シャイン











22年間生きてきて






初めて宙を舞った







「わぁああーーーーっ」








ドサッ!!!












ベランダからダイブした光





晃は見事その長い両腕で光の体をキャッチした。






「・・・。かなり思いきり飛んだな・・・(汗)」





「あ・・・。す、すんません・・・」





光は身長165近くあるが、晃ははるかに体は大きく
光を軽々と抱き上げている。



(・・・。照れる状態じゃないな・・・)






お姫様だっこ・・・なんて生まれて初めてだが
煤だらけの顔の状態で照れることもできない・・・






「いつまで乗ってんだ」





「あ・・・。こ、こりゃどうも・・・」





光は申し訳なさそうに降りた。





光は自分の部屋を見上げる・・・








(・・・燃える・・・燃えてる・・・)






黒い煙が空に舞い上がり激しい炎が窓から噴出す・・・







「火事だーーー!!」






近所の住人達の声。




消防車や救急車のサイレンの音がけたたましく響く







騒がしい周囲・・・







だが何故か光と晃は燃え崩れる自分の住まいを




落ち着いた心でただ見つめていた・・・














病院。





かすり傷を負った光は手当てされ、診察室から出てきた。






「あ・・・」




同時にとなりの診察室から、右腕に包帯を巻いた晃も出てきた。







「・・・」






静かな廊下で






一瞬、顔を見合う二人・・・






だが、晃は光を通り過ぎて帰ろうとした







「・・・。あ・・・あの・・・っ」







「・・・」







「あ・・・ありがとうございましたっ。えっと・・・。真柴さんのお陰で助かりました・・・」







「・・・」






ほとんど初対面同然。



しかし、助けられてお礼は言わなければ・・・と光は思った。







「・・・。あの・・・何かお礼をしたいんですけど、持ち物全部燃えてしまったし
給料日もまだなので・・・。で、でも、必ず何かお礼をさせていただきますっ」








「・・・」





何も言わない晃。






会話が続かなく光は緊張状態が続き、気持ちが一杯一杯・・・







「・・・なら・・・。練習代に頼むか・・・」







「え?」






晃はゆっくり光に近づき・・・




(!?)




前髪をそっと触ろうとした。






「や・・・やめろ・・・っ」





光はビクッと肩を強張らせたて顔を背けた







前髪をどかせば、目立つ・・・





痣。






晃は光のリアクションに気遣ったのか前髪には触れず、
茶色く変色した横髪をすくった。





「・・・焦げてる・・・。痛そうだ・・・」






「・・・??」








「あんた・・・。その髪のままじゃ仕事いけねぇぞ。ただで
カットしてやるぜ」






晃はそう言ってポケットからマッチ箱を取り出した。





それには




『ビューティーサロン・シャイン』





と書いてあった。







「・・・美容師さんなんですか・・・?」







「一応な」







「あの・・・。ありがたいのですが・・・。”ビューティーサロン”なんて
カタカナ文字のおしゃれなお店は苦手なんです。というか人が
多いのが苦手でして・・・」






光はマッチ箱を晃に返そうとした。




「・・・なら夜来い」




晃は突っ返した。





「明後日の夜9時。駅前の支店に来い」









「・・・え、あ、あのちょっと・・・っ」





コツコツ・・・




晃は光の言葉も無視して病院を後にした・・・









(・・・一体何なんだ・・・)






”真柴 晃”




3ヶ月前に引っ越してきたことしかしらない。





初めて言葉を交わしたけれど・・・





(強引で一方的な人だな・・・。でも・・・。何かで
見たことがあるような・・・)












次の日。





焼き出された光。




服も何もかも失って光は実家に帰るしかなかった。





汚れたままのパジャマで光は実家に戻る・・・





「大変だったね・・・。アパートが火事の頃、あたしゃ、皮肉にも
焼肉食ってたんだよ」





「・・・。かける言葉はそれだけかい(汗)」


戻ったとたん、肝っ玉母・真喜子のブラックジョークで出迎えられる。





それでも、ニュースで火事を知ったとき、登世子は娘の安否を
確かめにサンダルもはかずにアパートに駆けつたことを、後で光は妹の一恵から聞く。








「悪いけどしばらくお世話になるよ。母さん」





「ちっ。あんたもタイミングがいいねぇ。あんたの部屋、誰かに貸して
家賃とろうと思ってたのに」




「・・・母さんが管理人じゃ誰も入居しないさ(苦笑)」





登世子の言葉とは裏腹に光の部屋は、綺麗に整頓されていた。



出て行ったときのまま・・・




(掃除しててくれたんだな・・・。母さん・・・)





自分に厳しく、人にも厳しい母。



幼い頃は厳しすぎて反抗したこともあったけど・・・



母の厳しさの中にある優しさをやっとわかってきた・・・






”一度一人になって自分の顔の痣と心の痣と向き合ってきな。”





そう言って自分を送り出してくれた母の本当の優しさを・・・




「ふぅ・・・」



ベットに寝転がる光・・・






何気なく天井を見つめる






昨夜・・・火事で何もかも失った






哀しいはずなのに



辛いはずなのに





(なんでこんな落ち着いているんだろう・・・)





自分にはもとから何もなかった。




お気に入りの服も小物も

雑誌も何も・・・



あるのはこの体と・・・


顔の痣だけ・・・









(心の何かが麻痺したのかな・・・)







わからない。





ただ・・・





母が変わらず戻れる場所を残してくれた
ことに感謝の念を忘れずに・・・






カサ・・・。




光はマッチをポケットから取り出した






”明後日の夜9時・・・。駅前の店に来い・・・”




(ビューティーサロン・シャインか・・・)




その名前を光は本屋の雑誌で見つけた。




今、世代問わず女性の間で人気の美容店。
その支店を若干22の若さで店長になったという・・・









「・・からかわれている・・・と推察するのが現実的かな」





そう人を疑ってしまう悪い癖。




(だけど・・・)





”信じろ!”








晃の言葉に・・・嘘はなかった気もする・・・








「・・・」








(”信じろ・・・”か・・・)









疲れ切った光の体は・・・。あっという間に眠りの世界に光を飛ばした・・・

















そして翌日の夜。






(・・・。来てしまった・・・)







ファッションビルの1階。




ウィンドウをのぞく光。





(真っ暗だ・・・。当たり前か。閉店時間だもんな・・・)




キィ・・・





入り口の回転ドアを静かに入る・・・







「・・・こん・・・ばんは・・・」





恐る恐る入る・・・





うっすら、店の中の様子が見える。




一番左端の席。



鏡の上のライトが一つついていた・・・









「・・・いらっしゃいませ。お待ちしておりました」






「・・・」





ハサミを片手に持った晃が静かに姿を現した・・・