シャイン 〜みんな輝いてる〜 第44話 恋愛勉強中 「おお!!背が伸びている!」 光の家の花壇。 種を植えてから約一ヶ月が経った。 双葉から少し背が伸びて葉も4つなっていた。 「つぼみをつけておくれ」 つんつんと葉っぱを指で突付く光。 自分の気持ちに刺激をあたえるように。 (・・・育ってね・・・) 一方。同じ頃・・・。 「悪いなぁ。晃。お前にまでつき合わせて」 「いえ。オレも一度来て見たかったんです」 男二人、ちょっと高級漂う宝石店で硝子の中の宝石たちを物色中。 あの披露宴の主役・高橋が妻へ贈る指輪を晃にも 一緒に選んでほしいという。 「こういうのは苦手でな。若いお前ならどうかなって思って」 「はは。そんなセンスなんて・・・」 晃と高橋は、1時間近く物色して 結局プラチナのリングを選んだ。 「おい、晃、オレ、会計してくるからまっててくれ」 「あ、はい」 高橋を待つ間、何気なく硝子ケースを眺めていると・・・ (・・・あ・・・) 『ヒカリ』 という淡い黄色味がかった星型のリングが目に入った。 (光月草・・・?) 光がつくったあのベールの刺繍に似た星型のジュエルが・・・。 「もしよかったらご覧になりますか?」 「え・・・。あ、はい」 店員につかまり、リングを差し出され・・・ 「これは”光の花”といいまして光月草を模して 作られております。光月草の花言葉が”希望を忘れない” ということで、女性へプレゼントされる男性が多いんですよ」 (・・・光の花・・・。まるでオレに買えって いってるようだな) 淡い黄色がなんだか光のようで・・・ 「・・・あの・・・。そのリング下さい」 宝石店の自動ドア開き、高橋の手にも晃の手にも 紙袋をぶら下げてでてきた。 「お前も買ったのか」 「ええ」 「・・・フフ。男は慣れない事すると金が飛んでいくよな。 ま、これもカミサンのためか」 「ふふ・・・」 『光の花』 そんな名前を見せられて、買わないわけがない。 (大げさだけど・・・運命だったのかな) 光に贈ったら・・・どう反応するか ・・・どういって渡そうか・・・ ”プロポーズに最適です” (・・・) 店員の言葉が過ぎる。 ”ちゃんと自分のキモチに前向きになるから・・・” 光が・・・”必死に晃に示した”返答。 恋愛というビルがあるなら、光の心の中のビルは やっと工事がはじまったところだ。 そこに結婚などという大きな”屋根”を光に求めたなら 光の心は押しつぶされてしまうかもしれない。 (・・・。いつか・・・渡せる日が来るまで・・・ 大切に持っておこう・・・。宝石は色あせることはないのだから・・・) 晃はリングがはいった包みをそっとサイドボードにしまった。 (・・・渡せる日が・・・少しでも早いといいな・・・) 光は買い物の帰り、商店街の本屋に立ち寄った。 一恵に頼まれたアイドル情報誌を買おうと雑誌コーナーを うろうろしていると・・・ (・・・ん?) 『初めての恋初めての告白!マル秘テクニック&経験談!』 と書いてあるティーンエイジャー向けの雑誌が目に入った。 (・・・) 光はキョロキョロと辺りを見回しぺらぺらっとめくってみる。 中には、十代の初恋談義が色々と載っていて・・・ (・・・) 光は一恵に頼まれたアイドル情報誌の下に十代向けの雑誌を 隠してレジへ直行! 店員と目を合わせずにすばやく本屋から出て帰る光。 (・・・こんな怪物女が買う雑誌じゃないからな・・・) 一恵から頼まれた雑誌や十代向けの雑誌を買うなんて 光の感覚から言うと。 