(あの男は・・・やっぱり・・・アイツだ) コンクリートの校舎に晃の体を押し付けていた・・・。 (・・・なんでアイツは今頃・・・) 二人の話し声に聞き耳を立てる。 「晃君。昔色々”楽しいこと”した仲じゃねぇの」 「・・・」 晃を見下ろすほどの背が高く・・・。 ぷは〜っとタバコの煙を晃の顔にむかって吹く。 (・・・。やな奴すぎ・・・) 「・・・お前にやる金はない。失せろ」 「ほうほう。晃。お前・・・。”あんなの”がそんっなにいいのかよ? ククク」 (”あんなの”・・・!?) 陰口には人一倍敏感な光の第六巻が働く。 「・・・オレらの喧嘩で巻き添え食った女。つーか女みてぇな ”生きもの”が・・・」 男の言葉に晃は鋭く睨んだ・・・。 (・・・。やっぱり私のことだったか。まぁいいけど(汗)それより・・・) 自分のことで晃は金をせびられていたのか・・・? 「恋する男は怖いねぇ。く。ま、だからからかいがいがあるってもんだけどな」 「・・・オレの目の前から消えろ」 「ああ。消えてやるとも。”お小遣い”くれたらね〜」 さらに煙を晃の顔にかける・・・。 (性質の悪い・・・奴。ああいうやつ見てると苛つく・・・) 「雑誌に載るほど有名になった晃くん。オレは毎日パチンコ三昧。 なぁ。世の中って不公平じゃねぇ?」 「・・・くだらん」 晃は男の挑発にも乗ろうとしない。 「つまらんなぁ・・・。もっと抵抗してくれよ。 喧嘩ならお前のほうが強いはずだぜ・・・?」 男は晃の右手をぐっと掴んだ。 「商売道具・・・。綺麗な手だねぇ・・・」 (あ、アイツ・・・!!) 光ははっと足元にあったホースに気がついた。 (よし、これで・・・っ) 光は蛇口をひねって晃たちに向かって水をかけた。 「晃から汚い手ぇ離せ!!ゴリラ男!!」 「ぶわッ。なんだ・・・!?」 ホースの口を細くしてシャワー状に男めがけてかけまくった。 「光・・・!どうして・・・ここに?」 「・・・晃が話してるの聞いて・・・。それよりあの男・・・。 アイツだろ!?昔、晃を苦しめてた・・・」 びしょ濡れになった男・・・。 「てめぇ!!何だよ!!」 立ち上がり、光に向かって怒鳴った。 「私!?私か!?晃にたかっていた”虫”を退治しに来たんだよ!!」 「・・・ぷ・・・はははは・・・。晃・・・。お前・・・随分と心強いお友達がいるじゃねぇか。 ”ゲテモノ”な・・・」 「やかましい!兎に角もう晃に付きまとうな!!」 光は晃の前に立ちはだかった。 「おうこれはこれは。威勢のいいお嬢さんで・・・。あんたの出る幕じゃねぇ。 引っ込んでてもらおうか」 男は光のTシャツの襟元を掴んだ。 「光!!」 焦った晃だが光は男の手をひょいっと 背中でおしつけ、捻じ曲げた。 「痛・・・ッ!!」 「図体でかい割には隙が多いね。ふん」 「・・・ッタ・・・」 光は容赦なく男の腕をきつく絞めあげる。 ちなみに光は合気道、空手、護身術等々幼い頃から 習わされている。 「・・・もう晃に関わるな!!」 「・・・イタタタ・・・。あ、晃・・・。お前・・・。 女に守られるなんて・・・。ギャグだな・・・」 「・・・馬鹿にすんな!!晃に関わらないって約束しろッ!!」 「わかったわかりましたよ。お嬢さん、とにかく放してくれよ」 「・・・本当だな!?」 男が頷くと光は静かに男の手を放した。 「今度何か晃に妙なこと言ってきたら・・・。病院送ってやるからな!!」 興奮している光を晃がなだめる 「光、もういい・・・」 「晃・・・」 「・・・。もうオレもこいつの脅しには乗らないから・・・。さぁ 帰ろう・・・」 男を一瞬、ギロリと睨んで晃は 男に背を向けた・・・。 「・・・ちょっと待てよ」 晃が振り返った瞬間。 「!!」 男が鉄パイプを振りかざしていた・・・! 「光・・・っ!!」 光を晃は突き飛ばし・・・ 「気取ってんじゃねぇえよ!!」 男が振り下ろした拳は晃の腹部を直撃・・・。 「晃・・・ッ!!」 駆け寄る光。 「・・・う・・・」 うずくまる晃・・・。 「あーらら・・・。HITしちゃったね〜」 「お前・・・ッよくも・・・ッ」 「ふん。ウザイ顔見せんな。化け物。なんならもっと ヒデエ顔にしてやろうか・・・?」 男は二人にペッっと唾を吐いた・・・ (この・・・ッ) かっと頭に血が上った光・・・。 