シャイン
〜私らしくない私〜
「・・・これは・・・。花岡先生からだ・・・」 晃に届いた一通のエアメール。 その差出人は晃にとって恩人といえるほどに信頼していた人物だ。 手紙を読んだ・・・。 「・・・花岡先生・・・」 手紙の内容は・・・。 アメリカでサロンの新規事業をはじめたいから晃に来て欲しいという 内容のもので・・・。 花岡は晃に美容師としてのノウハウと教え込んだ恩義のある 人物。 (でも・・・。オレは今、日本で・・・自分の目指したいことをしたい ・・・。光と一緒に) 晃はすぐに断りの返事を出したのだった・・・。
光の試験が無事終わった。 光はすぐに晃に携帯で報告。 「・・・そうか・・・。うまくいったのか・・・。よかったな・・・!」 「いや・・・。結果はまだ分からないよ。それに・・・」 「とにかく光は頑張った・・・。それが大事なことだよ。お疲れ様・・・」 ”お疲れ様・・・” すうーっと・・・その言葉だけが光の心にしみこんだ。 「・・・うん・・・。ありがとう」 「そうだ。今日・・・。夕食オレつくりたいんだ」 「え?」 「祝賀会っていったら変だけど・・・。食べに来てくれるか?」 「・・・うん。じゃあお邪魔しようかな」 「ほんとか!?じゃあ腕によりかけて待ってる・・・!」 ”待ってる・・・” (・・・な・・・なんでこんなに嬉しいんだ・・・?) いや、嬉しくないはずはないのだけど・・・。 (・・・過剰にっていうか・・・) 「・・・つ、疲れてるんだ。うん。違いない。”妙な感覚”は 疲れのせいだ」 そう自分に言い聞かせる。 「・・・」 電話ボックスのガラスに映る自分の顔・・・。 晃の声に自然と微笑が浮かんだ自分・・・。 (・・・。変な・・・顔) 恋愛感情とかそういうの 似合うはずがない。 (・・・私は・・・想像できない・・・。でも・・・) 誰かの仕草や言葉にドキドキしたり緊張する自分は (嫌いじゃないから・・・) 電話ボックスから出る・・・。 見た目のいいカップルが通り過ぎていく・・・ (色んな形が・・・あっても・・・。いいよな・・・?) 光はパチン!と自分の頬を叩いた。 そして待っていてくれる誰かの元へ走った・・・。 「いらっしゃい!」 エプロン姿の晃。 はじめてみた・・・。 「・・・な、何。その珍しそうな・・・」 「いや・・・。なんか新鮮だなって思って。晃のエプロン姿」 光はまじまじと晃を足元から眺めた。 「・・・。そういう台詞はさ。”彼氏が彼女”に言うもんじゃないか? 普通」 「そんなもんか?」 「そんなもんさ。だから、いつか、光のエプロン姿も見せてくれよな」 「・・・(照)ま、き、機会があれば・・・な」 (彼女と彼氏の会話的・・・。みたいな) くすぐったい。 心をくすぐられているみたいに こそばゆい・・・。 「すごい・・・。これ、全部晃が作ったのか?」 テーブルの上にはハンバーグやエビフライのご馳走が。 「そんなことないよ。光だって上手じゃないか」 「いやいや・・・。私、和食系しか作れないから。 晃、お嫁さんいらないな。ふふ・・・」 晃はにやっと笑った。 (な、何。その笑い(汗)) 「・・・和食の上手な嫁さん欲しいな」 「・・・(汗)じゃ、じゃあうちの母さん嫁にあげるよ。 和食ならプロだから」 「・・・。ふふ。光・・・。照れてる・・・?」 「な、そんなことないよ。ではい、いただきますッ!」 照れ隠しに光はご飯をかきいれた。 「ゴホ・・・ッ」 むせる光。 「・・・光って・・・。ほんっとに照れくさがりなんだな。ふふ」 「・・・か、からかうもんじゃないよ。あのな、 だからそのあの・・・」 (な、なんだ・・・。この会話。っていうか感覚・・・) いちゃつくカップルみたいな・・・ (ち、ち、違う。っていうか”違わなくちゃ”いけない・・・) 自分みたいな人間が 踏みいれてはいけない 入っちゃいけない世界に引っ張られるてく・・・。 「・・・あ、光。ご飯ついてるぞ」 「え」 晃は光の口元についていたご飯粒をぱくっと食べた。 「・・・。や、や、やめてくれよ・・・」 「えっ、あ、ご、ごめん・・・」 「・・・。あ、晃はどうかしらないけど・・・。私は こ、こういうの、苦手なんだ・・・。く、くすぐったいっていうか・・・。 なんていうか・・・」 光は箸を置いて俯いた・・・。 自分の気持ちとは裏腹に 顔が赤くなる・・・。 こんな感覚。初めてで。 自分の知らない自分がいるようで・・・。 「・・・ごめん。オレ・・・。なんか光がオレに心許してくれてる 気がして・・・。浮かれたんだ。ごめん・・・」 「・・・あ、晃・・・。そ、そこまで謝らなくても・・・」 申し訳なさそうに 頭を下げる晃。 「・・・あ、謝らなくて良いから・・・。