シャイン 〜みんな輝いてる〜 第40話 それでも君は女の子だよ 光が住む住宅地は少し郊外で。 光宅に暴漢が押し入ったすぐに噂は広まってしまった。 「・・・載っちゃってるよ」 新聞の小さな隅だが、ちゃんと実名で載っている。 「ふぅ。朝から電話なりっぱなし」 ”光ちゃん!あんたけがなかったかい!?” ”警察きたんだてって!?” 近所から朝から事情を聞く問いあわせが止まらない。 「光!!」 晃が物凄い血相で飛び込んできた。 一緒にこの男も 「おれっちびっくりしたよ〜!!」 俊也も一緒に・・・。 「すまない。心配かけて・・・」 炬燵にならんで座る晃と俊也。 ほっと珈琲をマグカップに淹れて差し出す光。 「いーのいーの。オレは光と一恵チャンが無事ならそれで・・・」 と、いつの間にか光の手を握っている俊也。 ぺチン!と光は振り払った。 「私はいーんだ。それより一恵の心のほうが・・・」 光の視線は二階の一恵の部屋に。 「オーケイ、オーケイ任せてください。 ブレイクハートを癒すのはホストのお手並み・・・」 「女口説くんじゃないんだからな!変なこと言うなよ!!」 「わーかってます。光ちゃんの期待には応えますから」 (光の・・・期待?) そっと二階に上がっていく俊也に光は軽く会釈した。 (・・・光・・・。どうしてアイツなんかに任せるんだ・・・?) 見えない”心のコンタクト”が光と俊也の間に ある気がして、晃の心は当たり前に嫉妬が沸きあがる。 「光・・・。大丈夫なのか?アイツなんかに任せて・・・」 「大丈夫だよ。ホストなノリにはしないさ・・・。うん。 なんていうか・・・ちゃんとフォローした励まししてくれると 思うんだ」 「・・・光・・・」 (そんなに信頼・・・してるのか?アイツを・・・) 沸々と溢れてくる嫉妬。 ”自分の気持ちに前向きになるから” 光の意思表示的な言葉に心浮かれる一方で ちょっとしたことに嫉妬する自分を抑えられなくなってきて・・・ (オレは駄目だな・・・嫉妬深い器の小さい男だ・・・) それでもできるならば自分だけを見てほしい 「・・・光は大丈夫なのか・・・?」 「え・・・?あ、ああ、私なら大丈夫だって。ほら。 逆恨みオヤジを一ひねりして警察突き出してやったんだ へへ。だから・・・」 「・・・そうじゃなくて・・・」 (うッ・・・。晃の・・・うっとりモードが・・・) 目がうっとりと切なげ視線に・・・。 「・・・光だって・・・。光の心がオレは心配だ・・・」 「・・・だっ大丈夫だって。ほら。私は半分女じゃないから」 「女だよ・・・少なくともオレにとっては・・・。 たった一人の・・・」 「あ、晃・・・」 自分の気持ちを素直に吐き出してから・・・。 晃はよりストレートに光に接するようになって・・・。 晃の想いを受け止めていいのか 迷いつつも・・・ (嬉しい・・・って思ってもいいのかな・・・) 懸命に見つめ返そうと光は心がけていた。 (ちっ・・・。完璧オレっちあて馬じゃん?) 襖から二人の様子を伺っていた俊也。 (ふぅー・・・オレッちの恋は前途多難のようですな・・・) それでも俊也は・・・ 「ひっかるちゃーん!」 と光にちょっかいをだして帰っていったのだった・・・。 一恵はというと・・・。 「俊也さんにデートに誘われちゃった。てへ」 「え。”てへ”?」 昼食のうどんをばくばく食べる一恵。 昼過ぎまでベットでぐったり寝込んでいたが嘘のようだ。 (俊也の奴・・・何言ったのかしらないが・・・まぁ 一恵が元気になったのなら・・・よかったかな) 「さーってと。私はちょっくら居間と台所の掃除すっかなー 最近さぼってたし念入りに」 「・・・オレも手伝うよ」 「え、いいよ。晃、仕事あるんだろ」 「遠慮なし・・・!いいな?」 (う・・・) なんだか。 晃のペースにめっぽう弱くなったような・・・。 「さーて。日頃は床掃除ばかりやっている。 上を見上げればあれまぁ、ほこりがわんかさかと」 光は天井用のモップを持って低いはしごに登って天上の隅の 煤を取る。 「光。オレ、やろうか?」 「え、いやいいよ。大丈夫。これはわたしのしごと・・・」 (わッ) ガタン! はしごからバランスを崩して落ちる光。 「危ない!」 バサ・・・! (え・・・) 光が目を開けると・・・ 背中があたたかい・・・? 「・・・大丈夫か・・・?」 すぐ後ろに・・・晃の顔が・・・ 両手にすっぽりと収まって・・・ 「・・・」 (・・・う、動けん・・・な、なんか・・・) 思ったより・・・。晃の腕は固くて・・・ (大きいんだな・・・) 「光・・・?」 「え、あ、ああ、ご、ごごごごごめんッ。 ふ、不埒なことを・・・ッ」 「え?」 「あ、え、あ、い、いやあ、ああああのッ。 と、あ、りがとうッ!!」 光は真っ赤になりそうな顔を必死におさえて 俯いたままパタパタとハタキをたたく。 「・・・光・・・。そこ・・・。天上じゃないよ」 「え」 植木にパタパタパタ・・・ (・・・動揺・・・(汗)) 「大丈夫か?どこか打ったんじゃないか?」 「う、う、うってねーやいッ!!一人でやるから 晃は見ててくれったら!」 光はリアクションに困って怒りモードしか できなくて・・・ いつものペースが続けられない。 ナンなのだろう。 