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シャイン

〜ファーストフレンド〜
光が通う美容専門学校では各目指すコースごとのカリキュラムが ある。メイクアップ総合、エステシャン総合、美容師総合・・・ だが、メイク&美容師混合のコースもあり、光はそのコースで勉強している。 メイクの講師はアメリカ仕込み最新メーキャップアーティストとよばれるほどの 業界では有名な講師。 今日は実際に生徒同士でそれぞれ『テーマ』を決めて それに沿ったメイクを仕上げる・・・というような自由課題的な内容の授業。 だが、光と組む生徒はかなり戸惑いを見せた。 (ま・・・。仕方ないけどやっぱりちょっとへこむな・・・) 「あの・・・。横山さんもしよかったら私と一緒に・・・」 「神崎さん」 比較的大人しめのクラスメート神埼正美。 「でも・・・いいんですか?私とで」 「はいっていうか・・・。他の人とじゃ空気が合わなくて」 他の生徒達は早々とテーマを見つけ、メイクを始めていた 「・・・じゃあ神崎さん。宜しくお願いします」 「あ、こちらこそ、お願いします」 小柄で可愛らしい正美。礼儀正しさに光は好感を持った。 机に鏡を置く。 「・・・あの・・・。テーマ、どうしましょう・・・」 「そうだなぁ・・・」 隣のグループはファッション雑誌を参考にしている。 どうやら芸能人の誰かをテーマにしているらしい。 そのほかのグループのテーマは ”季節”だったり、”30代女性”といった年齢だったり・・・ 光たちはテーマさえ決まっていない。 「・・・どうしようましょう・・・。神崎さんは何かありますか?」 「私・・・。私は・・・。肌、弱くてなかなかお化粧できないんです。 メイク勉強してるのに変だけど・・・」 (お化粧ができないか。うーん・・・。そっか。それでいいんだ) 光は何かひらめいたことがあるらしい。 「神崎さん。神崎さんがモデルになってくださいませんか?」 「え・・・?」 「私・・・。鏡見るの苦手で・・・。私もメイク勉強してるって言うのに おかしいですね。ふふ」 光の微笑みに正美も釣られて微笑んだ。 (・・・横山さんは可愛い笑顔するんだ・・・) どう光と接していいか分からなかった正美。光の笑顔でその戸惑いが和らいだ気がした。 「それで横山さん。私達のテーマって・・・」 「神崎さんがさっき言ったことです。”お化粧が出来ない人のお化粧”」 「え・・・?」 光は正美を座らせて、前髪をあげて止め、眉を少し描き、 余計な眉のラインをカットした。 「うーんとそれから・・・」 光は与えられた化粧道具はほとんど使わない。 少し気になる部分の目尻などにファンデーションをつけただけ。 変わりに正美の肩まである髪をアップしてピンとゴムで止めた。 「はい。終わりです」 「え・・・?」 正美はかなり驚く。 「何らかの理由でお化粧が出来ない人っていると思うんです。 神崎さんみたいにお肌が弱い人だったり、病気の人だったり・・・。 だから、私は”相手に合ったメイク法を探す”っていうことを テーマにしたいな・・・なんてちょっと偉そうに考えてみました」 光は少し申し訳なさそうに言った。 「・・・あの。やっぱり駄目でしょうか。こういうテーマは・・・」 「ううん・・・。いいと思います。メイク道具をつかうこと”だけ”が メイクじゃないもの。肌が弱いひとならばその人にあったメイク道具とメイク法を 一緒に探したり・・・そういうことって大切だと思います」 「ありがとうございます。賛成してくれて」 「いえ、こちらこそ」 二人はお互いにお辞儀をしあった。 「・・・ふふ。なんか変ですね」 「そうですね。ふふ・・・」 光は少しだけ、正美と心が通じ合った気がした。 同性の友達はいなかった。 いてもそれはどこか”可哀相な貴方に友達になってあげてる”みたいな感じがして・・・。 (・・・神崎さんと少しだけ・・・”友達”に近づけたらいいな・・・) そう思いながら光は課題プリントにテーマの説明を書いた・・・ そして・・・ 講師が教室に戻った。 「・・・で、春という季節でピンクを基調してメイクしてみました」 皆の前に出て発表していく・・・ そして光達の番・・・ クラスメート達は孤立していた光と正美がどんなテーマにしたかと 好奇な視線で注目。 ”なにあれ・・・。ほとんど素顔じゃない” ひそひそとそんな小声が聞こえてくる。 正美が椅子に座り、光が説明していく。 「私達が考えたテーマは『メークできない人のメイク』です」 くす・・・ 微かに聞こえた嘲笑いの声・・・ 光は気にせず説明を続ける。 