シャイン
〜ビーズのとんぼ〜 (はー・・・。なーんか・・・空しい・・・) ホストクラブではbPの俊也。 顔よし、学歴よし、貯金たんまり。 何もかも完璧なはずなのに心のこの空しさは何なのだろう。 高級マンションのベランダで空を眺める。 (俺が空を見上げるなんて・・・。柄にも無いことするとは) だがこの空しさをどうしたら埋められるのか。 (そうだぁ。光ちゃんの相談してみようー♪) またまた気まぐれな暇つぶしか 俊也の光にちょっかい出し作戦が始まったわけで。 「・・・。なんで家の前に高級車が」 学校から帰ってきた光。自宅の前に見覚えのある高級車が。 (・・・少し遠回りしてから帰るか) 光は反対方向に歩き出そうと・・・。 「はよーん♪ひっかるちゃーん」 運転席のドアが開いて、にこやかなホスト君の登場。 「はい。さよーなら」 光、無視して通過。 「あらぁん。おまちになって☆光殿っ。どーか この迷えるホストにどうか、お慈悲を・・・」 足をたてて十字を胸で切る俊也・・・。 「・・・迷えるというより、何か企んでいる気がするのだが?」 「ノンノン☆このホストはただいま、ふかーい悩みを 抱えているのです。どうかこの心うちを聞いてはくれまいか」 「・・・深いというより浅いんじゃないか?」 「お・ね・が・い」 目をうるうるさせて。 (・・・(汗)こいつはホストになるために生まれてきたような 男だな(汗)) 結局俊也のノリに乗せられて光は車に乗ってしまった。 「いやー。俺はしあわせものだ。光殿に 悩み事聞いてもらえるなんてぇ♪」 「あのさ。聞く代わりに商店街の肉屋よってくれよ。 今日特売なんだ」 「・・・。代償があったのね。あはは・・・(汗)」 そして二人は児童公園のベンチで話すことにした。 「・・・で。僕の悩みって言うのは・・・」 バリボリ。 「・・・お前、何食ってんだ(汗)」 「醤油せんべい」 バリボリ。 光、遠慮なく音をたてて食べている。 「あんたも食べる?」 「・・・(汗)いらねぇ。あのな、今、オレはこれから 悩みを・・・」 「・・・。ちゃんと聞いてるよ。ささ、どーぞどーぞ」 「・・・。ったくー・・・。信じてねぇな。ま、いいか・・・。 なーんかさー。むなしーんだよなー」 バリボリ・・・。 光は2枚目のせんべいを食べながら話を聞く。 「むなしーんだよなー・・・。日々の日常は何の問題もないのにさー・・・。 こう・・・。なんていうか・・・。生きがいがないっていうか・・・」 「人をからかうのが生き甲斐じゃないのか?」 「・・・光ちゃん。そんなにオレ、はくじょーな男?」 バリボリ。かまわず光はせんべいを食べる。 「なんか・・・。こう・・・。無我夢中になれる何か欲しいんだよなー・・・。 俺が生きている証つーか・・・」 「・・・趣味とかないのか?」 「・・・ナンパと合コン♪」 「・・・(怒)私、帰ろうか」 ベンチを立ち上がる光を止める俊也。 「ごめんごめん。おふざけはやめるから」 仕方なく座る光。 「趣味・・・。とくにない・・・。しいて言うなら・・・。 写メールかな。時々、景色なんかとってるけど・・・」 俊也はポケットから携帯を取り出して 携帯で取った写真を光に見せた。 「・・・へぇ・・・。綺麗な景色じゃないか・・・」 海やビル・・・ お調子者ホスト俊也にはちょっと意外な結構決まった写真が。 「おお。やっとまともなお答えが聞けましたな。これでも 一応、子供の頃、カメラマンなんかいーなーって 思ったんだぜ」 「今からでもやれば?」 けろっと光は言った。 「やれば?ってあのな。