シャイン 〜みんな輝いてる〜 第43話 花が咲いたら (お・・・。目が出てきてる) 象の如雨露で水をやる光。 種を植えて3週間目。 ちっちゃなちっちゃな小豆のような双葉がひょこっと 出ている。 (・・・ゆっくりでいいから。ゆっくりでいいから 育っておくれ・・・) 水もやりすぎず、程ほどに だけど心は目一杯。 願いは一杯注ぐ・・・。 (絶対咲かせるから・・・) 自分の気持ちを育てるように 花も自分で育ってほしい 「・・・がんばれ・・・」 小さく声をかけて 光は双葉をそっと撫でた・・・。 「・・・え?結婚式?」 「式っていう大掛かりなものじゃないんだけど 内輪パーティみたいなものなんだ」 晃の仕事仲間が結婚するという。 ささやかなパーティをするから晃と光にも 「・・・あの・・・。私、冠婚葬祭用の服って持ってないんだ。 ・・・地味なスーツぐらいしか・・・(汗)」 「ホームパーティみたいなものだから、普段着でいいんだって」 「ふ、普段着・・・」 光は今、自分が着ている服を足元から眺めた。 (・・・パーカーのトレーナーに・・・ジーンズ・・・(汗)) 「・・・いいんだってば。奥さんがドレス着てるわけじゃないんだし」 「そ、そうか・・・?ほ、ホントにいいのか?」 「いいの!光はそのままでいいんだから」 「でも・・・人様の祝いの席に・・・。こんな物騒な顔の人間が 行くのは・・・縁起が悪いんじゃないか・・・」 (ってどうして怖い顔してんだ。晃(汗)) 「光。行くのか行かないのかどっちだ!?」 晃は仁王立ちして・・・ 「・・・う・・・い、イキマス・・・」 「よろしい。じゃあ今度の休み、迎えに行くから」 (あ、晃って実はかなりの仕切り屋なのかも(汗)) というわけで光は生まれて初めて(?)結婚披露パーティー に行くことになったわけですが・・・。 (普段着つったってトレーナーじゃまずいだろう(汗)) とりあえず白いブラウスとクリーム色のジャケットを引っ張り出す。 (・・・。多少は余所行きにみえるか・・・(汗)あと・・・は) 押入れから花柄のバスケットを取り出してあける。 「うーん・・・これでいいか」 白い花のブローチを取り出した。 ジャケットにつけてみる。 (・・・よし。多少は祝い事っぽくなったか) ごそごそ。 ”ちょっと事情があって内輪で疲労パーティするんだ ドレスも着ないんだ” (・・・) 光は何を思ったか、押入れの奥からミシンを取り出した。 「えーっと・・・レースの残り布が・・・」 ミシンの調節をして ジジジジ・・・ 「うん、動くな」 ミシンの調整を確かめると光はレースをミシンで 繕いはじめる。 (・・・お金がないから・・・せめて・・・) ジジジジ・・・ 披露宴パーティの前日までミシンの音が絶えなかったのだった・・・ 披露宴当日。 アメリカンチックな小さなレストラン。 二階のテラスに晃の仲間たちが集まっている。 階段を上がる途中。 「あ、晃・・・。私・・・。変じゃないか?」 「・・・変じゃないよ」 「ほんとにほんとに変じゃないか?」 光、これでもう2聞くのは10回目。 「・・・晃・・・あの・・・」 (ああ・・・しつこすぎて怒ったかな) 披露宴会場の扉の前で振り返る晃。 「おまじないしよう」 「え?」 「・・・三回唱えるんだ。大丈夫。大丈夫。大丈夫って・・・」 「唱える・・・。お経みたいなもんか・・・。よしわかった」 「・・・ああ」 晃は光の手を握って・・・。 (よし・・・唱えるぞ。大丈夫大丈夫大丈夫) 光は目を閉じて唱えた。 「いいよ。晃」 ガチャ・・・。 あけた扉と同時に目を開ける・・・。 (う・・・) 扉を開けると 30人近くのお客と豪華なご馳走が・・・ (・・・や、やっぱり・・・もちっときちっとした格好してきたほうが よかった・・・かな) 可愛い披露宴とはいえ、皆、余所行きの 綺麗な服を着ている。 「・・・おお・・・!晃に横山さん!来てくれたのか!」 (・・・!) 新郎らしき晃の仲間がこえをかけてきて、 ビクっと光の肩がすくむ。 同時に光の手を握る晃の手が強くなった。 (晃・・・) 「横山さん。今日は来てくださってありがとうございます」 「あ、い、いえ・・・こ、こちらこそお招きいただいて ありがとうごじゃりますッ」 光はあがってしまい、語尾が変。 「ふははは。面白い人だなぁ」 「す、すんません・・・。あの・・・それとこんな 素敵なお店に、なんていうか色素のない服で着てしまって・・・」 「がははは。いーんですよ。ワシだってほら。 洗濯して伸びたトレーナーです」 気さくに笑う新郎。 高橋は普通のトレーナーにジーンズ姿。 「ほら。女房もごく普通のスーツ姿です。 育子。横山さんと晃だ」 確かに新婦の育子も一般的な紺のスーツで・・・。 「んもう。貴方、いくらラフだからってジャケットぐらい 来て下さいよ。ふふ」 「んー?まぁいいじゃないか。金もなし 暇もなしなんだから」 「ねー。こんな漢字なんですよ。怒ってやってくださいな。 光さん」 (・・・いい感じの・・・ご夫婦だな・・・) 晃が・・・さっき言ってくれたおまじない ”大丈夫” あのおまじないの意味が・・・ 新郎新婦の穏やかさが示してくれている気がした (効果あったよ・・・ありがとうな・・・) 光と晃に挨拶が終わると夫婦は他の仲間へ挨拶に・・・。 