シャイン 〜みんな輝いてる〜 第47話 心の命・・・止まれ ・・・朝になっても雨がやまない 薄暗い朝 薄暗い廊下 病室の前で 「オレのせいだ俺のせいだ俺のせいだオレのせいだ 俺のせいだ・・・」 瞬き一つしない晃・・・ 光の右目から頬にかけて包帯が巻かれ、 左足には重たいギプス。 ”命に別状は無い” 医者からの言葉だが、 一恵は白衣の襟を掴んで問う。 ”じゃあ心はどうなんでしょうか!? 姉の心は死んでませんよね!?” 命に別状がなかったら それでいいのか。 殴り蹴られて骨折だけですんだことを ”不幸中の幸い” 前向きな言葉には思えない。 (オレのせいだ俺のせいだオレがもっと早く 行っていれば行っていれば) 廊下の長椅子でうな垂れている晃。 (・・・駄目だ・・・。正気じゃねぇ・・・) 俊也は晃に声もかけられず・・・。 ”自責の念” 取り憑かれている晃には 何も見えていない。 病院に運ばれ 病院に駆けつけたときには錯乱状態だった晃 ”光を助けてください光を助けてください” 大の男が看護士のサンダルをひっつかんで 泣きじゃくって泣きじゃくって・・・ 警備員に引き釣り出されそうになったほど・・・。 「勝手に自責の念とやらにとり憑かれてろ」 一方を聞いてすっ飛んできた一恵。 「なんでお姉ちゃんばっかり・・・!! 何も悪いことしてないじゃないの!私が原因なのに なんでおねえちゃんに・・・」 痛々しい姉の姿に しゃがみこんで落ち込んだ一恵。 俊也に支えられていないと立てないほどに・・・ そして 泣きつかれて・・・ 座椅子に寄りかかって眠る一恵・・・。 俊也は一恵のジャケットをかけて缶コーヒーを 買いに自販機まで行こうとした。 そのとき。一人の男が俊也に一枚の名刺を見せて近寄ってきた。 「色々詳しいこと聞かせてくれませんかね?」 (・・・) 『○×新聞社会部』 「いやー。それにしてもひどい世の中だ。 なんで世の中のストレスは女性や子供ばかりに行くか・・・! 憤りを感じていましてね!」 「・・・」 記者の熱弁が始まった。 「きっと読者も皆、”被害者”の心に共感します。 するように書きます!」 (・・・反吐が出る) 記者の熱弁が 俊也の苛立ちを刺激する。 第三者の人間にとやかくいわれたくない 言いたくない 煩い 「社会の”闇”を描く。シリーズなんですよ。 是非詳細を・・・。わッ」 記者の襟を掴んで壁に押付けたのは 晃だった。 凄い怒り 言葉に表す余裕すらないほどに 額に血管が浮くほどに 「・・・。な、何ですか、あ、あの・・・」 息が荒い ”光を見世物にしようとする奴は・・・潰してやる!” 晃の剣幕は今にも記者を殴りそうで・・・。 (止めねえさ。今はお前に賛成してやる) 俊也はあえて止めに入らない。 拳が振るえ、微かに上がったが・・・。 ”暴力じゃ何も伝わらない” いつか言った言葉が 響いて 静かに拳が下がる・・・ 静かに下ろされた・・・ 「・・・。そんなにききてぇか。オイ」 「え、あ、は、はぁ、で、出来ましたらば・・・」 「・・・じゃあ言ってやる」 晃は叫んだ。 「当事者の声が聞きたいなら・・・。話を聞けるなるまで待て。 待って待って待ちつづけろ!! 何年でも何十年でも・・・!!」 (・・・クソッ!!!) 壁に拳を打ち付ける俊也・・・。 何も こんな寒い夜に ゴミに埋もれてなくたって 生ゴミに埋もれてなくたって・・・ 奥歯をかみ締める俊也・・・・ (・・・。光・・・。頼むから・・・頼むから・・・ 生きてくれ・・・。生きててくれば・・・) 真っ白な窓の外・・・ 重たい雪は 横山家の屋根を覆いつくす。 数珠を握って仏壇に向かって般若心境を唱える登代子。 (父ちゃん頼む・・・。光に・・・また力をかしてやって・・・。 乗り越える力を) 動かない体。 すぐにでも我が子の元へ飛んで行きたい 顔に傷を負った娘。 殴られて蹴られた娘。 