プラトニック 純愛 そんな言葉が氾濫しているけれど 人を好きになるってことは そんな簡単じゃないし 単純じゃない 美人じゃないと美男子じゃないと いけない定義があるような話が持てはやされいる。 人を好きになるということは 人を知る・・・ということ。 その人のいい面だけじゃない悪い面 その人の生きている環境も 全部知るということ。 友達でも家族でも 恋人でも・・・ 「好き」「愛してる」 そういう言葉は 簡単に言っちゃいけない。 素敵な言葉だからこそ 大切に使わないといけない・・・ 大切に・・・。 ※ 「こんちはー♪」 純和風建築の光宅に似つかわしい来客。 応対に出たのは、一人留守番をしていた一恵。 「はい。あ・・・!俊也さん!」 「ういぃーっすカズちゃん☆」 Vサインしてちゃっかりとあがっていく俊也。 「おねーちゃんはどこ?」 「ああ。真柴さんとこ。」 「ふーん・・・。なぁなぁ前から気になってたんだけどー・・・」 持ち前の口説き口調で俊也は一恵から光と晃の 経緯を色々聞き出した。 「へぇー・・・。そんなストイックな過去があったのねー・・・」 居間でケーキを食べながらべらべらと話す一恵。 「私は納得できないんですよ。お姉ちゃん優しいから 真柴さんのこと信じてるって言ってるけど・・・」 「ふふ。まぁストイックだからねぇ。お姉ちゃんの背景は」 「真柴さんのは半分同情で半分罪悪感なんだから。 それに酔ってるだけなのに」 「・・・まぁねぇ。恋愛はフクザツですからー。ふふ」 タバコに火をつける俊也・・・。 光と晃の過去を知り、”面白い”と思う一方で 微かにもやもやした不快感が・・・。 「でも多分私が思うにお姉ちゃんはいずれきっと気づくわ。 自分と真柴さんとは違う世界観の人間だってことを」 「一恵ちゃんは評論家だねぇ」 「真柴さんは才能に溢れてるし・・・。優しいお姉ちゃんはきっと 身を引く・・・。そういう結末になるはずよ」 「小説かけるんじゃないの?ふふふ・・・」 ずずっとジュースをストローで飲み干す俊也。 「でもさぁ。恋愛なんて本人達にしかわからないじゃん?」 「・・・。お姉ちゃんはそんな簡単に”恋”なんて出来ない」 「え?」 「ホストさんにはわかんないかもしれないけど・・・。 誰かに抱きしめられることが死ぬほど怖がるんです」 一恵は苛苛してきたのかジュースをお変わり。 「お姉ちゃんの感覚ってね・・・すごく敏感な世界にあるの。外歩くだけなのに ビクビクしてきた・・・。視線や音に四方八方神経巡らせて・・・」 一番酷い時期。 部屋の中で一人きりのとき、ガタっと戸が開いた音でもおどおどしていた。 家族以外の誰かが声をかけようものなら両手を耳に手を当てて 恐怖を遮断したり・・・ 「・・・それはなかなかヘビーな状況だったんだな。 追い込まれてたってことか」 俊也の脳裏にも過ぎる。 幼い頃の封印したいあの記憶・・・。 「今だって本当は神経ぴりぴりで学校行ってるんですよ。私には分かる」 一恵はジュースを一気に飲み干す。 「・・・頑張り屋さんだからねぇ光ちゃんは」 「普通の人間関係だっていっぱいいっぱいなのに。 恋愛なんか出来るわけがない。精神的エネルギー使うことなんて お姉ちゃんの心に寄り添ってくれる男なんていやしないわ」 姉の心を一番近くで見てきた妹。 世の中の生臭い男達に姉の繊細さは分かるまいと 心配は尽きない。 「お姉ちゃん思いなのね。一恵チャン」 「・・・私にとっては・・・。そこら辺の男よりずっと頼りになる姉なんです」 二個目のケーキをほおばる一恵。 口の周りがクリームだらけ・・・。 「・・・ふふ。ホストのテクをもってしてもお姉サンの 心の中に入るのはかなり難しいってか。なおさら先頭意欲沸くねぇ」 「俊也さん、からかいでお姉ちゃんに付きまとうなら やめてくださいね。傷つけたら許しませんから」 「しないしない。俺、女性を傷つけるなんて 俺の主義に反するから。クリームついてるよ」 俊也はハンカチで一恵の口元のクリームを そっと拭った。 頬を染める一恵・・・。 (・・・これが”普通の感覚”の反応なのか・・・? 光の心の感覚とどう違うんだろうな) 帰り。 車のキーにつけた”ビーズのトンボ” (・・・色んな色・・・か) どんな色があるんだろうか。 自分は人間のどす黒いものしか知らないが 見たこともない心の色があるなら・・・ (・・・見てみたい気がする) ビーズのトンボに軽くキスをして 俊也が向かった先は・・・。 (ここか) 晃の家・・・。 一階の縁側で晃と光がマネキンを使って カットの練習をしている。 (・・・笑ってやがる・・・) ”お姉ちゃんの心にはそんな簡単に・・・” (・・・んじゃ笑顔も色々あんのか・・・?面白いじゃねぇか。 