シャイン
〜機械に壊される心〜
(・・・) 沢山の人たちの注目を浴びる晃の活き活きとした 手さばきと表情が離れない。 (私と晃は・・・違う空間にいるみたいだった) アイドルが明るいステージで歌っているみたいに 自分は観客で・・・。 「光?どうかしたか?」 「え、ああ、いや別に」 晃と共にホームセンターに買い物に来ていた光。 先日のイベントでの脚光を浴びていた晃のまぶしさが 目に焼きついている。 「・・・晃・・・あの・・・さ」 「ん・・・?」 ティッシュをかごにいれる晃。 「や・・・。なんでもないなんでも・・・。 レジ、行こうか 」 二人がレジに向かおうとしたとき・・・ カシャッ (!) 携帯電話のカメラのフラッシュが光の瞼を直撃。 「な、なんだ!?」 「あ、ご、ごめんなさい・・・!間違えました」 (は・・・?) 女子高生2人は光を無視して後ろの晃を囲んだ。 (即効無視かい(汗)) 「あの・・・もしかして・・・。真柴晃さんですか?」 「・・・。だったら何だ・・・」 むすっとそっけなく応える晃。 「この間、○ビルのイベント見ましたー。ちょー かっこよかったよねー」 「うんうん。いつか私もカットされたいなー・・・」 (・・・あ、アイドルを囲むファンの図・・・(汗)) 女子高生達の頭上に”きゃぴきゃぴ”とした擬音が 飛び交うようだ。 「あのうぅ。一緒に写メ撮って貰っていーですか?」 女子高生は晃がまだ返事もしていないのに携帯を縦にかざして・・・。 (ああいうの、なんか見下ろされる気がするな・・・) 「やめろ。勝手に・・・」 晃は女子高生から携帯を取り上げた。 「お前ら幾つだ。携帯のマナーも守れない奴が 使ってんじゃねぇよ」 晃は女子高生達を見下ろすし携帯を突っ返す。 晃の威圧感に女子高生達は萎縮してそそくさと 去っていく・・・。 去り際に一人の女子高生がすれ違いざまに光にちらっと 視線を送って 「キモッ・・・っ」 と呟いて去っていった・・・。 「あのガキ共ッ!!!」 晃は女子高生を追いかけようとしたが光が止めた。 「いいよ。晃・・・。あの位気にしてない・・・」 「光・・・」 「初々しかったな。ふふ。ちょっと携帯のマナーは なってないけど・・・」 「光・・・」 ”あの位気にしてない” (あの位だなんて・・・) 本当はない・・・ 晃は知っている。 光が言う”あの位”のことを光は長い間 虐げられてきた。 「・・・晃。ほらほら。そいうくらーい顔しないって約束したろ? さ、買い物の続き、続き」 少しでもいいからつらそうな顔をしてくれたらいいのに 見せないから一層・・・。 晃は切ない。 (守らなきゃ・・・俺が光と一緒にいるなら・・・ 守らなければ。光を・・・) レジ袋に荷物を入れる光の背中・・・ ここに誰も居なかったら 二人きりだったら・・・ (抱きしめてしまうかも・・・) 愛しいというにふさわしい 甘い感情が晃を包む。 「さー。帰ったら掃除だな。トイレと台所は晃だからな」 「ああわかったよ」 もし・・・光の心の”柵”が解き放たれたなら・・・ (まっすぐに俺は・・・) 「晃!早く行くぞ!」 (・・・光に・・・飛び込んでいきたいな・・・) 一緒にいる時間が長くなればなるほど 望むことが多くなる。 それが恋 それが人の心の欲 (でも望んじゃいけない。俺は一緒にいられるだけで充分だから・・・) 欲と向き合うのも人の心。 心の・・・理。 だが・・・ 昨今の世の中は 心の理がない 心の柵がない。 勝手に人の心にずかずか入り込んで 踏み荒らし傷つけて 嘲笑う。 ・・・そう例えば 仮想現実という箱の中で・・・。 「ちょ・・・っ。な、なに・・・これ・・・」 一恵が同級生から連絡をもらい、家のパソコンでとあるサイトの画像に マウスを持つ右手が震えた。 (これって・・・お姉ちゃんじゃない・・・!!) タイトル『今日見つけたキモイモノ』HN・A・Mファン なんと光の横顔が写っていた。 そのサイトは最近問題のサイトで 芸能人や有名人の隠し撮り画像やプライバシーにかかわる 画像の投稿が横行していた。 (酷すぎる!) 一恵はすぐさまサイトの管理人にメールを出し、 対処を促した。 画像はその日のうちに削除されたが (お姉ちゃんが見ていたら・・・どうしよう・・・) 一恵の目に薄っすら涙が溜まった。 だが不安はすぐに現実になる。 「・・・くそう!!誰だこんなッ!!」 ドンッ!! 机を叩く晃・・・。 「バックの背景ホームセンターだね・・・昼間の・・・子達・・・かな」 「あんのガキどもッ!!!光!オレ、このプロバイダーの会社 行ってガキどもの素性聞いてくる!!」 凄い剣幕で玄関に向かう晃。 「晃・・・!いいって!もう削除されたんだし・・・」 「よくねぇえだろッ!!!あんなことが許されたら どうなっちまうんだ!!」 「・・・そうだけど・・・。頼む。落ち着いてくれ・・・」 「・・・光・・・」 はっと晃は我に帰った。 誰が一番傷ついているか忘れていた・・・。 「・・・私がちゃんと・・・。ちゃんと対応してもらうから・・・。 もう二度とこんなことがないように・・・」 「光・・・」 「あ、それから・・・。晃。自分のせいだって思わないでくれよな。 それだけはやめてほしい・・・」 (・・・光・・・) 光の目の淵が少し 滲んでいる・・・ でも決して溢れることは無くて・・・ 流れることを許さないように・・・ 「・・・光・・・」 「・・・晃のせいじゃないって・・・」 光を抱きしめたいと思ったけど 痛々しい光を抱きしめたいんじゃないのに・・・。 (俺が・・・。俺がそばにいるからこうなるのか・・・? 俺のせいなのか・・・) 抱擁が苦手な光。 晃はそっと光の手をとって 握り締めた・・・。 「もう絶対・・・。こんな想いさせないから・・・」 「晃・・・」 手を握り締めるしかできなできない自分が・・・ 歯がゆい・・・。 (晃・・・) 晃のぬくもりが伝わる。 優しさも・・・ ”同情と愛情の区別つかない人間が・・・” この間、俊也が言ったフレーズが過ぎった・・・。 (・・・同情と・・・愛情・・・) このぬくもりはどちらなのかを疑うなんて・・・ (そんな筋合いさえ・・・。私にはないよ・・・) 自分がそばにいると 今回みたいなことが起きる。 (・・・晃の+になる”存在”にもなれないのかな・・・) ”晃のカノジョなわけないじゃん。美的に許さない” 掲示板の書き込みが・・・ ”美的に許さない” グサッと心臓に 心臓の筋肉に突き刺さって グチャっとエグる・・・。 (・・・優しいけど・・・少し痛いよ・・・。晃・・・) その日から晃の家にも光の家からもパソコンが消えたのだった・・・。 「さーって!晃!トイレそうじ終わったよ」 「サンキュ」 あれから一週間。 光は何事も無かったように元気だ。 その元気さがかえって痛々しいかったが・・・。 晃はあえてそっとしていた。 (・・・俺が謝れば・・・。光にはまた罪悪感だと思わせて 傷つける・・・) 罪悪感だろうがなかろうが関係ない。 ただ一緒に居たいだけなのに・・・。 どうして光にばかり辛い目にあわせるんだろう・・・? 今も昔も・・・。 (・・・オレが・・・そばにいることが 光にとっては・・・) 「晃ー!二階、掃除機掛けてくるよ」 「あ、ああ・・・」 光の元気な顔。 きっと元気な分だけ・・・ 泣いたのだろう。 (光・・・) 光の笑顔が痛々しい でもいとおしい 心の中の矛盾と晃は 向き合っていた・・・