命が助かったことは良しだとしても 光が受けるダメージは計り知れないことは一番知っている。 心の葛藤や傷との闘いは 長期戦すぎる 体の傷は対応策があっても・・・ 「・・・。父ちゃん・・・。あの子の所へ 連れて行ってよ。手を握ってやりたい・・・」 ギ・・・ッ。 「と、登代子さん、駄目だってば・・・!!!」 「いかせて頂戴お願い、雅代さん連れ行っておくれ。 あの子」 ベットから這い出ようとする登代子を止める雅代。 「お願い・・・せめて・・・。せめてあの子の手を握らせて・・・ 「わかったわかったから・・・雅代さん、落ち着いて・・・」 「・・・光・・・。お願い。光の心を抱きしめに行かせて・・・」 登代子の叫びが 庭にも響く・・・ 光が植えた光月草・・・ 雪の重みでつぶれ・・・花も枯れていたのだった・・・ そして・・・その日の午後。 雨がやっと止んで・・・ 「・・・意識が戻されましたよ。とりあえず安心・・・って ちょっと貴方・・・ッ」 看護士の一言で晃は看護士を無視して 治療室に入っていった 「光・・・!!光!!光!!!」 顔の包帯が 痛々しい姿・・・ 晃の目から涙が溢れ 止まらない 半目だけぼんやり開いている・・・ 「光・・・ッ光・・・ッ」 晃の声に 光の瞼は反応して・・・ 瞳をはっきりとあけ・・・ 「光・・・ッ光光・・・ッ」 晃の方を見た・・・ 「光・・・ッ。光・・・」 晃はただ名前を呼ぶことしかできない・・・ とにかく光が生きてほしい 目を開けてほしかった 光の手をそっと握る晃・・・ 「光・・・光・・・ひか・・・」 小さく瞬きして 応える・・・ 「光・・・ッ光・・・」 小さな瞬き・・・ でも確かに晃の声に応えている・・・ 何度も何度も・・・ 「光・・・ッひか・・・ひかる・・・」 動く右手で晃の額をそっと撫でた。 「ごめんね・・・」 「光・・・」 窓の外・・・ ・・・雨は・・・やっと やっと・・・ 止んでいた・・・ ※ 光が意識を取り戻して一週間。 「ここは完全看護ですので付き添いは・・・それに ご家族以外の方は・・・」 「お願いします。離れたくないんです。お願いします」 看護士と一恵に土下座をして頼み込む晃・・・。 晃は仕事を休み、光につきっきりで看病すると いいはって離れなかった。 「光。りんご擦ろうか?何が食べたい?」 「大丈夫」 光は首を横に振って応える。 頬の傷が話すと痛むのか光はあまり喋らない。 だが光は晃を励ます言葉は放つ。 「・・・光・・・。ごめん俺・・オレ・・・」 ”もう謝らないでくれ” 意識が戻ってから 晃は何度もごめんごめんを繰り返す。 もっと自分が早く来ていれば 自分が・・・。 「・・・晃の・・・せいじゃないから・・・」 「光・・・」 光は頷いて痛々しい包帯が巻かれた手で晃の手を握り返した。 「光・・・。ごめん・・・ごめん・・・」 そして・・・ 「・・・生きててよかった・・・。 光・・・光・・・」 「私・・・。体力オバケだから」 (ごめんな・・・) 枕元で光の手を握り締める晃の涙が止まらなかった・・・。 病室の外・・・。 (お姉ちゃん・・・) 責められるのは 自分。 自分の代わりに光が襲われたのだと一恵は 思った。 いつもいつもそうだった。 (なんで・・・なんでしわ寄せがお姉ちゃんに来るのよ・・・ 私に来ればよかったのに・・・) 怪我をった姉の姿・・・ 怪我もそうだが 今後の光の葛藤を思うと 息が詰まる (・・・お姉ちゃん・・・。お姉ちゃんの心の中に 入れたら・・・。薬で治してあげられるなら・・・) 怪我の治りと同時にきっと始まる ・・・葛藤。 一番近くでリアルに感じてきた一恵だけに 考えると辛くて 息が詰まりそうだった・・・。 痛々しすぎて 見られない・・・。 廊下で・・・光の着替えが入った紙袋を持って 俯いていた一恵。 「あ・・・」 光の主治医とすれ違った。 「先生・・・あの・・・!」 