シャイン 〜みんな輝いてる〜
第9話 瞼の裏の君 私は今でも写真が怖い。 自分の姿が映しだすものは皆怖い。 姿の醜さより 心の醜さと向き合わなければいけないから 美人なら 哀しい顔でも綺麗に写る。 美人なら笑顔も見る人は綺麗な笑顔だと思うのだろう。 ・・・好きな人の前でさえ笑えない。 どんな顔で笑っているか分からないから ・・・瞼を閉じたら浮かぶのは自分の殻に閉じこもっている私。 出ようと殻をつつくけど 殻の外が怖くて縮こまっている。 ・・・笑いたい・・・
「ハイハイー。光ちゃんこっち向いてー!」 「やめろ!営業妨害で訴えるぞ!」 カメラのレンズを店の中を掃除する光に向ける俊也。 相変わらず、光の周りをうろちょろしている。 今日は光にモデルになってくれと頼みに来たのだがやはり・・・ ”いやだ!帰れ!” の速攻断られた。 「しつっこいな・・・!窓の汚れよりしつこい」 「うふふ。そうなのボクチャン、頑固な汚れなの〜」 玄関の窓を拭く光の後ろでうろちょろする俊也。 「ふふ。相変わらず”横顔”はとっても綺麗な 光ちゃん。それ、一枚だけ取らせてよ〜」 「・・・。誉め殺しどうも!あんまりしつこいと その顔、ぞうきんで拭くぞ!?」 雑巾を振りかざす光の腕を掴む俊也。 「は、離せッ」 「んふふ。隙が多すぎるの。光ちゃん。 あんまり言うこと聞かないと実力行使にでるよ?」 「その前に空手技お見舞いしてやる」 「・・・あのな。この状況でロマンのないこというな」 ずずっと顔を近づける俊也。 だが後ろからくいっと 襟をつかまれる・・・ 「オレがいない間にでかい虫が入り込んだもんだ」 「あらまぁ。晃ちゃんおっかえんなさーい」 俊也の襟をつかんで光から遠ざける晃。 「光。大丈夫か」 「ああ。でも大事な掃除を邪魔された。雑巾で本当に 吹いてやればよかった」 「今からでも遅くないぞ?」 「おいおい(汗)人の顔、勝手に遊ぶな」 コントみたくなってきた。 この3人の関係。 晃も俊也が根っからの悪じゃないことは分かってきたようだが・・・。 (けど光が嫌がることをするなら別だ) 「・・・他に被写体あろだろ?光は嫌がってるんだ」 「でも光。お前・・・。寂しくないか。自分の姿が怖いなんて。 それは自分自身が怖いってことなんじゃないのか?」 「・・・」 押し黙る光。 「どうしても光ちゃんがいいの。光、オレは諦めないからな。 んじゃばいちゃ♪」 ウィンクして帰っていった俊也。 (・・・諦めないって・・・) それは写真のことなのかそれとも・・・ 晃には別のことにきこえた。 「しつこいな。ホントに・・・」 「・・・」 「・・・光。どうした?」 「いや・・・。俊也の言うことも一理あるかなって・・・」 ”自分自身が怖いってことだろ” 「そんなの・・・いつもお軽いアイツに何が分かるってんだ」 「・・・。自分の痛みに酔いしれるなって言いたかったのかもしれない・・・。 そう思ったら・・・ちょっと」 「・・・」 俊也の言葉に 反応している光・・・。 (・・・光の心に触れてるのか・・・あいつは・・・) 言いようのない嫉妬が沸いて来る。 いつのまにこんなに嫉妬深くなったのか。 (嫉妬する資格もないのにな。俺は・・・) 「・・・晃・・・。携帯で撮ってみてくれないか?」 「え?」 「・・・ちょっとだけ・・・。練習・・・。してみたいんだ」 「・・・わかった・・・」 晃の中の嫉妬が さらに大きくなる。 俊也の言葉に促されてカメラを撮ってみるという ことに・・・。 「じゃあ・・・撮るぞ?」 「う、うん・・・」 晃は携帯のレンズを光に向けた。 (・・・な、なんか・・・やっぱり・・・) じわっと手に汗をかく。 まるで誰かに睨まれているような刺々しい感覚。 どんな風に映るのか 見るのが怖い。 膝が微かに震える・・・ ”ギャハハハ!お岩の横山。すげぇかお” あざ悪声が耳の奥で響く・・・ 「じゃあじっとしててくれ・・・」 「ま、待ってくれ・・・!」 「光・・・?」 ぱっと自分の顔を手で覆う光・・・。 「ご、ご、ごめん・・・。や、やっぱりまだ・・・っ」 「・・・いいんだよ。無理しなくて・・・」 「ごめん・・・。まだ駄目だな・・・私は・・・」 「・・・光・・・」 俯く光・・・。 いじらしさと 光の今までの経験を晃は知っているだけに 痛々しく・・・ 「・・・オレが今撮るよ」 「え?」 晃は目を閉じた。 「・・・。パシャリ。俺の、心で撮ったよ。永遠に 色あせないし保存された。ふふ」 「・・・。どっどっからそんな台詞でてくるんだ・・・。 り、リアクション困るってもう・・・///」 それでもやっぱり嬉しい。 (晃の優しさが分かるから・・・) 少しずつ 素直になりたい・・・。 (ごめんね晃・・・。でもいつかちゃんと・・・素直になるから・・・ もう少しだけ待ってくれな・・・) 誰かを想う自分になるには 克服しなければいけない 何かがあって・・・。 翌日。 「ひっかるちゃーん!」 俊也が性懲りもなくカメラを持ってたずねてきた。 「・・・生憎だな。光は今日は休みだ」 玄関で晃が仁王立ち。 「・・・そのようですな・・・」 「お前・・・。本気でカメラやってるのか?お前の 適当な夢に光を巻き込むな」 「・・・。余裕ですな。晃君。お前、もう光を 自分に振り向かせたとでも言うのか?」 おちゃらけモードではなく かなりマジな顔の俊也。 「・・・別にそういうつもりはない。ただオレは光が心配なだけだ」 「心配ねぇ・・・。光、光、煩すぎだろ。お前は。他の女つくれ」 「・・・うるさい」 俊也のからかいに 晃は反応するまいと感情を抑える。 「同情と愛情の区別がつかないのは光の方かもしれないぜ?」 「・・・」 「ちっ。心理作戦だめか。だがな、お前のその半端な感情がいつか、 アイツを傷つける。きっと・・・な・・・」 「・・・」 俊也の言葉に反応せぬとつとめるが・・・。 カラン! 「ただいまー!」 光が帰ってきた。 「あら。元ホスト君。またか」 スーパーの買い物袋をドサっと置く光。 「ヒロインのお帰りですな。光ちゃん。やっぱり 被写体の件だめぇ?」 「駄目!!」 「ふが!」 俊也の口にせんべいをつっこむ光。 「・・・ふふ。拒まれるとなお闘志がわくのがオレっちなんだ。 また来るね〜」 俊也はせんべいをばりばり食べながら スキップで出て行った。 「ったく。チャラ男だな〜」 買ってきた材料を冷蔵庫にいれる光。 「・・・。光・・・」 「んー?」 「あの・・・。ほ、本当にごめん。1年も音沙汰もなくて・・・」 「・・・?なに今更。もうそんなこと気にしてないってば」 光はおせんべいの袋をばりっと破った。 「晃。何かあったのか?」 「いや・・・。何でも・・・」 ”いつか・・・中途半端なお前の感情が光を傷つける” 俊也の言葉が 晃の心に絡みつく。 (・・・そんなことはしない。絶対に・・・) 「・・・そうだ!晃!頼みがあるんだ!」 「え?」 光は晃に使い捨てカメラを手渡した。 「これで・・・。カットが終わったお客さんを撮って欲しいんだ」 「え?オレが?」 「うん。綺麗になった後のお客さんの表情ってなんか こう・・・楽しそうで清清しいだろ?私は写真が苦手だけど お客さんの一番いい時の顔を撮ってあげたいんだ」 「ホスト君に頼んだら高つきそうだしな」 ”いつかきっと・・・” (違う。俺にだって光に出来ることはある) 「よし!まかせろ!」 晃はカメラを確かに受け取った。 午後からやってきた近所のおばさん3人組。 ”この街のべっぴんさんたち” 壁にそうタイトルを付けて、コルク版を創って 「あ、小夜さん(おばちゃんたちの名前)はい、こっちむいてください」 晃はカット&パーマ後のおばさん達をパチリと撮った。 「ほおら!べっぴんさん3人のできあがり〜」 「やーだ♪光ちゃんったらぁ!あはははは」 嬉しそうに大笑いするおばちゃんたち。 (光は・・・きっとこういう瞬間が嬉しいんだろうな・・・) 誰かのために何かをしてあげあられて そして喜ばれること・・・ その積み重ねが光の自信へと繋がっていくから・・・。 「ありがとうございましたー!」 元気のいい光の声・・・。 「さーてそーじしなくては!」 活き活きとモップがけをする光・・・。 光らしさであふれて・・・ 普通の人ならば そういう場面を写真という形にして残するだろう。 写真という形じゃなくても・・・ (・・・記憶するのは・・・こころだ・・・) 「パシャリ」 「あん?」 「もう一枚、元気にモップがけをする光というタイトルの 写真を撮りました」 晃は指でカメラを持つまねをした。 「ったくなんだよ」 「俺の心にはちゃんと記憶していくから・・・。だから光は 光らしくいていいんだ・・・」 「そ、それはどうもです。で、でも・・・き、気障な台詞は控えめに(汗)」 「照れた顔もぱしゃり!」 「だぁあ!やめろって〜!コントになるからさ(汗)」 光の色んな表情を 知って覚えておきたい。 瞼の奥まで・・・。 「スー・・・」 事務所の椅子で眠る光。 そっと肩掛けを掛ける晃・・・。 寝顔もぱしゃり・・・。 (そのまんまでいいから・・・) ”お前はいつかきっと光を傷つける” (そんなことはさせない・・・。光らしくいられるように 俺は・・・) 光の前髪にそっと触れながら 晃は改めてそう思ったのだった・・・。