第5話 本気のホスト 「え?真柴の奴が光と・・・?」 「うん・・・」 お昼休み。オフィス街の喫茶店で一恵と俊也が話している。 「アイツ・・・。1年も光のことほったらかしにしておいて・・・」 俊哉は一瞬、ぐっと奥歯を噛んだ。 「うん・・・。私も少しまだ反対なんだけどね・・・。お姉ちゃんには やりたいことしてほしいの。ずっと母さんの世話・・・任せてきたし」 一恵はアイスコーヒーの中の氷をストローでかき混ぜながら話す。 「・・・。お母さんもね・・・。自立心旺盛な人だから・・・ お姉ちゃんを縛りたくないのよ。素敵な親子愛だって からかわないでくださいね」 「・・・いやいやそんなことは。でもまぁ・・・。 光の夢がまた歩き出したんだからめでたいめでたい」 カプチーノをぐいっと飲み干す俊也。 その俊也が担いでいるのはカメラの機材。 「・・・俊也さん、写真本気で始めたんだ・・・」 「え?ええまぁね。一応専門学校もいってます。 夢を追いかけろー!って真面目になった俊也くん☆」 お茶らけ具合は相変わらず。 だが確かに変わったことがある。 ホストをきっぱりやめ、カメラを始めたそれが証拠だ。 「・・・俊也さん・・・。変わりましたよね」 「え?おれっちが変わるわけないっしょー?ただちょっと まぢめな俺もわるくないかなーなんて。うふ」 「・・・。お姉ちゃんの存在が大きい?」 俊也の瞳の奥を覗き込む・・・ 一恵はまっすぐに俊也を見つめた。 「・・・。さぁ。どうでしょう。光ちゃんは相変わらず 攻略法ないから。ふふ。ごめん。オレ、そろそろいくね」 俊也は自分の飲み代を置いてウィンクして 出て行った。 (・・・俊也さん・・・。ショックなんだ。きっと・・・。 お姉ちゃんと真柴さんがまた一緒なこと・・・) いつもよりおちゃらけ具合のテンションが低かった。 晃がアメリカへ行っている間。俊也はこれ幸いといわんばかりに 光へのちょっかいは相変わらずだった。 だがそれは、ただの”ちょっかい”ではなくて・・・。 登代子の看病に暮れる光に決して負担にならないように 時には登代子をドライブに連れて行ったり・・・。 そんな俊也の背中を一恵はいつも見ていた。 (いつの間にか・・・俊也さんは本気になってた・・・。 お姉ちゃんを見る目が・・・) 「・・・なーんか・・・。変な四角関係が・・・ できそうな予感・・・したりして・・・」 カラン・・・。 コップの中の氷が 切なく溶けていった・・・。 「・・・晃・・・。何度も聞くが本当に大丈夫なのか?晃の本業の方が・・・」 「光。オレが手伝いたいんだ。それにこういう 街中の美容室ってオレの原点みたいな気がしてずっと」 「晃・・・」 「光、オレにはこれがあれば充分なんだ」 晃が取り出したのはそう・・・ 光と同じ型のハサミ。 「これさえあれば・・・。オレは何も要らない。 道具さえあれば・・・」 デカイ会社で金儲けの仕事なんて仕事じゃない。 「晃・・・」 「だてにアメリカ行ってたわけじゃない。あっちで色々これでも 勉強してきたんだぜ・・・?」 「勉強?」 晃はノートパソコンを開いてネットに繋いだ。 「俺が今勤めてる美容院ていうのはね、皮膚科と連携して 皮膚で悩む人をケアするっていうシステムで営業してるんだ。 ほら。これがホームページ」 「あ!?これって・・・」 「そう。光が昔作ったHPのデザイン・・・。使わせてもらっちゃってるよ。 「晃・・・」 「・・・光が作ったもの・・・。オレ、無駄にはしたくなかったから・・・」 パソコンをかしゃかしゃ打ちながら晃は目を輝かせて話す・・・ (晃・・・アメリカでいっぱい吸収してきたんだな・・・) 「よかった」 「え?」 「アメリカへ行ったこと・・・。晃をもっとすごい人に したんだなって思ったら・・・」 光は深く頷いた。 「・・・。そんなこと・・・。でもそれはきっと 光のおかげだ。光が日本で待ってるって思ったら・・・ ファイトが沸いて・・・」 「・・・。き、気障な台詞もアメリカ仕込みですか(照)」 「どうかな。はは・・・」 晃は夢かと思う。 こうしてまた・・・ 光と笑い会えるなんて・・・。 手紙が途絶えて 光の心とも途絶えてしまったのかと思っていたけど・・・。 ”所詮その程度の絆だったのよ” 愛美の言葉が過ぎる。 (オレが自分から切りそうだった絆を・・・。光が また結んでくれたんだ) 光の微笑を見ていると 涙が出そうになる。 (・・・光・・・) 湯水のように溢れる想い。 伝えてもいいか。 いつ伝えたらいいか・・・。 (・・・オレが自分の夢に自信がついたとき・・・。 はっきりと伝える・・・) ”愛してる” と・・・。 (それまでは・・・もっと強い男に、自分の夢に頑張ろう・・・) 「・・・。だから。なんっども言うけど、ま、まっすぐ見るのやめてくれって・・・」 「ごめん。光がなんか・・・愛らしすぎて」 「・・・。そ、そそれは誉め言葉か、それとも子供っぽいってことか!?」 光は顔を真っ赤にして窓にカーテンをつける。 カーテンレールに背伸びしてつける。 「わっ」 光はカーテンを持ったまま倒れてしまった。 「・・・あ」 「・・・」 晃の上に倒れてしまった・・・ 目が合う・・・。 (・・・) (・・・) 光はからだが硬直して動けず・・・ 晃はただ・・・ 光を見つめ続ける・・・。 (まっすぐ過ぎる・・・まだ・・・晃。その目は・・・自信ない・・・) 光は視線をそらした。 「・・・っ・・・。ご、ごめん・・・。晃・・・」 「いやいいんだ・・・。オレ・・・。待つから・・・。 光が俺を・・・見つめてくれるまで・・・」 「晃・・・」 ポン・・・と光の頭を晃は優しく撫でてくれた。 (ありがとうな・・・。晃) 育てていけばいい。 夢も恋も 恋が怖いなら 待てばいい。 ・・・怖くなくなるまで 自分の心を育てながら・・・。 「・・・丸聞こえなんだよな」 一階の店のソファで俊也がむすっとした顔で 座っていた。 「あーあ。今日はオレはお邪魔虫みてぇだな。 帰るか」 苛苛が収まらない。 今日、光に見せたかったものがあった。 ・・・学校の課題に出す写真を・・・ (・・・畜生・・・。このオレが嫉妬なんてみみっちい こと感じてるなんて・・・。でも・・・) 光に見て欲しかった。 どんな顔をするかどんなことを言うか・・・。 「ま、いいさ。持久戦はなれてる」 初めて出会った。 本気になれるなにかに やりたいことも ・・・恋愛も (どうなるか・・・。神のみぞ知るってか。それもいい) 嫉妬もどこか心地いい。 俊也はポストにそっと写真をいれて 静かに帰ったのだった・・・