怪我の治り具合は良好らしいだが、 一恵はあることを主治医にもう一度だけ尋ねた。 「姉の顔の傷は・・・綺麗になりますか・・・。 その・・・左頬のように残ったりは・・・」 それが気がかりだった。 (もし・・・左頬のように残ってしまったら・・・) 「少し時間がかかると思いますがほとんど 消えると思います」 「本当ですか!?」 「刺し傷でもないですし・・・。大丈夫。完全に 消えますよ」 「はい・・・!」 主治医の言葉に 一恵の心の痞えがとれた。 「お姉ちゃん!!頬の傷・・・ちょっと 時間がかかるけど綺麗に消えるだろうって・・・!」 光の病室に一恵が走って入ってきた。 シー・・・と言わんばかりに光は人差し指を口に当てた。 「あ、ごめん・・・」 ぺロッと舌をだす一恵。 「でもよかった・・・。頬の傷・・・消えるって・・・聞いて・・・。 私・・・。私・・・。私のせいでお姉ちゃんが・・・って ずっと思ってて・・・ッ」 「・・・。あのさぁ・・・。一恵。アンタの励ましって 励ましじゃないんだけど。いつも」 「え?」 「・・・ダイレクトに大声で傷、傷言うな。 もっとやんわりいえんのか。もぐもぐ」 青痣の出来た右手でりんごをほうばる光。 「・・・。お姉ちゃん・・・」 光精一杯の強がり。 そして意思表示。 ”今は・・・。見守ってくれ” 「お姉ちゃんごめん・・・」 涙を滲ませる一恵・・・ 光はそっと一恵の髪を撫でる・・・ ”いいんだよ・・・” と言う様に・・・ 「お姉ちゃん・・・」 「まぁ・・・。第二ラウンドの始まりって感じかな」 辛い目にあっても 自分を気遣う人間にはとことん優しい・・・ 「・・・。お姉ちゃんのその優しさは・・・ みんなに伝わってるんだね・・・」 「・・・?」 「これが証拠だよ」 カサ・・・ 一恵が紙袋から取り出したのは・・・ 千羽鶴・・・ 綺麗な折り紙やチラシ・・・ 「これね・・・。お姉ちゃんが病院に運ばれたって 聞いて・・・。近所の人がみんなで折ってくれたの・・・」 (近所の人・・・が・・・?) 「お姉ちゃん、千羽鶴の羽・・・見て」 (・・・) 千羽鶴を羽根をそっと広げてみた・・・ そこには・・ 『光ちゃん、早く目を覚ましてね』 『光ちゃん、元気になってまた髪カットしてね』 折った人それぞれのメッセージが書かれてある・・・ 「近所の公民館にみんなで集まって・・・ 徹夜で作ったんだって・・・」 (・・・近所の人たちが・・・) 『早く元気になって・・・また美容室に来てね』 『光ちゃんの笑顔がないと・・・寂しいよ』 一羽一羽に 光へのメッセージが丁寧に書かれて・・・ 「お姉ちゃん・・・。みんなに愛されてるんだよ・・・ だから・・・早く・・・元気にならなくちゃね・・・」 知らなかった・・・ 分からなかった 自分の存在がこんなに人の心の中に在ったなんて・・・ ポタ・・・ 千羽鶴に・・・光の涙が一粒落ちる・・・ (・・・。ちっぽけな私に・・・こんなに・・・ 思ってくる人が・・・いたなんて・・・) 「光の優しさが・・・みんなの心に育って・・・ 伝わったんだよ・・・。な、光・・・」 光は肩を震わせて・・・ 小さく頷いた・・・ (皆さん・・・本当にありがとうございます・・・。ありがとうございます・・・) 体中・・・ まだあちこち痛むけれど・・・ 光への想いが篭った千羽鶴を ぎゅっと・・・抱きしめる光・・・ 千羽鶴を枕元に大切に置いて・・・ (よかったな・・・光・・・) 眠ったのだった・・・ 千羽鶴に込められた願いが通じたのか・・・。 それからの光の回復力は主治医も目を見張るほどだ。 入院してどれだけったったのか。 月日の感覚がわからなかった。 足の骨折も完全にくっついて・・・ 頭の包帯も取れた。 一般病棟にも移れ。 その間、ずっと光の側で看病し続ける晃。 「光、朝食もって来たよ。はい。食べよう」 「って晃、あの・・・私赤ん坊じゃないよ」 朝食を光に口元まで持っていって食べさせようとする晃。 