シャイン 〜みんな輝いてる〜 第42話 かぼちゃになりたい 「・・・最近光と晃はなんかいいカンジらしい」 一恵からのメールで最近晃が頻繁に家に来るようになったことを 知った俊也。 (・・・これは・・・ちょっと正攻法ではだめか) 一晩で口説いた女の数には自信があるが 一晩どころかどれだけの時間を要するか分からない人間に 自分がここまで拘るとは・・・。 (・・・愛よりも・・・意地の方が・・・。強いかな) それでも、自分のほうに振り向かせたい だが、単なるナンパ男としての意地なのか 本当の愛情なのか曖昧なままの気持ちでは (光ちゃんは見抜いちゃってるわけなんだよねぇきっと。 しっかりしないとなぁ!) 「よおーし!ちょっと古い手ではるが、シンデレラ大作戦を 施行してみよう!」 俊也を突き動かす気持ちは一体ナンなのか 愛?恋?それともただの意地? 俊也自身も分からぬままに ちょっかいを出しにいく? 母親にかまってほしい子供のような気持ちにも似ている気がする。 (光に会いたいっていうのだけは・・・分かるんだけどな) 「おっはよーん!」 美容室にいつものごとく勝手に入ってくる俊也。 「3秒以内に帰らないと箒が頭上から降ってくるぞ」 ビシッと竹箒を俊也の頭にのっける光。 「・・・(汗)ったくいけずなんだから〜。でも今日はちょっと ボク。強気で出るよ。おいで!」 「あ?ちょ、ちょっと!!」 光の腕を引っ張って強引に車に乗せた。 「こ、こら!!」 「いーからいーから・・・。一恵チャンのことで」 「・・・!」 一恵のことで・・・といわれてしまえば光は気になっていたので (いい機会だな・・・。話を聞いてみるか) 光はおとなしく俊也に連れられて俊也のへやに・・・ 「はい。まぁ、珈琲でも飲んで待ってちょ」 高級ソファに光を座らせてほっと珈琲を渡した。 「いらん。それより一恵のことで話をつけよう」 「それは後!いーからちょっとまっててね」 俊也はクローゼットからなにか白い布を持ってきた。 「・・・はい。それ着てみて☆」 「・・・?なんだ?」 「・・・シンデレラド・レ・ス☆」 (ドレス?) 良く見ると胸元がかなりあいて白く長いスカート 生地はシルクで・・・ 「こっ・・・こんなモン着ろっていうのか(汗)」 「ウン☆光に似合うと想ってさ」 「私は一恵のことで・・・っ」 「・・・オレは一恵ちゃんは可愛い子だとは思ってる。 でもそれ以上は多分ないな。だって光、お前って”難題”が あるからさぁ」 「ひ・・・人のせいにすんな」 ドサ・・・ッ 俊也は光に馬乗りになり鋭い視線で見下ろした。 「・・・シンデレラってのは・・・魔法で綺麗になったんだよな・・・?」 「そ、それがどうした!!とにかく降りろ!!重たいじゃないか!」 じたばたと俊也の手を振り払おうとする。 (なんちゅう腕力だ(汗)軽い男が投げられるわけだ・・・(汗) 長くは押さえ込めねぇな) 「・・・光。お前だって着飾ろうって意識すれば・・・。 綺麗になるんだぜ?おまえ自身が綺麗になりたいと望まないうちは・・・」 「・・・そんなの知るか・・・!」 「魔法ってのは・・・自分自身でかけねぇとな・・・。一回でいい・・・ 試してみろよ・・・?自分の気持ちと向き合えるぜ・・・?」 (・・・自分の気持ち・・・) 光は魔法使いになりたかった。 シンデレラより (・・・魔法は・・・自分でしかかけられない・・・か) 「・・・。わかったよ・・・。きてみりゃいいん・・・だ・な!!」 ドカ! 光、容赦なく急所を膝蹴りして俊也を成敗。 光はドレスをもって寝室へ・・・。 「寝室借りるぞ」 「ウガガガ・・・。ひ、光・・・お、お前んっとに 容赦ねぇな・・・」 (ふふ・・・乗ってきたな光。お前のドレス姿・・・拝ませてもらうぜ) 光は寝室でさっそくドレスを着てみた・・・ (・・・さ、さ、寒い・・・!) 外股がちらりと歩けば見えるほどに 開いていて・・・ (・・・こ、こんなものが最近流行っているのか・・・?) 