この脇の下をくすぐられているような むずむずした・・・ (・・・くっそう!私は掃除に集中するのだ!) 気を取り直して。 光はキッチンを掃除。 まずは食器棚から食器を全部出して拭く。 (うし。これなら落ちる心配はないな) 光は食器をテーブルの上に一枚一枚置いていく。 (あ・・・あら・・・。と、届かん) 食器棚の上においてあったホットプレート。 奥に手を伸ばすが届かない。 (えっ・・・) 光の手の横をすっと長い腕が伸びてほっとプレートの取っ手を つかんで卸した。 「はい。光」 (・・・。ふ、不意打ちじゃないか・・・!) ドキドキが止まらないのと同時に・・・ なんだか面白くない。 (・・・わ、私はそんな普通の女の子とかいうひ弱な 人間じゃない・・・) 「光?」 「・・・あ、アリガト・・・。後は私がやるから・・・」 「え、あ、ああ・・・」 手伝ってあげたのにどうして不機嫌になるのかわからない晃・・・。 (俺の言い方が悪かったのかな・・・) (・・・わ、私はそんな”普通”の女の子なんかじゃない! うおおお!) なんだか意地になってきた光。 めげずに錆びたステンレスの鉄鍋をごしごし・・・。 「でやーーーー!!」 光は金の子たわしで力一杯の擦る。 だが頑固な汚れ。 「ぬ!?」 ひょいっとたわしをとりあげられる。 「力任せは駄目だよ。光。こうやって・・・流れるように こすらなきゃ」 あら不思議。晃が擦るって水を流すとぱあっとステンレスの銀の輝きが。 「な?」 「・・・怒」 (え。ま、また怒らせた・・・?) 光は別の錆びた鍋をごしごし洗い始めた。 (・・・こまったな・・・。ふぅ・・・) 晃は何のことやら・・・。 (・・・私は・・・。私は恋してるとか乙女とか そういう・・・キャラになっちゃいけないんだ) 誰がそういってる。 頭の中で。 ”醜い顔の女がはどっか隅っこいって腐ってろ!!!” ”酷い顔してんのに恋もクソもねぇだろ!!” 幻聴だ けれど世間は許さない、認めない 笑われる 馬鹿にされる・・・! 卑屈な自分に負けそうになる・・・。 (・・・) 「・・・光・・・。あの・・・オレ、怒らせるような こと言ったんなら・・・」 「・・・。いや・・・。晃が悪いわけじゃないんだ。だから 気にしないでくれ。あ、そうだ晃。今度は襖の貼り付け 手伝ってくれないか」 「あ、ああ・・・」 今度は笑顔に戻った光・・・ (一体光は何に怒ってたのか・・・) 微妙な女心・・・? (・・・やっぱりオレはまだ・・・。光の心の中には・・・ いないのかな・・・) ”前向きに・・・自分の気持ち考えてみるから・・・” たった一言で期待して 浮かれていた (光・・・) 心の声が聞けたら 光の心が知りたい・・・。 一緒に鍋をごしごし擦る。 「晃!ありがとな!」 「いや、オレでよかったどんどんこき使ってください」 「はい。ふふ・・・」 光が持つ鍋の底。 (・・・お鍋は綺麗だけど・・・) ぴかぴかになったお鍋の底に映る自分の顔に・・・ (・・・照れてるときの私って・・・。晃にどんな風に 映ってるのかな・・・) ”光は普通の女の子だよ” 普通・・・ 普通ってなんだろう。 可愛くはにかむ女の子・・・? (・・・難しいな・・・。普通の・・・女の子・・・って) 夕方になるまで・・・少しだけぎこちない空気が 二人の間に漂っていた・・・。 「・・・今日は本当に・・・。色々ありがとうな」 晃の車まで見送る光。 「・・・晃・・・。あ、あの・・・。今日はなんか 変な態度とってごめんな」 「いや・・・それでいいんだよ」 「・・・え?」 「・・・妙な気を使われるより・・・。 光の感情に流れるままでいてほしい・・・。少なくともオレの前では・・・」 (・・・) 優しい言葉をかけられて・・・ トクントクン・・・ ドキドキ・・・じゃなくて・・・ ほわ・・・? どんな言葉で表せばいいんだろう 体の疲れが抜けていく一瞬みたいに 心が楽になる・・・。 (・・・この感覚を・・・。上手く・・・。 言葉で伝えられら・・・) 好き・・・とか ストレートには伝えられなくても・・・ 「・・・晃・・・」 「ん・・・?」 「あ、あの・・・。私・・・」 光はもじもじしながらも・・・ 自然に口から出る・・・ 「・・・。晃は・・晃は・・・」 「・・・え?」 「・・・私にとっても・・・。あ、晃は・・・たった一人の・・・ お、男の人だから・・・」 ”たった一人の男の人だから・・・” 「じゃ・・・お、お、おやすみッ」 バタバタ・・・ガシャン! 照れ隠しに顔を俯かせたまま・・・家の中に走って入っていった・・・。 ”たった一人の男の人だから・・・” 目を閉じて 何度も思い出す・・・ 心に刻み込む・・・ ”たった一人の男の人だから・・・” ・・・どうしよう・・・ 嬉しくて 嬉しくて 車から飛び出して ジャンプして はしゃぎまわりたい 嬉しくて・・・ (・・・。光は天才だな・・・オレ・・・を・・・ 舞い上がらせる・・・) 光の部屋の電気がついた・・・ (光・・・) 光の部屋を見上げる・・・ (・・・帰りたくない・・・。光・・・光・・・) あの灯りの中に居る光とずっと一緒にいたい (・・・一緒に・・・。一緒に・・・) 晃の白の車・・・ 暫く光の家の前から離れずに 居たのだった・・・