シャイン
〜着慣れぬスーツとお守り〜
光が受験するが間近に迫った。 本人は至って普通。寧ろ・・・ 「光。オレ、必勝祈願してきたんだ。これお守り」 「あ、ありがとう(汗)」 晃の方が今から緊張している。 「・・・でもなんかちょっと心配かな」 「何が?光なら絶対大丈夫だ」 「いや、試験はいいんだけど・・・。面接とか」 面接用の写真。 写真嫌いの光はかなり抵抗があったが、必要書類は出さなければいけない。 「写真見てどうなるかなとかまだ心配だったり・・・。ってあ、 ごめん、晃、暗い顔しないでくれよ」 「・・・」 「晃!晃がそんな顔じゃあ、受かるもの受からない。 お願いだから笑ってて・・・。ね?」 光は晃の肩を力強く叩く。 「・・・。オレが励まされてりゃ世話ないな・・・」 「晃がくれたお守り・・・。持っていくからだから大丈夫。ね!」 (光・・・) 光の笑顔が嬉しいと同時に・・・ 痛い。 (・・・学校の受験するにも・・・。普通は然程に気にしなくても いい不安を光は持たなくちゃいけないのか・・・) 「さーてと。晃、お昼、サンドイッチ作ってきたんだ、食べよう」 「あ、ああ・・・」 晃は、無事に試験が終了するように祈らずにはいられなかった・・・
試験の日、当日。 光は一張羅の紺のスーツとスカート姿。 (スカートは履き慣れんから落ち着かん・・・) 試験会場の前に緊張して立っている。 その光の横を、生徒達が次々と通り過ぎていく 受験生達はチラリチラリと光に視線を送る。 光の体は思わず条件反射で、校門に背中を向けた。 (・・・。や・・・やっぱり駄目だ。私まだ・・) 晃のお守りを握り締める・・・ 光はバックからピン止めを取り出して、前髪を右に寄せて出来る限り 頬を隠れるように髪をとめた。 (”応急処置”しててでも・・・。とにかく逃げたらいけない) 光は晃のお守りを握り締めて校門を潜った・・・。 試験内容は筆記試験と面接。 (しかし・・・。最近の専門学校というのはお洒落だなぁ・・・。 まぁ美容学校だし当たり前なのかな) 学校といえば、コンクリートの冷たい廊下、そんなイメージだが、 ここは廊下は全ての階がフローリング張り。木造校舎だから壁天井も全て フローリング。木の香りが漂う。 (・・・ってそんなことに感心してる場合じゃないんだな) 「次の方。どうぞ」 「は、はい・・・」 光が面接室に入ると・・・ (う、うお・・・) 黄色のスーツやら、花柄のブラウスやら・・・なんとも派手な 井出達の面接官に光は一瞬顔がひきつった。 (・・・サラリーマンの就職の面接じゃないもんな。ふぅ・・・ それにしてもインパクトありすぎ・・・) 緊張というよりは疲れが増す・・・ 面接が始り、一通り、趣味、志望動機、最近気になる出来事・・・等など 一般的な質問をされ、応えていく。 (とりあえず、何事もなく・・・) と、光が安堵していると・・・ パチン・・・ (あ・・・っ) ピン止め2本が光の髪から落ちて無理やりに右に寄せていた髪が 流れて右頬が露になってしまった・・・ 「・・・え・・・」 面接官達の視線が一点集中する。 「あ・・・。あ・・・。す、すみません・・・」 光は慌ててピンを拾い、髪を寄せて隠して止めた。 (・・・な、なんで落ちるの・・・。なんで・・・) 室内になんとも重たい空気が流れる・・・ 第一声を発したのが黄色いジャケットの中年の 男の面接官。 「失礼だけど・・・。その右頬のこと・・・聞いてもいい?」 「・・・。あ、お、幼い頃に・・・。火傷で・・・」 「そう・・・」 「あ、あの・・・。やっぱり何か不都合ですか?」 「いや、そんなことはないけど・・・。ほら。やっぱり 今は”イケメンカリスマ”なーんて言葉が流行ってるから。 誰かを綺麗にする”側”も綺麗じゃないと・・・って言うじゃない?」 オネエキャラ系の面接官。 笑いながら光に直球で質問。 「・・・でも別にそんなこと・・・」 「特別綺麗とはいわないけど・・・ねぇ」 にやっと笑う面接官・・・ 鼻につく香水・・・ 光の中で何かが弾けた。 光は止め直したピンをはずじて 右頬を晒した。 そして面接官を真直ぐに見据えた・・・ 「そんなに私の顔が問題なことですか。皆さん」 「なっ・・・」 面接官達は、キレた光の怒号にざわめく。 「 大切なのはどうやって相手に喜んでもらうか、自分に自信を持って もらうかでしょ!?」 光の心は止まらない。 「イケメンだの、美脚だの、セレブ美人だのって・・・。カタカナ並べやがって 五月蝿いんですよ!!世の中は!!子供のうちから 可愛い子がいい、二枚目の方がいい、そんな価値観植えつけて化粧品だの、ブランドだの 作って儲けて・・・。お洒落っていうのは・・・人それぞれが自由に 選択して楽しむじゃないんですか・・・!?」 完全に頭に血が登ってる・・・ 偉そうに面接官に演説してる自分。 冷静になれと、どこかで思いつつも光の言葉は止まらない。 「・・・世の中には・・・。お化粧やお洒落に拘る暇もなく・・・ 病気や仕事に苦しんでる人もいて・・・」 光の脳裏に以前、病気で倒れたおばあさんの姿が浮かぶ・・・ おばあさんに施したのはほんの少しの白粉と口紅だけ それでもおばあさんは・・・ 満面の笑みで喜んでくれた。 「ううん・・・。