「肌が弱くて・・・世の中に溢れる化粧品を使うことができない人が結構います。 ”敏感肌用”という名目の化粧品もありますが、それが全ての人の肌にあう 製品かどうかはわかりません。それに逆に肌の状態を悪くしてしまうことも・・・」 光は与えられた化粧品の裏側の説明の部分を指差しながら話す。 「最近の皮膚科ではその人にあった化粧品を作ってくれるところもありますが まだまだ少ないと聞きます。それに自分にあった化粧品が見つかったとしても ファンデーション、リップ・・・他のお化粧品も全部そろえるのはとても大変です」 ずらっと並んだ化粧品の瓶。光はその瓶や器に触れながら説明を続ける。 「また、病気がちの人、匂いに敏感な人は化粧品屋にいくことさえ できません。だから・・・私が考えたのはお化粧品が出来なくても”お化粧”する 方法です」 光は眉をカットした部分と、アップした髪の説明をする。 「ご覧の通り、眉と薄いリップ、ファンデーションを少し塗っただけで ほとんどあとは何もしていません。私達が伝えたいのは”その人に合ったメイクを一緒に 見つけていく”ということ・・・。私達の考えるテーマはそこにあります。色々なメイク方を 探していく・・・ということです。以上です」 光と正美が自分の席に戻る・・・ 周囲からくすくすと笑い声が聞こえてくるが 二人とも気にしない。 「さて・・・。これで全員終わったわけか・・・。ま、それぞれ テーマに合った内容だったと思う。大切なのは技術やスキルアップじゃない。 ”自分が目指すメイクは一体何か”ということ・・・。後でレポートにまとめて もう一回提出しろ。という所でもう昼休みだなー・・・」 授業が終わり、光と正美はほっと安堵していた。 ”メイクしないメイク、なんて訳わかんない” そんな声がちらほら、休み時間、聞こえてきた。 だが、そんなこと気にしない。 光達は後ろ指さされる発表はしてないからだ。 光と正美は食堂での昼食はやめて、校舎の裏庭のベンチで弁当を 食べることにした。 「わぁ。横山さんのお弁当は美味しそうですね」 おにぎりに、玉子焼き、シャケにいたって定番のメニューだが。 「神崎さんは・・・。サンドイッチだけなんですか?」 「はい。ちょっとアレルギーがあって油ものが駄目なんです。だからお弁当のメニューも あっさり味ばっかりで・・・」 正美はサンドイッチを静かに食べる。 「・・・。私・・・。本当は皮膚科医になりたかったんです」 「え?」 「私みたいに皮膚の病気で悩むオンナノコや子供達を助けたくて・・・。 でもお医者さんになるのってお金が掛かりすぎて・・・無理でした・・・。だから せめて私みたいに皮膚の病気でお化粧ができない女の子達の手助けができたらって・・・」 「・・・神崎さん・・・」 正美の意外な一面を知って・・・ 光は少し嬉しかった。 「でも可笑しいですよね。私自身がまだ何も見つけられてないのに」 「そんなことないです。神崎さん”だからこそ”見つかるものって 必ずあると思います」 「横山さん・・・」 「絶対あります。私、神崎さんの考え、すっごく好きッス!! 優しさに満ちてるっていうか・・・、とにかくすごく素敵ッス!!」 光はおにぎりをパクパクとほお張って力説・・・ 「・・・ふふ。ふふふふ・・・。横山さん、口元・・・」 「え、あ、ああ、こ、こいつは失敬しました・・・」 ご飯粒を光はぱくっと食べた。 「横山さんって・・・。本当はすごく明るくて元気な人なんですね。 あ、ごめんなさい。私なんか失礼なことを・・・」 「いやいや気になさらないでください見た目は”お岩”ですけど”ねあか”のお岩ってことで お皿の変わりにおにぎり数えちゃいます。ひとーつふたーつ・・・」 光はおにぎりを数えながら、3つもいっぺんに平らげた。 光のお茶目ぶりにくすくす可愛く笑う正美。 「・・・横山さんは・・・強い人ですよね」 「え?」 「私の十代は・・・。コンプレックスの塊でした。今でもそうです」 そう語る正美の瞳はどこか・・・痛みを秘めている瞳に光には見えた。 「・・・。私もです。未だに鏡を真直ぐ見るのは辛いし、人の視線も怖い・・・。 携帯用の帽子もバックにはいってたりして」 バックの中の野球帽を正美に見せる光。 「ちなみに巨人FANです。ハイ。清原ガンバレ(笑)」 「ふふふ・・・。そうやって辛い部分を”笑い”に変えられる横山さんが・・・私は 凄いなって思って・・・」 「いやいや。大層な人間じゃありません。ふて腐れるのに疲れただけで・・・。 