シャイン
〜みんな輝いている〜
第4話 居場所 「あはははー。じゃあ昨日の回、見なかったんだ。 うちの母さん録画してたからビデオ借りてくるよ」 商店街の路地裏の美容室。 光の声と近所の主婦達の賑やかしい声が聞える。 光が路地裏の美容室に通うようになって二週間。 おばさん達は毎日、カットするわけでもないのに おしゃべりしに来たり賑やかで楽しい。 光の側ではさよおばさんが光が慣れるまで色々指導などしてくれて・・・。 「光ちゃん。で、登代子さんの方はどうだい?」 「うん。元気元気。私が朝食作ってたら、ベットから大声で ”味噌入れすぎだ!”って突っ込みいれるんだ」 「ふふ。そうかい。よかったよかった。登代子さんが羨ましい。 光ちゃんみたいな親孝行な娘がいて・・・。うちの娘なんて 彼氏の所行って帰ってこない有様さ。あーあ・・・」 こんな感じで近所のおばさんたちと おしゃべりしながら・・・ハサミを動かし行く。 光はこの路地裏の美容室が大好きだった。 表通りの華やかな美容院は見た目は綺麗だけど・・・。 若い人ばかりだったり、気軽なおしゃべりが出来ない。 芸能人のような髪型ばかりセットしてくれないし、 値段も高い。 (・・・居場所みたいな美容室が好きだ) あ、ちょっと襟足伸びたなぁ。 切ってもらいに買い物が帰りによろう! そんな感じで気軽に行ける美容室があれば 高齢なおばあちゃんもみんな髪をキレイにできる。 (・・・時々は・・・出張してあげたいな) 登代子のように足腰が不自由な人の家にも行って・・・。 色々思考が広がる。 (きっと晃も・・・こういうことがしたかったんだよな・・・) 二年前の晃の気持ちが分かる気がした光・・・。 コンコン。 カラン。 ドアが開いてたずねてきたのは・・・。 「こんにちは・・・。あの・・・」 (あ・・・晃!?) 紺のジャケットを着た晃だった・・・。 「あら??あらら?あ、貴方もしかして・・・。この 真柴晃さん・・・??」 一人のおばちゃんが週刊誌の記事を指差して言った。 「すみません。突然・・・。あの・・・。光さんはここだと 聞いたものですから・・・」 「きゃあ♪ひ、光さんだって!!ちょ、ちょっと どういう関係なの〜vv」 近所のおばちゃんたちは楽しそうに息巻いて興味津々・・・。 「あ、あ、あの、おばちゃん達、ちょっと席はずしてもらえ るかな」 「あーはいはい。そうよね。お邪魔虫は退散しなくちゃ〜♪」 とそそくさと美容室を後にするおばちゃん達・・・。 けどこっそり窓のわきから覗き見・・・。 「ごめん。突然・・・」 「いいよ。どうしたんだ?」 光は晃に丸椅子を差し出した。 座る晃。 「・・・ここか・・・。メールで言ってた・・・」 「うん・・・。まだあんまり慣れてないけど・・・」 晃は天上や美容室の中をじっくり眺めた・・・。 「いいな・・・。なんか・・・。ばあちゃんちみたいで いいな・・・温かくて・・・」 「・・・うん・・・」 天上のシミも 柱の傷も 人がここに”居る”って感じがして・・・。 「・・・オレ・・・。会社辞めてきたんだ」 「えっ。ど、どうして・・・」 「・・・。恩師への義理は・・・果たしたつもりだ・・・。 金儲け主義の仕事はもう・・・。俺は俺の・・・ 遣り甲斐を・・したい・・・」 「晃・・・」 二年前と同じ目・・・。 何かを志すきらきらした・・・。 「・・・俺、もう一度現場から始めようと想うんだ」 「え?」 「・・・いち美容師として・・・。現場で直にお客さんと接してみたくて・・・。 それで知り合いの理容店でお世話になることにしたんだ。 そこでも移動美容室っていうシステムもあって勉強したいと思ったから・・・」 「そうか・・・。晃らしいな。一度決めたら真っ直ぐで・・・」 迷いもためらいもなく ただ一途に・・・。 光はそういう晃の一途さがうらやましいと思った。 「いつか・・・。また光と一緒に”移動美容室”やりたい・・・。 