シャイン 第41話 不器用なラブ・レター ”たった一人男の人だから” (あんな台詞を言ってしまった・・・。下手たら なんか違う意味に聴こえかねんのに・・・) 光は自分の言動に 一喜一憂。 ドラマのような彩のある台詞はいえないが (うん・・・。努力しよう・・・。そうじゃなければ 晃に失礼だ) 誰かが恋愛はゲームと言った。 けれど光は違うと思う。 人間同士の関係にゲームなど存在しない。 心と心のやり取りにゲームなどない ゲームにはルールがあり、ゴールもある。 だが人の心同士はルールも、ゴールもない。 ・・・どうなるか、どう動くか分からないし、決まっていない。 だからこそ拘りも強く、良くも悪くも人の心は動くのだ・・・。 「・・・母さん。柿切った。食べよう」 夕食後。風呂からあがった光が登代子のベットの横に 柿を切って持って座った。 「はい。ちょっと渋いかもしれないけどおいしいよ」 登代子専用のフォークを右手にはめて 指して右手に持たせた。 「・・・丁度いい。年寄りにはね」 「年寄り?誰が?」 光もにこっと笑って柿をぽりっと一口食べた。 「・・・光・・・、あんた、いい顔で笑うようになったね」 「え?そ、そうか?」 「ああ。ま、色恋沙汰はホルモン刺激するからねぇ。 光も一応は女だし」 「はは(汗)ありがとうございます」 辛口の母娘の会話・・・。 久しぶりだ。 じっくりと話すのは・・・。 「なぁ。母さん」 「なんだい」 「・・・母さんと・・・父さんってその・・・。 ど、どんな付き合い方してたんだ・・・?」 「付き合い方?そんなもんお前・・・。 愛と情熱の物語だよ」 (・・・あ、愛と・・・(汗)) 光は父親の記憶は薄い。 光が6歳のときに亡くなって・・・。 登代子と光一の馴れ初めが知りたいと思ったのだ。 「・・・まぁあれだねぇ。私のほうが押しまくってたね。 なにせ、ほれ、とーちゃんはもてたから。競争率高かったのさ。 ま、アタシの愛にゃ誰も敵わなかったけどねぇ」 (・・・(汗)この積極さと度胸は、一恵にちゃんと遺伝してるな・・・(汗)) 「でね。火がついた恋は燃え上がったよ・・・。父ちゃんってば無口なくせに夜は情熱的でね。 だから初めて結ばれた日に一発で光、あんたを腹に仕込まれちまった」 「・・・///か、母さん、リアルトークはいらんから!(汗)」 光は話を軌道修正(笑) 「光。押入れのカラーボックスの二段目の引き出し 探してみな」 「え、ああ、うん」 光は言われたとおり押入れのカラーボックスを調べると・・・ (手紙・・・?) 少し茶色く変色した封筒が何通も出てきた。 宛名は登代子宛と光一宛両方あった。 「これ・・・」 「アタシととーちゃんの愛のメモリーさ」 「・・・(汗)要するにラブレターだね」 既に自分の輝かしき青春時代に登代子はトリップしている。 「・・・見てごらん。父ちゃんの愛がつまってる手紙だよ」 (はいはい(汗)) 光は光一が登代子に当てた手紙を静かに開く・・・ (・・・。こ、これって・・・手紙・・・か?) 真っ白な便箋のどまんなかに 太い黒いマジックで一言。 『風邪治ったか。養生してくれ』 「・・・手紙というより・・・。メモ書き・・・」 「あんたは浪漫がないねぇ・・・。たとえ短く そっけない文面でも・・・ここには父ちゃんがアタシを 気遣う愛がつまってるんだ」 さらに光は父の文を読む。 『この間の弁当、うまかった』 とか 『今度 お前の部屋に遊びに行く』 (・・・母さんへの好意は感じられるけど・・・。あまりにも・・・ 短い(汗)) メモ書きレターは そん文体を変えず、だが手紙の通数だけはちゃんと登代子が 出した数だけきちんとあって・・・。 「父さんは・・・。几帳面で誠実な人だったんだな・・・」 「ああ。誠実実直。父ちゃんのためにあるような言葉だ。 愛情表現はちょっと不器用だったけどね・・・。まぁそこが 余計にたまらないんだよ。ふふ」 (母さん、ときめいてるよ(汗)) 横山登代子今年五十と○才。 愛する亡き夫への愛情を語るときは少女の気持ちに戻って 活き活きとする。 食欲もわいて 指先しか動かない右手。 固定されたフォークで硝子の器の柿を ぺロッとたいらげる。 恋は人に活力を与える。 (ふふ。母さんはきっと・・・。