〜すれ違う思いやり〜 「・・・お前。光に何を言ったんだ」 晃が凄い剣幕でサロン「HANAOKA」に怒鳴りこんできた。 「・・・二階で話しましょ」 二階の事務所にあがる二人。 「・・・お前も出世したもんだな・・・。2号店のチーフなんて」 「・・・貴方だって続けいたらチーフどころか本社の幹部にだって なれたわよ」 「ふん。そんなモンに興味はねぇ」 晃は窓際のソファに座った。 「・・・そうね。晃が興味あるのは光さんだけだものね」 「何だよ。嫌味聞きにきたんじゃねぇ。光に何言ったんだ」 「”晃と別れてくれたら・・・。晃のおばあさんの家を 私が買い取る”って」 バアンッ!! 硝子のテーブルを拳で叩く晃。 「光さん。優しい人だわ。きっと悩んだはず。でも 優しいけど不器用。貴方を突き放すこともできない」 「お前・・・。いつからそんな底意地悪くなったんだ」 「・・・」 (晃を有名にするなら・・・。憎まれ役だってなるわ) 痛む心を隠して愛美は表情を変えない。 ぐっとこらえる。 「・・・晃・・・。貴方は光さんの未来は考えたことあるの?」 「・・・お前にいわれる筋合いはない」 「未来どころか・・・。一緒にいて光さん、酷い目にあってばかりじゃない・・・。 この間のネットでの写真流出一件がいい例でしょ・・・?」 晃は言い返せなかった。 一番痛い部分をつかれた。 美容学校に行かせて、クラスメートに虐げられ 田端の一件では光をまた巻き込み、この間のネットでの事件だって・・・。 (・・・オレが関わらなければ・・・) そう思わざる終えない。 「貴方はただ、自分の我侭のために光さんを そばに置いておきたいだけなのよ。好きだから一緒にいたい。 けどね。仕事は子供の恋愛じゃないのよ?」 「・・・」 「・・・光さんの未来がかかってくるの。 光さんにも”未来”があるの。もし。晃が本気で光さんと 仕事がしたいって想うなら・・・。中途半端な現実じゃ駄目なんじゃないの・・・?」 悔しいが 愛美の意見は正論だ。 正論過ぎて言い返せやしない。 それが愛美の”攻めどころ”だと知っていても・・・。 「・・・ね・・・。考えてみて・・・。それにね。晃。 これは言わないほうがいいと思ったけど・・・。花岡先生。 かなり深刻なの・・・」 「・・・!」 「・・・晃の顔が見たい、見たい・・・そればっかり・・・。 お願いよ・・・。2年。2年だけでいいの・・・貴方の力を貸して・・・」 愛美は何度も晃に頭を下げた・・・。 (・・・光・・・。オレは・・・。オレはどうしたら・・・) 結局・・・。 晃は愛美にはっきりと断れずにサロンを後にした・・・。 街をぼんやり歩く晃・・・。 ”光さんと一緒にいたって・・・酷い目にばかりあってるじゃない” ”光さんの未来を考えるなら・・・。晃自身がもっとしっかり 現実的に力をつけなきゃいけないんじゃない・・・?” 愛美の”正論”が晃を惑わせる。 (・・・そうかもしれない・・・。結局オレは・・・。 自分の気持ちを押し付けていただけ・・・) 信号で立ち止まる。 ”光さんと一緒にいたいだけ。一緒にいるだけが 本当の愛情じゃないわ” けれど 光と共に居る時間が 恋しい。 だがそれはただのわがまま・・・? ”俺を信じろ!” (よく言うよ・・・。光はいつだって俺を信じてくれてた。 オレは・・・何様なんだ・・・) 自分の都合だけで身勝手な想いだけで・・・ 光を縛ってもいいのか・・・。 「おい!アブねーぞ!」 点滅する信号を晃ははっと我に返ってわたった。 「ん?お前、晃じゃねぇか」 車を止めて降りてきたのは俊也。 「・・・お前か」 「何だよ。その言い草は。けっ・・・。なーんか 魂が死んだかおしてっぞ」 「・・・うるせーな」 晃は怪訝な顔で言った。 「やたらと絡むねぇ何かあったのかって聞くのも野暮か。 光のことだろ?」 「・・・!」 「ショージキな奴・・・。ま、とりあえず乗れ。お前みたいな 奴がうろちょろしてたら交通の邪魔だ」 俊也は晃を強引に車に乗せ、川原へ連れて行った。 「・・・ここな。光と何回か一緒に来たんだぜ。へへ。妬けるか?」 「・・・」 俊也のからかいなども反応しない。 (ちっ。オモロクねぇな) 「・・・一恵ちゃんのじょーほーから大体のことは聞いてる。 ったくよー。お前ら、お互い思いやっててすれ違ってんだもんなー。 あほらしつーかめんどくさいつーか」 「・・・」 晃は缶コーヒーもくちにせずただ俯くだけ・・・。 「・・・話し合うつープロセス、忘れてねーか?」 「・・・!」 俊也の言葉が晃の心にピンポイントでHITした。 「どんな選択が出ようと・・・。お互いに話し合うのしないのとじゃ 違うぜ?後あとのけじめつーか。なんつーか・・・うまくいえねーけど」 「・・・。ちゃらんぽらんなお前でも・・・たまには まともなこと言うんだな」 「お褒めどうも。だが勘違いするな。オレは光のために言ってやったんだ。 光は自分の中に抱え込んじまう性質だからな」 「・・・ふ」 晃はやっと缶コーヒーの栓を開けて飲んだ。 少し苦い・・・。 「いっとくが。男の友情なんてものはオレはノーサンキューだからな」 「はいはい。でも少しお前の思考パターンが分かった気がするよ。 じゃあな」 晃は缶コーヒー代をサイドボードの上に置いて 車を降りた。 「・・・。相変わらず気障な奴・・・」 俊也は何故晃にアドバイスしたのか分からない。 (単なる気まぐれだ・・・。・・・。光のシリアスな顔は・・・ オレじゃあどうにもならないからな・・・) 光が傷つくことがこわい。 (・・・もしかしてオレっち・・・光に嵌っちゃってるー? まーいっか。これのお礼もあるしな・・・) 光が作ったビーズのトンボ。 いつの間にか肌身離さず持つようになってしまった。 (・・・ま・・・。ガンバレや。光チャン・・・) ビーズのトンボに軽くキスする俊也だった・・・。 そしてその夜。 晃は光に電話した・・・。 「・・・分かった。明日行くよ・・・。私も話したかったから・・・」 (晃に言わないと・・・。晃の未来を大切に・・・って・・・。 それから・・・) ”待ってる” と・・・。 (・・・晃が・・・頑張って私も頑張って・・・。それで また一緒に頑張りたい・・・) 「でも・・・」 『解放してあげて』 (ちゃんと言おう・・・ちゃんと・・・) 受話器を置く・・・。 愛美の言葉が 後押しする結論。 光は晃に伝えようと決めた。 ”アメリカで頑張って” と・・・。