シャイン 〜みんな輝いてる〜 第39話 逆恨み 憎い たかが若い娘一人にワシの人生は滅茶苦茶だ 憎い たかが小娘の正義感でワシは会社からも家族からも見捨てられた 憎い 憎い ・・・滅茶苦茶にしてやる・・・!
「え?つけられてる・・・?」 不安げに一恵が漏らす。 「まー。こんなにかわいいアタシだもの。 片思いされることはあるだろうけど・・・。ストーカーっぽいのは いやだ」 手鏡で、つけまつげを手直ししながら話す一恵。 「・・・(汗)そうですかい。フン。 ま、念のため暫く気をつけた方がいいな。 会社の送り迎え、しばらくしょうか?」 「でも大丈夫よ。ほら。防犯ブザーもあるし」 ポケットからブザーを取り出す一恵。 「そうか。でも・・・本当に気をつけろよ?私を襲う奴なんか いないだろうけど、一恵は自惚れ抜きでやっぱり 可愛いからさ・・・」 一恵の頭をそっと撫でる光・・・。 光の手は本当に一恵を心配しているようで・・・。 「・・・。んもぅ!そういうお姉ちゃんが可愛いのよー 父親的愛情がー」 「わっ。馬鹿くっつくなー!口紅がつくだろー!」 光に抱きつく一恵。 光の真っ白なトレーナーに一恵の真っ赤なキスマークがついたのは言うまでもない。 だが身の回りの異変は光の身辺にも感じられるようになった。 「・・・」 人の視線には人一倍敏感。 過剰と思うほどに遠くからでも何かを感じると振り向く 癖がついてしまった。 だが勘違いではない。 (・・・悪意がつまった・・・) 「・・・光?どうかしたか?」 「あ、いやぁ何でも・・・」 美容室の前を箒で掃いていた光。 「さっきさ。そこで変な男がいたんだ」 「え?」 「あの背格好・・・どこかで見た気がしたんだけどな・・・」 (晃が知ってる人・・・?) 首をひねって晃は思い出そうとするが・・・ 「・・・あはは。私を見てる人間なんていないよ。 こんな顔」 「光、別にそこまで・・・」 「あ、ジョークジョーク。でもあれだよ。 私は大丈夫。そこらへんのひょろひょろ男なら一発ぶん殴って 倒すから」 拳を握って力持ちだとPR。 「・・・けど心配だよ。光は女の子なんだから・・・」 「・・・汗あ、晃。既にうっとりモードはやめてくれ(汗)」 だが光はきになった。 自分のことではなく一恵のことが・・・。 (晃が知ってて・・・。一恵も知ってる人で・・・ 誰かに恨みもってるって人間・・・) ・・・ふっとある一人の男が浮かんだ。 (・・・まさか・・・。一恵か私を逆恨みして・・・) その男は一恵に対して痴漢まがいのことをしてそれを 訴えたら家族を滅茶苦茶にするぞと脅した男・・・。 「・・・光。顔が青いけど・・・」 「あ、いや・・・」 「光・・・。何か悩み事があるなら一人で抱えないでくれよ・・・?」 (・・・だ、だから、晃、うっとりモードスイッチいれないでくれ(汗)) 少女漫画の中の恋する乙女のように 瞳を潤ませて・・・晃。 その頃・・・。 光の家の郵便受けに近づく黒い影。 手には生臭そうなものを持って・・・。 「え・・・。ポストに生ゴミが・・・!?」 帰宅すると、郵便受けが生ゴミでいっぱいになっていたと 光に報告する一恵。 「・・・ちょっと・・・これマジでストーかー!? でも私、そんな覚えないよ・・・?」 「・・・」 朝とは違い・・・本当に不安を浮かべる一恵・・・。 現実にこうして”攻撃”されると 犯人が見えないだけに怖さと不気味さが一層増す・・・。 「・・・大丈夫だ。私が絶対守るから・・・」 「お姉ちゃん・・・」 (あの人だって・・・証拠はないんだ・・・。様子をみるしか・・・ ないか・・・) 疑わしい人物がいるけれど 証拠も何もない。 ただ、自己防衛するしか・・・。 (家族は私が守る・・・!) 光はそれから暫く、美容室は早く切り上げ、家に帰るようにした。 一恵は朝夕送り迎えをして・・・。 それが功をそうしたのか、嫌がらせは治まった。 「・・・番犬よりお姉ちゃんは役に立つよね」 「・・・(汗)番犬っておい」 少しだけ安心した一恵。 だが一体誰が嫌がらせや尾行などをしたのか・・・ (・・・わからないままだと・・・。不安が残るな・・・) 光は一恵にもう一つブザーを持たせて気をつけさせた。 そしてまた1週間が経って・・・。 「もう大丈夫!ふふ!お姉ちゃん。きっと私のストーカーも お姉ちゃんには敵わないって逃げてったんだわ」 と一恵は安堵していたが・・・ (・・・まだ・・・不安なんだな) 一恵のきもちは光も分かっていた。 一恵の中にももしかしたら・・・と犯人の目星がついていることも・・・。 「一恵・・・。まだ分からない。相手が分からない以上、 気を抜いちゃ・・・駄目だぞ」 「うん。分かってる。私にはお姉ちゃんがいるんだもの」 「ああ。私は一恵を守るよ」 真剣な眼差しで一恵の頭をなでる・・・。 「んもーお姉ちゃんダイスキ!優しいお姉ちゃん!」 「だーから。だきつくなって!化粧おとせー!」 お茶目で、わがままで・・・ 調子が良くてでも・・・姉思いの可愛い妹。 (傷つける奴は・・・。許さない・・・!) 光は見えざる相手に・・・ 気を構えるのだった・・・。 その夜。 「・・・のど渇いたなぁ・・・」 光が部屋から静かにキッチンへ下りていく・・・。 (ん・・・?) キッチンの勝手口・・・ 硝子が割られてあいている・・・ 「な・・・!?」 泥がついた足跡が・・・ (まさか・・・!) その足跡を追っていくと・・・。 階段にむかってついている・・・ (・・・。一恵・・・!) 光は急いで二階へあがる・・! 「一恵!!一恵!!」 ガチャガチャ!! 一恵の部屋のドアノブを回すが 開かない。 中から重たい何かで塞がれているようだ。 ドンドン!! 「一恵!!一恵ーーー!!」 「・・・ちゃ・・・お姉ちゃん助けてーーー!!」 「・・・!一恵!!」 (・・・くそ・・・ッ!!) ドンッ!! 光は思い切りドアにたい当たりした。 「一恵!!」 ドアを蹴破ると・・・ 「一恵!!」 ベットの上で黒尽くめの男に羽交い絞めにされていた 「お前ッ!!なにしてんだ!!!」 光は男の襟を後ろから引っつかんで一恵から離した。 そして背中で両手をねじ上げて 「・・・顔を見せろ・・・!!」 覆面をばっと取ると・・・ 「・・・!」 光も一恵も”やはり・・・”と同時に思った。 「・・・課長・・・」 一恵に長い間セクハラ紛いな行為をし、それが明らかになって 会社を解雇された・・・。 沢田課長。 「・・・アンタ・・・。どうしてこんなことを・・・」 「・・・フン・・・」 鼻ですすり笑う。 「・・・一恵をつけたり・・・嫌がらせもアンタか・・・? 恥ずかしくないのか!?」 「フン。てめぇの顔の方が恥ずかしいだろうが」 バシッ!!! 一恵の平手が沢田を激しく叩いて・・・ だがその手はまだ残る恐怖と怒りで震えていた・・・。 「・・・お姉ちゃんのこと悪く言わないで・・・ッ」 「・・・フンッ・・・ッ!!お前らのせいで・・・。 お前らのせいでオレは全て失ったんだ・・・!!社会的地位も 家族も・・・!!」 「馬鹿なこと言うな!!身から出たさびだろう!!」 光の怒号が響く・・・ こんな男の汚い八つ当たりが 一恵を苦しめてきたのか 悔しさが込み上げてくる。 「・・・一恵・・・。もう駄目だな・・・。警察突き出してやる!!」 「・・・おう。どこへでも連れて行きやがれ。 でもな・・・。お前らだけは許さない。いくらでも 付きまとってやるからな!!!」 「黙れ!!!」 「ウグッ!!」 光は沢田の両手を紐で縛り上げ・・・ そのまま警察を呼んだ・・・ 事情聴取だのなんだのと、光と一恵もその朝は警察で迎えた。 一通りのことがようやく終わって警察の玄関を出ようとしたしたとき・・・。 「もうお前なんか親父じゃねぇえ!!この世から 消えやがれ!!」 「武!やめて・・・ッ」 つかれきったかおの母親と息子が、刑事に連れて行かれる 沢田に食って掛かっているシーンに出くわした。 「恥さらし!!お袋やオレはどんな目にあってるかわかってんのか!!」 「・・・武・・・ッ」 「てめぇと同じ血が通っていると思ったらぞっとする!!くそったれ!! てめぇなんか消えてなくなれ!!!」 陳腐なドラマじゃない。 いやドラマの方がまだ軽い空気だ・・・ 現実に叫ばれる沢田の息子の声・・・ 落胆と怒りがシャワーのように 溢れて 二十歳すぎの息子がなき暴れている この世でたった一人の父親が 犯罪者に 今まで平和だった生活が 一片に壊された怒りとこれからの不安と・・・ 息子の罵声に沢田は一瞬俯いて (・・・家族の人も大変・・・なんだろうけど・・・) 危害を加えた相手の 家族を気遣う余裕などまだない・・・ そのとき。 沢田が 光と一恵に気がついてギロっと睨んだ。 「・・・っ」 一恵は思わず光の胸に顔を伏せた・・・。 「・・・。大丈夫だ・・・。一恵・・・。帰ろう・・・。 もう終わったんだ・・・」 「・・・」 光は一恵の背中そっと手を添えて・・・ 警察を後にした・・・。 それから何日かして・・・ 沢田の妻から謝罪の手紙が光の家に送られてきた。 『すみませんすみません』 何度もこの言葉が連ねられていた (・・・) 言葉からは苦渋に満ちた妻の痛々しさが伝わってくるが・・・。 『離婚しますので・・・今後のことは弁護士さんを通して くださいますようお願い申し上げます』 (・・・自分たちのことで・・・。手一杯ってことか・・・) 同情しきれない。 一恵が受けた心の傷 一恵が失った会社でも友人。 (・・・逆恨みって・・・恐ろしいな・・・) 正しいことをしても 傷つくなんて・・・ (一恵・・・) 疲れきって家に戻るなり 炬燵で寝てしまった一恵・・・。 光はそっと水色の肩掛けを一恵にかけた・・・ 「・・・。おやすみ。一恵・・・。お前は一人じゃないよ・・・。 だから安心しておくれね・・・」 起きたら笑って 一恵の好きな蜂蜜いりのホットケーキをつくってあげようと 台所でしたくしたのだった・・・。