シャイン
〜夕暮れ苺キャンディ〜
俊也の日課は携帯チェック。
なじみの客からのメールは欠かさず返事を出す。
それが売り上げに繋がるし、リピーターの客を繋ぎとめられるからだ。
携帯は仕事用、仕事(仲間内)用、そしてプライベート用の3つを
使いこなす。
プライベート用の携帯はスケルトン。最近新規で買い換えたのだ。
(・・・他のメールは無視)
俊也プライベート用のアドレスを知る者はきわめて少ない。
「・・・光から来てねぇ・・・。このオレ様がメール出してやってンのに
返事よこさないとは全くムカつく女だぜ」
一日に一回は出しているのに一度も返事はない。
メールに何が描かれているかというと。
『実はオレ・・・。孤児なんだ。母親は行方知れずで・・・』
そんなわざとらしい嘘の身の上話もあれば。
『今日のオレの運勢は最高だってよ』
興味ない、占い話。
大抵の若い女はこれで何かしらのリアクションがあるはずなのに
光からは一向もない。
そればかりか・・・。
「・・・なっ。アイツ、アドレス変えやがったな・・・!」
五月蝿いと光に思われたのかアドレス変更され。
「・・・くそ・・・。あんな女に振り回されたくもねぇが
このまま負けを認めるのもムカつく・・・」
と、さらに妙な闘志(?)が俊也に沸いてきていた。
「こうなったら拉致決定だな」
俊也は美容学校の校門の近くに車を止めて光を待ち伏せ。
(お、出てきた出てきた)
「おーい。ひっかるちゃん」
光が振り向いた隙に
「隙あり!!お持ち帰り〜」
「うわ!!何すんだ!!」
光をひょいっと抱えてまたもや後部座席に放り込んだ。
「しゅっぱーつ!!」
「何が出発だ!!降ろせったら!!」
「もう遅い。んじゃ発車オーラい!」
俊也は暴れる光にお構いなく、エンジンをかけて
走り去った。
たどり着いた場所は・・・
「・・・やっぱいいねぇ・・・潮の香りは」
穏やかな波の海。
海岸沿いの駐車場に車を止めて、眺める。
「・・・あのさ。見事にポーズ決めてるとこ悪いんだけど
何か私に用なわけ?」
「用がなきゃお前に会っちゃいけねぇのか・・・?ただ会いたかっただけさ・・・」
となんとも潤んだ瞳で台詞をかますが・・・
「私は会いたくない。っていうか夕方から相撲はいるんだ。
早く家に帰してくれ」
「・・・」
相撲中継の方が俊也より大事だという光。
「光。お前はオレと一緒にいて、一度もどきっとかしたことねぇのか」
「ない」
即答。
(・・・。ふっ。いいキャラしてんじゃねぇか。闘志がわくぜ)
ちょっぴり自尊心がへこむホスト人気ナンバーワンの俊也君。
「ま、せっかく海に来たんだ。慌てて帰ることもねぇだろ」
二人はとりあえず、砂浜に出た。
流木に腰を降ろし、サラッと髪を掻き揚げる俊也。
「どうして・・・。人ってさ。海に来たがるんだろうな・・・。切なくなるっていうか・・・」
「・・・」
俊也は某二枚目俳優並に演技に力を入れます。
「心が寂しいとき来たくなるよな・・・。なぁ光・・・って、お前、何してんだよ(汗)」
光は俊也の演技も無視して、木の棒で砂をほじくっていた。
「え?あー、面白い貝殻探し。持って帰る」
貝殻をティッシュでくるむ光。
俊也の名演技も全く無視のようで。
「・・・。そんなもん、何にすんだ?」
「色々利用しますよ。髪飾り作ったり・・・。それから
ブローチの材料にしたり・・・」
「・・・お前が身に着けるのか?」
「”そんなキャラかよ”って言いたんだろうがこれは私じゃないよ。
お客様に贈るためだよ」
「・・・」
俊也は光のリュックのキーホルダーに視線をやった。
鳥の羽やビーズの小物で色々作って在ります。
「・・・めんどくさそう。よく作るな。っていうかオレ、手作りってのは
ノーサンキュー。重い」
「アンタから見ればガラクタかもしれないけど、これを喜んでくれる人も
いるんだ。それにね、贈った相手に例え、捨てられても私”が”今、作りたいだけ。
それだけだ」
「・・・そうですか。偉い偉い」
俊也がいくら茶化そうが、光は無視して
貝殻を拾い続ける。
俊也に少し苛立ちが走るが、それがばれたくないので煙草をふかして
隠す。
相手が怒ったり、反対に共感したり・・・
そういう相手の反応を見るのが俊也は好きなのに
光は何の反応もしない。
(・・・なんか・・・それって結構へこんだり・・・ってわけはねぇけど・・・)
黙々と貝殻や小石を拾う光の横顔。
俊也はなんだか気になり・・・
「・・・やめてよ!!」
そんな俊也たちの耳に駐車場の方からなにやら言い争う声が聞こえてきた。
「うるせぇな。黙って乗れよ!!」
「やだ!!離してよッ!!」
若いカップル。よく見ると男が女の腕をつかんで無理やり車乗せようとしてた。
(ありゃー。別れ話がこじれたかそんなとこか。無視するに限るな)
「いやだったら!!」
だが、男は女を力ずくで車に乗せた。
(拉致るのか!?おいおいー・・・)
俊也は流石に止めにはいろうかと一瞬思ったが・・・
「おい、お前、手、離してあげなよ!!」
光の方が先に走って、女を自分の背中に隠した。
(正義の味方ならぬ、正義の光ちゃんですか?)