「けど・・・。痛むだろう?手とか・・・。ほら、あーん」 「あ・・・(汗)」 看護士がくすっと笑っている。 「い、いいよ。自分で食べるから・・・(汗)」 ”優しい彼氏がいる横山さん”として看護士さんの間で有名になってしまった。 「晃いいよ。本当・・・仕事とかいいのか?」 「・・・仕事なんて・・・。俺は・・・」 回復が早いとはいえ・・・ 光の腕や足には蹴りあげられ、内出血した痣が まだ残っていて・・・ 「・・・。光が退院するまで・・・側に居る・・・」 「晃・・・」 「頼む・・・。居させてくれ・・・。お願いだ・・・」 「・・・晃・・・」 (・・・そんな顔されたら・・・何もいえないよ・・・) 晃はきっと自分を責めている。 責めて責めて責めて 責め抜いて・・・。 晃の申し出を断れば・・・責任感が晃自身を を攻撃してしまう 「・・・わかった・・・。でも・・・無理しないでくれ・・・」 「その台詞は俺の台詞だよ・・・。光こそ無理しないで・・・。 治りが早いからって無理しないで・・・な・・・」 「・・・。ありがとう・・・。晃・・・、私は・・・。 幸せ者だな・・・。千羽鶴を貰って・・・。晃にも」 「光・・・」 (ありがとうなんて言わないでくれ・・・光。 俺の前では・・・辛い顔みせてくれ・・・) 晃は知っていた。 夜・・・。 消灯時間が過ぎる。 「・・・光・・・?」 何度も寝返りを打つ光・・・。 「眠れないのか・・・?」 「・・・う・・・く・・・」 額に汗をかいて・・・魘される光・・・ 「光・・・!」 晃の声にハッと目を覚ます光・・・ 「晃・・・」 「・・・光・・・」 「・・・ごめんな・・・起こして・・・」 夜・・・。 魘される光・・・ 殴られ、蹴られ・・・ そのときのことが・・・。 沢田のあの憎悪の満ちた顔が・・・ (・・・夢に・・・出てくる・・・) 「・・・。水・・・飲むか・・・?」 「・・・大丈夫だ・・・。大丈夫・・・」 「光・・・」 (・・・。体の怪我は・・・治っても・・・ 心の方は・・・) 晃はそっと光の手を握った・・・ 「眠れるまで握ってるから・・・」 「・・・。ありがとう・・・。晃。おやすみ」 光は目を閉じた。 (光・・・。ゆっくり眠って・・・) ずっと光を見てきたから分かる。 (焦ってるんだ・・・。光は早く治ろうって・・・) 登代子や一恵のために 早く回復しなければと光は頑張る。 眠る光が見る夢は 家の夢。 (早く・・・治らなくちゃ・・・。母さんのことが心配だ・・・) 一恵一人ではきっとつかれきってしまう。 (・・・洗濯物・・・たまってないかな・・・。そうだ・・・。 漬物ちゃんとぬか床空気いれてるかな・・・) 夢を見るのは・・・ ”そんな顔で生きていけると思うな!! てめぇなんざあの世へ行ってもはじかれるだろうぜ!!” ”このクズがッ!!!” 「・・・ッ!!!」 コチコチコチ・・・。 時計の秒針の音・・・ 「ハァ・・・ハァ・・・」 光の額から汗が・・・ 流れ落ちる・・・ 両手が・・・ 震えている・・・ 耳の奥に残る 記憶に傷つけられて残る 悪意の塊 ”お前なんか必要ない” ”どれだけがんばっても無理だ” ”汚い顔は心も汚い” 誰が行っている どこで言っている 姿無き声の攻撃 その正体 光の存在を 疎み、否定し 踏みにじり 嘲笑い 忘れたと思ったのに ぶり返す 光を見て薄笑いしていった人間達の顔 ”なんか今、すれ違った人、キモくなかった?” ”人は中身も外見も大切” (うるさい・・・。もううるさい・・・) 誰が思い出させる 重苦しい記憶 誰が・・・? 『自分』 「・・・だめだ・・・なんか・・・もう駄目だ・・・」 胃袋が 胃液が 酸っぱい唾液があがってくる 恐怖心と悔しさが 情けなさが ”キッタネェ!!” ”横山菌に触ったらみんな” 幼い頃・・・投げつけられた言葉の刃が 今更襲ってくる どうして・・・? どうして? 