シャイン 〜みんな輝いてる〜 最終話 みんな、みんな輝いてる 「わっ」 パアン! 茶の間の障子戸を開けたら・・・ 「おめっとさーーん!」 クラッカーの白い煙と細いリボンに出迎えられ、 髪にモールがかかる。 「・・・??な、なんだ。一体・・・」 「ささ。主役はこちらへ!」 俊也が光を真ん中へつれていく。 (な、なんだ。何が始まるんだ) 俊也の調子のいい声色に不安を覚えつつ。。 「なんだ。みんなそろって・・・」 「お姉ちゃん。カレンダーみなよ」 「ん?」 言われるままにカレンダーに視線を送る。 「○月○日・・・。土曜だな。それがどうかしたか?」 「・・・。お姉ちゃんが一番良く知ってる日じゃない」 「は?何の日だ?土用の丑じゃないだろう。まだ夏じゃない」 「・・・。私の大好きなお姉ちゃんが生を授かった日じゃないの!」 「ん?え?」 再びカレンダーに視線を送る。 「あ・・・。そう・・・だったのか」 「自分の生まれた日も忘れてたの?んもう〜!」 「あー。ごめん・・・。なんか・・・びっくりして・・・」 誕生日。 自分が生まれた日。 「さー。とにかく座った座った!」 俊也と一恵に促されるまま座る。 (私の・・・誕生・・・日) 自分が生まれた日。 ・・・実感が沸かない。 「ほーらじゃーん!」 「おー!凄い!これ、一恵ちゃんが一人でつくったのー?」 一恵が自慢げに自分がつくった手料理を光に披露する。 だが光はどうにも実感が沸いてこない 盛り上がる周囲を余所に 光はただぼんやりと座って・・・。 (私が・・・。生まれた日?) ”そんな顔さらして生きるなら死んだ方がマシ” (・・・生まれた・・・日・・・?) ”汚れたものは消えた方がいい” (・・・生まれて・・・よかった・・・?) 生まれた日。 自分が生まれてきた日。 「誕生日おめでとう!!」 (おめで・・・とう?) ”自分に負けてしまう奴は生きる価値が無い” どこからか 聞こえてくる 違う声。 「おめでとう〜!!お姉ちゃん」 ”生まれて生きてていいのか?” ”否定”の声と 「おめでとう!光」 ”賛成”の声。 どっちが本当で どっちを信じていいのか 光の頭に色んな声が 飛び交って 飛び交って。 「お姉ちゃん!どうしたの??」 ろうそくの炎を見つめ固まる光。 「・・・。私・・・。いいのかな」 「え?」 「生きてて・・・。おめでとうなんて・・・。言ってもらって いいのかな」 「・・・??何言ってんの。お姉ちゃん」 小さくゆらゆらと揺れるローソクの灯。 ケーキには確かに 『誕生日おめでとう。光』 と描いてある・・・。 「そうか・・・。誕生日・・・。そうか。私の誕生日か・・・。 今日は・・・」 「お姉ちゃん・・・?」 「そうか・・・。私・・・。私の誕生日なんだ・・・」 少しだけ 今日は 自分が主役になれる日。 「そうか・・・」 ポタリ・・・。 ケーキの上に落ちた涙。 「おいおい・・・。どうした?」 「・・・。いや・・・。なんていうか・・・。 誕生日っていうのは・・・いいもんだなって・・・」 「何言ってんの。お姉ちゃんー。ちょっと感傷的に なりすぎ。子供みたい」 「・・・。う、うるさいな・・・。いいだろう」 一恵は光の髪をくしゃっと かき混ぜる。 「可愛い可愛い。お姉ちゃんは可愛いよ」 「や、やめろって・・・!」 子供のご馳走は みんなの愛情 主役になれる、みんながいてくれるという安心感。 だから 自分のためのケーキが とても綺麗に見える。 「なぁ・・・。もうしばらく・・・。 