シャイン 〜みんな輝いてる〜 第52話 貴方を待っている 『晃に会いたいんだ・・・』 光からの電話に晃の心はまるで遊園地に連れて行ってもらえる 子供のようにふわっと喜んだ。 (光からオレに会いたいって・・・ 初めてだ・・・。初めてだ・・・) カレンダー。 光と会う日にち丸をつける晃・・・ (光と会える・・・。会えるんだ・・・) 晃の心はもう ○がついたカレンダーの数字に飛んでいる。 ”私を信じて待っててくれ” そう光からのメッセージ・・・。 光を待つこと 光からの言葉を待つこと 見守って待つこと・・・ (待ってて良かった・・・。光を待ってて・・・) 光から”会いたい”って言ってきてくれた・・・。 (光・・・。オレも会いたい。早く光に会いたい・・・) ”光月草が咲きました・・・” 光に会える。 光に会える。 (光・・・。光・・・) 光は何を伝えてくれるんだろう 光と自分の間にあった微妙な溝が 埋まるかもしれない (光・・・光・・・) 高まる想い 晃の心は・・・ 光の微笑でいっぱいだった・・・。 「・・・あと3日か」 光の部屋のカレンダー。 『晃に会う日』 と書いてある。 『晃に会いたいんだ・・・』 もう後戻りは出来ない。 (ここから始めないといけないんだ・・・。 ずっと晃の気持ちと・・・自分の気持ちに背を向けてきた・・・。 向き合わないと・・・) 「よし・・・!横山光・・・。今度こそ一世一代の 告白だ・・・」 小さな ちいさな蕾を開かせた光月草。 (これを持って・・・。晃に会いに行こう) 三月○日。 晴天。 快晴だ。 (今日こそは・・・今日こそは・・・) 約束の時間は午後三時。 約束の場所は・・・。 ・・・光と晃の始まりの場所でもある あのアパートの前。 (・・・ってもうビルの工事現場なんだけど・・・。 あそこから始めたい) ”自分を信じろ・・・!” 晃が光に与えてくれた キーワード・・・ こんな自分でも変われるんだってきっかけをくれた 場所だから・・・。 光月草を黄色の包みにくるんで 紙袋の入れる。 (・・・。光月草・・・。”希望を忘れない” よし・・・。頑張るぞ!) 新しく買った黄色のスニーカーを履いて 約束の場所へ向かった・・・。 (・・・いくらなんでも・・・。早すぎか) 3時の約束。 1時に家を出るなんて。 明るい昼間に人通りの街に出るのは やっぱりやっぱり・・・ 怖い。 でも繁華街を通らないと、あのアパートへは行けない。 横断歩道を渡ればアーケード。 買い物を楽しむ人の海。 動悸が激しく打って 冷や汗がじわっと沸いてくる。 50メートル横断歩道が”清水の舞台” 針山の底へダイブしようというくらいに ・・・怖い 怖い 歩道橋を使って迂回しても行けるけど。 でも・・・ けどここを逃げたら (・・・逃げちゃ駄目だ・・・。妥協はせずに・・・) 信号が青になった (・・・よし・・・行こう・・・!) 真新しいスニーカーが一歩踏み出す 人の流れの中を 真っ直ぐに 真っ直ぐに・・・。 横断歩道を渡り終えて・・・。 「・・・フゥー・・・」 50メートル。 全力で走ったように息があがってしまった けれど・・・ (・・・大丈夫・・・。大丈夫だ・・・) なんとか渡れた。 ・・・渡れた・・・。 (大丈夫・・・。私は大丈夫) 自分に言い聞かせて顔を上げて歩く。 ドンッ! 「わッ・・・」 スーツ姿で早足で歩くサラリーマン風の男にぶつかられ 転ぶ。 「・・・イタタ・・・」 そんな光を通行人はチラ見はしていくが 皆通り過ぎていく。 でもそれは当然かもしれない 皆、自分の行くべき方向で精一杯。 ・・・寂しい現実かもしれないけれど・・・。 (・・・。手を・・・。差し伸べてもらうことを 望まない・・・。転んだら自分で起き上がる・・・起き上がればいいんだ) 俯いて歩くのはやめよう 太陽に光りを浴びて歩こう・・・。 光は立ち上がって 顔を上げて再び歩き出す。 (転んでもまた起きればいい・・・。