冬なのに素肌を丸出しの芸能人。 胸元を強調するような服。 ・・・おしゃれは確かに個人自由だが、 あまりにも自由すぎないか (確かに・・・新鮮だけど・・・) 光は鏡の前でくるっと一回まわってみる・・・ こんな綺麗なドレス・・・ 一緒に着られるかと思うくらいに純白の白で綺麗だ。 (・・・気分は・・・。シンデレラ・・・?ううん違う・・・) ドレスは綺麗でも・・・ 光の心がパァッと光らない。 自分にはあまりにもまぶしすぎるドレス。 ドレスを着ただけで身も心も生まれ変われるなら 世の中の女の人みんなドレスを着なくちゃいけなくなる 流行のドレスを着れば、皆お姫様? (・・・私には勿体無い・・・。ドレスは綺麗でも・・・ 私は・・・) 素足が見える服。 心が拒絶する。 たとえ好きな人が綺麗だねといってくれたとしても 自分がしっくりこないなら意味がない・・・ (・・・シンデレラより・・・魔法使いより・・・。 私はかぼちゃでいいんだ) シンデレラを綺麗にするために、お姫様にするために 魔法使いはカボチャを馬車に。鼠を白馬にした。 かぼちゃや鼠にしてみればいい迷惑? 魔法使いは”魔法”という特別な力で人を幸せに出来るけど がぼちゃや鼠はどうだろう。 かぼちゃと鼠がいなければ、魔法は使えなかった。 お姫様に必要な馬車と執事は造れなかった。 (魔法使いの魔法は一回だけ・・・。 あとは自分自身の努力で・・・綺麗になるんだ。うん・・・) かぼちゃのままでいい。 馬車になっても魔法がとければただのかぼちゃ。 けれどかぼちゃは甘くて美味しいシチューになるし、 人の体を栄養を与えてくれる。 (・・・。今日はかぼちゃのにっころがしでもするかなぁ) 今の光にはドレスより、おいしいかぼちゃのにっころがしで 母が元気になってくれたらと思う。 ・・・母の綺麗な笑顔が見たいと思う (・・・。ドレスはまだまだ私にはハードルが 高すぎる。スカートから履く練習しないとなぁ) それぞれに合ったお洒落でいい。 そのまんまでいい。 魔法の力を待ってるシンデレラじゃなくて、 綺麗になる努力を勧められるそんな女の人。 (・・・私は私のお洒落があるんだ・・・。笑われてもいい・・・) 光はドレスを着たまま、そしてジーンズをはいたまま部屋を出た。 「・・・おお!光ちゃんお綺麗・・・ってなんじゃそりゃ!?」 「・・・足を出すのは好かん。これが私の着方だ」 「はぁあ!?あのねぇお前・・・」 「申し訳ないけど私はこういうドレスは駄目なんだ。 駄目なものは駄目なんだ」 光の頑固さとマイナス志向にイラつく。 「・・・あのなぁ!!いい加減、自分の殻から 飛び出せよ!?流行の洋服ぐらい着ようとかってさ!! お前に説教たれるつもりはねぇけど・・・。卑屈になりすぎだ!!」 俊也の怒鳴り声が響く・・・。 俊也の言っていることは正論だ・・・ 光も耳に痛いが・・・ 「・・・流行の服をきないと・・・。 私は綺麗になれないのか?私流じゃいけないのか・・・?」 「・・・。べ、別にそういうことは・・・。でも時には流行に乗ってみるのも・・・」 「・・・乗りたくない。一方的な意見を押し付けることが 流行なら私は置き去りでいい。時代遅れの馬鹿や郎でいいんだ」 「光・・・」 女性雑誌に踊る言葉。 『着痩せさん体系におすすめ』 『明日から部分痩せ開始!これが真実の効果だ!』 体形が整ったモデルが着た服はみんな 素敵に見える。 だが世の中の人間皆違う体形。 なのにモデルと同じようなお洒落やダイエットやファッションが 全て良しとされるのはどうしてだろうか。 「・・・ったく強情な奴だな・・・」 「ごめん。でも自分の価値観まげてまで 綺麗になりたいとは思えない・・・。自分がいいなって想う範囲でいいんだ」 「・・・わかりました。わかりました。ったくー。 