シャイン 〜みんな輝いてる〜 第48話 ただ・・・待っていて 街中で・・・ 少し吐いて蹲ってしまった光。 ”見ないでくれ・・・私何もしてないから・・・ 隠れるから見ないでくれ・・・” 蹲り手足を震わせて・・・。 晃に抱えられて車に乗って帰って来た。 気を失う直前も ”晃・・・ごめんな・・・ごめんな・・・” と晃に謝っていて・・・。 (・・・光・・・) 家にくるなりトイレに走って激しく嘔吐して気を失った。 二階でベットで眠る光。 一恵と晃は一階の居間で 「・・・。お姉ちゃん・・・やっぱり無理してたんだ・・・ 昔の・・・恐怖心が戻って・・・」 わざと人込みに行ってみた。 自分がどうなったのか知るために・・・。 「・・・。光・・・。入院していたときも魘されてたみたいだ・・・。 オレは気がついていたのに・・・俺ときたら・・・!」 晃は拳で自分の膝を叩いた。 「真柴さんのせいじゃないですよ・・・。沢田のせい・・・。 お姉ちゃんを傷つけた沢田のせいだわ・・・!」 「・・・」 沢田が目の前に居たら 何をするか分からない 締め上げて光にしたことと同じことを してやりたい・・・ 晃も一恵も想いは同じだった。 だが今は憎しみよりも・・・ 「・・・。体の怪我は完治しても・・・。 心の方は・・・。どんな症状がでるか・・・」 「・・・」 「お姉ちゃんのことだもの・・・。家のこと心配して 逆に焦って自分を追い込むに決まってる」 一恵は知っている 光が一番”どん底”だった10代の頃。 (俺が・・・知らなかった時期もあるんだ・・・) 晃は光のことを知った気になっていた自分を恥じていた。 「・・・。見守るしかないさ」 「お母さん・・・!」 隣の部屋から登代子の声が。 「見守るって・・・そんな」 「・・・。私達に何が出来るっていうんだい・・・? あの子の心の問題だ」 「だけど・・・オレに出来ることがあればなんでも・・・ッ」 「・・・待つんだ。光に何も背をわせない。 ただ・・・待つんだ」 (お母さん・・・) 同じ台詞だ・・・ 光が学校から逃げ出してきたとき。 登代子は叱りも励ましもしなかった。 ”光が自分で立つまで待つ・・・” 「・・・お母さん・・・」 3人は二階の添乗を見上げる。 眠る光を想う・・・ ガサゴソガサゴソ 「え・・・」 台所で物事がする。 一恵と晃が行ってみると、光がぬか床を手でまわしてた。 「お姉ちゃん!」 「あ、晃。一恵・・・。さっきは家まで運んでくれてありがとうな」 「ありがとうって・・・」 あんまりケロっというので拍子抜けする一恵と晃。 「お姉ちゃん・・・無理しないでよ」 「無理?無理なんてしてないさ。退院もしたし・・・。 体はほら。もうこのとおり」 光は手足を伸ばして体操してみせた。 「そうじゃない・・・!そうじゃなくて・・・。 体じゃなくて・・・」 一恵はじわっと泣き出した・・・。 「・・・。一恵・・・。ごめんな・・・。 心配ばっかりかけて・・・」 「どうしてお姉ちゃんが謝るの・・・。お姉ちゃんは 悪くない・・・」 「・・・。私が弱いからだ・・・。心が弱いから・・・」 そっと一恵の背中を摩る光・・・ 「あ・・・ぬか付け臭いかな。ごめん」 ぱっと一恵から手を離した。 「お姉ちゃん・・・。お姉ちゃんはいいから・・・ お願い休んで」 「大丈夫だよ・・・。昔のようにはならない・・・だから・・・」 「お姉ちゃん・・・」 「それにさ・・・。体動かしていた方が・・・ ラクなんだ・・・。じっとしてたら・・・。悶々とするから・・・」 それは本音だった。 