シャイン
4
ドタタタ・・・!!
バタン!!
「なんだよ。光。静かにあがってきな・・・!」
母の声も耳を貸さず光は自分の部屋に篭った
そして鏡台の扉を広げ・・・
自分と向き合う・・・
”本当の自分を信じろ・・・!オレを助けたときの勇気を・・・!”
「何が・・・信じろだ・・・。何が・・・何が何が何が・・・ッ!!!!!」
ガシャシャシャンーーーー・・・!!!!
鏡台に向かって丸イスをなげつけ、鏡を粉々に割る・・・
「何も信じられるわけないじゃないか・・・ッ誰も信じられるわけないじゃないかーーッ!!!」
”ね・・・?知ってる?3組の矢口光”
”ああ知ってるよ。背の高い女子だろ”
”お前のこと・・・じっと見てたぞ。さっき”
”えっ・・・。マジ・・・?”
”どうする・・・?『ものもらいのデメキン』からこくられたら?”
”やめてくれよ。気味悪ィ・・・本物の”デメキン”の方がまだマシだよ。ハハハ・・・”
「やめて・・・。やめて。やめて・・・。私の顔見るなーーーー・・・っ」
耳をふさいでも
目を閉じても
忘れたはずの
悪意の満ちた刃がエコーして響き、まぶたに蘇る
”多少。形が悪い顔でも化粧である程度は綺麗になるものよ
でも”生理的に受け付けない顔”ってのはどうしようもないわね”
「見ないで。私は悪くない、私が悪いわけじゃないのにどうして
そういうこというの・・・っ。見ないで・・・っ!!!!」
被害妄想だと冷静に理解していても
何でも顔の痕のせいにしてはいけないと理解していても
光の顔を見たときの人々の反応の一つ一つが
ビリビリと
人への恐怖にかわって
ずっと残ってる
「・・・お願いだから私の顔のこといわないでよ・・・。何でもするから
言うこときくから・・・。お願いだから・・・いわないでよぉー・・・」
幻聴の中の人々の声に
縋って泣く光・・・
「う・・・っうぅ・・・」
哀しいのか悔しいのか
寂しいのか
感情の種類さえわからない
ただ
吐き出さなくちゃ
こうして時々襲ってくるドロドロの気持ちを
吐き出さなくちゃ
・・・生きていけない・・・
「うぅ・・・。ごめんなさい・・・。ごめなさい・・・」
何に謝っているのかさえ
分からない・・・
「光・・・」
娘の部屋の外で
光の母は
ただ。
娘のすすり泣く声を黙って聞いていた
外で何かあったのか。
発作のように突然暴れたてる娘をただ見ているしかできない
心の奥底の傷は
娘一人で乗り越えなければ行けないからだ。
容姿のことで罵倒され、食事さえとれなくなり
頬がやせてしまったこともある
突き放すことでしか
見守れない。
(光・・・。自分の足で立つしかないんだよ・・・。
自分の足で・・・)
二年。社会の中へ送りこんだけれど
娘の傷は癒えるどころか、生傷が増えたのだと・・・
光の母は光の声を聞いて実感したのだった・・・
粉々になった鏡の破片に映る顔
その顔は一番。
弱虫な自分の顔・・・。
(こんな・・・。またこんなこと・・・)
ありのまま。
手当たり次第に呟かれるこの世の中。
ありのままの自分を受け入れてくれる人はどこにいるだろう。
ありのままでいられる場所はどこにあるだろう
(私だって・・・。本当の自分でいたいよ・・・)
「あ・・・」
ひっくり返った鏡台の引き出しから
出てきた実覚えるあるハンカチ
”ごめんよ・・・。ごめんよ・・・ごめんよ・・・”
泣きながら
額にあてられたハンカチ。
転校してしまった晃に返しそびれたハンカチ・・・
失くしたと思っていたのに・・・
”オレを助けたときの・・・勇気を思い出せ・・・。光は本当は・・・
誰より強いんだ。痛みを知っている分、人一倍、優しさが深いはずなんだ・・・”
幼かったあの日。
体育館の裏で目撃したあのとき。
いつも冷たい目をしていた
転校生・・・
助けようとかどうしようかなんて考えてる余裕もなく
体が勝手に
動いただけだった・・・
(それが・・・。”勇気”?本当の私・・・?わらからない・・・)
青いハンカチ。
”信じろ・・・。自分を信じて・・・”
この握り締めているハンカチに
もう一度聞いてみようか・・・
(変わりたい・・・。私・・・。指先ぐらいの長さでいいから・・・)
粉々の鏡のカケラ・・・
一つひろって
ライトの光にあててみる・・・
カケラの尖った先が・・・
小さく
光った・・・
主人公の光はかなり気持ちの状態が卑屈で殻に入っています。
せっかく髪をカットしてもらい、違う自分の姿を
見せてくれたのだからもっとそれを素直に受け入れたらいい・・・確かに
それは正論なのだけど、長年刷り込まれ、人の目を気にして
びくびくして生きてきた心はそう簡単に前向きになれるとは思えないのです。
・・・っていうか私が今でも半分そうだから(汗)
流行のお洒落をしたり、お化粧したり・・・そうやってお金と
時間をかけたらきっと光も可愛くなるでしょう。
少女漫画の中ではそんなシンデレラストーリーみたいのが
ありがちだけど・・・
でも、現実は・・・
普通の大人になって普通に暮らしている人でも
小さい頃に言われたたった”一言”が心に突き刺さって
忘れられなかったりするんじゃないないかと。
だったら光は何十倍、心にもないことを言われ続けてきたのだから
光の心の傷、痛みは化粧やお洒落で変われるとは思えない。
現実に私の知人の人の上司なんですがかなりエリートな
地位をお持ちだけれども、中学時代に
ちょこっと同級生からからかわれたことを20年以上たっても
ずっと鮮明に覚えていて、「俺は絶対に同窓会なんか行かないんだ」って
言っていたそうです。普通に見れば「いつまでこだわってんだ。根に持つな」って
言う人いるかもしれないけど、人の心の『痛み』っていうのは
一般論じゃ絶対に片づけられない・・・って私はそう思うのです。
第4話の光のように暴れ、泣いて、叫んで
誰かに八つ当たりして、憎んで・・・
そんな激しい葛藤を繰り返しながら、少しずつ
前に歩き出せる”きっかけ”を必死に探してるんじゃないかと・・・
・・・。色々偉そうに語ってしまいました。
私はかなり自分に対して甘い人間かもしれないです(汗)
でも七転八倒しながらも一歩、半歩でも前に進んでいれば
それでいい・・・やっぱりそう、思えるんです。
世の中のスピードの合わせることはないって・・・