わ、私がその・・・。 臆病なだけなんだ。惚れた晴れたなんていう世界が その・・・。あ、晃はなんにも悪くない。悪くないから 謝らないでくれ」 ゴチッとテーブルに頭をぶつける光・・・。 「・・・だ、大丈夫か・・・?!」 おでこが少し赤くなる。 「・・・な?ほら・・・。私・・・似合わない。 照れたりするのとか・・・。気持ち悪いって自分で思ってしまうし・・・」 スプーンに映る自分の顔。 赤面したり 焦ったりする自分の顔がどんなか・・・ 見る勇気がない。 「似合わないなんて・・・。光・・・。人一倍照れ屋なの も・・・全部光じゃないか」 「・・・晃・・・」 「・・・。素直に・・・。受け入れたらいいんだよ。自分を・・・」 今日聞いた中で一番優しい声に聞こえた。 「・・・ありがとう。晃。励ましてくれて・・・」 「それはオレのほうだよいつも光に・・・」 ボーン。ボーン・・・。 振り子時計の音が止まる。 消える・・・ 光は初めてまっすぐに晃をみつめかえした・・・。 ピンポーン 「!!」 シャボン玉を目の前で割られたときのように目玉を震わせるほどに 光はインターホンに驚く。 「あ、あ、晃。お、お客さんだよ」 「あ、うんそうだな」 後ろ髪引かれるように光をチラ見しつつ玄関に晃は向かった。 「・・・。はぁ・・・」 水の中で息を止めてたみたいに 苦しかった。 (・・はぁ・・・。なんか・・・寿命が縮まる・・・) 誰かを意識するということは 自分以外の誰かのことを心に置く・・・というこは 呼吸も乱れるような激しいことなのか。 (私は私でいいんだ・・・。自分の知らない”私”が 出てきてもそれもいい・・・) ドラマや小説の中ではわからないリアル。 作り物の話の中では美人が恋愛してこそ話は華やかになるが 現実は違う。 心の動きは体に伝わって 時には病気のような症状も起こして・・・。 (・・・私は私でいいんだ・・・。照れ屋の私も私なんだから・・・) ガラスの器に映る自分の顔。 ねぇガラスの中の私。 こんな私でも頬を染めらせたり、ドキドキしたりしてもいいのかな。 (いいのかな・・・) 光は何度もガラスの中の自分に呟いた・・・。 「お邪魔します」 (??) ちょっと自分の世界に入っていた光。 訪問客が居間に入ってきて驚く。 (誰・・・。すごく・・・綺麗な人だ・・・) 髪はストレート。 目は大きく二重で女優さん並で・・・。 「こんばんは。突然おじゃましてごめんなさい」 光は一瞬、見惚れてしまった。 「え、あ、い、いやぁ。そんなこと・・・」 (ん?でも見覚えあるような・・・) 「初めまして・・・じゃないけれど、おぼえていますか? 一度スーパーで・・・」 「・・・ああ!そういえば・・・」 以前、晃と一緒に行ったスーパーで会ったことがある。 晃の元同僚の愛美だった。 「・・・自己紹介はいいよ。愛美。なんだよ。急用って・・・。 玄関先でもできない話ってなんだよ」 「・・・うん・・・」 晃は少し怪訝そうだ。 晃はよほど親しい人間しか家の中に入れたがらない。 (・・・どんな話なんだろう。愛美さん、すごい深刻そうな・・・) 光は無意識に後ろを向いた。 「・・・なんだよ。早く話せよ。食事中なんだ」 「ごめん・・・でもどうしても晃に聞きたくて・・・」 「聞きたいって・・・何をだ」 愛美と光は視線がばちっと会った。 というより愛美が送ったというか・・・。 (・・・。私が居ちゃ、いけないって雰囲気なんだな) すぐに悟った光。 残りのスパゲッティをがばっとかきいれて合掌。 「ごちそうさまでした。ということで晃、私この辺で失礼するよ」 「え」 お皿を重ねて台所へ持っていった。 台所と今の間のガラス戸に映る晃と愛美の姿。 (綺麗な二人・・・。絵になってる・・・。お似合いだ・・・) そして自分のリュックを背負い、玄関へ・・・。 「光。居てくれよ。まだ話したいことが・・・」 「・・・。なんか深刻そうな話みたいだな。晃。私は 帰るよ」 「光・・・」 「夕食、美味しかった。ありがとうな」 「ひか・・・」 バタン・・・! 晃の声をかき消す。 引き戸の音。 (・・・光・・・) バス停まで光は走った。 心の中に 怒った犬がいるみたいに 大声で叫んでこのもやっとした気持ちを吐き出したい。 二人並んだ姿。 絵になる、様になる愛美と晃。 (・・・苛苛するなんて・・・。私らしくない・・・。 らしくなくなるのが・・・。恋愛ってことなのか・・・?) 嫉妬という名の・・・。 「・・・ああ。また・・・。晃に変な態度とってしまったかな・・・」 バス停に着いても イライラが取れない。 いらいら もやもや・・・。 (・・・自己嫌悪虫が・・・襲ってきそうだ・・・) 認めたくない。 