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シャイン
〜一日だけ・・・彼氏彼女〜
光宅。朝。 速達が送られてきた。 風を開封した光・・・ 「う、う、うわあああ!!やったあああ!!」 光の部屋からガラスが突き破れるほどの光の歓声が響く。 「な、何事だよ!光!」 一恵と登世子が光の部屋に駆けつける。 「・・・。サクラが咲いた」 「え?」 光は合格通知を二人に見せた。 「お姉ちゃん!やったじゃん!」 「ほう。これはまた祝い酒の理由が出来たね」 「・・・うん・・・」 だけど光はどこか、冴えない。 「どうしたの。お姉ちゃん嬉しくないの?」 「・・・駄目だと思ってたから・・・。ピンとこなくて・・・。 それになんか・・・。不安になってきた。ちゃんと務まるのかなって・・・」 「お姉ちゃん」 「・・・あ・・・。駄目だな。私の悪い癖だ・・・。勝手に”マイナス思考”」 (光・・・) バン!! 登世子は光の背中を、思いっきりびんたした。 「イタタ・・・!何すんのさ。母さん」 「もし・・・。学校でアンタを馬鹿にする阿呆なガキ共がいたら すぐ私にいいな。すっとんでって尻に張り手くらわしてやるから!」 「母さん・・・」 「だから・・・。アンタは何も心配せず、頑張りナ!!いいね!!」 「・・・ありがとう。母さん。私・・・頑張る・・・!」 登世子の張り手ほど心強く 頼もしいものはない。 なんてったって母の愛情と根性がしみこんだ手だ。 光が学校でからかわれて部屋で一人泣いていた時も。 からかった相手の家に乗り込んで本当に相手の子供に 一発食らわせたこともあった。 (・・・応援してくれる人がいる・・・。どんなことにも 耐えられる・・・。きっと・・・) 好奇な視線を送られる。 くすくす笑われる キモイだの、なんだの色々言われるかもしれない。 (もうそんなこと気にしられない・・・。気にしてたら私は・・・ 本当に何も出来ない人間になってしまう・・・) 合格通知。 自分が認められた証拠の第一歩。 同時に・・・ 新しい環境が始る印。 (・・・。大丈夫・・・。きっと大丈夫・・・) 他人のことなんか気にしない。 気にするべきは・・・ 自分の心意気 そしてそれを応援してくれる人・・・ 光の不安はやる気へと変わる・・・
早速光は晃に受かったことを電話で報告。 「・・・光・・・本当によかったな・・・。オレ・・・ホントに嬉しいよ・・・」 「・・・うん・・・」 電話口の晃の声・・・ 息が篭って・・・本当に嬉しそうな気持ちが伝わってくる。 「そうだ・・・。なんかお祝いしないとな・・・!光、何が欲しい!??」 「え・・・な、何がっていわれても・・・」 何かを祝ってもらうなんて・・・ 光はあまりないから何も浮ばない 「じゃあ・・・どこかへ行こうか・・・?」 「え・・・?」 「光の行きたい場所・・・。何処かない?」 「行きたい場所・・・」 光がとある場所が浮ぶ。 「・・・じゃあ・・・。動物園がいいな・・・」 平日の動物園。 季節も冬場だということで人も疎らだ。 「子供っぽかったかな」 「いいや。そんなことないよ。俺、動物園なんて小学校の 遠足以来だ」 チケットを光に渡す晃。 「何から見る?」 「うーん・・・。じゃあ・・・。象!」 という訳で象から始った動物園めぐり 大きな鼻が藁を食べている。 「象ってね・・・体は大きいけど結構性格がデリケートなんだってさ」 「へぇー・・・。あ、ホントだ」 長い大きな鼻で膝小僧をかいている。 「・・・象に孫の手貸してあげたくなるな」 「・・・折れるかもな。ふふ」 穏やかな光の笑顔・・・ (・・・光・・・。不安なんだな・・・) けれど笑顔の裏は不安で一杯。 新しい世界。新しい人間関係・・・ 誰もが不安と緊張を感じるものだが、光にとっては 数倍、数十倍だろう。 (・・・今日は・・・楽しませたい・・・) 「なぁ。晃次、ペンギン見にいこ、ペンギン」 「ああ、そうだな・・・」 いつもより少しだけ元気な光。 (ありのままの光のそばに・・・いてあげたいんだ) 「あはは。ペンギン、転んでる。可愛い。あの歩き方がなんとも いえなく可愛いだよな〜」 ぴょこぴょこ歩くペンギンの親子。 光は目をきらきらさせて見ている。 「光はペンギンがすきなの?」 「うん。飛べない鳥だけどさ・・・。その代わり、空を見上げられる、 地上から見上げる空を綺麗さを・・・知ってるから」 「・・・光はロマンチストだな。光も可愛い」 「///か、からかうなっ。り、リアクションに困るじゃんか・・・」 光の素直さ。 照れ顔もこんなに近くで見られる。 「あ、ペンギンの親子、滑走体勢にはいったよ!」 光は体を乗り出して指差す 滑り台をお腹をつけて滑ってプールに・・・どぼん! 「お〜!!親子ペンギン見事に不時着!ふふ・・・」 「ああ、見事な滑りだった!拍手!!」 親子ペンギンに二人は拍手喝さい。 「あ、お礼言ってくれてるよ」 ペンギンの親子は水の中で羽根をパタパタとばたつかせて 二人に手をふっているよう・・・ 「ふふ。ペンギン親子、いつまでも仲良くね!」 光も手を振り返す・・・ それから二人は色々な動物を見て回った。 「うさぎ、可愛いなぁ。こんなに耳長いと帽子かぶれないね」 「ふははは。相当に長い帽子がいるよなー・・・」 子うさぎをだっこする光と晃。 「かぶれるよー。ほら、晃」 晃が振り向くと、光は自分の服の中にうさぎを1ひき いれちゃってます。 ひょこっと襟から長い耳がでていて・・・ 「ふははは。でも、耳、出ちゃってるじゃないか」 「あ、そか・・・へへ・・・」 あどけない微笑を浮かべる (なんか・・・。晃の言葉じゃないけど小学校の時の遠足みたいだな・・・) 小学校の遠足。 いい思い出はなかったけれど・・・ (今が楽しければいい・・・。そう・・・大切なのは”今”なんだから・・・) 「あ、毛づくろいしてる・・・。親子かなぁ」 「ほのぼの家族。サザエさんち見てる気分だな」 ニホンザルの山を眺める二人。 猿山に毛づくろいをする親子サル。えさの芋をほお張っているさる・・・ 「・・・いい湯だな♪ってBGM聞こえてきそうだよな。ふふ」 猿山の下にはなんと温泉があり、何匹かの猿が気持ちよさそうに 湯に浸かっている。 「顔が茹っても分からないね」 「あははは。お酒飲んでる奴もいるかもな」 猿たちはなんとも気持ちよさそうな顔・・・ 見ているこちら側にも気持ちが和む・・・ 「あのぅ・・・。すみません。写真とってもらえませんか」 「あ、いいですよ」 光が振り向いて女の子のデジタルカメラを受け取った。 「・・・。あ、あの・・・。何か?」 「い、いえ別に・・・。あ、やっぱりいいです・・・っ。他の 人に頼みますから」 カップル達は光をチラチラと上目遣いを 送りながらその場を立ち去る・・・ ”すげぇな” まるで変な動物をみるような・・・ 「アイツらっ・・・!!」 晃はカップルを追いかけようとした 「晃!別にいいって・・・!」 「けど・・・っ」 「こんなこと・・・乗り越えなくちゃ・・・。私・・・学校を2年 頑張れない・・・」 光は微笑んで晃の手を離した・・・ 「・・・。今日はさ・・・。穏やかに過ごしたんだ・・・。 だから・・・お願い。今日は・・・笑っていてよ・・・。ね?」 「光・・・」 ポン!と晃の肩を軽く叩く。 「さーて。晃。お腹、減らないか?なんか売店で買ってくるよ!」 光は向こうの売店まで財布を持って走っていった。 (光・・・) こんな人も疎らな動物園でも 光への好奇な他人の眼差しは変わらない。 ”こういうことも乗り越えないと・・・いけないんだよ” (・・・光本人より・・・。オレの方が・・・乗り越えないと・・・。 オレ自身が・・・) 罪悪感 それこそが光を傷つける・・・ (・・・光・・・) ”お願い。今日は穏やかに過ごしたんだ・・・” 光の願いなら 感情的になる自分は捨てよう。 「今日は・・・ゆっくり・・・。光と二人で・・・。楽しく・・・」 のんびり日向ぼっこする猿たち・・・ 晃にありのままで行こうと伝えているよう・・・ (あ・・・光。