シャイン

〜みんな輝いている〜
第7話 ただそこに在る小石のように
小さな小石でも 人の心を和ますことができる。 ただ、そこに在るだけで ただ、そこにいるだけで・・・。 何の変哲もない小石。 だけどきっと 掛け替えのない大切な何かを 心を持っているのかもしれない・・・。 「よっこらしょ・・・うんとこしょ・・・」 朝。トイレの前で登代子が車椅子から降り、手すりにつかまり トイレのドアを開ける。 ドサ! バランスを崩して床に倒れこむ。 「母さん!大丈夫!?」 光が駆け寄る。 だが登代子は光の手を跳ね除けた。 「・・・光。いいかい。よくお聞き・・・。 人が倒れていたら駆け寄って様子を確認するのは当たり前だ・・・。 だがね・・・。自分で起き上がろうとしてるってことも 頭においておきな・・・」 「母さん・・・」 「・・・人を支えるってことは・・・。 人をありのままで”見守る”ってことなんだよ・・・。 倒れたからすぐ抱き起こすってのは・・・偏った考えだ・・・」 登代子は自力で四つんばいになってトイレに入っていく (母さん・・・) 「ぐ・・・!」 トイレ一つするのに・・・床にはいつくばって 立ち上がる母親の姿・・・。 登代子はありのままを見せたいと思った。 弱った体の自分。 人の力を借りて生きている姿を 愚痴も時々言ってしまう自分も (母さん・・・) ”そのまんまでいな・・・” 母からのメッセージ。 光には充分・・・。 伝わっていた・・・。 「たまに・・・自然の空気を吸おう!」 光は登代子を川原まで行こうと誘った。 「いいけどね。あんたの運転ならお断りだよ。 四葉マークな人間に命預けられるかい」 「・・・そ、そこまで言うか」 免許を取って三ヶ月。 ちょっとまだ自信がない光。 (・・・どうしようかな) 結局光は晃に頼んだ。 少し住宅街から離れた川原。 芝生広場にはバーベキューを楽しむ親子連れ。 川岸で釣りをする人・・・。 「・・・いいねぇ。ここは。時間の流れがゆったりだ・・・」 光はそっと肩掛けを登代子にかけた。 登代子とこうして遠出したのは久しぶり・・・。大抵は近所の公園ぐらいしか 連れて行けない・・・ 「光」 「何?」 「あんた・・・ちょっと川の中入って小石とってきておくれ」 「は・・・!?」 「ちょうど右手の握力つけるのにいい石、とってきておくれ。 ほれ!いっといで!」 登代子は杖で光のお尻を叩いた。 「ったく。何だよ・・・(汗)あ、あの晃、ちょっと 石拾いにいってくっから母さんのこと頼む」 「ああ」 (石拾いって・・・。可愛い言葉使うから・・・光) 晃はくすっと笑った。 光はスニーカーと靴下を脱いでちゃぽちゃぽと浅瀬に入っていった。 腕をまくり川底に手を突っ込む光。 その様子を晃と登代子は眺めている・・・。 「あの・・・。お母さん。寒くはないですか?」 「ええ」 晃は車椅子の横にそっとしゃがんだ。 登代子とこうして二人きりになる・・・。 晃は少し緊張していた。 「・・・。真柴さん」 「はい」 「・・・あの子は・・・。ほんっとーに不器用な子です」 (そ、そこまで力入れて言わなくても(汗)) 「顔も性格も父親似で・・・。大工してたんですがまぁ口下手で 人付き合いも苦手な男でした」 「はい・・・」 光の父親の話は少しだけ光から聞いたことがある。 「でも・・・。底なしに優しいんです・・・。 私はそんな夫も・・・娘も可愛くて仕方ないんですよ・・・」 水面に顔を塚付けて小石を探す光・・・。 登代子の眼差しは限りなく慈しみがあふれていると晃は感じて・・・。 「・・・真柴さん。前にも言いましたが私は貴方を恨んだりはしていません」 「は、はい・・・」 ドキっと晃は感じた。 自分の中に微かにまだ根付く罪悪感を見抜かれたようで・・・。 「確かにあの子は人より少しだけ生き方が不器用ですが でもそれを”糧”に変える力を持ってる子です」 「・・・はい・・・」 「・・・私は・・・。ちょいとばかり不自由な体ですが あの子の”糧”になるような生き方をしたい・・・。そう思ってます・・・」 「・・・はい・・・」 この母にしてこ娘有り・・・。 登代子の力強い言葉がそう晃に実感させる。 「・・・何だか説教臭い話してすみません」 「いえ・・・。お話が聞けて心強かったです」 「・・・あの子のこと・・・。よろしくお願いします・・・」 「お母さん・・・」 いつだったか・・・。 祖母と一緒に一度、光の家の門の前まで来たことがあった。 頭を下げる祖母に対して登代子は決して冷たい態度は取らず ちゃんと話を聞いてくれた。 だが・・・。幼かった晃の目を 一度も見てはくれなかった・・・ (・・・オレは・・・。許されていいのか・・・? 許されたのか・・・?) 登代子は晃にしっかりと 微笑んでくれる・・・。 (・・・ばあちゃん・・・) 晃の目尻が少しぬれている。 登代子はぎゅっと・・・ 晃の手の甲に自分の手を添えてくれた・・・。 パシャンパシャン・・・ 光が両手にこんもり石を抱えてあがってきた。 「あれ?どうしたんだ。二人とも。なんか・・・」 「なんでもないよ。それより光。いい石は見つかったかい?」 「あー。うん。これなんかどうかな」 こぶし大の石を光は登代子のてに握らせた。 「ふーん・・・。悪くはないね」 「よかった。あのさ、ほら・・・他にこんな綺麗な石もみつけたんだ」 翡翠色の淡いグリーンや 赤みがかったつるつるの石。 「コケ球(花)乗せて硝子のお皿で飾ったら涼しげだよ」 「うん。いいな」 「へへ・・・。あの・・・。ごめん。もうすこーし・・・石拾いしてきたも・・・ いいか?」 ちょっと申し訳なさそうに晃の顔を覗く光。 「ふふ。いいよ。好きなだけ探しておいで」 「んじゃ遠慮なくー♪」 チャポチャポ・・・ 子供のようにはしゃいで川の中へ入っていく光・・・ 「・・ったく・・・。子供染みたことに夢中になるんだから・・・」 登代子も微笑んで・・・。 小石拾いに夢中になる娘。 不器用だけど 掛け替えのない娘・・・。 登代子の優しい眼差しは晃と同じ・・・。 (光・・・。オレは・・・今のままの光が・・・) キラキラ光る川面・・・ 楽しそうな光の笑顔と一緒に 輝いていた・・・。