ろうそくの灯・・・。見ていてもいいかな・・・」 「・・・いいよ・・・。だって今日は・・・。お姉ちゃんの日だから・・・」 光はじっと見つめる。 何十本かのろうそくの灯。 小さくてゆらゆら ちょっと隙間風が入ろうものなら 消えそうなくらいに弱い灯。 けれど 絶対に消えない 「あったかい・・・光だね・・・」 光が見つめる灯を 晃が 一恵が 登代子が 俊也が 見つめている。 ・・・限りなく優しげに ・・・限りなく穏やかに ・・・限りなく・・・ 幸せに・・・ 誕生日 主役だけじゃなくて みんなが幸せな気持ちになれる日 みんなが輝く日。 「満開だな・・・」 光が庭の花壇に植えた光月草。 薄い黄色の花びらの海で 穏やかに咲いている。 「・・・光月草は咲かせるのがかなり難しい品種。 光、頑張ったんだな」 「いや・・・。私は種をまいて水をていただけで・・・。 何もしてない。自分の力で咲いたんだ」 シャンパンが入った湯飲みを片手に 花壇の光月草を眺める光と晃。 「光」 「ん?」 「・・・。思い出してない?」 「・・・え?」 「・・・」 (あ、晃・・・。な、なにかをすごく期待しているような・・・) 「・・・ふ。ふふ。いやいいんだ。”待つ”ことも悪くない 寧ろ楽しい」 「・・・(汗)」 (・・・。あ、あれか!私のぶっ飛んだ記憶のこと・・・?) 何を言ったのか 薄々晃の幸せそうな顔を見つつ感じてはいるものの・・・。 「し、自然の流れが一番いい。///な、なぁ晃」 「ああ。そういうことにしておこう」 「・・・。す、すまん・・・。ちゃんとするから。そ、そのうち・・・///」 「待ってるよ。いつまでも。いつでも」 たった一つの想い。 変わらぬ想いなら 形にすることに 焦ることはない 「おいこら。勝手に盛り上がってんじゃねぇよ。 オウ。ナルシスト美容師こっちこいや」 「わっ。や、ヤメロ!」 完璧に出来上がった俊也に 居間に拉致される晃。 「どんちゃん騒ぎするな!あー!!」 賑やかな声がもれてきて・・・。 (・・・。私は・・・。一人じゃないんだな) 当たり前のこと 笑顔の数で知る 「写真・・・。撮ろう!」 「え?いいの・・・だって写真お姉ちゃん・・・」 「・・・。いいんだ。今日は・・・。 今日は撮りたいんだ」 輝いてる笑顔を 残したい 映る自分の笑顔にまだ少し自信がないけれど 直視できないけれど みんなの笑顔がなによりもプレゼントだから・・・。 「じゃあいくよー!」 光月草の前でならぶ 「ちょっと。光」 「何。母さん。じっとしててよ」 登代子を背負った光が真ん中。 「もっといい格好で撮りたい。アンタねぇ」 「いいからいいから。母さん。ハイ、笑って・・・!」 カシャン! 母を背負って 笑う光。 その光を包むように笑う晃達。 みんな輝いている それぞれ苦しいことを抱えてつつ みんなみんな・・・。 「さぁ・・・。今日も一日始まるぞ」 横山家の卓袱台の上に 飾られた写真立て そこには みんなの笑顔がいつまでもいつまでも 輝いている・・・ FIN
・・・。あっけない終わり方ですみません(汗) 長々やってきておいて。。 ただ誕生日という誰にとっても”特別な日”を 飾らずに必要以上に盛り上がらず、けれどもなんかこう大切な・・・ みたいなニュアンスが出ていたら嬉しいです。。 一旦、終了しますが一話完結という形で、また書きたいと思っています。 光と晃のその後辺りなど・・・(汗) その際はまた目を通していただけたら幸いです。 ありがとうございました。
2006.9.4