第8話 お姉ちゃん ごめんね・・・
「母さん。大丈夫?」
「ああ。光。あんたそろそろ美容院行く時間だろ」
「う、うん・・・。じゃあ一恵、あと頼んだよ」
ヘルパーさんが着てくれるまでの間、
一恵が登代子の朝食をベットまで運ぶ。
「・・・お姉ちゃん・・・。張り切ってるよねぇ」
「はは。生きがいができたんだ。いいことだよ」
「お姉ちゃんはいいとして・・・。真柴さんと一緒っていうのが気になるけどね。
はい母さん、目玉焼き」
登代子にフォークを持たせる一恵。
「何だい。一恵。その不服そうな顔は・・・」
「別に・・・」
光が元気になることは一恵も嬉しい。
だが・・・。
(本当によかったの・・・?お姉ちゃん。真柴さんと一緒で・・・)
疑問が消えない一恵・・・。
「ちょ、ちょっと一恵。悪いけど車椅子に乗せてくれないかい?」
「あ、ごめん」
登代子の上半身を起き上がらせようとベットのハンドルを回す。
「違う違う。左だよ左」
「あ、ご、ごめん」
ベットのを起き上がらせ、登代子に肩を自分の肩にかけて
車椅子に乗せようとした。
「イタタタタ!!」
「えっ。ご、ごめん」
ぱっと登代子の手を離したら、登代子は床にどすん!と
転がってしまった。
「お母さん!!大丈夫!??」
「イタタ・・・」
登代子は腰をうったようで痛がっている。
一恵はどうしたらいいのかわからずあたふた・・・
「きゅ、救急車!よばなきゃ・・・っ」
「ひ、ひつようないよ・・・そ、それよりベットに戻して
おくれ・・・イタタ・・・」
「う、うん。でもどうやって・・・」
下手に動かしたら痛がりそうで立ち尽くす一恵・・・。
(ど、どうしよう。お、お姉ちゃんがいてくれたら・・・)
「あらら!大変だー」
ぺるパーさんがちょうど来てくれて
登代子をひょいっと両脇を抱えて車椅子に乗せた。
(あ、あんな簡単に・・・)
「すまないねぇ」
「いいえ。でも光ちゃんがいたらすぐに
すんなり起こして乗せてくれたでしょうに・・・。光ちゃんは
ぺるパーになれるほどの技量も持ってるからねぇ」
(・・・)
「あ、あのごめんなさい。私がいけないんです」
一恵が謝った。
「いいのいいの気にしなさんな。素人さんは始は失敗するもんだって。
光ちゃんじゃないんだからね」
(・・・何よ・・・私がまるでお母さんに優しくないみたいな・・・)
むっとした一恵はさっさと会社へ・・・。
「あら?私、何か気に障ることいいましたか?」
「いいんだよ。あのひねくれ娘は・・・」
一恵の気持ちもすぐに分かる。
(・・・光に対抗意識もってどうするんだい。一恵・・・)
会社に行く途中。
一恵は近所の主婦たちの立ち話が耳に入った。
「横山さんのところの光ちゃん。えらいわよねぇ。だって
親御さんの介助しながら家計のために美容院でバイトしてるんだもの」
「あれ?妹の一恵ちゃんは?」
「あー・・・。あの子は現代っ子だからねぇ。親の面倒なんて
見ないでしょ。働いてはいるみたいだけど家にお金入れてるかどうか・・・」
(入れてるわよ!給料の半分も!)
「一恵ちゃんも幸せよ。彼氏ができたとしても
光ちゃんが登代子さんの面倒見るんだから。光ちゃん、
本当にかわいそうねぇ」
まるで光の方が出来のいい姉のような言い回しだが、
その裏は・・・。
哀れみという軽い同情で自分達がおしゃべりのネタにされている
気さえしてきて
一恵の苛立ちは頂点に・・・
(ええい!!ムカツク!!)
ドカ!
思い切りゴミ箱を蹴り倒す。
「きゃっ」
ハイヒールの踵が折れて転ぶ一恵・・・。
「・・・んもう・・・!!何なのよ・・・!!」
わけの分からない苛苛が一恵を支配する。
”働いてるらしいけど、結構派手な子でしょ?
家にお金とかいれてないんじゃないかしら?”
(・・・。入れてるわよ。お母さんのために
家族のために・・・)
いつか、光が一恵に尋ねたことがあった。
”大学・・・本当にいかなくていいのか・・・?
本心で決めたことなのか・・・?”
一恵は胸を張ってYESとは答えられなかった。
(・・・本当は・・・。行きたかった。服飾系の学校に・・・)
だが高い学費を出してくれなんて
ベットに横たわる登代子にいえたはずもなく。
(・・・何の事情も知らないで・・・。近所のおばちゃんたち
は・・・っ!!!)