逆に外見重視な世の中の 価値観に苦しんで雁字搦めになって・・・。自分を傷つける人もいる・・・ 自分の命さえ危険さらす程に・・・」 光の脳裏にの事が浮ぶ。 好きだった男に”お前よりいい女だ”と言われ、一方的にふられた少女。 綺麗になろうと、痩せようと、食事を絶ってダイエットを始めた。 そのうち・・・骨が皮膚の上に浮き出るような腕になってしまって・・・。 久しぶりに食べたお粥を口にした少女は・・・ どんな美人で足の長い女の子より素肌が綺麗な女の子なった。 そしてその少女は栄養士を今は目指しているという。 「人は変われます・・・。お金かけてお化粧しなくても・・・洋服買わなくても・・・。 人は変われます。幾つになってもどこに生きていても 絶対に変われます・・・。私はそう思います・・・。 奇麗事って唾はかれたって叩かれたって私は・・・。私は・・・そう信じています・・・」 光は深く一礼して・・・ 面接会場を後にした・・・ 今にも目尻を緩めると涙が出そうだ・・・ 俯いたまま校門を走り抜けて光は・・・ 誰もいない川原へと走った・・・ 川の流れをぼんやり見つめる光・・・。 力が抜けて、どっと疲れと後悔が襲う・・・。 「・・・」 晃がくれたお守りを取り出す・・・。 (・・・。やっちゃった・・・。ごめん。晃。せっかく くれたのに・・・。私、我慢できなくて・・・。やちゃったよ・・・) 親ほど違う面接官を前に 偉そうに演説してしまった自分。 最もらしいことを連ねたけれど、それは、 自分自身への慰めを面接官達の前で爆発させただけだと 思えた・・・ (・・・理屈だけは・・・立派で・・・。自分の顔をまだ 隠そうとする私・・・。矛盾してるよね・・・) ポタ・・・ お守りに涙が染みこんだ・・・ 「・・・おーい。光ちゃーん」 「・・・!」 光は俊也の声に驚いてびくっと肩を一瞬震わせた 「あれ。どしたの。なーんかオーラが暗いよ?アンタらしくな・・・」 (・・・え・・・(汗)) 光の顔を覗き込む俊也。 目が濡れていることに気づいた・・・ 「な・・・。何?な、泣いてんのか・・・?」 「・・・べ、別に・・・」 光は慌ててスーツの袖口で涙を拭った。 「・・・。マジ”泣き”かよ・・・。こっちもリアクション困るっての・・・。 ホレ」 俊也はハンカチを光に手渡した。 「・・・。何コレ・・・」 「見りゃ分んだろ。ともかく泣き止めよ。オレも対応に困る」 「・・・なんか・・・アンタがこんなに自然体で優しいのって・・・」 「素直に受け取れ!ったく・・・」 鼻の頭を少し戸惑ってかく俊也・・・ 「・・・ありがと。なんだか少し落ち着いた・・・」 「そうか。ならハンカチ返せ」 「・・・洗ってかえそうか?」 「別にいーよ。っていうかソレ、ブランド物だから 洗濯できねーの」 光はくすと少し微笑んでハンカチを返した。 「・・・ふぅ・・・。ここでぼうっとしてても仕方ない。家に帰って お笑い番組でも見るかな!」 スカートをパンパンと叩いて立ち上がる光。 「おい。なんなら近くまで乗せてってもいーぜ」 「いーよ。歩いて帰りたい気分だから。ありがとうね。田部井さん」 「・・・。”俊也”でいい」 「んじゃ、俊也。バイバイ!」 光は俊也の背中をバン!と叩いて 帰っていった・・・ (・・・なんだよ。アイツは・・・) 一瞬見た、光の涙・・・ 女の涙なんて何度も見てきたし、なんとも思わなかった・・・ けれど・・・ (・・・なんか・・・。気になるじゃねぇか・・・) 光の涙が 目に焼きついたのだった・・・ 光は家に帰るなり 「母さん!今日、すき焼きしよう!」 と、やけにハイテンション。 「お肉いっただきまーす!」 光の態度に登世子も一恵も試験で何かあったのだと勘付いていた。 だが、あえてふれない。 下手な慰めが一番傷つくことを二人とも知っているから・・・。 PPPPPP〜!! すき焼きの食卓に電話が鳴る。登世子が出た。 「光ー!!真柴さんから電話だよー!」 「ほいほい」 光はにこにこしながら電話に出た。 「・・・ごめん。夕食時に・・・。でも試験のこと・・・気になって・・・」 「・・・」 光は少し沈黙を置いて話し始めた。 「晃のお守り・・・。すごく効果あったみたいだ。面接じゃ 言いたいこと、言えたよ!」 「そうか・・・。ならいいんだけど・・・」 晃の心配気な声が切ない光。 「まぁあとは野となれ山となれで、結果を待つしかないよ」 「光・・・」 「晃。私、試験を受けた、それだけでも自分で言うのもなんだけど、 すごく・・・前に進めたって思ってるんだ。だから、どうなっても 悔いは無いよ」 「・・・光・・・」 「なぁ。晃。明日、休みだったよね。カラオケでも行こう!」 「え、あ、ああ・・・」 光は言えない。 面接での出来事を言えば、晃はまた自分を責めるから・・・ (結果が大切なんじゃない・・・。行動したことが・・・大切・・・。 そう思う・・・。そう信じる・・・) 試験の合否が送られてくるのは一週間後。 光の心に 後悔はなかった・・・
※美容学校の受験のことなど詳細はネット で少し調べてみましたがいまいちよく分からなかったので 色々、違う点があるかもしれませんが その辺りはスルーしてください(>_<)。調査力が乏しくすみません(汗)