じっとして寝ていれば わけの分からない不安が支配する。 体を動かしていれば 多少なりとも和む・・・。 「・・・光・・・。本当に大丈夫なのか・・・?」 「・・・ああ・・・。長い間入院してて・・・突然外の空気に 触れて戸惑っただけだと思う・・・。だから大丈夫だ」 「・・・そうか・・・」 (光の”大丈夫”は・・・大丈夫じゃないんだ・・・) だが必要以上に光を心配する素振りを見せても 光に気を使わせるだけ・・・。 (光が知らないところで・・・ヘルプするしか・・・) 「・・・晃。仕事じゃないのか?もう私は大丈夫だから・・・」 「ああ・・・。じゃあ・・・」 パタン・・・。 光の家を出る晃。 (光・・・) 光の部屋の窓を見上げる カーテンが閉められたまま・・・。 それは光が外の光りを遮りたいという気持ちの表れで・・・ 思い出す アパートでの・・・光景。 (オレは・・・。オレはナニができる・・・?光・・・) 光の部屋を 虚しく見上げる晃だった・・・。 晃と一恵には大丈夫といったものの・・・。 光の症状は昔以上に 敏感で ピンポーン 「・・・!!」 インターホンにビクっと肩をすくめ震わせる・・・ 玄関へ向かおうとする光だが 人がいると思うと足が動かない 退院してから・・・ 光は家族以外の人間と顔を合わすことができなくなってしまった。 「・・・。光ちゃん。いいわ。私が出るから・・・」 雅代に代わりに出てもらう・・・。 「すみません・・・ごめんなさい。雅代さん・・・」 「いいから・・・」 ごく当たり前に出来ていたことが 出来なくなっていた 「雅代さんに迷惑かけちゃって・・・。ごめん。母さん」 「・・・光・・・。気長に・・・気長にだよ」 「母さんを元気付けなきゃいけないのに・・・。 ダメだな・・・私は・・・」 登代子のシーツをたたみながら 光は呟く。 「せめて・・・。家のことはがんばってするから・・・」 「光・・・。すまないねぇ・・・。私がこんな カラダなばっかりに・・・」 (母さん・・・) 「母さん・・・。ありがとう。私のこと心配してくれるなら・・・。 笑ってて・・・」 「光・・・」 「な・・・?母さんの笑顔・・・ほっとするから・・・」 光は登代子の手を握った。 「母さんの手・・・あったかね・・・」 「光・・・」 お互いを思い遣る 思いすぎるあまり・・・ 心が磨り減っていく。 だからぬくもりが 互いを確かあう・・・ 「ちょっとだけ・・・甘えるね・・・」 光は登代子の手を頬に当てて 目を閉じてぬくもりを感じていたのだった・・・。 だが 心につけられた、傷やひびは 本人の意思とは関係なく 体の症状に色んな形で出てくる。 外に出られない 玄関のドアが開けようとすると手が震えてくる 日々の買い物を光はスーパーの宅配サービスを 利用することにした。 近所のスーパーでは人に変に思われる。 遠くの遠くのスーパーに頼んだ。 玄関に『ご苦労様です。階段のところに置いて置いてください』 と張り紙をして、宅配の人間とは会わない様にした。 ドアの向こうに人がいなくなったことを確認して サッとダンボールに入った注文品を家の中に入れた。 (・・・。何やってんだ・・・。私は・・・情けない・・・!) ドン・・・! 玄関のドアを叩く光・・・ 情けない。 犯罪者が身を潜めて生きるみたいに 身を隠して・・・。 (情けない・・・) 玄関先でうな垂れていると・・・ カランッ。 「こんにちはーーー!!まぁ光ちゃん!!」 近所のおばさんたちがどよどよと突然入ってきた。 