一恵は踵の折れたハイヒールで歩きにくそうに・・・
一恵は会社へ出勤したのだった・・・。
その日一日。なんとなく苛苛していた一恵。
食事が終えるとさっさと自分の部屋にあがっていく。
「一恵ー!!悪い。バスタオル持ってきてくれないか。
母さん風呂からあがったんだ」
風呂場から光が一恵を呼ぶ。
「早く!母さん湯冷めちしまうよ。一恵!
きいてんのか!??」
”お母さんの面倒、光ちゃんばっかり
押し付けて遊んでるんじゃないの”
”いいのいいの気にしなさんな。素人さんは始は失敗するもんだって。
光ちゃんじゃないんだからね”
昼間の言葉達が
一恵の苛苛を倍増させる・・・。
「一恵!!」
「うるさいなッ!!!」
バサッ!!
登代子にパジャマを着替えさせている光にバスタオルをなげつけた。
「な・・・どうしたんだ」
「お姉ちゃんは立派よね!!家事も卒なくこなして
お母さんの介助も上手。そりゃあ近所の人たちから尊敬の眼差しで
みられるでしょうよ!!」
「な、何いってんだ・・・」
「けどお姉ちゃん・・・。私だって私なりに頑張ってるんだよ!?
嫌な上司がいても・・・。お姉ちゃんみたいに優等生面なんて
出来ないよ!!」
「一恵!!いい加減にしなっ!!それ以上言うと承知しないよッ!!」
登代子の怒号で・・・
一恵は我に帰るが・・・。
(母さんは昔からそう・・・。私が悪者で・・・。
お姉ちゃんをかばって・・・)
「・・・どうせそうよ・・・。私はお母さんの世話も
まともに出来ないし・・・っ。派手だしっでも・・・でも・・・。
私なりにやってるのに!!お姉ちゃんみたいに優等生じゃなくて
悪かったわよ!!」
「一恵・・・っ」
ドタタタ・・・。
あんなに感情を剥き出しにした一恵は初めてだ・・・。
(一恵・・・。何が・・・何があったんだ・・・)
光は一恵の涙が・・・
心配になった・・・。
登代子も・・・
(・・・一恵・・・。あんたも・・・不器用な子だ・・・。
でも八つ当たりしてくれてうれしいよ・・・。子供に
我慢されたんじゃ・・・。辛いからね・・・)
一恵の心うちを心配していた・・・。
翌朝・・・。
一恵は一言も口を利かず会社へ行った・・・。
(一恵・・・)
”お姉ちゃん好き勝手してるじゃない!
どーせ私はお母さんの世話もできない
娘ですよ!”
(・・・一恵・・・。どうしてそんな風に・・・)
「おい。光。一恵、忘れ物してるよ」
「え?」
テーブルに一恵の携帯が・・・
「大事なんだろ。仕事で・・・。光。アンタ持ってってやりな」
「え、で、でも・・・」
「もうすぐヘルパーさんも来てくれる。大丈夫だよ。
いきな・・・!」
(母さん・・・)
登代子の意思が伝わった。
”一恵と仲直りしておいで”と・・・
(わかった・・・)
光はヘルパーが来たことを確認すると
エプロンを脱いで一恵の会社に向かった。
その頃。
(や、やだどうしよう・・・!携帯忘れてきた・・・)
携帯には取引先のアドレスや電話番号がびっしりとメモリーされている。
(ど、どうしよう・・・!)
今日は外回りがある・・・。
(どうしよう・・・。はぁなんか熱い・・・)
そこへ・・・。
同僚たちが少しざわめいた。
(ん?)
「あの・・・横山一恵の姉なんですが・・・」
営業課にはいってきたのは光・・・。
(え、お、お姉ちゃん・・・!?)
