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シャイン

〜体育館裏の記憶〜
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光と晃。 祝日土日が一番予約が入りやすいときだ。 一仕事終えた帰り・・・ 光と晃を乗せた車は見慣れた建物の前を通り過ぎた。 (え・・・?) 「晃、停めてくれ・・・!」 光の声に晃は急ブレーキをかけた。 車が止まった場所とは・・・ (・・・小学校・・・) がらんと静まり返った校舎。 要塞の様なコンクリートで出来た建物。 光と晃が通っていた小学校だ・・・ 黒い重々しい門と柵には鎖がまかれ、『〇年閉鎖』と書いてある・・・ 「知らなかった・・・。廃校になってたなんて・・・」 小学校。 そこが光と晃が出逢った場所だ。 ・・・衝撃的な出来事として・・・ 「晃・・・。少し・・・覗いてみていってもいいか・・・?」 「え・・・?でも・・・ここは・・・」 晃の顔が曇る・・・ ここは・・・ (光に・・・傷を背負わせてしまった・・・) 「・・・晃。行ってみよう・・・」 「わかったよ・・・」 晃には・・・光が何か、けじめをつけようとしている 気がした・・・ (光が思うままに・・・。オレは着いていくだけだ・・・) 立ち入り禁止の柵を乗り越える二人・・・。 「不法侵入かな。やっぱりこれは・・・」 「・・・子供のころはよくやったもんだ」 「ものすんごいワルだねぇ。でも私もかくれんぼで ひとんちの庭、しょちゅうはいってた」 ギィ・・・ 職員室の勝手口から中に入る・・・ 職員室・・・ ここはいつも生徒達にとっては、一番近い大人の世界だった。 「・・・ガキのころ・・・。先公って生き物が大嫌いだった・・・。 反発ばっかりして・・・」 何度も連れて来られた。 担任から叱咤される度に・・・ 「私はあんまり入ったことないけど・・・。先生たちの この部屋は・・・何だか怖い雰囲気だったような気がする・・・」 学校行事の書かれたボード・・・ 教員達がここで働いたいたことを彷彿させる・・・ 職員室を出る・・・。 長い長い廊下・・・ 天井の電灯のコードがぶら下がり 荒れ果てている・・・ 2階の三年生の教室。 「3年2組・・・。私のクラスだ・・・」 光の席は前から3番目・・・ 窓際の席からいつも校庭の桜の木・・・ 「・・・今年は咲かないのかな・・・」 火傷の痕ができてから光の心の友達だった。 「知ってたよ。光はいーっつも・・・。休み時間 校庭ばっかみてた・・・」 五年生だった晃はあの事件があってから。休憩時間は いつも・・・2階に降りてきて光を見ていた。 小さな背中を丸めて椅子に座って・・・ ”オレのせいだ。オレがあの子をあんなに小さく したんだ” 胸が潰れそうだった。 「オレは・・・。光に一言も謝りもしないうちに転校しちまって・・・」 「・・・でも晃のおばあちゃん・・・かな。今思い出したんだけど 何度も何度もうちに誤りに来たよ・・・。腰を曲げて・・・」 「・・・ああ・・・。出来の悪い孫のために・・・。オレが高校生になっても 中学になっても・・・」 「でも・・・今はりーっぱな職人さんだよ。ふふ」 光は黒板に”株式会社(予定)社長・真柴晃”と大きく書いた。 「誇張しすぎだ。光」 「いやいや。社長には頑張ってもらわないとな〜♪」 光の笑顔・・・。 あの頃はこんなに側で光に微笑んでもらえるなんて 創造もしていなかった。 ただ・・・。罪の意識が痛くて・・・。 「晃・・・。体育館裏・・・。行こう・・・」 体育館裏 そこは光にとっても晃にとっても・・・ 忘れられない場所・・・ 「うわ・・・雑草がすごいな」 光の膝まで草が伸び、生え放題。 「・・・どの辺りだったかな・・・。私が晃と中学生の不良を 覗いていたのは」 草を掻き分けて引っこ抜く光。 草を引き抜くブチっという音が・・・ 晃の心にズシリと響く・・・ 「・・・。光・・・。オレ・・・オレ・・・」 「私・・・。