思春期の男の子が必死な思いでグラビア雑誌買うほどに緊張する。 (十代の初恋か・・・。十代じゃないが・・・ なんというか・・・) 今時の女の子たちはどんなキモチなのか。 この年で この顔でこんなことを真面目に考える方が 巷の人に尋ねたら馬鹿って思われるかもしれない。 (でも・・・。何事も勉強だ。勉強するだけなら誰に迷惑 かけるわけじゃない) 家に帰るまで光はそんな風に自問自答しながら帰った。 家に帰りさっそく雑誌の『十代の初恋談義』というページを開く。 まずは最近の告白の仕方。 『ケータイで好きって言ったら・・・ごめんって帰ってきました。 私の初恋は一分で終了(笑)』 『何十年前の漫画みたいに下駄箱に手紙は有りえない。 友達に頼んで伝えた貰ったら案外OKで、付き合っちゃいました。 でも二ヶ月で分かれちゃった。ただいま彼氏募集中』 (・・・(汗)さ、最近の十代らしい内容だな(汗)) ドライな恋愛感覚に光はちょっとついていけないが、ただ それでも同じ女同士。共感する部分も幾つかあった。 『断られることが怖かった』とか『男の子はすぐに 体の触れ合いを求めてくるから恋愛とかするのが嫌』とか・・・ (若い女の子でも・・・色々恋愛に対して不安なことが あるんだなぁ・・・) 少し安心した光。 だがやはりショックだった一文も・・・。 『結局(女子もそうだけど)男子は見た目で女の子選んでる』 『キモイ顔でよく言うなっていわれてちょー傷ついた』 などという光にとっては心痛い投稿もあり・・・。 (・・・ふぅ・・・。なんか・・・頭が混乱してきた・・・) 光はバサっと雑誌を置いて寝転がった。 結局答えなどない。 自分で見つけていくしかない・・・ それが答え。 (・・・。心のエネルギーが・・・いるんだな・・・) たった二文字 ”好き” その重み。 (・・・。私は・・・恋愛云々なんて言ってられない立場なんだけど・・・って これは・・・言い訳だよな) 真剣な晃の想いを感じているなら 不器用なりに応えなくては いけない。 単純に考えすぎなんだ、好きっていうだけ! と、考えを切り替える。 「・・・よし!」 (・・・。言えるかな・・・) 丸い手鏡を持つ・・・ (・・・う・・・っ) 未だに鏡を見た瞬間、映る自分の顔に抵抗感は拭い去れないが めをそらることはなくなった。 (この顔で・・・”好き”なんて言葉・・・いえるのだろうか) とりあえずやってみる。 「あ、晃・・・あの・・・えっと・・・」 鼻の頭をかきんがら言う・・・ 「す・・・す・・・好き・・・」 (・・・。なんか・・・似合わない・・・) ”キモイ顔でよく言うな” 雑誌の中のフレーズがふっと過ぎる・・・。 外見じゃない・・・そんな理想論は分かるけど 鏡に映る自分と向き合うと結局は理想論だと諦めてしまいそう。 「そうだ。手紙っでも・・・。いや・・・ それじゃ逃げだ・・・」 自分の言葉で 自分の声で言わなくては・・・。 (・・・馬鹿みたいだけど・・・練習だ) 自分の気持ちぐらい 自分で伝えないと・・・ 光はふぅと息をついて・・・ 鏡と向き合う。 「・・・あ、あの・・・晃・・・私は・・・わたわたたた・・・」 光の部屋の外で聞いていた一恵・・・。 (・・・。まるで・・・売れない俳優の台本の本読みみたい・・・) 端から聞けば馬鹿馬鹿しい光景。 だが自分の恋に一生懸命見つめている (やっぱりお姉ちゃん可愛い・・・。もしお姉ちゃん馬鹿にするやつ 居たら私蹴りいれてやるから・・・) 光の様子を微笑んで見守っていたのだった・・・。 「・・・光。