「光ちゃんが退院したってきいて私・・・どうしても元気なところが みたかったの」 「よかったわぁ。ねぇ。安心したわ」 3人のおばさんたち 玄関で光を囲んで嬉しそうに笑う。 「火傷したってきいたけど・・・。よかったわね。 右頬は綺麗に消えてる」 「本当だわ。光ちゃん大丈夫。女は顔じゃないから」 光の頬を触りながら おばさん達はしゃべりまくる。 (やめて・・・やめくれ・・・) おばさんたちの甲高い声が 光の恐怖心を煽る。 気遣いの言葉も 嘲笑いの声に聴こえる (やめて・・・やめてくれ・・・) ・・・蘇る 記憶 「もう、うるさい!!何も言うなッ!!笑うな!」 「!??」 玄関先で思わず大声を上げる光・・・。 おばさんたちは驚いて唖然・・・。 光はハッと我に返る・・・ (わ、私・・・私・・・) 「ごめんなさい・・・ごめんなさいごめんなさい・・・ すみませんすみませんすみません・・・」 目が空ろになり・・・ 光はおばさんたちに土下座して謝る・・・ 床にぽたりと落ちる涎 (う・・・何・・・この子・・・) 光の普通じゃない様子に・・・ おばさんたちは異常さを感じて光からあとづさり・・・。 ・・・気味悪いものから離れるように・・・。 「・・・。な、なんだか光ちゃん調子・・・悪いみたいね」 「そ、そうね・・・。じゃ、じゃあ帰るわね」 パタン・・・。 玄関のドアの外から・・・おばさんたちの声が聞こえてくる・・・ 「・・・可哀想に・・・。まぁあんな事件に遭ったから ショックが大きかったのね・・・」 「・・・でもちょっと怖いわ・・・。光ちゃんのあの様子・・・。 病的っぽい・・・。気が変になって・・・暴れたりしないかしら」 「シッ。アンタなんてこと言うの。ったく・・・ まぁともかく・・・暫くは関わらない方がいいわね・・・」 下世話なおばさんたちの会話が遠ざかっていく。 耳を押さえていても光の耳には聞こえている・・・ (・・・もうだめだ・・・情けなさ過ぎる・・・もうだめだ・・・) バタバタバタ バタン!! 階段を駆け上がり・・・。 部屋に入るなりカーテンを閉め電気を消す。 布団をかぶって 背中を丸くして 隠す。 体も心も 世の中の全部から隠れたい。 隠れたい・・・ 「うぅ・・・なんで・・・なんで・・・」 これじゃあ これじゃあ・・・ あの頃と逆戻り 中学の頃 外へ出ることが怖くて怖くて 人の視線を感じた瞬間吐き気がして 夜も寝られなくて 一人暮らしをしていた頃 昼間は外へ出るときも眼鏡とマスクと しなければ出られなかった (情けなかったときに戻ってどうするんだ・・・ せっかく・・・せかっく・・・) ドンドンっ 壁に頭を打ち付ける・・・ (情けない情けない情けない・・・) 真っ暗の部屋 一筋の光も入らない プップー!! 「!!」 クラクションの音に怯え 鍵を何錠もかけて (駄目だ・・・駄目人間だ・・・もう駄目だ・・・) 引き釣り卸される 前向きな気持ちも消され 自虐思考のどん底に そんな自分卒業したいのに やっつけたいのに なりたくないのに 体が訴える 心の奥底の弱さが体を通して訴える (怖い怖い怖い怖い怖い) 何もかもが怖い 人も音も光も 「怖いよ・・・っ」 ”お前なんか出てくるな” ”生きてる価値なんてねぇだろ!!” 幻聴だ 自分でつくってる幻聴だ。 頭でわかっていても 聴こえてくる 「嫌ァ・・・っ」 しっかりしなくちゃ こんなこと言ってられない しっかり家のことも お金のことも ガンバラナクチャ 私は長女だ しっかりしなくちゃ シッカリ・・・ でも怖い 何もかも怖い怖い・・・!! 