いい恋をだったんだな・・・) 父・光一と登代子の恋文。 光は何度も何度も読み返したのだった・・・。 ・・・で。 ”父さんの愛情表現方法でいってみよう!” 父親譲りの単純さで実行にうつしたのだが・・・ 「・・・勢い余って・・・。30枚も買ってしまった・・・」 文房具屋に行って、便箋セットを見回ったところ、 どれも綺麗な模様やイラストに夢中になり結局全部買ってきちゃった、やっぱり 不器用な光です。 「・・・うーん。父さん流にやると便箋に一行だけっていう 展開になりそうだ。葉書の方がいいかな」 ということで今度は葉書を買ってきてみた。 机の上に一枚の葉書とボールペン。 「さて・・・何をかこうか」 色々考えて1時間。 『手紙の書き方』という本まで参考にしたのだが・・・。 「・・・か、書けん・・・(汗)」 (と、父さんもこうだったのかな・・・(汗)) 父・光一の遺伝子をふつふつと光は感じる。 いざ、伝えたいことを文字にするというのは 結構難しい。 (ま、ましてや恋愛がらみだなんて・・・(汗)) 光はふぅとため息・・・。 ”言葉少なでも・・・伝わるものがあるんってこと 父さんが教えてくれたんだ” 登代子の言葉が過ぎった。 (・・・言葉の数じゃないよね・・・) 光は水色のペンで書く・・・。 『晃。あの・・・今週は雨が酷かったね。 洗濯物が乾かなった。晃の所は大丈夫だった?』 何気ないこと。 メールならボタン一つで一秒もかからずに送れるけれど・・・。 手紙は待つ楽しみがある。 コトン。 郵便配達人が晃のマンションの郵便受けに光の葉書をいれていく。 「・・・あ・・・。光から・・・?」 可愛らしいピエロのイラストの葉書。 『あ、晃・・・突然こんなの送ってごめんな。その・・・なんていうか かわいい葉書が手に入ったので・・・お、送ってみたくなりました』 「ふふ・・・」 光が照れくさそうに手紙を書いた様子が 目に浮かぶようだ。 『母さん、リハビリ効果が少しだけど出てきたみたいで・・・。 この間、自分で湯のみ5秒ほどだけどにぎられたんだ』 それから週に2通ぐらいのペースで 光からの手紙が送られてくるようになった。 『晃!大変だ!一恵の髪の毛が茶色になってしまった!』 たったそれだけだったり。 時には便箋2枚ぐらいのときもあったり・・・。 (・・・手紙も・・・いいな) 携帯の写真もいいけれど どんな葉書で来るのか 何より光の自筆が届く。 『今週は大分寒くなったよな。炬燵がほしい!!(笑)』 「ふふ」 晃は光から届いた手紙は綺麗なリボンで包む。 淡い黄色のリボン・・・ (光の心の欠片・・・。オレの・・・宝物) 葉書を静かに机の上に置いた。 (オレも返事・・・かかなきゃな) だが晃のスケジュール表は埋まっていて じっくりと手紙を書く暇がなく・・・。 (光・・・ごめん・・・) 晃は葉書に一言だけ書いてポストに投函。 二日後。光の家のポストには・・・。 (・・・あ) 光が出した数だけの葉書が入っていた。 (晃・・・) 光は急いで二階に上がり 葉書の裏を読む。 (すご・・・。達筆な・・・) 万年筆だろうか。 スッとした黒くてスリムな文字。 そこには、忙しい日常や気がついたことが ぎっしりと書き連ねられていた。 (やっぱり・・・。晃は文才があるなぁ。私なんか 一恵が茶髪になった。それ一行だけだもんな(汗)) 文才とそれからかなりのロマンチスト・・・。 『・・・光の書いた文字は全部宝物』 とか 『字が綺麗だね』 とか・・・ (・・・(照)も、文字だけで私を照れさせるとは・・・/// お、恐るべし晃・・・) 返事がくるだけで嬉しい。 光も葉書に赤色のリボンで包む。 晃から預かった・・・部屋の合鍵についているリボンと 同じ色。 (晃・・・) 不器用でも 言葉数が少なくても 伝わる・・・ 「・・・え。明日・・・来るって」 『○日の夕方。光の家に寄るから・・・待っててくれな』 (晃・・・) 手紙のやり取りは 返事が来る時間まで待つことがたのしい。 楽しさを教えてくれた。 ”不器用でも・・・確かな信念が父さんはいつも持っていたからね 甘い台詞じゃなくても その人なりの愛の伝えかたがあればいい・・・ 「晃。あした・・・まってるね・・・」 自分なりの伝え方で・・・。 想いは伝えればいい・・・。 不器用でも・・・