〜数多の綺麗を探して〜
光が美容学校に通いだして早、8ヶ月。 学校には”馴染んだ”。とはいっても光が全員に受け入れられたわけではないが、 ”暗黙の了解”のように光に対してはつかず離れずという 感じだ。 (それならそれでいい) 楽しい楽しい学校生活・・・とはいえなくとも (なにかを学ぶ楽しさを感じられる・・・) 自分の知らなかった新しい何かを得られることの満足さ。 友達もいて・・・学ぶことが楽しくて・・・そんな理想的な学校生活を送れなくても 何か・・・自分の心の中に確かなものがあれば・・・ 続けられる。 光はそう思っていた。 窓の外では、校内で禁止されている携帯電話を開く生徒たち。 薄暗い図書室・・・ 図書室で・・・熱心に被覆の参考書を見ながらレポートを埋めていく。 同じ図書室にいた生徒たちの視線は若干気にしつつも 只管にレポートに向かう・・・ 日も暮れてきた。 何かに没頭できるということは幸せなことだ・・・ 日が暮れたことも忘れて光は問題集を一冊やり遂げようとしている。 「横山」 光は後ろで誰かが名を呼んでいるのに気づかない。 「・・・横山!」 「!」 振り返るとクラス担当のが立っていた 「な・・・なんの御用でしょうか(汗)」 「そんな怯えた顔するな。こっちが怖いだろ」 「・・・遠まわしに失礼な発言ですね(怒)」 だがこのだけは、光に対して妙な気遣いはしない。 他の担当教師は光に『横山さん、何かつらい事があったらいつでも相談してね』 と奇妙な優しさを振りまいてくる。 (・・・私はそんなに悩みがあるように見えるのか・・・) 顔の痕がある光を 周囲の人々は”光の人生は苦しいものだ・大変だろうな” と思い込む。 前向きに生きているつもりなのに・・・ 「で・・・私に何の用ですか?」 「まじめなお前にひとつ、課題を与えようと思って」 「は?」 佐藤は光にあるパンフレットを見せた。 「・・・『ヘアデザインプロジェクト?』」 「ああ。俺のクラスから代表で出そうと思ってるんだ。何か考えてみろ」 「え!ええ??」 プリントだけ机に置いて、佐藤はすたすたと去っていった。 「・・・な・・・なんなんだ・・・!?」 突然現れ、突然課題を置いていった・・・ (佐藤先生の意図がわからん・・・(汗)) ただ・・・。佐藤が自分を気にかけてくれているということはなんとなく分かる・・・ (・・・私に・・・”挑戦してみろ”ってことなのかな・・・) ”横山さん、何かつらい事があったら相談してね” そんなうわっつわの言葉より 自分を試せるチャンスをくれる方が・・・ (真実味があるよ) 光はプリントをじっくりと読んでいたのだった・・・ 「・・・で。こんなにヘアスタイル雑誌買い込んできたってわけか」 「うん」 三冊も本屋で流行ヘアスタイルの特集の雑誌を 纏め買いした光。 晃に相談してみたのだが・・・ 「晃とかも、新しいヘアスタイル考えたりそういうのしていたのか?」 「まぁ・・・。でもそれは・・著名な人間にかかわる美容師が多いな」 「・・・そうか・・・」 綺麗なカラー写真には、流行のヘアースタイルが幾つも載っている。 髪質に合わせたものや、丸顔、卵型の顔・・・ 見ていたら楽しい・・・ 楽しいけれど・・・ 「なぁ。晃・・・。色んな形のスタイルするときってさ・・・。 スプレーとかクリームとか色々使うんだよな」 「そりゃそうさ。ムース、ヘアカラー・・・。おれはできるだけ 使わないようにしてるけど」 「・・・私さ、匂いのきついの苦手なんだ。それから地肌弱いし・・・。 そういう人たち向けのものってほとんど雑誌には載ってない」 珈琲を飲みながらぺらぺらぺらと雑誌をめくる。 可愛らしいヘアスタイルのモデルの女の子の写真が連なっているけれど・・・ 「ヘアスタイルだけじゃなくてファッション雑誌もそうだ。 健康で、何の問題もない”平均的な”状況の人を対象にしてる・・・ 流行ってなんなのかな。誰が誰のためのものなのかな」 「皆が皆、同じ体型でもないし、同じ体質でもない」 そんな誰もが納得する価値観の範囲の中で生まれる”流行”ってなんだろうか。 範囲の中にいない人達は どんなおしゃれをしたらいいんだろう。 