久しぶり」 「え、ああ、ひ、久しぶりだなッ」 光の家に貰い物のみかん持ってきた晃。 「わ、悪いなぁ、なんかいつも」 「あ、お構いなく。光」 ”晃あの・・・” 毎晩練習しているせいか 妙に緊張してしまう・・・ 「う、まそうなみかんだな色艶がいい」 「・・・光も色艶がいいな・・・。なんか・・・ いつもより輝いて見える」 「・・・(汗)あ、晃・・・。玄関先で私を照れさせる”技” を使うのはやめてくれ(汗)」 「え・・・。オレ、そんなことしてるかな・・・」 (会うたんびにしとりますですよ?晃(汗)) 空ろな想いを秘めたように・・・光を見つめる・・・ (だ、だからその”しせんが”そうだっていうの・・・!) 「あ、そ、そうだ。この間言ってた光月草見ないか??」 「是非!!」 話をすり替える光。 (晃”オーラ”が・・・増幅している気がする) 全身に感じるくすぐったさを光は抑えながら 庭に晃を連れ出した。 「わ・・・可愛い・・・」 晃はしゃがんで花壇の光月草の芽を眺めた。 「あと二週間ぐらいでつぼみがつきそうなんだ。 咲いたら淡い黄色い小花が咲く」 「・・・光みたいだ」 「あ?」 「・・・優しい色の花・・・」 (・・・(汗)) "晃ワールド"に入っているようで・・・ なんだか晃の周囲だけに流行の恋愛物の曲がかかってそうだ。 「ま・・・と、とにかくさ、がんばって咲かせようって思ってるんだ」 「きっと咲くよ」 「え・・・」 「・・・光が心を込めて育ててるんだから・・・」 「そ、そうかな・・・(照)」 「咲く・・・。きっと・・・な」 (・・・照れくさいけど・・・。やっぱりうれしい・・・な) 咲いたら この花が咲いたら ”晃に気持ちを伝えよう” 光がきめたこと 自分できめたこと 育って育ってと 願いながら毎日水をやり 風が強ければ風除けをつくり・・・。 気持ちをゆっくり育てるように 花も育てる。 栄養がたっぷりと土にしみこんで きっと花を咲かせる きっと気持ちも伝えられる・・・。 「咲いてほしいんだ。どうしても・・・」 「・・・。何か、願い事でもしたのか?」 (!!) 「ど、どうして・・・」 「なんとなく・・・。光ならそうするかな・・・って・・・」 (・・・晃の心理眼は・・・すごい(汗)) 「・・・あ、えっとその・・・。うん、ちょっと な。ちょっと・・・」 「気になるなぁ。教えてくれよ」 光を肘突く晃。 「ばっ。教えられるか。意味がなくなるッ」 「意味?ますます気になるなぁ」 「きっ・・・気にしなくていいの!晃は待ってればいいんだから・・・」 「え?待つ?」 「え、あ、い、いや、と、とにかく!!内緒!!」 光はぷいっと晃に背を向ける。 (・・・?変だな・・・ま、いいか) 「・・・。ねぇ・・・。光・・・今・・・もしかして・・・。 照れてる?」 にやっと少し悪戯に笑って光の顔を覗く晃。 「・・・(汗)晃・・・。最近発言が確信犯的だぞ・・・。もう・・・///」 「ふふふ・・・」 (・・・俺も願おうかな・・・。この花が咲いたら・・・。 あのリングを渡そうかな・・・) プロポーズじゃない ただ・・・ (好きだって・・・ただ・・・。好きだって伝えてもいいかな・・・) 光月草は・・・。願いが叶う力があるという・・・。 「花・・・咲いてくれよな・・・」 「咲かせて見せるさ。私が。ずえーったいに!!」 「ふふ。頼むな。光」 「おう!!」 光はVサインして笑った。 光の願いも・・・ 晃の願いも・・・ 叶うだろうか・・・。 光月草の芽が・・・ 静かに揺れていた・・・。