翌日・・・ 光が目覚めたのは10時過ぎ・・・ (寝すぎた・・・) 中学のとき・・・。 クラスで光の似顔絵を描かれた。 ・・・”お岩・横山嬢の未来” そんなタイトルで。 光は無言でその似顔絵を破り捨て、描いた人間の机を 蹴飛ばした。 (・・・。キレてたな・・・。懐かしいって言ったら変か) 昨日が金曜日でよかった。 正直、昨日の今日で学校へ行く気にはなれないから・・・ 「・・・お姉ちゃん。起きた・・・?」 「一恵・・・」 神妙な顔をした一恵が立っていた。 「ごめんな。ちょっちぃ寝坊しちゃった・・・」 「・・・寝坊くらいいいよ・・・。お姉ちゃん・・・辛いめに遭わされたんだから・・・」 「・・・!?なんで知ってるんだ?」 昨日のことは誰にも話していない。 ・・・心配をかけたくなかったから・・・・ 「・・・昨日の夜・・・。お姉ちゃんのクラス担当の人から電話があったの・・。 様子はどうですか・・・って。私、ムカついて『おとといきやがれ!!』って 言って切っちゃった・・・」 「・・・。そうか・・・。ごめん・・・。心配かけちゃったね・・・」 「・・・。お姉ちゃんの・・・。”ごめん”は・・・切ないよ・・・」 一恵は俯いて 静かにベットの横に座る・・・。 「・・・。お姉ちゃんは一生懸命がんばってるだけなのに・・・。 なんで・・・。なんでお姉ちゃんばっかりこんな目にあわされるの・・・。 私・・・。悔しいよ・・・!!」 「・・・。一恵・・・」 「でもお姉ちゃん・・・。私・・・。考えた・・・」 一恵はあるものを光に見せた。 それは、有名なエステなどちらし。 「・・・。どういう・・・意味・・・だ?」 「お姉ちゃんは怒るかもしれないけど・・・。お姉ちゃんが これしかないって思ったの・・・」 「・・・」 一恵の申し出に光は少し怪訝な顔をしてパンフレットを突っ返す。 「お姉ちゃん・・・!こうなったらびっくりするくらいに 綺麗になって・・・。馬鹿にした奴ら見返してやろうよ・・・。 でないと悔しくて私・・・」 「・・・。見返したいなんて・・・。負の気持ちにはなりたくない。一恵・・・。私は 楽な方法はとりたくないんだ。形だけ整えても私自身が変わらない」 「でもさ・・・でも形が変わって”そこから”得られるものだって あるじゃない・・・。奇麗事だけじゃ・・・。もう・・・」 ”奇麗事” 光はその言葉が一番嫌いだ。 自分が思ったことをまっすぐに進みたいだけなのに それが奇麗事・・・と言われてしまう。 世の中にあわせて”妥協”することが、正しいことだなんて・・・。 「・・・。奇麗事って言わないでくれよ・・・。哀しい・・・。妹 ぐらい・・・。私の気持ち・・・汲んでくれよ・・・」 「お姉ちゃん・・・」 「綺麗になれたらどんなに・・・って思う。でもさ!でも・・・。 どうして私が世の中の価値観に合わせなくちゃいけないんだって悔しいんだよ。 腹が立つんだよ!!私見たいのが一匹二匹いたってさ、世の中壊れるわけじゃないだろう・・・?自分の信念 曲げてまで世の中の”一定の”価値観にあわせなきゃいけないのか・・・?」 光はつい、声を怒鳴らせてしまう・・・。 一恵は自分を想ってくれた上での申し出だとわかっているのに・・・。 「ごめん・・・。怒鳴って・・」 一恵は首を横に振った・・・ 「でも・・・。形が綺麗になるってことに固執したくはないんだ。他の別のこと・・・ 自分の遣り甲斐だとかしたいこととか・・・そういう強みが欲しい。 自信が欲しいんだ・・・」 「・・・。おねえちゃんの信念は分かるけど・・・。でも・・・ 見てられない・・・。お姉ちゃんが痛々しくてもう・・・もう・・・」 一恵の瞳から涙が溢れ出した・・・。 「一恵・・・。ったく・・・。」 光は一恵をそっと抱きしめた。 