知りたくない。 バス停の下にながれる水路。 (・・・好きだとか嫌いだとか・・・。そんな二種類の言葉だけじゃ・・・。 言い表せないよ・・・) 水面に映る自分に問う・・・。 「お客さん。乗らないのー?」 「え・・・」 気がつくと目の前にバスが・・・。 「あ、乗ります乗ります」 慌ててバスに乗り込む光。 周りの状況も分からなくなるなんて・・・。 (・・・昔の人はよく言ったものだな・・・。恋の病は 誰にも治せないと・・・って”恋の病”なんてガラじゃない、ガラじゃ・・・) 一人問答する光に他の乗客が注目。 「あ、何でもありません。すみません・・・」 (・・・はぁ・・・) 自分らしくなくなるのが恋・・・? でも自分らしくありたい・・・。 (・・・試験より・・・。エネルギー使った一日だった・・・) 自分の心の変化を肌で感じた一日だった。 一方・・・。 「・・・光さんと・・・一緒に頑張ってるのね」 「・・・ああ・・・」 背を向けて胡坐をかいて座っていた。 帰ってしまった光・・・ 晃の背中が寂しそうに愛美には見えて・・・ 「・・・話ってなんだ」 「花岡先生の件・・・。断ったんだって?」 「・・・流石に早耳だな。ああ断った。オレはやっと 自分が遣り甲斐を感じられるものをみつけたんだ」 「・・・。光さんが・・・いるから?」 「・・・。ああ・・・。光と一緒に頑張りたいと思ってる・・・」 晃の視線の先には 光がいる・・・ いつも何をするにも晃の心には 光の存在が全てを占めている。 「・・・。光さん・・・。前と会ったときより・・・。明るくなった感じが する・・・」 「違う・・・。元々光は明るい子なんだ・・・。明るい子なんだ・・・」 (なんて目・・・しているの。晃) 光のことを話す晃は この上なく優しい・・・慈愛に溢れた目をする・・・。 幸せそうな・・・。 そんな晃の微笑みにずっと・・・ (・・・苦しい・・・) 「・・・解放されないといけないんじゃない・・・?」 「解放・・・?どういう意味だ」 「・・・もっと自分の可能性を考えてみないの・・・?」 そういって愛美が晃に見せたのは・・・ 何枚かの写真と手紙・・・。 「こ、これは・・・」 写真にはベットに座る初老の女性が・・・。 「・・・貴方の力を必要としている人が・・・他にもいるのよ・・・」 「・・・」 晃はただ 写真と手紙を呆然と見詰めていた・・・。 数日後。 そして・・・ 「晃・・・。お客さんだ」 「え・・・?」 スーツ姿の見知らぬ男・・・。 「初めまして。真柴晃さんですね・・・?」 男は名刺を晃に差し出した。 「弁護士!?」 「おばあさまから・・・。遺産等のことを全て 任せられていたものです」 寝耳に水の晃。 祖母がなくなってから大分立つが・・・。 弁護士は淡々と語りだした。 「遺言状をお預かりしたのですが・・・。実は少々問題が起こりまして・・・」 「問題?」 「ええ。これを・・・」 借用書。 借りた人間の名前は祖母の名前ではなかったが・・・。 「連帯保証人におばあさまがなっておられまして・・・。 借金の半分を担っていただくことになりそうなんです」 (は、半分って・・・。3000万の半分だって1千500万・・・) その額に二人はただ驚くばかりで・・・。 「そ、そんなこと急に言われても・・・」 「・・・法的には真柴さん本人には支払い義務はありません。 ただ・・・。このままだとこの土地も差し押さえられます」 「ええっ」 突然に弁護士が現れ、突然土地がなくなるなんて・・・。 「なんでもっとそんなだいっじな早くしに来ないんだ!えぇ!?? あんた、それでも弁護しか!!」 光は弁護士のネクタイを鷲掴みして迫る。 「ひ、光落ち着いて・・・」 「落ち着いていられるか・・・!!非常時に・・・」 「光・・・」 (まだあんなことがあったばかりなのに・・・俺のことで こんなに怒ったり・・・) それが嬉しくもあり ・・・痛くもある晃・・・。 弁護士が帰った後も光の怒りは収まらない。 「突然すぎる!!全く・・・!!」 「・・・でも・・・。ばあちゃんの借金なら俺がなんとかしなきゃ・・・な」 「えっ。で、でも晃、あんな大金・・・」 「大丈夫。ここを売ったりはしないさ・・・。光は何も心配 しなくていい。な」 (大丈夫って・・・) ここがなくなるかもしれないのに・・・ (気を使ってくれてるのは 分かるけど・・・もっと私にも相談して欲しい。・・・お金はないけど・・・) 少し空しさを感じた光。 そして翌日。 預金通帳を持って晃の家を訪ねる (足しにもならないけど・・・) 「お金なら・・・私がなんとかするわ」 (この声は・・・) 綺麗なストレートな黒髪・・・ 晃の元同僚だった愛美だった