おれはちょー現実主義なの。 カメラで食ってこうなんてロマンチストじゃないの」 「カメラでは食えなくても写真は撮れるよ」 「”趣味の範囲で”っていう半端も俺は駄目。 あーあ。結局俺にはこの美貌しかないのかしらん・・・」 本当に悩んでいるのか居ないのか。 光は俊也の本意を分かりかねるが・・・俊也の心が空虚なのは 少し感じる・・・。 「・・・趣味じゃないよ。”本気”で撮ったものなら・・・。 気持ちが篭っているものはみんな、立派な”作品”だよ」 「気持ちねぇ・・・」 「・・・自分がこさえた何かで人が喜んだり反応してくれたら・・・ そんな嬉しいことはない・・・。奇麗事じゃないよ。保証するよ」 光はバックのキーホルダーをにこにこしながら 眺めた。 ビーズで作ったキーホルダー。 花の形をしている。 「はい。あげる」 「え?」 光はバックの中からビーズでつくったケータイストラップを 俊也に手渡す。 緑と黄色のビーズ。 トンボの形に編まれていた。 「・・・オレに・・・?」 「ま、ホストさんには安物すぎかもしれないけど・・・」 トンボ。 可愛らしい緑の丸い目がきらきら光ってる・・・。 「・・・サンキュ」 「・・・何。その素直すぎる返答は。気味悪いぞ」 「失敬な。光ちゃんの愛が詰まっているものですもの。 大切にいたしますわ〜♪」 「はいはい。そうしてください(呆れ顔)」 ”自分がこさえたものが誰かに反応してもらえる・・・ すごく新鮮だよ。奇麗事じゃない。保証する・・・” 本当にそうだろうか。 でも・・・ (お前が言うなら・・・。オレ・・・やってみよっかな) そして光が頼んだ商店街の肉屋に寄って結局家まで 送っていかれることに・・・。 「光。ついたぞー。ってあら・・・」 「スー・・・」 牛肉300グラムの包みを抱えながら光は眠っていた。 (よっく寝るよなー。っていうか男の車の助手席で平気で寝られる 女もまぁすごいもんだ) ”やってみれば・・・?” ”保証する。奇麗事じゃない” 光の言葉が 俊也の心の何かをつついた。 「・・・」 (・・・じゃあ・・・手始めにお前を撮ろうか・・) 俊也は携帯を取り出した そっと 光の横顔を撮った・・・。 (・・・。あどけない寝顔ですこと) 光の横顔を・・・ 暫く俊也は見つめていて・・・。 (・・・。どんな夢みやがってんだろうな・・・) 今まで生きてきて相当に 世の中から痛めつけられてきただろう 嘲笑い 罵声 からかい 見下げる心。 人間の一番嫌なところを見せ付けられてきたはずなのに 人間不信 マイナス思考 それらと闘いながら こうして生きて 小さなビーズで人を元気付けられるなんて・・・ (・・・少しお前が・・・うらやましいよ・・・) サラっと 光の横髪をすくって指に通してみる・・・ (いつか・・・お前を撮ってみたい気がするよ・・・) 「お前・・・何してる・・・っ!」 運転席のドアの向こうに 凄い形相の晃が立っていた。 「・・・?あー!!君はカリスマ君か」 「お前・・・。何で光に・・・ッ」 晃は拳を震わせている・・・ 「シー。静かに。光ちゃんが起きちゃうよー??別にべーんな気なんて 起こしてないから。っていうか起こらないから」 「・・・っ。お前・・・ッ」 おちょくった物言いに晃はさらに怒りが収まらず・・・。 だが光の寝顔にぐっと怒りを抑えて声を荒げるのをやめた。 「・・・お前な・・・っ。光をあんまり連れまわすな・・・っ。 お前と違って光は朝から晩まで頑張って・・・」 「知ってますぅ。ふふ。カリスマ君。そんなに光ちゃんに 惚の字なのね」 「うるさい・・・」 奥歯を噛む晃。 