勝気な妹。 生意気な妹。 ・・・けど一番姉思いの妹・・・。 「・・・なぁ・・・。一恵・・・。私はさ・・・。私でありたい・・・。 心が強くありたい・・・って それってさ・・・。そんなにいけないことなのかな・・・」 「・・・お姉ちゃん・・・」 「・・・。人それぞれでいいじゃない・・・。いいにしてほしい・・・。 ね・・・」 神様がいるなら こう願いたい 世の中の人の価値観を変えてほしい。 痩せている人が綺麗だと 鼻が高い方が美人だと ・・・それが人生の勝利者だなんて ・・・誰かに迷惑をかけないことが美徳だなんて もっと大切にしなきゃいけないことが あるって 気がつかせてほしい・・・。 少しだけ光の胸で泣いた一恵は・・・ 「あたしの方こそごめん・・・。お姉ちゃんを応援しなくちゃいけないのに・・・ 否定するようなこと言って・・・」 そう言って謝って部屋を出て行った・・・ 「・・・」 一恵が置いていったパンフレット。 光は机の奥底に閉まって封印した。 (・・・。私は私のままでいく・・・。奇麗事だろうと何だろうと・・・) 「・・・うし・・・!布団干そう・・・!太陽の光浴びて元気だす・・・!」 窓を開け、瓦の上に掛け布団を干す・・・ パンパン! 布団たたきでほこりを押し出す。 ・・・心の痛みも出て行けと・・・。 「ついでに部屋を掃除して・・・!空気いれかえる!」 もやもやする心。 気を緩めたら マイナスの気持ちがあふれてくる。 世の中を恨む筋違いの憎しみ。 現実がままならないと・・・誰かのせいにしてしまうそうに なる弱さ。 それも一緒に入れ替えよう・・・ (・・・空・・・。青いなぁ・・・) ・・・青空は・・・ ありのまま受け入れてくれるから・・・ その日の午後。 息せき切って晃が光の家を訪ねた。 「・・・晃・・・?どうしたんだ・・?」 「・・・光・・・。妹さんから・・・。光が学校で酷い目にあったって聞いて おれ・・・オレ・・・」 「・・・ったく。あのおせっかい娘が・・・」 光はまた一恵が、晃を責めたんじゃないかと思った。 「晃ごめん・・・。妹、酷いこと言わなかったか・・・?」 「そんなことどうでもいいよ!!それより光のことが・・・」 「・・・ああ。まぁちょっと昨日はショックだったけど。ほら。 一晩寝たらなんかすっきりしたよ。午前中も部屋の掃除やら いろいろしてんだ」 布団たたきを笑顔で見せる光。 「・・・光・・・」 「・・・だから・・・。晃。そういう顔しないでくれって・・・。 晃までそんな悲哀そうにしたら私までまた、塞ぎこむだろ?」 「でも・・・。オレは光に何も・・・」 光は一つ、息をついて晃に提案した。 「よし・・・じゃあ、晃。憂さ晴らしに付き合って・・・!」 「え?」 「・・・ささ、いこう!いこう!」 光は晃の手を引っ張って 強引に車に乗り込む。 「光・・・」 「んー・・・、憂さ晴らしするにはどこがいっかな。 ゲーセンは高校生が群れてるし・・・。そうだ!あそこ行こう!」 光と晃が向かったのは・・・ カキーン!! 白ボールが飛んでくる。 バッティングセンター。 「えい!!」 光、思い切り空振り・・・ 「晃。どうしたんだ。打ってないじゃないか」 「・・・」 「・・・ったくー・・・。晃。”俺のせいで”その台詞言ったら 顔面にボールHITさせるぞ〜!」 バットを晃に向ける光・・・ 光の朗らかな微笑みに ようやく晃の口元が少し緩んだ。 「・・・それでよし。晃には笑っててほしい・・・。 何より・・・気持ち、癒されるから・・・さ」 「光・・・」 トクン・・・。 光のいじらしさ・・・ 中途半端な罪悪感が一番光を傷つける (・・・オレは・・・馬鹿だ・・・) 「・・・光」 「ん・・・?」 「・・・オレと一緒にいても・・・いいのか?」 