つっついてみるか) 俊也の心の悪戯っ子が目を覚ます。 だがその悪戯っ子はどこか寂しさも抱えて・・・。 「うぃーっす!俺のいとしのひっかるちゃん!」 いつもの調子で登場の俊也。 水里はかなり迷惑そうな顔をして晃は・・・。 (モロ、嫉妬顔だな) 二人のリアクション一つ一つ観察しながら 俊也は二人の一番”ナーバス”な部分をつく。 「光。お前も物好きだよなー。お前をこーんな顔にした 張本人と一緒にいるなんて」 「お、お前ッ」 晃はにやつく俊也を睨みつける。 (おーお。食いつき早っ。単純なヤローだな) さらに二人を刺激することを俊也は聞いていく。 「お前さ。罪悪感で恋愛ってのはどうかな。 光だっていちおー女なんだし」 「き、貴様ッ」 晃は襟を掴みに掛かった。 「ぼーりょくハンタイ。ね、晃君」 「お前・・・っ。どういうつもりで人の心に無断で 入り込むようなこと言うんだ・・・」 「別に入ろうなんて。ちょこーっと暇だから・・・」 グッと掴む晃の手にチカラが入る・・・。 「図星だからそんなにムキになるんだぁ。ふふ。晃ちゃんたら しょうーじきもの」 「うるさいッ。それ以上言うと・・・」 完璧におちょくりに乗せられる晃に俊也は快感を覚える。 人の心なんて 案外簡単につつける。動かせる。 ”変わらない何か”なんて 特別な心なんてあるわけがない・・・。 (人なんてこんなもんだ・・・。見ろテロ・・・。 きっと光も怒ってるに違いな・・・) 俊也が光に視線を送ると 「・・・。どういう意味だよ・・・」 光は深々と俊也に頭を下げていた・・・。 「・・・お願いです。帰ってください・・・」 「・・・」 「私・・・。もうじき試験なんだ・・・。それに集中したいんだ。 お願いだ・・・。帰ってくれ・・・」 (どうして謝るんだ) てっきり・・・。ムキになった晃を止めに入って、自分を怒るだろうと 俊也は踏んでいたのに・・・。 この場の雰囲気の主導権は・・・ 自分にあると思っていたのに・・・。 「光ちゃん、同情愛かもしんないのよ?なのにどーして そんなに一生懸命になれるのさ。ボク、わかんなーい」 苛つきが俊也を支配しつつ 俊也は自分のペースを崩さない。 (こいつらなんかに振り回されてたまるか) 「・・・私は同情じゃない」 「は・・・?」 「私”は”・・・。同情じゃない。やりたいことがあるんだ。 晃と頑張りたい。だから一緒にいるんだ・・・」 光は晃からもらった鋏を優しく撫でた・・・。 (・・・苛つく・・・) もやもやが大きな波となる。 「・・・くはぁ。ひっかるちゃん。ピュア〜だねぇえ。 あーあ。なーんかオレ一人大根役者っぽい?」 「・・・」 じっと俊也を見つめる光・・・。 「・・・いやぁ。オレ悪者になりにここに来たんじゃないから。帰るわ」 苛苛してることを 二人に感じ取られたくない。 「あの、待ってくれ!」 立ち止まる俊也。 「この間・・・。肉屋に乗せてってくれてありがとう。 お礼言うの忘れていたから・・・」 俊也は手を振って光に応えそそくさと庭の柵から出て行った・・・。 ”ありがとう” 光の素直な声が俊也の心に響く。 春に吹くぬるい風のように心地悪く (こんなモン・・・ッ) 車のキーにつけていたビーズのトンボを 投げつけようと振りかざした。 ”ありがとう” 「・・・」 ”気持ちを込めたものは・・・みんな立派な作品だよ・・・” 小さなグリーンのビーズのトンボ それを引き千切ってバラバラに してしまえば この苛つきは収まるだろう・・・ ”ありがとう・・・” 「・・・」 俊也の手は下ろされて・・・ ビーズのトンボを握り締める・・・ (ぬるい風でも・・・確かな温みはある・・・けどな・・・) ビーズのトンボ・・・ こんなものに 苛苛がおさまるなんて・・・。 「・・・俺も・・・年季がまわったのかな」 そういう自分も 嫌ではない。 エンジンの音が 少しだけ俊哉には優しく聞えた。 一方。 光と晃は俊也タイフーンが去り、再びカットの練習。 「なぁ。光」 「んー?」 ”私は同情じゃない、だからいいんだ・・・” 「”同情”じゃないなら・・・なんなのか・・・聞いても・・・ いいか?」 「・・・」 カシャ・・・ カシャ・・・ 光のハサミが 照れくさそうに鳴っている・・・。 「・・・だっ、だから見つめるなって・・・!」 「ふふ・・・。なぁ同情じゃないなら・・・何?」 「・・・」 光は少し間をおいてから・・・ 「・・・。こ、今度の試験、が、がんばる”じょー”こ、 これで勘弁してくれ(汗)」 「・・・ふははは。光、声上ずってるよ」 「・・・う、うるさいってば・・・(照)」 カシャ・・・。 ”私は同情じゃない” その先の台詞はいつか・・・。 晃の心はハサミと一緒に弾んでいたのだった・・・。