「いいご夫婦だな・・・」 「ああ・・・。でも・・・。育子さん・・・。3ヶ月まえに 手術してるんだ・・・」 「え・・・?」 心臓のバイパス手術・・・ 今度発作が起きたときが一番恐ろしいと医者から言われている・・・ と晃は言葉少なめに話した。 「・・・」 光の脳裏に 浮かんだのは光月草。 「晃。ごめんちょっと待てって」 「光・・・?」 光は紙袋を持って育子たちの下へ行った。 「育子さんあの・・・これ・・・」 「え?」 光は少し照れくさそうに紙袋の中からあるものを取り出した。 そして育子にそっとかける。 白いレースのベール・・・ 淡い黄色の小花が刺繍してある・・・ 「即興でこさえたものなんですが・・・。あ、あの・・・ 花嫁さんに・・・と思いまして(汗)」 「私に・・・?」 「はい・・・。で、出来が良くなくてすみませんッ。 ただあの・・・刺繍してる花の花言葉が・・・”希望のカケラ” っていうもんであの・・・」 「希望の・・・かけら・・・」 育子はベールをそっと撫でる・・・ 「はい・・・。花びら一枚持っていると希望の花が咲くという 言われもあって・・・。 本物の花がもってこられなかったのでベールにしてみました(汗)」 「希望を忘れない・・・」 「・・・お、お気に召しませんでしたら、あの・・・。 風呂敷にでもなんでもしてください。伸縮性はありますんで(汗)」 (”・・・希望を忘れないで・・・。忘れないで・・・”) ”貴方の心の希望が絶え間なく咲きますように・・・” 真っ白なベールに刺繍された淡い黄色の花が そう育子につげているよう・・・ 育子は首を横にふって光に抱きついた。 「風呂敷だなんて・・・。素敵・・・。素敵な ベールありがとう・・・ありがとう」 光の胸に育子の涙がしみこむ・・・。 「ありがとう・・・光さん・・・」 「・・・どういたしまして・・・。どうかどうか・・・ お幸せに・・・お幸せに・・・」 苦しい何かを抱えている人こそ 幸せをかみ締める力がある。 辛い痛みを経験した人こそ 幸せを感じる心の強さがある。 「・・・光さんの胸って・・・あったかいのね」 「え、あ、いやあの・・・(汗)」 「ふふ・・・ほっとする・・・ほっとするわ・・・」 「・・・希望の匂いがする・・・」 育子はそっと光の手を握って 微笑んだ・・・。 本当の痛みを知った人が分かり合える 伝えられる 希望の匂い・・・ (光・・・) 育子と光のやりとりを見守っていた晃・・・。 「・・・いい子だな」 「・・・はい・・・」 「育子は鼻が利くんだ・・・。人の心の痛みに・・・。 体が痛い目にあったせいなのか・・・」 「高橋さん・・・」 高橋が育子を見つめる眼差しはまさに・・・ 光がつくったベールのように 育子を包むようで・・・。 「・・・幸せにしてやれよ。あの子・・・」 「・・・はい・・・」 (いつか・・・光にあのベールを俺が・・・ かけたい・・・) 光と育子が笑い合う様子を 晃はただ ただ・・・ 優しく見守っていた・・・。 帰りの車の中。 光の手にはピンクのバラのブーケが・・・ ”光さんに是非受け取ってほしい・・・。 貴方にも幸せが訪れますように・・・” と育子がくれたのだ。 「・・・。育子さんの気持ちが篭ったブーケ・・・。 ありがたい・・・。私には似合わないけど」 「そんなこと・・・」 「・・・このままドライフラワーにして・・・。 ブーケにしよう・・・。育子さんの思いを残したいから・・・」 光は嬉しそうにブーケを膝に乗せて 両手で持つ・・・ 「・・・。そうしてると・・・。花嫁さんみたいだな」 「・・・なっ何を突然・・・(汗)」 「花嫁からブーケを貰った人は結婚できるって ならわし知ってるか?」 「・・・あ、ああ・・・」 晃はふっと沈黙・・・。 (・・・な、何がいいたんだ晃・・・///。は、 話を変えねば) 「あ、そ、そうだ。光月草・・・そ、育ててるんだ」 「ああ、ブーケの模様の・・・」 「なかなか咲かすことが難しい花で・・・。 だから花言葉も”希望を忘れないで”なんだ。好きな花なんだ」 「そうか・・・。なんか光みたいだな」 (・・・ま、また・・・あ、晃の空気が・・・) 意味ありげな・・・ 晃の・・・ 「・・・。きっと優しい色の花が咲くんだろうな・・・」 「うん・・・」 ”花が咲いたら・・・晃に伝えよう・・・ 自分の気持ちを・・・” 伝えられるかな 聞いてくれるかな・・・。 (・・・。伝える・・・。だから・・・だから 待っててくれな・・・晃・・・) 運転する晃の横顔に 聞いてみたい・・・。 「・・・光?」 「え、ああ、いや、光月草・・・絶対に咲かせて見せるから」 「ああ。咲いたら見せてくれ」 「・・・うん。絶対に・・・。待っててね。晃・・・」 (・・・光・・・。待っててほしいのは・・・オレだ・・・) ”幸せにしてやれよ・・・” 高橋の言葉・・・。 (・・・一緒に幸せになろう・・・って伝えてもいいかな・・・ 伝えたいよ・・・) 光月草の花が咲いたら・・・ (伝えるから・・・晃) (・・・伝えたい光・・・) それぞれの想いを 糧に・・・ 花壇の光月草は今日も少しずつ少しずつ 育っているのだった・・・。