シャイン
〜不安要素〜
「うん。そう、大分揃ってきたじゃないか」 人形の髪でカットの練習中の光。 試験にむけて気持ちを引き立てていた。 (光・・・。本当に元気になったのか・・・?) 最近、光に嫌な出来事が立て続けに起きていて。 光は表立って落ち込みはしないけれど (きっと家で一人のときは・・・) 晃の脳裏に浮かぶ。 一人でぐっと痛みを耐えている光が・・・。 「なんだよ。晃。あ、あのさ。あんまりその・・・ じっと見るのは・・・」 照れと見つめられることへの恐怖心が入り混じって 落ち着かない光。 「あ、ご、ごめん・・・。本当にごめん」 「べ、別にいいけど・・・」 (ちょっと強く言い過ぎたな今・・・。は、話し変えよ) 「・・・なぁ晃」 「ん?」 「晃はさ・・・。美容師になってよかったって思うときって どんなとき?」 光は珈琲を晃に注ぐ。 「・・・そうだなぁ・・・」 光は晃の答を期待して待つ。 「・・・今だよ。光と一緒に仕事が出来る今が嬉しい・・・」 「・・・そ、そう・・・」 真っ直ぐな晃の視線。 やっぱり見つめ返すことがまだできない・・・ 心の中の見えない壁は大分薄く、低くなってはいるけれど (・・・まだ晃のようには・・・) 熱い眼差しで見つめ返すことが出来ない・・・ 「いつか・・・。もっとこの仕事が沢山の人たちに知られるようになったらいいな・・・。 現実的に言えば・・・。もっと設備の整った車を買って 遠くまでいけるようになって・・・。もっと大きく考えたら支店とか 出して・・・」 「うん・・・」 楽しそうに話す。 だが晃にはもう一つの”夢”がある・・・ 「・・・もういっこ、あるよ。夢・・・」 「え?」 「・・・。大切な人な誰かと出会って・・・。一緒に 人生を歩くこと・・・」 (そ、そんな乙女チックな顔されても・・・(汗)) このくすぐったい空気が 何だか慣れなくて・・・ 「か・・・。叶うといいな晃の夢。わ、私は まだよく分からないけど・・・」 「そう・・・なのか・・・」 「・・・晃・・・」 (そんな・・・切ない顔しないでくれよ・・・。だって私は私は・・・) 昨日・・・。 流行の恋愛ドラマを見た。 いい男といい女が純愛を織り成していて・・・。 ”愛してる”とか”ずっと想ってる”とか・・・ 照れくさい台詞がここぞ、というシーンで言われていて・・・。 でも現実はどうだろう。 (・・・なんだか怖いような・・・切ないような・・・。私は まだ、自分自身に自信が100%じゃない・・・) 俯く光の両肩に触れ、まっすぐに見詰める・・・ 「・・・光・・・。オレは・・・」 押さえられない気持ちが 光を気遣うという気持ちを晃から忘れさせている 「・・・光・・・」 (・・・わッ・・・。や、やめてくれ・・・っ) 光は肩をぶるっと震わせて 怯える ガタガタと・・・ 「・・・!あ、ご、ごめん・・・っお、オレ・・・ッ」 「・・・」 PPPP! 携帯の音にびくっとした光。 「な、な、鳴ってるよ、で、でないと」 「あ、ああ・・・」 晃はポケットから携帯をとりだし、出た。 「・・・ちょっとまってくれ。場所かえる」 晃は台所のほうへ行って話した。 (・・・ほっ・・・) 光は携帯がかかってくれて安堵した。 あまりにも真っ直ぐに 見つめられる 一筋さに 緊張感に耐えられない・・・ (嫌じゃないけど・・・嬉しいけど・・・まだ怖い・・・何か怖い・・・) 恋愛ドラマはドラマで・・・。 好きあう同志がいたならばクライマックスだろう。 でも・・・。 (・・・私は・・・まだ・・・まだ・・・) 乗り越えられない何かがある。 それが分からない・・・。 晃が二階から降りてきた。 光はまだ少し緊張気味だが平常心を保とうと必死。 「・・・光。ごめん。悪い、ちょっと出てくるよ」 晃の顔がどこか青ざめている。 「・・・?どうかしたのか?」 「え、あ、いや・・・何でも・・・」 浮かばない晃の顔・・・。 「・・・変だな・・・。何かあったのか?」 「・・・ちょっと疲れているだけだよ」 「・・・」 明らかに晃の態度がおかしい。 「大丈夫だって・・・。光は何も心配しなくいいんだ・・・」 (・・・) 晃の異様な様子に光は不安を感じた。 「光・・・。ごめん」 「・・・?どうして謝るのさ」 「・・・ごめん・・・。でも・・・。光には絶対に 迷惑かけないから・・・」 「・・・?」 