と、突っ込みながら、俊也は暫し傍観。
「なんだ。お前、どけ、関係ないだろ!」
「関係ないけど、女の人を強引に連れ去ろうなんて、無視できない!!」
光は物怖じせず、男に言い放った。
「やかましい。他人には関係ない、来い、マキ!(女の名前)」
男は光を押しのけて、女の手を引っ張ろうとしたが、光が男を突き飛ばして阻止。
「・・・お前・・・っ。いい加減にしねぇと怪我するぞッ。化け物みてぇな顔
しやがって」
男はひょろっとした拳を光に見せ付けた。
「化け物で結構。・・・けど、その細い腕つかんで前に私があんたを投げ飛ばすよ?
私は女の事をけなす奴と暴力男だけは許せないンだ!あ、でも警察よんだ方が早いか」
光はポケットから携帯を取り出してかけるフリ。
「あ、もしもし、警察ですか、ここに誘拐犯が・・・」
「て、てめぇえッ・・・」
ヒョロ男(光が心の中で命名)は光に掴みかかったが、ひょいとっとかわして
ヒョロ男の足をひっかけた。
すっころぶヒョロ男。
「あー!!パトカーだ!」
「え!?や、やべぇ!!」
どこからか俊也の声が響いてヒョロ男は慄き、さっさと車に乗って
走り去っていった・・・
「バーか。こんなすぐ着くわけねーだろ」
俊也が車の陰から出て来て・・・
「さてさてお嬢さん二人お怪我は・・・」
ナイトぶり(?)を発揮した俊也がさりげなく声をかけるが・・・
「・・・あの・・・大丈夫ですか?お怪我は・・・」
光の方がごく自然に怯える女性に声をかけていた。
(・・・オレは”オチ”にもならねぇってか(汗))
俊也は車で女性を近くの交番まで送ることにした。
女性はよほど怖かったのかまだ震えて・・・
光はうっすら涙を浮かべる女性の背中を摩る・・・
「大丈夫ですか。あの・・・もしよかったら、キャンディでも食べて
落ち着いて・・・」
そしてあの、”苺”キャンディを女性に渡す・・・
「・・・。ありがとう・・・」
苺キャンディの甘い匂いが・・・車の中で香る。
そのキャンディの包みの苺のイラストが可愛さに少し女性の顔に
微笑が浮んで・・・
「・・・。大分落ち着きました・・・。ご馳走様です・・・」
「・・・よかった・・・。あ、キャンディならまだたらふくあるので
おかわりしてください」
(・・・”たらふくお変わり”って・・・なんか・・・可愛い)
バックミラーで二人のやり取りに・・・
俊也もふっと和み系の笑みを浮かべる・・・
(・・・やべ・・・”いい人キャラ”になりそうだぜ・・・)
最後の最後まで素直なじゃない俊也。
女性を無事送り、俊也と光は交番を後にした・・・
帰りの国道はラッシュアワー。
少し渋滞してスロー運転。
「光。今日はとっても大活躍だったな。うん実に強気ひーローだった」
「茶化してるのか?まぁいいけど・・・」
「でも強い女はオレは嫌いじゃないけど。相手がもし、ナイフかなんか
持ってたら洒落じゃねぇぜ?いくら光が強くても・・・」
「・・・。そうか・・・そうだな・・・」
やけに素直な光の応えに俊也はちょっと意外。
「・・・ただ・・・。どうしても女の人が傷つくのが嫌なんだ・・・。だから
勝手に体が動いて・・・。そういうの・・・変かな・・・?」
「ふふ。いーや・・・。でも光だって一応、”女”なんだぜ?
光が傷ついたら泣く人間がいるんじゃねぇの?」
「あ・・・。そか。うん。そうだ。母さんと一恵が心配するよな。
アドバイスありがと。これから気をつけますデス」
急に素直になった光・・・。
俊也の顔が自然に微笑む。
(はっ。いかん。またなんか和み系の顔に・・・)
俊也はまたきりっと表情筋を立て直します。
「・・・。光」
「ん?」
「お前は・・・。どうしてそんなに有りの侭でいられる?」
「何突然・・・」
シリアス顔の俊也に光は少し警戒。
「失礼な台詞だが、光は人一倍・・・。人間の嫌な部分を見て来てる筈だ。
上辺だけの優しさ、誰かを虐げる沢山の言葉・・・」
「うん。つい最近では変なホストさんに幾つも言われました」
「・・・。はいはい。すみません(汗)」
俊也はCDをかけた。
曲はミスチル。
「人間不信になって当然の筈なのにどうして・・・。光は誰かに微笑むんだ?」
「・・・私の笑顔なんて誰も見たくないでしょ」
「そういう意味じゃなくて・・・」
光はポケットから、苺キャンディを出した。
「・・・。今でも人は怖い・・・視線も怖い・・・。でも私はやっぱり
人を信じたい・・・。信じることは捨てたくないんだ・・・」
キャンディの包みを開け・・・
光も一個、食べた・・・
「・・・。ちょっとクサイ台詞だけど・・・」
「いやいや。結構様になってたぜ」
「・・・。ミスチルか・・・。私も好きだ・・・」
「そうか。奇遇で何よりだ」
それから暫く・・・
光はミスチルの曲を耳を澄まして聞く・・・
歌詞を一つ一つ噛み締めるように・・・
「・・・。光・・・?」
俊也がバックミラーで光の様子を見ると・・・
(寝てやがる・・・)
座席に寄りかかって
眠る光・・・。
(・・・警戒心ゼロか・・・(汗)全く意識されてねぇのか。オレは)
それでも
始めてみる光の寝顔は・・・
(・・・結構可愛いジャン)
ラッシュアワー。
俊也は少しだけ感謝したのだった・・・