義務感と恐怖心が 光の心を押しつぶす (・・・駄目だ・・・) 落ちる 光の心 「・・・怖いよ・・・」 かすれ声・・・ 真っ暗な真ん中で ただ・・・ 脱力していた・・・ 「・・・海の風にあたりに行こう・・・」 「うん。ありがとう。行くよ」 晃の誘い。 退院してからメールでのやりとりしかしていなく・・・ (塞ぎこんでばっかりいたら・・・。返って晃を心配させる) 元気な姿を見せておかないと・・・。 無理やり笑う。 顔の筋肉が歪む 引きつって 多分 無理やり笑っている 「砂浜へ出てみるか・・・?」 「・・・あー。潮風冷たそうだからいいよ」 「・・・。ごめん・・・。誘わない方がよかったか」 「そんなことない。あ、ドライブだけでも 気分転換になったよ」 「・・・光・・・。ごめん・・・」 晃の行き場のない気遣い 光はそれを受け止めるだけの余裕がなく ただ視線をそらすしか・・・ (ごめん晃。今は・・・向き合えないよ) 人の優しさも 感じ取って返すだけの余裕が出ない 「オレ・・・どうしたら光の気持ちに分かるんだろう」 「え?そ、そんな・・・。晃は晃のままで 元気で居てくれたら・・・」 「諸悪の根源は全部オレなのに・・・。 なんでオレに報いが来ないんだ・・・」 「あ、晃?お、落ち着いて・・・」 (なんか・・・。様子が変だ) 晃の瞳は”懺悔”の海。 スイッチが入ったみたいに段々車の中の空気が沈んでいく・・・。 「・・・。オレも光と同じ傷を負う。痛みを 感じることができればきっと・・・」 「・・・あ、晃・・・?」 何を思ったか いきなり形相が変わって・・・ (こ、怖い・・・) 「・・・。どうやったってオレには・・・。 光と同じ想いをすることができない。なら・・・」 晃の震える手は・・・ ポケットから・・・ サングラスを取り出して・・・ ガシャン! 「!?」 地面に叩きつけて破片を握り締めた・・・ 「オレも光と同じ気持ちになるんだ・・・」 破片の尖りを自分の顔に向けつきつけた・・・ 「あ、晃ッッ!!!!」 バシッ!! 「馬鹿なことすんじゃないよッ!! 晃が傷つくところなんて見たか無いよッ・・・」 「・・・光・・・」 光の涙にハッと我に返る・・・ 光自身も瞬時に興奮を抑え 一息つく・・・。 「晃が・・・自棄になってどうするんだ・・・。 意味ないのに・・・」 「光・・・お、オレ、オレ・・・」 「・・・。いや・・・。私のせいだね・・・。 ごめん・・・。ごめん。私が・・・。晃の前で・・・ 晃の気遣いを感じられなくて素っ気無くしたから・・・」 「違う。違う違う違うちが・・・」 静かに光は晃の唇を雨露で濡れる指で止めて・・・ 「・・・。こんな・・・。こんな 素敵な笑顔・・・。傷つけるなんて駄目だ・・・」 「・・・。光・・・ッ。オレ・・・オレは何をしたらいい・・・? どうすれば・・・どうすれば・・・。どうす・・・れば・・・」 崩れ落ちる・・・ 自分の無力さに・・・。 「・・・。晃・・・」 自分を追い詰めることしかできない 罪悪感などちっぽけな言葉 漫画の中のように ”他の誰かに変われる道具”を今すぐくれ。 オレにくれ 光になって全部痛みを変わってやりたい。 代わってやりたいのに・・・ ぐるぐる回る頭のなかに 苦悩する晃の心にそっと 光は小さな言の葉を 落とした・・・。 「・・・。待ってくれ」 「・・・光・・・」 「前にも・・・。言ったけど・・・。待ってて欲しい・・・。 もう一回・・・。ふりだしから・・・歩くから・・・」 「光・・・」 「歩くから・・・」 かすれ声だけど 光の小さな希望の声が・・・