また起きればいいんだ) 人への 街への 恐怖心が消えたわけじゃない けど・・・ 行かなきゃいけないところがある。 自分の足で・・・。 紙袋の中の光月草・・・ 黄色い小さな花が緊張で固まった光の体を柔らかくする・・・ (晃に見せるんだ・・・。咲いたよって・・・) 大切に紙袋を抱えて 光はアパートの跡地に向かおうとした。 そのとき・・・ 「おい!ばーさんが倒れてるぞ!」 (?) 振り返ると人の輪が出来ていた。 何かを感じた光。 そっと人の頭の間から見下ろすと・・・ (あ・・・!あの人は・・・!) この間、光が道案内をした女性だ。 胸を押さえて倒れていた。 「あの・・・!!大丈夫ですか!?」 光は人込みを掻き分けて女性に駆け寄る。 「あ・・・あがが・・・」 女性は口から少し泡をふいている 「あ、あの・・・。だ、誰か・・・!救急車! 呼んでください!!」 さっき、光を素通りして行ったサラリーマン。 携帯でどうやら救急車を呼んだようだ。 「しっかり・・・!しっかり・・・!」 光は救急車に同乗して そのまま病院まで付き添った。 女性の手を握って・・・。 幸い、女性の容態は差ほどに深刻なものではなく 暫くの入院ですむそうだ。 「よかったですね・・・」 病室で眠る女性・・・。 2度も巡り合うというのは偶然じゃない。 ベットの上のプレートを見る。 『戸田利江様』 お年寄りに見えたのだが実際年齢は母の登代子とかわらない。 「・・・」 光は腕時計を見た。 午後4時。 晃はもう来ているだろう。 (どうしよう・・・。でも・・・) 女性は光の手を握ったまま・・・眠ってしまった。 (・・・離せない・・・) 女性は一人息子と二人暮しだと看護士が言っていた。 (仕事で来られないなんて・・・。そんなことあるか。 たった一人のお母さんだろうに・・・) きっと女性が握ってほしいのは光ではなくて 息子さん・・・ (晃、ごめん・・・) 光は携帯を一恵から借りくればよかったと思った。 メールが出来るのに・・・。 (晃・・・) 窓の外・・・薄暗くなってきた・・・。 それから1時間ほどしてやっと息子が病院に駆けつけた。 「母さん・・・!」 スーツ姿。光と同い年ほどか・・・。 「・・・あ、あの・・・。今は寝かせておかれた方が・・・」 「え?アンタは・・・」 「あ、わ、私はあの・・・救急車に同乗したものです。 横山といいます」 「す、すいません。母に付き添って下さったんですね・・・。 ありがとうございました」 息子は深々と頭を下げた。 「い、いえ・・・。じゃ、あ、あの私はこれで 失礼します」 「あ、あの連絡先を・・・。母が落ち着きましたら 改めて御礼を・・・」 「・・・。お、お礼なんてそんな・・・。お母様には 私のほうが教えてもらいましたから。大切なことを」 「・・・?」 道案内して ありがとうの言葉をもらったあの日・・・。 (そうだ・・・あの戸田さんのお陰だ・・・。お礼をするのは 私のほう・・・) ”ありがとうございました。いい日になりました” 光の耳に残るあの日の戸田さんの声・・・。 「・・・。あの・・・。これ・・・」 光は光月草をそっと紙袋から取り出した。 「光月草っていいます・・・。花言葉は希望・・・。 お母様に差し上げて下さい・・・じゃ!」 「え。あの・・・ちょっと・・・!」 一礼して光は病室を走り去った・・・。 「・・・。不思議な人だな・・・」 光月草の鉢・・・そっと 戸田さんの枕元に置かれたのだった・・・。 (晃・・・。ごめん・・・ごめん・・・。光月草あげちゃった・・・) 光は走ってアパートまで向かう。 (・・・もう6時半か・・・) ポツ・・・。 (あ・・・) 雨が降ってきた・・・ (・・・急がないと・・・っ) 光月草はあげてしまったけれど・・・ 晃に会わないと・・・ 光月草が咲いたことを伝えなければ・・・ (晃・・・待ってくれるかな・・・) ”絶対待ってる。