忘れたいたはずなのに 乗り越えたと思ったいたのに いたのに・・・! 胃と腸を捻じ曲げる 「・・・う・・・」 夜・・・ 枕元で吐く光・・・ この吐き気 この不安感 (・・・前と同じだ・・・) 一番辛かった時期に来た発作 学生時代の記憶の連鎖・・・ (ダメだ・・・こんなんじゃ・・・晃にもっと 心配かける・・・ダメだ・・・) 朝。晃が来るまでに吐いたものも 全部・・・一人で始末した光。 (知られちゃいけない・・・。誰にも知られちゃいけないんだ・・・) 早く元気にならなくては ならなくては・・・。 家のこと 美容室のこと 登代子のこと・・・ 自分がシッカリしなくてはしっかり・・・ 光はそう自分に・・・ 退院する日まで言い聞かせた。 ・・・そして迎えた退院の日。 「看護士さんみなさん、本当にお世話になりました」 花束を渡され、病院の玄関を出る・・・ (あ・・・。いい風・・・) 久しぶりに感じる外の空気・・・ 澄んで光の頬をくすぐる・・・ 火傷を負った右頬も・・・ ほとんど痕は消えており・・・。 「よかったね。お姉ちゃん。完全に消えて・・・」 「・・・。ああ・・・そうだな」 (お姉ちゃん・・・?) 晃が駐車場から車をまわしてくる。 「・・・。一恵。ちょっと病院の周り・・・。歩いてくるよ。 晃とここで待っててくれ」 「え?あ、ちょ・・・」 光は一人、松葉杖をつきながら 病院の門を出て行った・・・。 (お姉ちゃん・・・。どうかしたの・・・?) 光の背中が・・・何故か不安げに見えた一恵だった・・・。 「・・・」 光はわざと街の方へ 人が沢山いる雑踏へ 向かう・・・ (・・・) あの発作が あの吐き気が 戻ってこないか 試すように・・・ ドクンドクンドクン・・・ まるでなにか大舞台に出る前のような プレッシャー。 (あの角を曲がれば・・・。繁華街・・・) 一歩・・・。 二歩・・・。 ザワッ! 「・・・!!」 人通りの少ない・・・ 路地とは違う空気の流れ・・・ 人の海。 「・・・ッ」 横断歩道・・・ 信号機の音。 車の音・・・ 光を包む 重い空気と音 押付ける圧迫されていく・・・ 心と体・・・ 「・・・ハァ・・・ハァ・・・」 胃が痛い 吐き気と寒気と・・・ 足が膝が震えだし・・・。 ドン! サラリーマンにぶつかられ座り込む光。 「・・・わッ。きぃつけろ!!」 ”ナンジャ、この顔は?!?” ”キッタネェ・・・” ”バッチイ” ”生きてる価値あるわけ?” 耳の奥で聴こえる 囁く 罵声たち・・・ サラリーマンの顔が 座り込む光をちらっと流し目で見ていく通行人が 全部真っ黒の 悪魔に見える ”ゴミにまみれて死んぢまえ!!” (・・・違う違う違う・・・私は私は・・・) ”死ネ!!このダメ人間!!!” 「違うぅ・・・ッ!!!」 横断歩道で 座り込む光・・・。 「違う違う違う違う・・・」 通行人が 叫ぶ光を取り囲む・・・ 珍しいものを見下ろすように・・・ (違う違う違う違う・・・) メリーゴーランド 光の瞳には 人間の目玉が渦のように 回って自分を見張っている 笑っている 「ああ・・・あぁ・・・ 見ないで・・・私を見ないでくれ・・・」 頭を両手で抱えて 蹲る・・・ (誰も見ないで 誰も見ないで 一人にして・・・!!) 見世物じゃない 私は私なのに 何もしてないのに 悪いことしてないのに・・・! 「光・・・!!」 「お姉ちゃん・・・!!」 一恵と晃の声も 聴こえない・・・ うずくまって 動かない光・・・ 心臓は動いているけれど・・・ 体の傷も痛みも大分薄まったけれど・・・。 ・・・目に見えない”痛み”が 自分の意思とは関係なく襲ってくる・・・ ・・・襲ってくる・・・ (誰か私の心を・・・殺してください・・・。 もう・・・止まりたい・・・) ・・・光の心の命は・・・ 止まりそう・・・ だが・・・ 絶対に止まらない ・・・心の痛みは・・・ 止まらない・・・