晃の言葉に意味が分からず戸惑う。 「・・・わけわかんないけど・・・。わかった」 光は笑って晃を見送った。 だが・・・ (何か・・・隠してる) 晃がやたらと”ごめん”を口にするときは 何かを抱えているとき・・・。 (・・・どうして言ってくれないのかな・・・) 一緒にいるのに・・・。 寂しさを感じる・・・。 (・・・。私は・・・勝手だな・・・) 誰かに心の中に踏み込まれることが怖い一方で・・・ 自分が疎外されたような気持ちになるなんて。 (・・・もっと素直な気持ちに・・・なりたい。自分自身にも・・・。 それから・・・。晃にも・・・) 書類の整理をしながら・・・ 自分の心を見つめなおそうとしていた・・・。 それからに、三日後。 光は試験が近いので最終調整を晃としようと思い、晃の家を訪ねたのだが・・・。 「いない・・・。おかしいな・・・」 だがドアが開いた。 「晃・・・?」 玄関だけが開いており・・・返事がない。 妙な不安にかられた光は居間へと走った。 「あ・・・晃!?」 口元から血を流した晃が横たわっていて・・・。 「ど、どうしたんだ!?」 晃に駆け寄る光。 (あ・・・) 晃のジーンズのポケットに分厚い札束を見つけた。 「晃・・・。一体何が・・・!?このお金は・・・」 「・・・。なんでもない・・・。光は心配しなくていいから・・・」 「心配しなくていいって・・・。心配するさ!こんな怪我して・・・」 光はハンカチを取り出し、晃の口元を拭いた 「・・・晃。何があったかちゃんと話してくれよ・・・」 俯いて黙る晃・・・。 「晃・・・。私にはいえないことなのか・・・?こんな大金・・・どうする つもりだったんだ?誰かに・・・渡すつもりだったのか?」 光は救急箱から絆創膏と取り出して 晃の傷口に貼った。 「・・・晃・・・」 「・・・ごめん・・・」 奥歯を噛んで口を閉ざす・・・。 一体、晃は何を抱えているのか・・・? 「・・・光は何も心配しないで・・・。試験のことだけに集中してくれ・・・」 「でも・・・」 「頼む。オレを信じて・・・。光は自分のことだけ考えて・・・」 「晃・・・。私・・・。そんなに頼りないか・・・?」 手当てを終えて光は消毒液と絆創膏を救急箱の中に閉まった。 「・・・晃が困っている時に何も出来いなんて・・・。なんか・・・。 なんか・・・。寂しいよ・・・」 「光・・・」 「・・・寂しいよ・・・。晃・・・」 バタン・・・。 切ない呟きを残して光は帰った・・・。 (ごめん・・・。でも・・・。”これ”ばかりは・・・。 光を巻き込むわけにはいかないんだ・・・。また・・・光を傷つける・・・) 掻き集めた札束を握り締める晃・・・。 血が少しついていた・・・。
(・・・。なんか・・・。あんまりいい気持ちがしないな・・・。 こそこそしてるなんて) 光は深めの帽子をかぶり、駅前の電話ボックスの陰に隠れている。 そして50メートル先のショッピングビルの前で誰かを待つ晃を 見つめていた。 (・・・帽子ってこういうときに役に立つんだ・・・。かぶってた 理由は違うけど) 光がこうしている理由。 晃の電話を昨日、聞いてしまったからだ。 誰かと会う約束をしていた。 ・・・すごい形相で・・・。 (晃は気にするなって言うけど・・・。かえって 気になって勉強できないよ) 晃が抱えていること お金までかかわってくるほどのことって何だろう。 光はなんとかして晃の力になれないかと思った。 (あ・・・。誰か来た・・・) 赤いエナメルっぽい派手なシャツに金髪に近い髪の色の男・・・。 (・・・なんか・・・。感じの悪そうな男だな・・・) いかにも・・・。誰かを脅して金を要求しそうなチンピラ風。 よく見ると腕に痣が・・・。 (・・・どこかでみた事があるような・・・) 光が思い出そうとちょっと目を離す。 (あ・・・。い、いない!?) 光は急いで辺りを見回した。 (い、いた・・・!) 晃と男は人通りの少ない路地へ入っていく。 (な、なんかやばい展開なんじゃ・・・) 光はスナックの看板に身を潜めて様子を伺う。。 男の横顔をじっ見ていた光。 (・・・あ・・・。あの男・・・) 小学校の体育館裏で・・・ 晃にタバコを押し付けようとしていた・・・。 (・・・あ、アイツ・・・!!) 光の脳裏で あの時と同じ光景がダブって見えたのだった・・・。