シャイン
〜早朝デート〜
「う・・・。寒」 手袋とマフラーを装着して、朝4時。光は自転車のペダルを 踏んで雪が舞い散る早朝の街を走る。 一番一日で寒い時間帯。 確かにその寒さは肌も突き刺すほどだけど・・・ (星が綺麗だし・・・。悪いことばかりじゃないのだ) 「くしゅんっ」 でもやっぱり寒いものは寒い・・・ (これも世のため家族のため・・・つーか一恵のためか) 一恵は今、ほくほくなベットの中で眠っていると思うと腹が立つ光。 (帰ったらこの間貸した1万、返済させねば) 妹の可愛い寝顔を浮かべつつ、配達していく。 (・・・と・・・) 俊也のマンション。 相変わらず、11階立ての豪華なマンション。 あれから俊也からのコンタクトはないのだが。 (気まぐれホストのご関心は他のものに移ったか。 ま、どーでもいーけど) 光は何時もどおりに新聞を一階の郵便受けに入れていく。 (・・・ん?) 妙な気配を感じた光。 振り返ると・・・。 「オッハーv健気な新聞配達員さん。お久しぶりだねぇ」 (・・・朝からこういうお調子者キャラ系で来るとは・・・) 「何だよ。つれないなー。オレは今宵も沢山の女に夢を提供し、 そして店に沢山の札束を提供してきた、功労者だぜ?」 「・・・。あ、それはご苦労さん。んじゃ」 はっきりって、光はこういうタイプが一番苦手だ。 クールな一面、お茶目な一面・・・ 掴み所のないタイプ相手にするとただ・・・疲れる。 「・・・なぁ。オレ、光のこと少しきょーみ持ったみたい。っていっても あー、表現すると”珍しい物見たさ”ってカンジ?」 「新聞で一発殴っていいか?ったく失敬な・・・ま、いいけど。んじゃ」 自動ドアの前で立ち塞がる俊也。 「・・・業務妨害なんだけど?」 ギロリと睨む光。 「・・・いいねぇ。勝ち気な女は嫌いじゃねぇ。 光。お前さ、ちゃんと化粧したら、いい女になる 素材だぜ?」 「こんな場所で口説いてどーする。ってか、アンタの暇つぶしの種に はなりたくない」 「・・・オレは”ただ”健気な女が一番嫌いなんだ。でもお前は違う。 健気なだけじゃなくてリアルな痛みも持ってて・・・。その痛みは”本物” だ・・・」 ナルシストの理屈ほど、光が嫌うものはない。 尚且つ、面白半分で人と関わろうとする人間が一番憎い。 半端な心持は絶対に人を傷つける。 「・・・。微妙な評価ありがとう。でもとにかく私は、今、自分がやるべきことを 全うしたいんだ。邪魔だからどいてくれ」 「わかった。わかった。でもオレは諦めないぜ?この時間帯、 この郵便受けの前はオレとアンタの出会いの場所だもんな。じゃあな」 部屋の鍵をチャリチャリポケットで鳴らしながら 俊也はエレベータに乗っていった・・・ (・・・。まさか。毎朝・・・ここで待ち伏せしようって企てか?) 光の予感は的中し。 「オッハー!苺ちゃん」 (い、苺ちゃん!?) 俊也は毎朝、光がここに来る時間帯に郵便受けの前に居て・・・ 「いいよねぇ。こういうの。早朝デートってか?」 「私は早朝”仕事”だ」 俊也の真意がわからない光。 ただ、分かるのは”面白半分”ということだけ。 面白半分に、からかわれることは昔から何度も在る。 ”可哀想な火傷の痕の少女に愛の手を” 中学校のとき、そんなタイトルがついた募金箱が机の上においてあったり・・・ (・・・相手にするのも馬鹿らしい。というかこの男の関わりあい方は どこか虚しい) 俊也のアプローチも 光にとってはただ、騒がしいだけで・・・ 「光。お前さ、スカートとかはかねぇわけ」 「必要ならばはく。それより ベタベタ触るな。私は触られることが嫌いだ」 俊也の手を払う光。 「・・・お前のコンプレックスも相当なモンなんだな。そこまで拒絶するか。ふふ。 余計に闘志がわくぜ」 「・・・」 苛苛してきた。 「・・・アンタこそ相当だね。他人への拒絶が」 「はぁ?オレが?おいおい。オレは人と触れ愛を献上する 仕事してんだぜ?んなわけねーだろ」 「・・・他人への拒絶と・・・。自分自身への拒絶。アンタ・・・。 鏡で自分の顔、見るの嫌いだろ?」 図星で、俊也は驚く。 「自分が嫌いな奴は大抵そう・・・。私も昔はそうだった。 ま、最も私の場合は顔の痕のせいもあるけど・・・」 「・・・」 「でも、今は変わりたいって思ってる。コンプレックスごと 受け入れてそれを武器にしたいって・・・」 「朝から語ってくれますねぇ。素晴らしい演説だ」 俊也は煙草をスーツから取り出し 銜えた。 「・・・。”偉そう”な演説終わり。さらに言うと明日から担当替わってもらうから もう配達には来ない。んじゃ。さいなら」 「あ、そう。早朝デートも今日までか。ふふ。ま、オレは諦めが悪い。だが 顔はいい」 「・・・(疲労)あーはいはい。んじゃさいなら」 「おい!」 光が振り向くと俊也が何かを投げた。 (あったかい?) それはカイロ。 「持ってけよ。使い古しだけどまだあったかいぜ?オレの温もりでな。 じゃあな」 (・・・おいおい) 他人事をいじくりまわして暇を潰すただの軽い男なのか。 それとも本来持つ優しさを表面に出さない不器用な男なのか・・・ 分からないけど。 (でもま・・・。性根は腐ってはいないのかもな・・・) カイロの暖かさは本物・・・。 「さて・・・!次頑張るか!」 自転車の電灯をつけ、ペダルをこいで 配達を続ける・・・ 11階の窓から・・・光の自転車のライトを 俊也が苺の飴を口に含みながら見つめていた・・・。 「・・・ふぁあ・・・。眠い・・・」 大きなあくびの3分後。 光はパソコンのキーボードを枕に眠ってしまう。 「あーあ・・・電源きらないと」 晃がパソコンの電源を切り、光に自分のジャケットをかけた。 「新聞配達・・・大変なんだな・・・。給料っていっても 手間賃にも満たないしな・・・」 軌道に乗ってきたといっても、利益など高が知れている。 それに道具や自動車のガソリン代などに消えていく 「ごめんな・・・」 それでも。 光と一緒に一つの事をするこの日々が 大切だ。 「・・・明日また・・・。宜しくな・・・」 光の前髪にさらっと指を通す・・・ そしてまた一日が 終わった・・・