後悔なんてしてないよ」 「え・・・?」 光は引っこ抜いた雑草をまとめる。 「晃を助けようとした自分に・・・後悔なんてしてないよ・・・。 だから・・・。晃が申し訳ないって思ってるなら・・・。 晃を助けようとした私を否定されたみたいで嫌なんだ・・・」 「光・・・」 光は突然、草を抜いた場所を両手で掘り始める。 「・・・ここに埋めていこう」 「え?」 「晃の中の罪悪感と・・・私の中の・・・自己嫌悪虫・・・。 ここに埋めて、明日からまた頑張ろう・・・?」 (光・・・) ”大丈夫・・・” 焼け爛れた額をおさえながら 晃を気遣い、 幼い光の微笑みが (光・・・) 蘇る・・・ 「晃。はい・・・ここに乗せてくれ。晃のざいあくかんっていう かたまり。ほら。」 光は両手を晃に差し出す。 「乗っけてくれって・・・」 「どんなに重くて苦しい”塊”でも大丈夫。晃の中にある 塊、ここに乗っけてくれ。それですっきりしよう!」 光は真面目な顔で言うがなんだか・・・ 水をすくうように両手を差し出す 光が・・・可愛らしく 「・・・。ふ。ふふふ・・・なんか・・・お菓子ねだってる 子供みたいだな・・・」 「なっ・・・。何で笑うんだ。わ、私は真面目に・・・」 晃は光の両手をぎゅっと握り締める・・・ 「・・・。オレの罪悪感は・・・。オレ自身で埋めるよ・・・。 光の手は・・・。汚せないから・・・」 晃は光が掘った場所の土をしゃがんで埋めていく・・・ 光もまた・・・掘った土を戻す・・・ 「光・・・」 「・・・。一緒に・・・ここから始めよう・・・。な・・・?晃・・・」 光の微笑が温い・・・ ”一緒に始めよう・・・” 光の口から そんな言葉が聞けるなんて・・・ 「・・・さ・・・。これで・・・よし!いやーなくらーい気持ち、 これでお仕舞い!」 パンパンと手についた土を払う光・・・ 「だから、晃ももう、暗い顔する・・・わっ」 小石に足を引っ掛けて転ぶ光。 「光っ、危ないッ」 晃は光の腕をつかんで引き寄せた。 「・・・晃、ごめん、なんかこけちゃって・・・」 光は晃の腕から離れようとした。でも・・・ 晃の腕は 光の体を解放しない・・・ 「あ、晃・・・あ、あの・・・」 「・・・光・・・。光には・・・。オレはすくわれてばかりだ・・・」 「・・・」 耳のすぐ近くで聞こえる晃の声は・・・ 光の体を必要以上に火照らせる・・・ 「・・・罪悪感はもう埋めた・・・。今、オレの心にあるのは・・・ 只一つ・・・」 (・・・晃・・・。やめてくれ・・・腕から・・・離してほしいのに・・・) 晃の腕から 逃れたくないと思う自分がいる・・・ 「・・・晃・・・。ごめん・・・。だ、抱きしめられるのは まだ・・・無理だ・・・」 光の言葉に晃ははっと我に返り 光をやっと解放した。 「・・・ごめん・・・。オレ・・・」 「・・・。私はまだ・・・。自分自身に自信が持ててない・・・。 」 「そ、そんなこと・・・!」 「でも・・・。いつか・・・。晃にちゃんと抱きしめもらえる 人間になるから・・・。なるから・・・。それまでその・・・。 待っててくれ・・・」 (待っててくれ・・・?それって・・・) 光は少し頬を染めて俯く。 「待つ・・・。何十年でも何百年でも待つよ・・・。光がオレ を見つめてくれる幸せが待ってるなら・・・」 「・・・。き、気障過ぎる・・・(照)なんか背中がこそばゆくて なんか・・・ああもう、リアクションに困るよ(照)」 本当に背中をごしごし頬を染めてかく光の仕草が可愛い。 「光が言わせてるんだよ。ふふ・・・」 晃は好き・・・という言葉の代わりに 光の髪にそっと触れる・・・ (ばあちゃん。オレ・・・今好きな人ができたよ・・・) 罪という鎖がはずれた・・・ たった一つの想いだけになれる・・・ (ばあちゃん。オレ・・・。好きな人・・・。大切にするから・・・) 抱きしめられるのは・・・ まだ 怖い・・・ でも・・・ 優しい手なら・・・ 髪になら 怖くない・・・。 光は目を閉じて 晃の手の温もりを 感じていたのだった・・・。