シャイン 〜新たな季節の始まり〜 気がつけば光の試験も終わって新たな季節を迎えている。 晃の家が 競売にかけられるという書類が届いていた。 (・・・。仕方ないのか・・・) ”光さんのためのを思うなら・・・。きちんと した地盤をつくってから新しいことを始めなくちゃ・・・” 愛美の言葉が身にしみてくる。 現実を突きつけられる。 (俺は単に・・・。光と一緒にいたかっただけなのかもしれない・・・。 なのに理想論ばかりかかげて・・・) ”本当に光さんを思うなら・・・” 「・・・」 晃は土地の権利書と競売の書類にペンをはしらせる。 (・・・誰にも迷惑かけられない・・・。ばあちゃん。ごめん・・・) ”彼女の未来のこと・・・考えなさいよ” (確かにそうだ・・・。俺は傲慢になってた・・・。 自分が光に自信をつけてやりたいなんて・・・) 「・・・オレ自身がもっと・・・か・・・」 愛美からもらったパスポートと・・・ アメリカから届いた恩師の手紙を眺める・・・。 ”晃・・・。貴方の力が必要・・・。こちらで貴方の力を試してみませんか?” (・・・オレの力・・・か・・・) 理想を現実にするには相応の経験が必要なときもある。 晃はパスポートをじっと 複雑な想いで眺めていた・・・。 その頃。 「お姉ちゃん、やったじゃん!」 光の元に『理容師試験』の合格通知が届いていた。 「うん・・・」 「どうしたの?嬉しくないの?」 「嬉しいよ。決まってるだろ・・・。でも・・・」 この証書をすぐ晃に見せに行きたい。 見せて一緒に喜びたい。 喜び合いたい。 (でも・・・。そんなことをしたら・・・) 「お姉ちゃん・・・」 (真柴さんのこと気にしてるんだね・・・) ) トゥルルルル・・・! 電話のベルが鳴る。 (・・・晃だ・・・。きっと・・・) 直感が働く。 「はいもしもし・・・」 「・・・。光・・・?あの・・・。話があるんだ」 「うん・・・。私もだ・・・」 (ちゃんと話をしよう・・・。ちゃんと・・・) 光は合格通知を持って・・・。 晃の家に向かった。 「・・・。晃・・・。体、大丈夫か?」 「ああ。すまない」 少しぎこちない空気が流れる。 久しぶりに晃が珈琲を淹れる。 ・・・最近はほとんど光が淹れていた。 「・・・。晃も珈琲いれるのうまいよ」 「そうか」 「うん」 何気ない会話に緊張して。 お互いに言いたいことがまだ纏まってないせいか・・・。 (・・・はっきり言わねば。晃は自分のこと考えてって・・・) 光は一度唾を飲んで口を開いた。 「晃!」 「光・・・」 お互いの声が重なる。 「ど、どうぞ。晃から・・・」 「い、や。光から・・・」 「あ、晃から・・・」 何だか大げさな譲り合い。 互いに何を言おうとしているのか 気になる 「・・・。この家をやっぱり売ることになる・・・」 「え・・・」 「仕方ない。形あるものはいつか・・・。俺が生きてる限りばあちゃんの 思い出も生きてるから・・・」 「晃・・・」 晃は居間の柱を名残惜しそうに撫でる・・・。 「・・・。辛いことでも・・・。現実を受け入れなきゃいけないときもある・・・」 「晃・・・」 晃の目が今にも泣きそうに光には見えた。 祖母との思い出を手放すことに 本当は我慢ならないはず・・・。 「・・・光。光の意見が聞きたい」 「・・・私の意見・・・」 「ああ・・・。オレがこれからどうするべきか・・・」 (それは・・・。アメリカに行くということ?) 晃を説得しようと来たのに・・・。 光は少し合点がずれた気がした。 「正直・・・。今の状態っていうのは・・・。自己満足の範囲 だ。経済的な面も・・・。俺自身の心も技術も・・・。 それに・・・アメリカの恩師のことも気になる・・・」 「・・・」 「俺の夢に光をただ巻き込んでるだけのような気がして・・・」 (そんなことない・・・。晃には・・・いっぱい色んなものもらった) そう言いたいのに。 お金や名声とか そんなものはどうでもいい。 ”晃を解放して!” 愛美の声が取れない。 「・・・。晃には感謝はしてる・・・。この間も言ったように 自信もついたよ。でも・・・。晃の恩師の人のことも大切にして欲しいし・・・それに・・・」 「光・・・」 「ら、来年は妹も大学受験だし・・・。 このまま晃と頑張れるよ・・・なんていえない。私・・・。そんな 健気な人間じゃない・・・。ごめん・・・」 「・・・それは・・・。”本心”・・・?」 光は静かに頷く・・・。 (・・・光・・・) 半分嘘だと 晃も分かっていたが・・・。 ”光さんの未来は・・・” (・・・オレの理屈で・・・。光を縛るわけにはいかない) 互いに互いを気遣い 思い遣って。 そして出た結論は・・・ひとつ。 「・・・。一ヶ月に一度はこっちに帰ってくるから」 「・・・晃・・・」 「・・・って・・・。本当は行きたくなんかないけどな・・・」 ”晃を解放して・・・!!” 愛美の声が一番大きく光の耳の奥で響いた・・・。 (そうだ。私は・・・) 「・・・。待ってるよ」 「え・・・?」 「晃がすんごく立派になってさ。その助手、私がやるんだ。ふふ」 光はVサインをはさみに見立てて チョキチョキっと可愛らしく空気を切ってみせる・・・。 「成長した晃と一緒にもう一度・・・頑張れるって信じてる。 また一緒に夢・・・。見られるって・・・」 「光・・・」 「・・・信じてる・・・。