でも”こんな私でも誰かを笑顔に出来ない”かなって・・・少しだけプラス思考になれました」 弁当箱をバックにしまう光。 バックから光は白い貝殻のブローチを正美に手渡す。 「あの・・・。これもしよかったらどうぞ。手作りで つまらないものですが・・・」 「ええ、いいんですか?可愛い・・・!」 正美は本当に嬉しそうな顔で受け取ってくれた。 光の顔にも笑みがこぼれ・・・ 「人から見たらそんなブローチで何が変わるんだって思うかもしれないけど・・・ でも髪留め一つ、ブローチ一つだってそれだって立派な”お洒落”だと思うんです」 「はい。私もそう思います。何だか嬉しいな。同じ意見の人に出会えて・・・」 (神崎さん・・・) ”もしかしたら・・・。友達になれるかもしれない” 光の心にそんな気持ちが湧いてきた。 妙な同情や上辺だけじゃない友達が・・・ (よし・・・!思い切って申し込んでみよう!) 「神崎さん!」 「は、はい・・・!」 「あの・・・。もしよかったら私と・・・。友達になってください! お願いします!」 光は頭を下げて、正美に手を差し出した・・・ だが、これはまるで・・・ 「・・・ふふ。ふふふ。まるで告白されてるみたい・・・。うふふ・・・」 「え・・・。あ、あ、そーいえば。そーですね。まるで”ねると〇”の 告白たいむだ・・・。石橋貴〇が出てきそうな・・・」 光は恥ずかしそうに頬をかく。 「あ、あのちなみにお、お返事は・・・」 「・・・はい。喜んで!宜しくお願いします」 「あ、ありがとうございます!!」 光は拳を握って大喜び・・・ (ふふ・・・。本当に面白くて・・・可愛い人なんだな・・・) 正美の中で、何かが解けていく。 壁のような気持ちが・・・ 「あ、では早速あの・・・、メールアドレスなど交換しませんか? 拙いアドレスですが、お暇なときに・・・」 「うふふふいいですよ」 二人は互いの携帯にアドレスを入力しあう。 「おお。なかなか素敵なアドレスですね。清清しいアドレスです」 「ふははは。ホントに横山さんの喋り方って面白い。なんだかお侍 さんみたい」 「お、お侍さん!?そ、それは褒め言葉か否か・・・」 「うふふふ・・・」 ベンチに二人。 太陽の下で笑いあったお昼休みだった・・・ 『晃・・・!私にも友達が出来たよ・・・!』 光は嬉しくてすぐに晃にメールした。 光のメールに晃も喜びを隠せない。 学校の帰り、晃の家まで行って今日の出来事を話した。 「そうか・・・。よかったな。光・・・」 「うん・・・。なんかいい年してこんなに浮かれるのも変だけどさ・・・。 ホント、嬉しくて・・・」 「光・・・」 「私の作ったブローチ嬉しそうに受け取ってくれたんだ・・・。受け取って・・・ くれたんだ・・・」 (光・・・) 光は瞳にうっすら涙が滲む・・・ クラスになじめず、でもそれでもいいと思っていた。 勉強さえ出来れば。 でも・・・ 心の通じる誰かが 側にいることがこんなに心強いなんて・・・ 「本当に・・・よかったな・・・。光」 「うん。晃のお陰だ」 「え?」 「晃が・・・。晃が学校へ行って見ないかって勧めてくれたから・・・ 私は神崎さんに会えた。そして友達になれた・・・。晃のお陰だよ・・・」 「光・・・」 「ありがとな・・・。私に素敵な出会いをさせてくれて・・・。 本当に本当にありがとな・・・っ」 光は晃に頭を下げてお礼を言う・・・ (光・・・) 光の”ありがとう” その言葉を聞くたび 晃の心はふわっと羽根が生えたように やわらかく舞いあがる・・・ 「ありがとうな・・・。晃・・・」 押し込めて 押し込め続けた想いが 嬉しさで満ちた心からあふれ出す・・・。 「・・・お礼なんて・・・っ光・・・っ」 溢れた想いは・・・ 光の肩を引き寄せ・・・ 確かにその存在を確かめる・・・ 「晃・・・」 「お礼なんて言わないでくれ・・・。光からお礼言われるなんて オレ・・・オレ・・・。勘違いしそうに・・・なる・・・」 光の心にも・・・ 自分と同じ想いがあると・・・ 「・・・晃・・・」 「・・・。切ないよ・・・。光・・・。嬉しくて・・・。切ないよ・・・」 言葉に出来ない気持ち 押しとどめなければいけない気持ち・・・ 暫く二人は・・・ 襖に寄りかかって ただ・・・。肩を寄せ合う・・・ 「友達ができて・・・。よかったな・・・。ずっと友達でいればいいな・・・」 「うん・・・」 ”じゃあ光とオレは・・・なんだろう” そんな想いが浮ぶけれど・・・ 今は・・・ 嬉しい出来事を一緒に喜ぼう・・・ ”夢のパートナー”として ”親友”として・・・ ・・・大切な人として・・・