あぶなっ・・・) 通り過ぎる少女とぶつかる光。 光は転んだ少女を抱き上げて膝小僧を優しく撫でている・・・ (光・・・。やっぱり優しいな・・・。特に小さな子には・・・) そんな光の優しい眼差しが晃は好きだ。 光のいいところが見つけられたみたいで嬉しくて・・・。 「・・・。優しい彼女さんですねぇ・・・」 隣の老夫婦が晃に声をかけた。 「こんにちは。今日は彼女さんとご一緒に来られたの?」 「え、あ・・・はい」 「私たちも昔ここでよくデートをしたものです。ふふ。ね、貴方」 「む、昔のことだ」 旦那さんは少し頬を染めた。 微笑ましい夫婦。 「今日だけ・・・若い頃にもどって”恋人に”なろうねって・・・」 「おい・・・。あんまり他人様に恥ずかしいことを連発するな・・・(照)」 「あは。てれちゃって・・・。貴方も彼女のこと・・・大切にしてあげてね」 少女に笑いかける光・・・ そんな光を遠く見つめて (・・・) 晃は・・・ 言う・・・ 「はい・・・。大切にします。絶対に・・・」 手をふって笑顔で こちらに走ってくる光・・・ 「ふふふ。ずっと仲良くね。では私達はこれで・・・」 夫婦たちはお辞儀をして去っていく・・・ (ずっと・・・仲良く・・・か・・・) 走ってくる光の笑顔が・・・ (・・・まぶしいな・・・) 「晃・・・どうかしたのか?」 「いや・・・」 「あ、それよりごめん。そこでちょっと人とぶつかって・・・ たこ焼き半分・・・落としちゃって」 たこ焼きのケースの中には6個あったはずのたこ焼きが3個に・・・ 「いいさ。2個と半分にわけたらいいんだから。ベンチに座って食べようぜ」 「うん」 猿山の前の青いベンチ。 光と晃が並んで座り一個ずつ、爪楊枝に刺したたこ焼きを 食べる。 「いただきます!」 ぱくり。 光は一口でほお張る。 「んー・・・。まぁまぁの味かな。でもちょっとたこが固い」 「ふふ。だな」 口元に青海苔がついている。 「・・・ふふ。光。ついてるぞ。」 「え・・・」 晃はハンカチで光の口元を拭く晃・・・ 「///」 「・・・ん?どうしたんだ」 光は晃の手をそっと払った・・・ 「・・・。こ、こういうことは・・・カップルがするもんだろ・・・?」 「・・・。いいじゃないか・・・。今日はオレと光は・・・。あんな風な・・・」 晃は猿の夫婦を眺める・・・ 「ほのぼの・・・親子みたいなね」 「えー・・・?親子?」 「ほら。あの小猿、光に似てるから」 「・・・それは褒め言葉ですか。もう〜・・・」 光が笑っている。 自分の隣で・・・ (なぁ・・・。お前達から見たら・・・。オレと光・・・どうみえる?) 子猿たちに心の中で問いかける (・・・彼氏と彼女・・・。見えるか・・・?) 一匹の小猿がうんうんと応えるように頷いて・・・ (そうか・・・。見えるか・・・。そうか・・・) 「・・・ありがとな」 「ん?誰にお礼言ったんだ?」 「・・・心の友に」 「??」 首を傾げる光・・・ 「ふふ。あ、たこ焼き残ってるもらい!」 「あ、ずるい・・・!」 晃はたこ焼きを口元までもっていきとめる・・・ 「嘘嘘。はんぶんこ、だよな」 「そうそう」 爪楊枝で一個のたこやきを半分に割る。 「公平に」 「そう。公平に。」 ベンチに並んで・・・ 仲良く食べる・・・ 旗から見たら・・・ 恋人同士に見えるかな・・・ (でも・・・。光はそれを望まない・・・。でも・・・。今日だけ・・・) 「ほら。光。今度はきりん見に行こうぜ」 晃は光の手を握って引っ張る。 (今日だけ・・・。彼氏と彼女だ・・・) 二人は手を繋いで歩く。 力強く握られた手・・・ (・・・晃・・・) 心の奥がどこかくすぐったい。 意識しないようしても 心のドキドキは (今日だけ・・・・・・ドキドキしてよう・・・。普通の・・・普通の 女の子みたいに・・・。ね・・・?いいよな・・・?お猿さん) 小猿がやっぱるうんうん、と頷く。 (ふふ・・・ありがとね・・・) 小春日和・・・ 二人の心は 一日だけ・・・ デートする彼氏と彼女の ように・・・ 一日温かかった・・・