普通の女の子ならねぇ、違う自分が見つかったー☆とか 言って喜ぶのになぁ・・・」 だが人の力を借りて違う自分が見つかった と思うような人間なら・・・ (オレが此処まで拘らなかったけどね・・・) 「でも・・・。アンタが言ったことはすごく胸に沁みたよ。 私はまだ・・・まだまだ自分の殻から出られない・・・」 (・・・自分の恋にも正直になれていない・・・) そのことで 晃が苦しんで悩んでいるなら (・・・応えなくちゃ・・・) 「・・・俊也。ありがとうな。なんか・・・なんか 元気出てきたよ」 「・・・そ、そうか。お役に立てたなら嬉しい限りです(汗)」 光の心に 自分の存在を少しでも遺そうと 自分のほうが上だと 遺してみたかった。 (・・・オレの・・・”負け”かな・・・?) この気持ちがナンなのか 恋なのか愛なのか 意地なのか (・・・うーん全部なんだろうなぁ) かまってほしいし、 苛苛もする。 卑屈な心を抱えつつも、少しずつ自分の道を探す光が やっぱり眩しい。 (・・・でもまぁオレの負けだ。光の心がどうより・・・ 自分の心の修行しねぇと駄目かな) ・・・光が自分のコンプレックスを超えて惚れてくれる程の男に・・・ 「じゃ。帰るよ」 「え、ちょ、ちょっとお、おい!?」 光はドレスの上からジーンズ姿のまんまで玄関を出て行く。 「こ、こらーーー!!ドレスは置いていけーーー!!」 ちょっとお間抜けな自分も 自分の一部。 流行じゃなくて 色んな自分を認めてあげよう 沢山の自分を・・・。 ”お前はまだ自分の殻の中だけにいる!” 俊也の放った一言は 光を突き動かしていた。 ”流行に流されたくない” (・・・俊也に偉そうなこと言ったけど・・・。言い訳はもういい。 動かなきゃ・・・) 光は庭の荒れ果てた花壇を見ていた。 「・・・よし・・・!やるぞ・・・!」 小石や枯葉が混ざった土。 それを掘り出して、いい土壌を作る。 ・・・とある花の苗を買ってきた。 『光月草』(ごうけつそう) たまたま立ち寄ったスーパーの小さな花屋で見つけた。 派手なユリや流行の花の植木に隠れるように 隅に幾つか置いてあった苗。 花が咲くと薄い白に黄色味がかった小さな花が咲くという。 (・・・どうしてか・・・気になっただよな) 店員に聞くと、あまり存在感のない色形で、生命力も弱く 花を咲かせるまでの栽培が大変なので人気がない、だから廃棄する 寸前だったという。 (・・・捨てるなんて・・・。まだ死んでないのに・・・) 光は店員の話を聞いて10数個の苗を全部買い取った。 (・・・生命力がないのなら・・・。育てる・・・ 存在感がない命はない・・・!) ミミズだらけの だんご虫だらけの土をスコップで一度ほりかえし 花壇から全部取り出す。 買って来た少しの肥料と枯れ草を混ぜて土壌を作る。 (・・・作るんだ。自分の力で作るんだ・・・) 苗を丁寧に植えていく 化学肥料は最小限に 生ゴミと枯葉でつくった肥料を与えて。 何より (心を込めて・・・心を混ぜて・・・) ”お前はまだ自分の殻の中に居る” (自分の殻を・・・気持ちを確かめるために・・・) この花が咲いたら・・・ 2ヶ月経って咲いたら・・・ 綺麗に咲いたら (・・・。晃に・・・ちゃんと・・・言おう・・・) 綺麗に咲かせることが出来たら・・・。 (晃に・・・) ”好き” ・・・って・・・ たった二文字。 たった。二言。 光にとっては・・・ 一生分の 心のタンクに満杯に勇気をためて 紡ぎだす言葉・・・ 「・・・絶対に・・・。咲かせる・・・!」 咲くことを待つんじゃなくて 期待するだけじゃなくて・・・。 自分で咲かせるんだ (・・・もう少し時間かかるけど・・・。待っててね・・・) 小さな光の心の中に芽生えた”好き”という小さな苗。 時間が経った時 どんな花を咲かせるのか・・・。 ・・・つぼみさえ持つかわからないけど・・・。 願いを込めて光は 苗を植えたのだった・・・。 ・・・無残に散ることも知らずに・・・