ感じ取ってそれを和ませようとする 優しさ・・・。 (痛々しいけど・・・。羨ましいな・・・) 自分の母は 男がいなくては生きていけないのような女だった。 親子関係などなかった。 (・・・光の心の根っこは・・・親子愛が土壌だったんだな) 当たり前の感情。 親子という関係の・・・ 「あらら。光ってば・・・大根もったまま 眠って・・・」 冷蔵庫に寄り掛かって眠る光。 「おかーさま!ボクの出番ですね!?光ちゃんのことは おまかせください!ちゃんとお部屋までお届けします」 「あ・・・こら・・・」 俊也は光をひょいっと抱き上げて二階へ・・・。 (へへ。さてさて。お姫様のお部屋拝見いたしましょうか) 引き戸を開けて、光の部屋に入る。 (へぇ・・・綺麗だね。片付いてるし意外と・・・乙女っぽい?) 壁には光が手作りしたタペストリー。 キルトなどが飾られていた。 「よいしょ・・・っと」 光をベットに寝かせる・・・ 「かわいい寝顔しちゃって・・・」 眠る顔・・・ あどけない寝顔が いまだ残る頬の火傷の痕が逆に生々しく浮き出す。 (これさえなけりゃ・・・。もっと違う光が居ただろうに・・・) サラっと左の横髪を掬う。 (・・・でもま・・・。これがあるから今の光が居るともいえるけどね・・・) どちらがよかったなんで誰にもいえない。 今の光という存在を見つめるだけ・・・。 (ちょっとお部屋探索しましょうか。ふふ。ボクって 悪魔くん?) 光の本棚には、美容関係や医療関係の本・・・ 特にリハビリ関係の本がずらりとならんでいた。 (光らしいねぇ・・・。洒落っ気のある本はねぇのか。ん?) クリアファイルを見つけた。 表紙のページには『AKIRA』と描いてある。 ぺらぺらと捲る・・・ 晃の記事の切抜きばかり・・・。 『晃・・・。元気そうで何よりだ。便りがないけど・・・ よかった』 (・・・。ちょっとジェラっちゃうな) 光の中にもう晃への憎しみはないのだろか 元々持っていなかったのか (オレの・・・”被写体”は・・・。奥が深いね・・・) サラっと前髪をすくう。 「・・・。セクハラで訴えますよ〜」 「一恵チャン」 なにやらいい匂いが漂う。 「雅代さんからもらったお饅頭で カフェしませんかってお母さんが」 「いいねぇ」 静かにクリアファイルをしまう。 「・・・。お姉ちゃん・・・大根持ったまま眠るなんて・・・。 ふふ。頑張りすぎなんだもの。最近じゃ 内職までどっこからか見つけてきちゃって」 「なんか時代劇の貧乏長屋の人みだいだよね。ふふ」 「・・・。茶化さないでください。もう・・・」 二人の笑い声を余所にすやすや眠っている。 どんな夢を見ているのやら・・・。 だが寝顔とは裏腹に光の手は水荒れでカサカサ 少しまた痩せた気がする一恵・・・。 「・・・。クラブに来る女ってのは大抵、どこかしらに 自信がねぇ女が多いんだ。そこを誰かに補ってほしいってね」 「それで?」 「・・・光チャンの場合は外見も内面も 未だに自信がないらしい。其の上家の事情もあって・・・ 大変だよね」 「簡単に言わないでくださいよ」 一恵は光に毛布をそっとかけた。 「・・・確かにお姉ちゃんはまだ色々ちょっと臆病だし・・・。 ”いい子”になりすぎるところがある。でもそれもお姉ちゃん なんですよ」 「姉思いなんだね。でも・・・。そう・・・。 色んな面があって今の”光”なんだ」 光の寝顔を見つめる俊也は・・・ 見たこともないような・・・ (穏やかな顔で言うのよ) 「今日一日・・・。光見てて思ったよ。一日一日 精一杯イキテルるだって・・・。イラついても 泣いても笑っても・・・。時間は過ぎていく」 「俊也さん・・・」 「・・・。なんか今日はオレ、ちょっと語り過ぎ? ふふ。キャラじゃないね。さ、饅頭カフェしに行こうか」 「あ、う、うん・・・」 お茶らけ俊也に戻った けれど前と明らかに違う (・・・おねえちゃんが俊也さんを変えたの? そうなの・・・?) 嫉妬・・・というほど激しくはないけれど モヤモヤする。 でもそれ以上に (私・・・。お姉ちゃん好きだから・・・。 お約束みたいな三角関係なんてなれない。なれない) 姉妹の信条と恋心。 現実の恋は複雑だ・・・ 二人が下に下りていった・・・ 静かに光の目が開いた・・・。 「・・・。私は”いい子”じゃないさ。一恵」 一恵がかけてくれた毛布が温かい。 優しさを感じる。 ”姉はいい子すぎる。それもお姉ちゃんなんですよ” そんな風に思ってくれていたなんて (嬉しかった・・・。ありがとう。でも・・・でもな・・・。一恵私は・・・) いい子なんかじゃない。 ・・・自分の殻を破れなくて いい子という別の殻”に摩り替えているだけかもしれない。 朝起きて 未だに真っ先に鏡を見られない。 今日もあの痕があるのか 今日も外へ出れば通り過ぎる人の視線を気にするのか そんなことばかり考えている。 家事や登代子の介助をしていれば臆病な自分を忘れられるから 利用している気もして自己嫌悪さえしている。 ぐるぐる。 ぐるぐる。 色んな事が過ぎっていく。 「・・・でもそれでも・・・。今日一日、精一杯 過ごさなくちゃ・・・生きなくちゃ・・・」 陽は落ちるし夜になって 朝が来る。 「さてと・・・。ぬか付けの続きしなくちゃな!」 頬を叩いて眠気を飛ばし、 光は腕をまくって台所へ降りていった。 今日という日は終わっていない せめて今日という日を心を込めて 過ごしたい。 一日一日を積み重ねて・・・