何があっても・・・” (晃・・・) 雨が激しくなってきた 行き交う人々は傘を指して歩く バシャン・・・! 水溜りで転ぶ光・・・ 手のひらが擦りむけて血が・・・。 ”待ってる・・・” (行かなくちゃ・・・行かなくちゃ・・・ッ) 凍みる手・・・ 血が混じった水溜りをバシャン!と蹴って走り出す。 激しい雨の中 一歩一歩・・・。 (行かなくちゃ・・・) 濡れて重いスニーカー。 「ええい・・・!面倒だ!」 光はスニーカーを脱いで靴下のまま走る。 (・・・行かなくちゃ・・・。いかなくちゃ・・・行かなくちゃ・・・) 晃がきっと待っている (自分で自分の気持ちを・・・。伝えなくちゃ・・・。 そうしないと私は・・・。何も始まらない・・・) ずっとそばにいてくれた 見守ってくれた人に ココロを伝えに行こう バシャッ!!! 何度転んでも 擦りむいても・・・ (行かなくちゃ・・・。伝えにいかなくちゃ・・・) ”絶対待ってる。光をまってる・・・” 「・・・行かなくちゃ・・・!いかなくちゃ・・・っ」 光は走った びしょ濡れの足で 走った・・・。 ・・・自分の心を 自分の殻から 飛び出すために・・・ 「ハァハァ・・・」 晃と住んだアパートの前 木造アパートは既に取り壊され、 砂利の更地になっていた・・・ (あ・・・晃は・・・晃は・・・) 薄暗く雨が降る中 光は辺りを見回す。 (誰も・・・いない・・・) 雨が降る更地に人影などあるはずもなく・・・ (・・・帰ったのかな・・・。やっぱり・・・) ”絶対待ってる・・・光が来るまで待ってる・・・” 「・・・。そうだよな・・・。雨降ってるのに・・・。 やっぱり・・・」 ”待ってる絶対待ってる・・・” でも晃の言葉を信じたい (近くのコンビニで雨宿りしてたり・・・) 光は近隣のコンビニを探そうと 更地を去ろうと振り返ったとき・・・。 「あ・・・」 ビニール傘を差した晃が立っていた・・・。 「ひか・・・る・・・?」 「・・・晃・・・」 「・・・びしょぬれじゃないか・・・!」 晃は光に駆け寄って傘の中に入れ、 更地の隣の廃屋の軒先に移動した。 「濡れてる。コレで拭いて・・・?」 そしてハンカチを光に手渡す。 「・・・ごめん。雨降ってきたからそこのコンビニで 傘買ってたんだ。すれ違いにならなくてよかった・・・」 「晃・・・。ごめん・・・。遅刻して・・・。ごめん・・・」 「・・・いいよ・・・。光の家に電話して・・・。 全部一恵さんから聞いた・・・」 「え・・・」 「・・・おばあさん・・・助かってよかったな・・・」 (晃・・・) 3時間以上も待たせてしまったのに ・・・優しい言葉。 晃に見せるはずだった光月草・・・ もってこられなかった 見せるって約束したのに・・・ 「晃・・・。ごめん・・・光月草・・・。あの・・・あの・・・」 「おばあさんに・・・あげたんだろう・・・?」 「え・・・」 「・・・きっと光なら・・・。そうするって思ったから・・・。 よかった・・・。おばあさん、きっと喜んでるよ・・・」 (晃・・・) 晃の優しい言葉が・・・ 光の強張った心を溶かしていく・・・。 でも・・・ 見せたかった あの黄色い花を 育てた花を 晃に見せたかった・・・ 「・・・晃・・・。約束したのに・・・ごめん・・・」 「どうして光が謝るの・・・?オレは光はとても素敵なことを したって思ってるよ・・・」 「・・・ごめん・・・。ありがとう・・・。晃・・・」 「・・・光・・・」 (・・・優しすぎる言葉・・・) きっと晃には 全部わかってるんだ・・・ 晃はずっと ・・・見守っててくれたんだ・・・ 「・・・雨の中・・・待たせて・・・大丈夫だったか?」 「光だってこの雨の中・・・走ってきてくれた・・・。 びしょ濡れで・・・。だからおあいこだ・・・」 「晃・・・」 「光、言ったじゃないか・・・”私を信じて”って・・・。 だからオレは光が来るって信じてた・・・。何時間だって 雪が降ったって待ってたよ・・・」 ハンカチで・・・ そっと光の手を拭く晃・・・。 ・・・晃の労りが 冷えた体に身に凍みる・・・。 晃はきっと光の全部を許す 罪悪感からではなく ・・・深い愛情から・・・ (・・・私でいいのかな・・・) 自分の想いを伝えに来たのに・・・ 晃の優しさを肌で感じると 晃の愛情の深さを感じると 自分でいいのかと 思ってしまう・・・ (駄目・・・弱気になっちゃ・・・。自分の気持ち・・・ 伝えなきゃ・・・伝えなきゃ・・・) 焦る 伝えたいけど ・・・言葉にならない ポタ・・・ 「光・・・?」 ハンカチに沁み込む涙・・・ 「晃・・・。私は・・・やっぱり・・・。まだ未熟な 人間だ・・・」 「え・・・?」 「人込みはまだ怖いし・・・。人の視線も、写真を撮られることも 苦手で乗り越えてない・・・。電話に出るとき・・・ 受話器を持つてがまだ震えてる・・・」 「光・・・」 何を伝えたいのか 伝えに来たのか わからなくなった こんな自分が 想いを告げていい身分なのか マイナス思考がまだココロに絡まってくる・・・。 だから・・・ ・・・ありのままを話そう 今のココロありのままを・・・ 「家のことも・・・美容室のことも・・・。まだまだ 中途半端だ・・・。結局・・・。私はぬるま湯の中にいるんだ・・・」 「そんなことないよ・・・!光は・・・光は頑張ってるじゃないか・・・!」 光は首を振って否定した 「・・・帽子もまだかぶらないと外へでられない・・・。 ”本当の自分”が・・・曝けない臆病者なんだ・・・」 自己否定 それから抜け出すことは 出来ないのかもしれない (だけど・・・) 「・・・臆病者だけど・・・だけど・・・たった一つ・・・大切なことに 気づいた・・・」 「大切な・・・こと・・・?」 光は静かに頷く・・・ 「・・・口下手で・・・人と話すとき・・・声が震えるけど・・・。 伝えなくちゃいけない・・・」 「光・・・」 ”自分を信じろ・・・!” アパートが火事になった時・・・ 怖くて 飛び降りれなかった光を 手を広げて受け止めてくれた 「・・・あのときの言葉が在るから・・・。今の私が在るんだ・・・ 晃・・・。本当にありがとう・・・」 「そんな・・・オレは・・・」 「・・・そ・・・それから・・・それから・・・」 言わなきゃいけない・・・ ココロの奥の・・・ 奥の・・・ ・・・キモチ・・・ 「・・・あ、あの・・・晃・・・」 「光・・・」 「あ・・・あの・・・そ、その・・・あの・・・あ・・・わた・・・私は・・・ッ」 ・・・気持ちは本当なのに どうして形にならない・・・? 言葉にならない・・・? ”キッタネェ顔・・・!そのツラでよく言うなぁ?” (・・・!) ”お前は人間のクズだ!!駄目人間!!!” (・・・ッ) 幻聴・・・ 幻覚・・・ 顎がガクガク震えて 緊張して・・・ 冷や汗が出てくる・・・ (言わなくちゃ・・・。言わなくちゃ・・・ッ!) たった二言 ・・・やっと気がついた やっと伝えようと思った やっと・・・ 晃に会えたのに・・・ 会えたのに・・・!! 「晃・・・あ、あの・・・ッわた、わた・・・し・・・ッ」 舌を噛みそうだ ”お前が告白だなんて気持ち悪い” ”お前の顔で恋愛していいのかよ” 耳の奥で 喉の奥で 響く何か 声にすることを阻止する 言いたいのに 言いたいのに・・・! 晃は光の言葉を静かに待っている・・・ けれど・・・ 「・・・わた・・・私は・・・ッわた・・・わ・・・」 声がかすれて行く・・・ 言いたことが言えない 声が出ない (なんで・・・なんで・・・ッ!!) ・・・想いを 形にすることが こんなに大変だなんて・・・ テレビなら小説なら すぐに終わることなのに 「駄目だ・・・。どうして何だ・・・私は・・・私は・・・ッ!!」 光は濡れた髪を ぐしゃぐしゃにして やり場のない気持ちを押さえ込む 涙を滲ませて・・・ 「・・・光・・・ッ!」 光の両手を掴んで止める晃。 「・・・。もういいから・・・。光・・・。 オレは・・・。