「え・・・?」 ボシュ! 投げられたボールが光の前を通過した。 「・・・オレと一緒にいたら・・・。オレはどんどん 欲張りになって・・・。光は傷つく・・・」 「・・・馬鹿にしないでくれよ。私はそんなに弱くない。 私の意志で一緒にいるんだ・・・。それでも晃は私に遠慮するの?」 「・・・一緒にいたいよ。でも・・・」 光はバットを思い切り振り上げた。 「晃君!私が今、一番したいことは 資格を取って晃と一緒にがんばること・・・!だから晃も応援してくれよ! いいね!」 「あ、ああ・・・」 光の心強い言葉・・・。 それに甘えていいのだろうかという想いが拭い去れない 「・・・次は150`だ。よし!こい!」 ボールのスピードをボタンを押してあげる。 カキーン!! 光が振ったバットにボールがあたり、ホームランと書かれた ボードにあたる。 「やった!晃!ホームランだよ!!やった!!」 はしゃぐ光・・・ (・・・光・・・) 光の笑顔が好きなのに どうして こんなに胸が痛いのか・・・ 「・・・元気が出る場所に行こう。晃」 「え?」 光が次に向かったのは・・・ 「・・・童心に返ろう〜!」 幼いころ光がよく遊んだ公園。 二人でブランコに乗る。 「靴投げでもしますか」 「・・・」 俯く晃。 「・・・だぁああ!!ほんっとにこれじゃあどっちが 励ましてるんだかわかんないよ。もう」 「・・・ごめん・・・」 「・・・はぁ・・・」 光は深いため息をつく・・・ 「・・・光・・・。どうしたらいい?オレは・・・」 「・・・え?」 「光が望むこと・・・。オレは尽くしたい・・・光が望むことを・・・」 切ない視線・・・ ありったけの想いが こもっている・・・ 「・・・。んじゃあ・・・おんぶしてくれ」 「・・・は?」 「バッティングセンターでちょっと 腕振りすぎて痛いんだ。何でもしてくれるんだろ?」 「あ、ああ・・・」 晃は光の真意がつかめず戸惑うがとりあえず、 しゃがんで背中を差し出した。 「よっこらしょっと」 光は遠慮なしにおぶさった (・・・) 晃の背中に柔らかい感触が少し走った。 「・・・どうかしたか?」 「べ、別に・・・」 「んでは晃。車までれっつゴー!」 「はいはい・・・(汗)」 晃は駐車場まで光を負ぶって歩く・・・ 「・・・。晃・・・」 「ん・・・?」 「私が晃に望むことはただ一つだよ・・・」 晃の首に回された光の手にぎゅっと力が入る。 「笑っていてほしい・・・」 「え・・・?」 「私は・・・。自分の笑った顔が・・・苦手・・・だから・。 晃の笑ってる顔が見ていたい・・・。私も笑える気がするから・・・」 晃の耳元に・・・ 優しい声が呟かれた・・・ 「・・・ね・・・!」 「・・・わかった・・・」 「よし!ってことで・・・。もう降ろしてくれ」 「嫌だ。このまんま背負って帰りたい」 晃、突然走り出す 「え、ちょ、ちょっと・・・わーーーー!!」 光を元気付けたい 光に元気の心の拠り所になりたい ”俺のせいで” 自分を責めるのは自分が楽になりたいからだ。 「キャハハハ・・・っ」 光の笑い声 (・・・何があってもオレは光の味方で・・・守りたい。守り続けたい・・・) 光が進む道を 誰より近くで・・・ 応援したい・・・ (神様・・・。オレの未来なんてどうでもいい・・・。 でも光の未来だけは・・・。誰よりも明るく・・・) つまらない懺悔の気持ちなんて何の足しにもならない。 ・・・大切な人が傷つく原因をつくったのは自分だとしても・・・ (・・・光の痛みを一緒に・・・オレも背負っていく) 背負って・・・ 緒に泣いて 笑って 怒って・・・ だれより光を 好きな人の支えになりたい・・・ 晃は背中の光の温もりをカンジながら・・・。 そう心に誓ったのだった・・・。