シャイン
〜雨宿り〜
「ん・・・」 晃が目覚めると 白い毛布がかけられ、いい匂いが・・・。 『晃へ。勝手に台所使わせてもらいました。それと 肩、朝になっても痛むようならやっぱり病院へ行ってください。 光』 ちゃぶ台の上にメモが置かれていた。 「・・・。光・・・」 薄っすらとだけど覚えている 「・・・」 眠っている間、ずっと握られていた手・・・。 心地よかった感触も・・・ 久しぶりに・・・ ぐっすり眠った気がする・・・ 光の温もりに包まれていた・・・ (・・・光・・・) 光が書いたメモを 愛しげに撫でる晃・・・。 光との心の距離が・・・近づいたことを 実感して・・・ 想いが強まる晃だった・・・。 「・・・よおし。最終調整!」 一方光は試験に向けて気合を入れ、机に向かっていた。 筆記試験もあるために参考書やら専門書など等 開いて。 こんなに机に向かったのは何年ぶりか。 (暗記とかって苦手なんだけど・・・) 何かを目指して勉強する。 新鮮な感じがした。 ・・・自分の顔を鏡で見る恐怖も 自分に対するコンプレックスも全部忘れて・・・。 (・・・鏡なんてもう怖くない) 光は机の上の伏せてあった鏡を立て直す・・・ 真剣に目標に向かえることができる。 (頑張ろう・・・。顔を上げて歩けるようになったんだから・・・) 人の視線はまだ怖い。 でも・・・。 (頑張れるものがあれば・・・大丈夫) 光は頬をパチンと叩いて 自分を引き締める。 「よし・・・。もう一分張りだ!」 一恵が淹れてくれたコーヒーを一口飲んで 再びペンを走らせる。 試験の合否じゃなくて チャンスを生かせるということが嬉しい。 ”自信”という欠片をもてるから・・・。 そして試験の前日。 晃は光をとある場所につれてきた。 「ここは・・・?」 「ん?ご覧のとおり、神社だよ」 確かに神社だが・・・。 「試験・受験に効果抜群。学問の神様の神社さ」 晃は光に神社の境内の絵馬を見せた。 絵馬には受験合格祈願のメッセージが書かれて・・・。 「さ。俺達も祈願しよう」 チャリン。 二人はお賽銭を入れ、鈴を鳴らして手を合わせる・・・。 (・・・) 真剣に目を閉じて拝む晃の横顔をちらっと見た。 (・・・何・・・。拝んでるのかな) なんとなく・・・気になる。 「・・・ん?どうかしたか?」 「あ、いやぁ・・・。何でも・・・。わ、私も沢山 拝んどかないと。あはは・・・」 光も手を合わせる。 (・・・。なんか・・・変な感覚だな・・・) 晃のちょっとした仕草が気になるなんて・・・。 (・・・ちょっと勉強しすぎたかな。疲れてるんだ) そう自分を言い含める。 「あ・・・。雨だ・・・」 小雨が降ってきた。 通り雨か・・・。 「少し・・・雨宿りしていこう」 「う、うん・・・」 二人は境内の石段に座り 雨が止むのを待つ・・・。 誰も居ない境内・・・。 しっとりと 石畳が濡れ・・・ 空気が澄んでいく・・・ 「・・・なんか・・・。いいな・・・。こういう静けさ・・・」 「うん・・・。いいな・・・」 二人きり。 同じ時間が流れる・・・。 「光・・・。ありがとう」 「ん・・・?」 「いや・・・。この前・・・。ずっとそばに居てくれて・・・」 「え、ああ、べ、別に・・・。け、怪我の具合心配だったし・・・」 声が裏返る。 光は晃から視線をそらした。 「・・・久しぶりに安心して眠れた・・・」 「そ、そうか。そ、それは何より・・・」 (ま、また・・・。そ、そんな切なそうな顔で・・・) 「オレ・・・。光の試験合格祈願のほかに・・・もう一つ 祈願したんだ」 「え・・・?」 「・・・。大切な誰かとずっと一緒にいられますように・・・ って・・・」 「・・・。そ、そうか(汗)」 純愛ドラマは嫌いじゃないが・・・。 現実では どうもぎこちなく戸惑うばかり。 晃の秘めた瞳を見つめ返すほどの余裕がない・・・ それにやっぱり・・・ 晃に真っ直ぐに見つめられることに慣れないし 少し怖い。 嫌ではないけれど・・・。 (・・・く、くすぐったすぎるんだ。この空気・・・。腹と胃まで むずむずしてきた(汗)) 光は無意識に胃と腸の間を さすった。 「欲張りだって・・・。神様に怒られるかな・・・」 神様にではなく 光にたずねている様に言って・・・。 「・・・さぁ・・・。か、神様に聞いてくれ・・・。 」 雨のしずくが屋根から落ちて 水溜りが出来る・・・ ポチャン・・・ 静か過ぎて。 何か話さなくちゃ・・・ くすぐったい空気をどうにかしたい・・・ (神経がもたん(汗)) 「・・・あ、あのさ・・・。き、きっと雨が上がったら虹が出るよ」 「え・・・」 「通り雨だし・・・。見られると・・・いいな。あ、あの辺に」 しかし光が指差した方向には煙突が・・・。 「・・・。あ、あの辺に・・・」 「フフ・・・。そうだな・・・」 「・・・わ、笑うなよ(照)」 「・・・ふふ」 全身が くすぐられているような ふわふわした感覚。 ポチャン・・・ 雨のしずくの音さえ・・・心に響くほど 感覚が鋭くなって・・・。 (あ・・・) まだ霧雨が降る中・・・ 灰色の雲の間から青空が顔を出し 微かに虹色の線が見えた。 「天辺のほうだけど・・・。虹、見られたな」 「うん・・・」 「・・・光と一緒に見た虹・・・。オレ、忘れない・・・」 「・・・。え、ああ、それは有り難いあはは・・・」 晃のドラマのような台詞に対し、 不器用な言葉でしか返せない自分がもどかしい。 並んで石段に座る二人。 30センチほど離れて座っているけれど なんだか・・・ もっと近く感じるのは・・・ 気のせいかな・・・ (・・・くすぐったいけど・・・。でも・・・心地わるくは・・・ない・・・) 水たまりに映った虹が 水彩絵の具がにじんだように 優しい色に 光には映っていた・・・。 ”ずっと一緒に・・・” 晃が願った願い。 光も少しだけ心の中で神様に 願ってみた。 ”晃が・・・ずっと笑っていられますように・・・。晃と 晃の好きな人が・・・続きますように・・・” と・・・。 (あ、でも神様、晃の好きな人ってのは、あくまで 架空の人物ですから・・・。決して”光”という名の不器用者ではない ですからねッ(焦)そこんとこヨロシク) その頃 晃の家のポストに一通のエアメールが届いていた。 この先、二人にとって重要な内容のエアメールが・・・