その瞬間晃の拳が男の頬を激しく殴っていた・・・ 「ウゼェのはてめぇだ・・・」 明らかに異常な殺気が晃を包んで 目が据わって・・・。 男の首を絞めている・・・ 「・・・おい・・・。光に今、てめぇなにしやがった・・・」 「・・・あ・・・ぐ・・・っ」 「光にきたねぇもん吐きやがって・・・。息の根止めてやる・・・」 (あ、晃!!) 「・・・晃、やめてくれ!!」 光は晃の腕にしがみついて止める。 「・・・晃!!!お願いやめてくれ・・・!!」 光の声も聞こえないのか グッとしめつけて・・・ 「・・・晃!!大事な晃の手、汚さないでくれよ!!!」 「!!」 光の叫びに晃はハッと我に返ってようやく男の首から手を放した・・・。 「・・・光・・・」 「おい!!何してるんだ!!お前達」 騒ぎを聞きつけた警官が走ってきた。 男と光達は交番に連れて行かれ、事情を聞かれた。 金銭トラブルで揉みあいになった 光達はそう説明したが、詳細までは言えない。 男は警察に追われていた身でそのまま身柄を本署に連れて行かれ 光達も後日再び事情を聞くこととなって・・・ その夜は帰されたが・・・。 晃の家に戻って 光は晃の手当てをした。 「・・・晃。まだ痛むか・・・?お腹、見せてくれ」 晃はTシャツを捲くった。 (・・・う・・・(照)) 結構筋肉質で・・・ 逞しい。 光は少し頬を染めて 腹部が青白く内出血している部分に 光は静かにシップを張った・・・ 「晃・・・。明日病院、行った方が・・・」 「いや・・・。大丈夫だ・・・。それより光こそ今日は 疲れたろ・・・。帰って休んだほうがいい・・・」 「でも・・・」 「・・・ごめんな・・・。心配かけた上に・・・巻き込んじゃって・・・。 今日は早く帰って休んでくれ・・・」 「・・・」 晃の背中が・・・ 凄く寂しげに・・・ 小さく見えた・・・。 (なんか・・・。晃のこと一人にしておけない) 光は晃の隣にどすん、と座った。 「・・・光・・・?」 「・・・バス、最終乗り遅れた。タクシーで帰るからもう少しここにいるよ」 「でも・・・」 「・・・いいから。今日は・・・。晃ともう少し・・・話したいんだ」 「・・・。光・・・」 (・・・って・・・。晃・・・。そ、そんな・・・息がつまるような・・・そんな・・・) なんで・・・ なんて 想いを秘めた苦しそうな 切なそうな顔で見るんだ・・・。 「な、なんの話、し、しようか、て、テレビドラマが・・・っ」 言葉のろれつが回らなくなってきた。 戸惑いとドキドキで・・・。 「・・・。光・・・。黙っててごめん・・・。でも光は試験間近だったし 迷惑かけたくなかった・・・」 「・・・。もういいよ。晃は優しいから・・・。でもさ・・・ 私は”迷惑”かけてほしいよ」 「え?」 「・・・だってさ・・・。パートナー同士ってさ・・・。迷惑かけあったり 喧嘩しながら・・・信頼しあってくものだろ・・・?」 「光・・・」 (・・・っ。だ、だから・・・。そういう風に声、溜めて 名前よばないでくれ・・・(ドキドキ)) 光は思わず顔をそらした。 「と、兎に角・・・。隠される方が余計に気になるからさ・・・。 話せる範囲でいいから、話せることは話して欲しい・・・」 「ああ・・・約束する・・・」 「よし・・・!」 光はパン!と晃と手をたたきあった。 晃と二人きり・・・。 嫌がおうにもドキドキしてくる。 (この雰囲気を何とかしたい・・・) 意識したくない 何かを・・・ 「・・・光・・・」 「え、え!?な、何!?と、トイレなら 背負ってってやるぞ!??」 晃の声に光の心はかなり敏感になって・・・。 (緊張がピークになると私は日本語変になる性質らしいな・・・(汗)) 「・・・オレは・・・。ガキの頃・・・。かなり悪いこと色々やってた・・・」 「・・・」 ”色々楽しいことした仲だろ” 男が晃に話していた言葉を思い出す光。 「・・・そのつけってってのが・・・。今頃出てきてたんだな・・・。 金を要求されるなんて・・・」 「でも・・・。晃ならあんな奴突っぱねることもできたんじゃ・・・」 「・・・」 押し黙った晃。 「・・・。もしかして・・・。私のことで何か・・・?私に 怪我でもさせてやるとか言われた・・・?」 「・・・」 晃の沈黙が、イエスと言っていた。 