同僚たちは少しちらっと好奇な視線で光を送る。
(どうしてきたの!もう・・・っ)
同僚達の視線が一恵に痛く突き刺さる。
「あ、一恵・・・!」
(んもう。こっち来ないで・・・)
「な、なんだよっ」
「ぶ、部長、ちょっと出てきますねっ」
一恵は光をぐいっとひっぱり
屋上へ連れて行った。
「なんだよっ。一体・・・」
「それはこっちの台詞よ!!突然会社に来るなんて!!」
「いや、あの・・・」
光はポケットから一恵の携帯を取り出そうと手を入れたが・・・
「恥ずかしいでしょッ!!同僚がどんな目で
お姉ちゃんを見てたか考え・・・」
(はっ)
一恵、かっとなって・・・
「ご、ご、ごめん・・・あ、あの・・・」
一恵の心は自分が発した言葉に自己嫌悪が支配する
「そうだな。連絡くらいいれるべきだった・・・。
それに帽子もかぶってくればよかったな・・・」
光はポケットからかわりに帽子を取り出して
かぶった。
「そういう意味じゃなくて・・・。もう・・・。揚げ足とらないでよ・・・」
「揚げ足なんて・・・」
(やだ・・・。なんかもやもやする・・・)
”光ちゃんは・・・”
”光ちゃんじゃないと・・・”
「私はお姉ちゃんじゃない!!どうせ私は
なんにもできない妹よ!!」
溜まっていたものが
一気に出てしまった・・・
(・・・やだ・・・。私・・・)
「・・・。忘れ物」
(え)
携帯をそっと一恵に手渡した。
「これ・・・。届けに・・・?」
「・・・。今日はすき焼きにする予定だから・・・。
早く帰って来いよ。じゃ・・・」
光の背中がどこか切ない・・・。
(お姉ちゃん・・・)
「待って、おねえちゃ・・・」
光を追いかけようとしたが一恵の視界が揺らいで・・・
倒れこむ。
「一恵!!」
一恵を抱き上げる光。
(お姉ちゃん・・・)
薄れていく意識の中・・・
光の腕の温もりだけは一恵に伝わっていた・・・。
(・・・あったかい・・・)
一恵の目が覚めていく。
(えっ・・・)
気がつくとそこは病院の処置室。
「・・・お姉ちゃん」
「お、お目覚めですか。お姫様」
「・・・私・・・」
「気を失って倒れたんだ。ちょっと貧血気味だって
言われたけど休めば大丈夫だって」
”私が恥ずかしいでしょ!!”
”どうせ私はおねえちゃんみたいにいい子じゃないわよ!”
光に発した言葉が後悔という名の痛みになって
一恵の胸を締め付ける・・・。
「・・・大丈夫か?会社の人に聞いた。
残業、率先してやってくれてるって・・・。ごめんな・・・。私、
一人・・・好きなこと夢中になって・・・。
私、何も気がつかなくて・・・」
そっと一恵の前髪を撫でる光。
その手触りが優しすぎて・・・
「・・・ごめんな・・・」
(優しすぎるよ。お姉ちゃん・・・)
「・・・って・・・。な、何で泣き出す・・・?」
一恵の頬に一筋流れる・・・
「・・・お姉ちゃんの馬鹿・・・」
「な、お、お前な・・・(汗)」
優しすぎる
素直すぎる
・・・不器用すぎる
でも・・・
大好きな姉
「・・・おねえちゃん・・・。ごめんね・・・」
「もういいよ」
「お姉ちゃん・・・ごめんね・・・」
大好きな姉の
大好きな手
いつもこの手は
自分の味方だった・・・。
「・・・いいから・・・。今日、お肉いっぱい買って帰るよ。
体力付けような・・・」
「・・・うん・・・」
帰りのタクシーの中。
光の肩に寄り掛かって眠る一恵。
・・・夢を見ていた。
小学校のとき
中学生の光が泣きじゃくる一恵を背負う。
”ごめん・・・。私のせいだ。
私のことでからかわれたてしまって・・・”
泣きつかれてきた一恵。
光の呟きが
微かに聞えた。
”でも私・・・守るから・・・。一恵のこと絶対・・・”
”うん”
”守るからね・・・”
広くて温かかった背中。
同じぬくもりが
今も変わらずに・・・。
「お姉ちゃん・・・ありがとう」
一恵の寝言
夢の中の一恵も
同じ台詞を呟いていた。
「お姉ちゃん ありがとう・・・」
「どういたしまして」
妹の寝言に
光はそっと
髪を撫でて応えたのだった・・・
・・・。すみません。なんだかマンネリ化してきたでしょうか(汗)
書いてて、話の一貫性がない、一話よみきり風になってしまって
お話の主軸みたいなものが薄くなってマンネリ化してきたのでは
ないかとすごく不安になりつつ書いております(汗)
元々昼ドラのような激しい展開がなくてメリハリがない。
だけど、なんていうか私の心のスタンスが「その日、その時、その瞬間を
精一杯」っていうスタンスなので、小説にもそれが出てしまって
主人公の光視点で一日一日の日常をじっくり
描きたいっていうのがあるもんで・・・・。ええ。主張だけはいっちょまえです。お約束ですが(汗)
これといって派手な出来事がなくともその日一日っていうのは
一生に一回しかないわけでそれを大切にしたいというか(汗)
・・・説教じみてきてすみません(汗)
でもあの、いずれ恋愛面もじわじわと書いていきたいですし、
その先ではまた色々ある予定ですし(まだまとまってませんが・汗)
と、とりあえず、じっくり見守っていただけたら幸いです・・・