いい加減さが許せない。 きっとまた面白半分で光に付きまとっているに違いない そう思えて・・・。 「安心して。俺はこいつのこと気に入って入るけど それは”恋”じゃないから☆」 「・・・」 「だが・・。”ま・だ”だけどな。ま・だ・・・。先のことはわからねぇぜ?」 「・・・っ」 晃を見下ろした物言い。 だが今の言葉だけはどこか本気に聞こえて・・・ (・・・こいつ・・・!!) グッと拳に力が入る。 「オレは何かに滅多に”マジ”になることはねぇ。 でもな・・・いったんマジになったら容赦はしねぇ・・・」 「・・・」 「・・・ってちょっとかっこつけてみたりして☆ウフv」 カッっと晃の血が頭に上ったとき。 光が目を擦りながら目を覚ました。 「あ・・・。晃?」 「光。忘れ物しただろ・・・?」 晃は光の腕時計を手渡した。 「わざわざ家まで持ってきてくれたのか・・・?」 「時計はないと困るだろ・・・?」 晃は微笑んだ。 「晃・・・。ありがとう・・・」 「うおっほん!あのな、二人の世界作るなら車降りてからつくって くれ」 「ふ、二人の世界!??」 光は少し頬を染めながら車を降りた。 「お邪魔虫は退散しマース。んじゃ光ちゃん。バイチャ〜♪」 投げキッスをして俊也の車は エンジン全開で去っていった・・・ 「・・・ったく・・・。調子いい奴」 (・・・) 口では嫌っている風だが・・・ 少なくとも拒絶はしてない・・・と晃は感じた。 「・・・光・・・。しょっちゅうアイツと会ってるのか・・・?」 「ん?いや、会っているって言うより拉致されてるつーか・・・」 「ら、拉致!??」 「あ、いや、そうじゃなくて突然現れるってこと・・・。 迷惑なんだよな」 光は肉をバックに入れた。 「俺が言おうか・・・?」 「え、ああ、いいよ。今度はっきり言うから・・・」 「そうか・・・」 モヤモヤする・・・。 俊也が光の髪に触れようとしたとき・・・。 自分でも怖いほどの・・・ 嫉妬が・・・ (アイツを殴り倒したかった・・・) 「晃・・・?どうかしたか・・・?怖い顔して・・・」 「い、いやなんでもないよ・・・。じゃあ光。行くよ。オレ・・・」 車に乗り込む晃。 「あ、待ってくれ・・・!」 光は追いかけて運転席の窓の前に立った。 「あの・・・。ありがとう・・・。嬉しかった・・・」 「光・・・」 「あの・・・。明日、また頑張ろうな・・・!高野さんのおばちゃんちの予約・・・」 光は晃に握手を求めた。 「ああ。喜んでもらえるように・・・」 光の手を握り返す晃・・・。 (離したくない) 少し・・・握る晃の手に力が入って・・・。 「晃・・・?」 「あっご、ごめん・・・」 ぱっと離す晃。 「じゃ、じゃあ明日・・・!」 「うん」 ずっと晃の車が見えなくなるまで光は手を振って・・・。 バックミラーに映る光が・・・ 愛しく・・・・ (・・・駄目だな・・・オレ・・・) いつのまにか・・・ 自分に笑いかけてくれることが”当たり前”に思えていた。 だが光は・・・ (誰かに笑いかけるってこと自体・・・やっと出来るようになった ことなのに・・・俺は・・・) 忘れちゃいけない 光が味わってきた痛み。 (光を独占したいなんて・・・。おこがましいにも程があるじゃないか・・・) ”頑張ろうな!” そう言って笑ってくれるだけで 充分満たされるのに・・・。 ・・・恋は人を欲深くする 「・・・頑張ろうな・・・。光・・・」 さっき交わした手を見つめながら晃は 駆け巡る強い想いをぐっと 胸の奥に閉まったのだった・・・。