今日会えただけで充分だ・・・」 「・・・晃・・・」 「手・・・冷えてる・・・。帰ろう・・・な?」 晃は光の手をとって 車へ連れて行こうとするが・・・ 光は晃から離れた 「・・・光・・・?」 「・・・駄目だ・・・。逃げちゃだめなんだ・・・」 言葉で伝えられないなら 言葉で伝えられないなら・・・ (え・・・) 光はそっと・・・ 晃の背中に額をつけた 「・・・暫く・・・こうしててくれ・・・」 (光・・・) 「・・・今日・・・。伝えたかったこと・・・。 書くね・・・」 (光・・・) 晃の背中に・・・ 光は人差し指で一文字一文字 書いていく・・・ (・・・”わ・・・た・・・し・・・は・・・”) 背中に・・・ くすぐったさと緊張が晃を支配する・・・ (あ・・・『き』・・・ら・・・が・・・) ・・・そこで・・・ 光の指は暫く止まる・・・ 晃も 光も・・・ 緊張が高まる・・・ 胸が・・・ 高鳴る・・・ そして・・・光の指が動き出す・・・ 最後の・・・ 文字を・・・ ・・・書く・・・ 私は 晃が 好きです (・・・ひか・・・る・・・) 晃が・・・ ずっと ずっと ほしかったもの ほしくて 焦がれて たまらなかったもの ・・・光の・・・キモチ・・・ 光のココロ・・・ ずっとずっと 見つめてきた 光を 光だけを その光の・・・ ココロ・・・ 「・・・。夢じゃ・・・ないよ・・・な・・・?」 「・・・夢じゃないよ・・・?」 夢じゃない そう・・・ (私は・・・私は・・・) 「私は・・・晃が・・・好きです」 ・・・自然に 言の葉になった・・・ 晃がほしかったもの いちばんいちばん ほしかったもの・・・ (・・・言えた・・・言えた・・・言えた・・・) ココロの奥の 奥の気持ち・・・ 大切な大切な・・・ 「・・・光・・・。オレ・・・オレ・・・ッ」 いちばんほしかったもの もらえた 最高の贈り物・・・ 「晃・・・。今まで・・・ごめんね・・・。ごめんね・・・」 「・・・光・・・ッ」 一番の宝物 やっと やっと 臆することなく 抱きしめられる・・・ 激しい雨は止み・・・ 身を寄せ合う二人のために 空は晴れた・・・ 「やっと・・・。私・・・。スタートできる・・・」 「うん・・・」 光を包む晃の手に力が入る・・・ 「やっと・・・本当の・・・私に・・・会えた・・・」 「・・・ああ・・・」 「やっと・・・やっと・・・本当の私に・・・なれた・・・」 安心して ほっとして 頬から伝う涙が止まらない 恋なんてしちゃいけない 世の中が許さない ・・・存在しちゃいけないって 思ってた・・・ 弱い自分に負けていた でも今・・・ 一番大切な気持ちを やっと・・・ 届けられた・・・ 「・・・あ・・・。光・・・肩に何かついてる・・・」 「え・・・」 光の肩についていた小さな黄色いもの それは光月草の花びら・・・ 「・・・綺麗な・・・。黄色だ・・・。希望の色・・・」 「希望の・・・色・・・」 光月草の花びら 光の希望のカケラのように 二人には見えて・・・ 「・・・光月草・・・。見せてくれてありがとう」 「うん・・・」 数センチの光月草の花びら そっとハンカチにつつんで・・・ 「・・・あ・・・」 雨が上がった夜空。 光月草の淡い黄色が輝いている・・・。 「・・・光・・・。行こう・・・。光が帰る場所へ・・・」 「うん・・・」 手をつなぐ・・・ 月明かりの道を二人で歩く・・・ 一人じゃない 帰る家がある 待っている人が居る・・・ ・・・辛い現実は明日も待っているだろう 逃げ出すこともあるかもしれない でも・・・ それでもきっと ”希望を忘れない” 泣きたくなるような 叫びたくなるような 痛みが待っていたとしても 自分なりに受け止めて 現実で生きていく ”希望を忘れない” ・・・二人が歩く夜空の月は・・・ 光月草の色のように 淡く優しい黄色に 輝いていた・・・ ・・・光の新たなスタートが始まった夜・・・ 新たな自分を探す心の旅が始まったのだった・・・