光はなんとも真剣な顔で雑誌を腕を組んで見ている・・・ 「・・・ふふ」 「ん?その笑いはなんだ。晃」 「いや・・・。光らしいなって思ってさ・・・。人が考えないような 視点で物事を捉えるから・・・」 「・・・。それは褒めているのか貶しているのかわからんな。でもこういう 考え方っておかしいか?」 光は恐る恐る晃を覗き込む。 「いーや。可笑しくない。寧ろ俺も同意見だ」 「そうか。よかった・・・」 くすっと微笑む光が可愛く感じる・・・ ”晃の罪悪感はここへ捨てていきな・・・” あの事件があった体育館裏に・・・ 罪悪感を埋めてきてから 透明だけど分厚い”壁”が大分低くなった気がする・・・ 光にもっと近づいていいって 通行止めだったのに近づいてもいいって 思える・・・ 「・・・。晃。私、これ、このまんま出すよ」 「え?」 「”新しいヘアスタイル”なんて私には思いつかない。いや、 おもいつきたくない。だってさ・・・。どんな髪型がいいか、要望するのは 髪を切ってもらう人が決めることだと思うから・・・」 「・・・いいや。光が思ったことだ。自分を信じろ・・・」 「・・・その言葉・・・。私のキーワードだな」 光はマグカップを静かに雑誌の上に置いた。 「キーワード?」 「ああ。晃が・・・。私をアパートから助けてくれた時に言ってくれて・・・。 それで助かったんだ」 高所恐怖症の光。 ベランダから飛び降りることがどうしてもできなくて・・・ でも下では腕を広げて ”信じろ・・・!” 晃が待っていてくれた・・・。 「・・・大げさだけど・・・。晃の言葉が・・・。すごく大きかった・・・。 旨くいえないけど・・・。晃の言葉で・・・下ばっかり見てた私は生き返ることができた・・・」 「光・・・」 また 光の心の通行止めがひとつ取り払わている気がしていく・・・ 手を伸ばして もっともっと近づきたい・・・。 「凄くありがたいって思ってるんだ。だから・・・。ん?」 「光。髪の毛・・・触ってもいいか?」 「・・・ど、どうしたんだ。突然。髪の毛にガムはついてないぞ」 「・・・。なんか落ち着きたいから・・・いい?」 光は少し緊張しながらも頷いた。 目を閉じた光の横髪を手の甲で 撫でる・・・。 (・・・まだまだ色々怖いけど・・・。髪の毛に触れられるのは 嫌じゃない) 壁に描かれた絵の中の自分。 自分でも見たこともない優しい顔をしている。 誰かに触れられて 緊張する自分なんて ドキドキする自分なんて 想像できない・・・ でも・・・ (・・・。絵の中ほど優しい顔じゃないかもしれないけれど・・・。 少しはそれに近い顔・・・しているかな・・・。優しい瞳になってるかな・・・) 鏡で、晃に髪を触られている自分自身の姿を見ることはできないけど・・・ こういう自分も悪くないと・・・ 少し思い始めている・・・ それから三日後。 職員室の佐藤のディスクの上に、光が提出したデザイン画が置いてある。 そのデザイン画は真っ白。 たった一行メッセージを残して・・・ 『私が探す”流行”は・・・。髪に私が触れる誰かと一緒に 探します』 と・・・ 「へっ・・・。一著前に・・・。ふ。ま、それもいいけどな・・・」 佐藤は光が書いたメッセージにこう付け加えた。 『探せるものなら探してみろ』 と・・・。 そのころ。 光は一人、図書室で黙々と問題集を取り組む。 確かな目標のために・・・ 図書室の窓から少し風が吹く。 光の前髪が 優しくなびいたのだった・・・
馴染みの美容院に行くのですがヘアスタイルの本、 置いてあります。色んなヘアスタイルがあるもんだなぁと思うのですがどれも パーマ液だったり髪の毛を固めるスプレーだったり使わないと出来ないヘアスタイルばかりで。 ぺらぺらとめくったりもするんですが どういうヘアスタイルでもパーマやスプレーをかけられない私は(地肌が荒れて痒くなる) カットのみです。時々、美容院のおばさんが髪型、変えてみたらと いうのだけど・・・。ヘアピンとかヘアバンドとか 色々お洒落はあると思うのです。 流行じゃなくても自分が、いいな、と思えることでいいと思うのです。 さりげない”ワンポイント”でお洒落が出来れば 楽しいんじゃないかと思います。はい・・・