「・・・なーんだ。晃。そんなこと」 「そ、そんなことって・・・。光の危険にかかわることなんだぞ!?」 「あーんな男、もし襲ってきたとしても投げ飛ばして柔道の技かけて けちょんけちょんにしてやるっての」 光は腕をボキボキ鳴らして言った。 「・・・あのな・・・。光。女の子なんだぞ・・・」 「ああ。柔道、合気道、師範免許持ってるつよーい女の子さ。 ふふ」 拳をグッと握ってみせる。 にこっと笑ってつよいんだぞって・・・。 「ま、普通の女の子は男の子に守られたいのかもしれないけど・・・。 私は一緒に戦いたい・・・。逃げたくないよ」 「・・・ふぅ・・・。まったく・・・。光は・・・」 「大事な誰かを守りたいって気持ちに男女なんて関係ないよ。 目の前で大切な誰かがピンチだったら・・・。自然に体が動く、 ・・・なんか偉そうに語ってしまったかな。へへ・・・」 ぺろっと舌を出して笑う光・・・。 ”大切な誰か・・・” のフレーズが晃の心に深く止まった。 「・・・光は・・・。本当に強い心の持ち主だなな・・・」 「え、な、何、急に・・・」 「・・・オレと違って・・・。光は・・・強い心だよ・・・」 「そんなこと・・・」 晃はコーヒーカップを静かに口にした。 「オレは・・・。カッと頭に血が上らせて・・・。アイツの首をしめて しまった・・・。暴力はいけないって・・・。光と約束したのにな・・・」 光の脳裏に 晃の殺気だったあの表情が浮かんだ 「・・・つ、強くなんかないよ・・・。い、未だに人込み 歩くの怖いし・・・。まだ・・・。帽子かぶるのだって 手放せない・・・」 「・・・。そういうさ・・・人が知らない”痛み”を知ってる 光は・・・本当の意味で・・・。強くて・・・優しい・・・」 晃は・・・ ただ 真っ直ぐに 真っ直ぐに 光を見つめる・・・ 「・・・か、買かぶりすぎだよ・・・」 「オレには分かる・・・」 「ど、どうして・・・」 「・・・。光を・・・。ずっと・・・見てきたから・・・」 ずっと見てきた まだ知り合う前から ずっと・・・ 「・・・光は強くて・・・優しい女の子だよ・・・。オレは・・・ 知ってる・・・。オレは・・・知ってるんだ・・・」 (晃・・・) 晃の視線は 強い想いが・・・。秘められて・・・ 光を包む・・・。 (ど、ど、どうすんだ・・・っ。な、なんか雰囲気が・・・っ) 光はただただ緊張して・・・ 「・・・。あ、ありがとう・・・。で、でもさ・・・ わ、私なんか見つめたって気味悪いだろうし、あ、あの・・・」 「光・・・」 ふわ・・・ッ 「・・・!!」 晃は光の肩に顔を寄せた・・・ 「・・・光・・・」 「・・・」 光は体が硬直して 動けない・・・ 「・・・光・・・。いい匂い・・・」 「!!」 晃が呟く言葉に 光はただただ・・・ おろおろして (・・・こ、こんな場面のときは、ど、どどどど どういうリアクションしたらッ。つーか冷や汗でてきたぞッ) パニック状態の光。 「・・・光・・・。ひか・・・」 パフ・・・ 「・・・!!」 晃の頭が光の膝に・・・。 (と、トドメかよ・・・。う、動けん・・・) ロマンチックな展開・・・。というべきなのだろうが・・・ (・・・。なんか・・・浪漫より緊張しすぎて 胃が・・・) 知らない 感じたことのない雰囲気に ただただ 戸惑う・・・ 「はぁ・・・。私・・・」 帰ったほうがよかったのだろうか。 でも・・・ (・・・晃の背中が・・・小さく見えたんだ・・・) 寒いところで凍えているような・・・ 「・・・光・・・」 晃の寝言・・・。 「光・・・」 優しい声で・・・ 「光・・・」 子が母を求めるような・・・切ない声で・・・ (・・・晃・・・。晃はどうしてそんなに・・・) 自分にこだわるんだろう・・・ (もっと・・・可愛い女の子はいるよ・・・?) 「光・・・」 (・・・晃・・・) 光は・・・そっと晃の手を握った・・・ すると晃は・・・ 穏やかな安心しきった寝顔に・・・ (・・・晃・・・。あんまり・・・。無茶しないでくれよ・・・。 晃は私にとって・・・) 私にとって・・・? その先が まだ・・・言えない・・・ (・・・。おやすみ・・・晃・・・) 晃の寝顔を・・・ 光は見つめながら・・・ 夜は 静かにあけていったのだった・・・。