”晃を解放してあげて” 「・・・」 テーブルの上には 晃からもらったはさみが・・・ ”晃の未来を・・・考えて” (・・・晃・・・) 嘘を言おう。 一時の夢を見させてもらったんだ。 (・・・うん・・・。すごく素敵な夢・・・。私に自信をくれた・・・) 光はわずかに疼く恐怖心を押さえて、鏡を見つめた・・・。 こうしてかがみもなんとか見られるようになってきた。 人の視線もまだ気になるけれど それに打ち勝つ自信もついてきた。 (・・・いろんなこと・・・できるようになった・・・。晃のおかげだ・・・) ”解放して・・・!” (・・・。もう・・・。私は大丈夫・・・。だから・・・だから・・・) 晃からもらった鋏をぎゅっと握り締める光・・・。 翌日。 光は晃の家を訪ねた。 「・・・光・・・!どうしたんだ。こんな時間に・・・」 「あの・・・。話があって・・・」 「そうだ。光・・・」 「・・・もうここには来ない」 ぽろっと晃の手からみかんが落ちて・・・。 「何・・・。突然どうしたんだ・・・」 「・・・色々考えたんだけど・・・。家の事情もあるしそれに お金のこともさ・・・」 「どうしたんだよ!??」 「別に・・・。晃も金銭的に大変だろうし・・・。 晃には色々楽しい夢、見させてもらって感謝してる。 自信もついた。じゃあ・・・」 ガタン!! 晃は襖の前に立ちはだかって・・・。 「そんなことで納得いかない・・・。光。何があった・・・? ちゃんと話してくれ」 「・・・何もないって・・・。現実的に考えた結果なだけで・・・」 「不器用な嘘・・・。光。俺の目、ちゃんと見ろ」 「・・・」 「光ッ!!!」 怒鳴った晃の声にビクリと肩をすくめる光・・・。 恐る恐る晃の目を見るが・・・ 「ごめん・・・大声で・・・。でも・・・納得いくわけないだろ・・・? 何があったんだ・・・?」 「・・・。晃は・・・。才能がある・・・。もっと・・・ 大きな世界でみんなに認められた方が・・・」 「・・・!?大きな世界なんて・・・は・・・俺は地道でいいから、 人とのつながりに根ざした仕事がしたいんだ・・・」 「・・・。才能がある人は・・・ちゃんと才能を花咲かせた方がいいよ・・・。 大きな世界をリードして・・・」 光はしどろもどろに話す・・・ (・・・!) 晃の五感が働く。 愛美の顔が浮かんだ。 「愛美に・・・。アイツに何か言われたのか・・・?」 光の目がぴくっと反応した。 「そうか・・・。アイツ、余計なこと・・・。光。アイツの言うことなんか気にするな」 「・・・」 ”晃を解放して・・・!” 気にするなといわれてもこびりついている愛美の一言・・・。 「俺のこと気遣って言ってくれてるのは嬉しいけど・・・。でも俺が望むことじゃない・・・。 光・・・。俺は・・・。光と一緒に頑張りたいんだ。夢を頑張りたいんだ・・・」 ”貴方が晃の生きる軸になってる・・・。それを解放できるのは 貴方だけ” 「・・・。私を理由にしないでくれ」 「え・・・?」 「晃の夢は私の夢じゃない・・・。私を理由にしないでくれ・・・」 「・・・光・・・」 「・・・自惚れてる言い方だけど・・・。重いんだ・・・。何でもかんでも 私を理由にされるのは・・・」 「光・・・。そんな風に・・・思って・・・」 光の腕を掴んでいた晃の手が 静かに離れた・・・。 「・・・。色々ありがとう・・・。晃からは大切なこと 教わった気がする・・・」 「光・・・」 「・・・。元気でね・・・」 晃に軽く会釈して 玄関を後にした バタン・・・。 静かに響いた引き戸の音が 光の心がまた 閉ざされた気がした・・・。 ”私を理由にしないでくれ・・・” 「・・・光・・・」 きっと・・・。嘘なんだろう。 晃の将来を考えてわざと言ったんだ。 そう都合よく思いたい。 でも・・・。 ”重いんだ・・・” (・・・一番・・・。怖かった・・・) 重荷だと 思われることが・・・。 (光・・・) バス停の小屋で俯く光・・・。 (晃・・・。ごめん・・・。まだまだ・・・。弱虫だったよ・・・) 不器用な嘘。 でもついたのは・・・晃にじゃなくて・・・。 (自分自身にだ・・・) 本当はずっと一緒にいたい 晃と頑張りたい。 ”晃を解放して” 「・・・ごめん・・・。晃・・・」 晃の未来を自分だけの夢には変えられない・・・。 「酷いこと言ってごめんね・・・」 バスが来る前に こぼれた涙を乾かそう・・・。 だからバスが来るまでは・・・ 泣いて・・・。 光が晃に別れを告げてから三日目の朝。 朝から雨が降っている。 「お姉ちゃん!外に・・・」 (晃・・・!?) 傘も差さずに光の家の門の前に晃が立っていた・・・。