晃の未来も・・・。私の未来も・・・!」 光は精一杯 笑った。 作り笑いだとしても 今は・・・晃を笑って送り出したい。 「・・・光・・・。オレ・・・。絶対・・・チカラつけて帰ってくる・・・。 だから・・・。待っててくれるか・・・?」 「オーライ!誰かを待つ・・・なーんてロマンチックじゃないか。 ふふ。もてない私には貴重な体験♪」 「光・・・」 晃の体全身に光を抱きしめたい衝動が 血液より早く掛けめぐる。 でも抱きしめるより光に 想いを伝える方法は・・・ 「光・・・。髪・・・触りたい・・・」 光は穏やかに笑って頷いた・・・。 「・・・。光・・・」 自分の想いを伝えたい。 今すぐ伝えたい。 ずっとずっと抱えたいた想い。 晃は代わりに自分の手から 光の髪へと伝える・・・ サラッとして柔らかい・・・ 横髪に・・・ 前髪にも・・・ 優しい川の流れのように 撫でていく・・・ (晃・・・。ありがとう・・・) 晃の想いが 優しい手つきで分かる。 (晃・・・。ありがとう・・・) 心の中で何度も呟いて・・・。 それから半月後。 晃の祖母の家は取り壊され、新地にされた。 お金があれば 晃と祖母の思い出も守れただろう。 でもどうしようもできない現実もある。 (私が守るよ・・・?晃の代わりに・・・。晃が・・・。帰ってくるまでに) 光は新地にされた土地の土をそっとビニール袋に入れて 持ち帰る・・・。 (晃・・・。空って・・・どれだけ広い・・・?) 空の飛行機雲を見上げる。 飛行機に想いを馳せて・・・。 「光さん。見送りに来なかったのね」 「・・・」 東京へと向かう新幹線の中。 愛美と晃は窓の外を眺めている。 (光・・・) 街が小さくなっていく。 ・・・一番この世で大好きな人が居る街が 見えなくなるまで街を見続ける晃。 「・・・。お手洗いに行ってくるわ」 晃の顔を見ていられない。 アメリカに行こうがどこにいこうが晃の心は どこも離れない・・・。 一通の封筒。 中にはたった一枚。 (これ・・・) ”美容師資格認定書” 光の証明書のコピー・・・。 裏に一言・・・ 『晃を信じてる』 と・・・ (光・・・) ”自分を信じろ・・・!” いつか自分が光に放った言葉。 こうして返ってきてくれた。 (・・・光・・・) コピーに晃の頬から伝った涙が沁み込んでいく (光・・・光・・・) 晃は 飛行機に乗っても・・・ 卒業証明書のコピーをわが子のように 抱きしめ続けた・・・。 理想と現実。 思うままにいくはずがないと分かっていても 理想を胸に頑張ろうともがく。 誰かのために本音を抑えて 誰かのために嘘をついて それがいいか悪いかさえわからない。 遠回りになるかもしれないけど (きっとまた光と一緒に・・・) 新しいことを始めるには試行錯誤がいる。 きっと今は”試行錯誤”するべき時なんだと 思って・・・ (光・・・待ってろ・・・きっとオレ・・・) だが・・・ 夢を追いかけることすら揺るがす出来事が・・・ 「母さん!!しっかりして!!!」 光の家の前に救急車が止まり 母の登代子が担架で乗せられていく・・ 救急車が走る真上を晃を乗せた飛行機が飛んでいく・・・。 「母さん!!」 一ヵ月後。 手紙の返事が来ないと心配になった晃は一度帰国し、光の家をたずねると・・・。 「あ、空き家・・・!?」 だれもいない。 ただの家。 晃は近所の人間から登代子が倒れ、その後すぐ一家は引っ越したことを 耳にした。 (何処へいったんだ。何があったんだ) 晃は光を探し、そしてまたアメリカへ戻り、 また探しに帰国し その繰り返して。 そして一年の歳月が経とうとしている。 理想と現実。 光の現実も晃の現実も 大分変化がおきた。 そして 二人の新しい現実もまた 今、始まろうとしていた・・・。 ”夢を追いかけたい” ”夢を実現させたい” 誰もが何かを目指して 何かを求めて 頑張る、奔走する けど現実はそれを阻止することばかりだ。 自分の心に灯った夢だけ見つめて入られない。 挫ける事も投げ出すこともあるだろう 一日を生き抜くには夢を諦めることも必要なこともある。 ・・・自分らしく生きたいなどと悠長なことは言っていられない。 現実が許してくれない。 けれど・・・夢を持ち続けることはできる 些細な夢 それを集めて生きていくことも一つの生き方だろう。 小さな光りでも一つに集めればきっと・・・ 輝く。 ・・・きっと・・・
第二部へと続きます・・・。 長すぎますか(汗)でもちょっと色々書きたいことが蓄積しちゃって・・・。 ヘタレ文しか書けませんが書きたい熱意だけはとりあえずあります(自慢にもならん) 今年の夏、親が厄介な病気になりまして看病などで私にとっても大変な夏でした。 若いときは自分だけの夢や希望、悩みで模索する時期だと思いますが、そんな時期に 他のことでも抱えることが多くなってきたらどうするだろう、どうするべきなのか。 例えば結婚すれば、自分のことよりやっぱり旦那さんのこと、子供のことになるだろうし、 親が病気になればやっぱり自分のことは後回しになるだろうし・・・。 重たい現実の中でも「なんとかしてなんとかして」一日一日を積み上げていく・・・ そんな第二部になればなぁと思います。 管理人の気まぐれで書いておりますが、そんな拙文でよろしければ 今後もお付き合いくださいませ。では・・・