そのための努力ならオレなんでもする・・・」 「・・・い、いやあの・・・嫌ではないが・・・(汗)」 「ふふ光は光の居場所が出来たみたいだな」 「え、あ、う、うん・・・。そうなんだ。母さんのおかげで・・・」 晃は優しく頷いてくれた。 「・・・たまに手伝いにきてもいいか?」 「え?」 「光・・・。大変だろう?家の事とこちらの両立なんて・・・だから オレ、手伝いたい」 「で、でもあの・・・」 「いいですともー!!」 突然、おばさんがひょこっと出てきた。 待ってましたとばかりな絶妙なタイミングで。 (ぬ、盗み聞きしてたな。おばちゃんたち(汗)) 「この家の二階、ちょうど部屋あいてるし、どんどん使って くださいな。それに貴方みたいな若くて素敵な人が手伝ってくれたら 言うこと無いわーv」 「ありがとうございます」 にっこり晃のスマイルにおばちゃん頬を染める、54歳。 「光ちゃんってばこんな素敵ないい人がいるなんて。うらやましいわ ふふーーーvv」 肘で光をつつくおばさん。 「///さ、さよおばさん、な、何言って・・・」 「いーのよー、いーのよー♪もう。光ちゃん☆ あの真柴さん!光ちゃん、とってもいい子なんです。 だからよろしくお願いしますね♪」 (っておばちゃん。私、嫁に出すみたいな台詞(照)) 「はい!」 晃ははっきりと返事した。 (だから晃もまともに返事しなくていいのに(照)) この後、光は散々おばさん達に冷やかされた光だった・・・。 そして夕方。 光は美容室に鍵をかけ、歩いて家に戻る・・・ 晃も一緒に・・・。 「ほ、本当にいいのか晃。晃にも仕事が・・・」 「ああ。オレ、シフトが夜が多いんだ。俺、昼間なら 来れるし・・・。それとも・・・嫌か?オレが手伝うのは・・・」 ちらっと光の顔を覗き込む晃・・・。 「・・・い、いいけど・・・///」 「よかった・・・」 晃は嬉しそうだ・・・。 だが・・・。 「で、でもさ・・・。晃・・・。せっかくおっきな会社で・・・ 活躍してたのに・・・」 「・・・言っただろ?オレは地位や名声が欲しくて 美容師やってきたんじゃない・・・。光が一番知ってるはずだ」 「・・・」 ”晃を解放して!” いつか愛美が言った言葉が過ぎった・・・。 光は立ち止まり、振り返る。 「晃・・・。あの・・・さ。ホントに本当に私と一緒でいいのか・・・? 私がそばにいたらまた・・・」 「・・・。オレが・・・。側に居たら・・・。光は・・・嫌、か・・・?」 「嫌じゃないけど・・・で、でもやっぱり晃は・・・」 「・・・俺のわがままってわかってる・・・。でも・・・。 光の側から出ないと始まらないんだ・・・。だって・・・」 晃はまっすぐに光を見つめた・・・ 「光が・・・俺の居場所だから・・・」 (晃・・・) 「あ、あ、あのあの・・・。あ、ありがとう・・・」 「光・・・」 光は少し目線をそらして 前髪をかいた。 「・・・光・・・。ごめんな・・・」 「え・・・」 「”自分を信じろ”偉そうなこと言って・・・。 オレは・・・」 光は晃の口に手を当てて遮った。 「・・・もう・・・やめよう・・・?みんな・・・みんなさ。 色々あって・・・色々乗り越えて”今”があるんだ・・・」 「光・・・」 「この1年間私も晃もあった・・・。それも”糧”だよ。 『今』っていう時間の・・・」 そう言った光は・・・ 1年前よりずっとたくましく・・・ 強く見える・・・。 「ってなんか説教臭いな。はは・・・」 「いや・・・。光の言うとおりだ・・・。マイナス思考はだめだな・・・」 「・・・そうそう!だからな!これからは・・・。二人で頑張ろう! 仕事に!家族に!」 光は晃に右手を差し出した。 「ああ・・・。ヨロシクな!」 ぎゅっと晃も握り返して・・・。 (抱きしめたいけど・・・。やめておくよ。 いつか・・・。オレがもっと強い男になったときまで・・・) 夕日の中。 二人並んで歩いて帰った・・・