シャイン 『たったひとつの想い』 「・・・。うわぁ。まあなんて濃厚なキスシーンなの」 話題の恋愛ドラマ。 茶の間で一恵と登代子がキャラクター相関図(一恵自作) で盛り上がっている。 「あたしゃ、この優男は気に入らないね。 女に尽くすトコは買うけどそればっかりじゃ」 「えー。そうかなぁ。やっぱり優しくされたいでしょ。 女は」 (・・・。な、なんでこんなに盛り上がれるんだろうか) 女二人、妹と母の盛り上がりにただ、観客でいるしできない光。 「キスするよりされる方がやっぱりシチュ的には いいなぁ」 「そうかい?女からいってみるのも・・・。光。 あんたはどうだい?」 「・・・。え、そ、そんなこと・・・」 いきなり話題を振られておどおど。 湯飲みの茶をぐいっと飲む。 「ねぇねえ。どっち?お姉ちゃんの意見ききたーい! されるよりしたい方?キスもそれ以上も」 「!??」 「強引に押し倒されるもの悪くないなー。へへっ。 あ、でもあくまで合意の上でことで、きゃははッ」 ドン!! 湯飲みを激しく置く。光。 「・・・。わ、ワタシ何かわるいこといいまいした・・・?(汗)」 「相手の息を止めるほどの口付けなんて苦しいだけだッ!! にっ人間にとって呼吸は大事なもんなんだ!」 「は、はい(汗)」 「自分の体大切にしない奴は・・・。こっ恋なんか しちゃいかんッ。ドラマの見すぎは目に良くないぞ。ふっ 風呂入ってくるッ(汗)」 顔を真っ赤にして光はタオル一本肩にかけて 風呂場へ直行。 「・・・。あーあ。硬派なトコ・・・職人気質のお父さんの 遺伝だねぇ」 ちらっと仏壇の隣にたててある光一の写真を見つめる一恵。 笑顔は滅多に見せなかった硬派だった光一。 「はっはっは。そうだよ。だって光は 間違いなく光一さんの子だもの。けど一恵。 私も光の意見に一票かな」 「え?なんで」 「・・・。相手の呼吸を止めちまうほどの・・・ 恋ってのは結局自分も壊れちまうからさ・・・。 それはもう恋じゃない・・・。アクセル壊れた 車と一緒さ」 登代子は片時もはずさずはめている 婚約指輪をなでながら話す。 テレ顔を見せまいと気張って、 肩をすくませて俯いたまま指輪の箱を登代子に差し出した。 「・・・。なんか。お母さんが言うと説得力あるし(汗)でも 壊れてみたいって憧れちゃうのよね。女の子は」 「自分で直せる覚悟があるんならどうぞ壊れて みなさいな。ま、その前にあたしゃアンタを泣せる男いたら ぶん殴るけどね」 「お母さんの前に・・・。お姉ちゃんが相手に蹴りいれてるかも(笑)」 くすっと顔を見合って笑う。 どんな恋愛をしようとも 男だろうが女だろうが 大切何かを命を張って守るという気持ちがあるはず。 (ったく・・・。我が家の女性軍は積極的な思考で困る・・・) シャワーを止め、 浴槽に静かに体を沈める光・・・ 「はー・・・。極楽だ」 ぼんやり・・・ 考える・・・ (・・・) ”女の子だったらぜったいキスされたいよね” ”女の子だったら” (・・・) ”女の子だったら” (・・・。女の・・・子・・・か) 湯船に映る自分の・・・顔 (・・・”この顔”が・・・。女の子に見える・・・かな) テレビの中じゃ・・・ いとも簡単に 甘いBGMが流れキスシーン。 (・・・) この”顔”を 近づけられる? (・・・っ) パシャン! 湯船を叩いて・・・映る姿を消す・・・ (・・・。駄目だ・・・) 自分が誰かと・・・ なんて想像できない ・・・想像しちゃいけない (世の中の・・・女の子がいう・・・のはきっと・・・ 綺麗な綺麗な雰囲気じゃないと・・・駄目なんだろうな・・・) どんなキスがすきかなんて 甘い言葉がいいかなんて ・・・わからない (・・・。ワタシには・・・。難題すぎるよ・・・) 恋、愛 男と女 どんな形が 理想だというのか どんな触れ合いが いいというのか・・・ (・・・。ごめん晃・・・。ワタシはまだ・・・ 恋愛勉強中だ・・・) ブクブク・・・ 湯船にもぐる光。 (・・・。ワタシはまだまだ・・・だ・・・) しばらく沈んだまま ただただ・・・ 考え込む光だった・・・。 ※ 「”ピザ”沢山つくったから・・・。取りに来ないか?」 朝、晃から電話があって・・・。 「お姉ちゃん。行ってきなさい。それは”お誘い”の 電話よ」 「・・・誘い?そうだろう。ピザ取りに来いって」 自転車のキーをポケットに入れ、 買い物メモをリュックに入れて支度する光。 「・・・。そうじゃなくてさ・・・」 「・・・。一恵。すぐ”そういう思考”に 結びつけることはよくないぞ。ワタシは・・・」 「あーはいはい。硬派な論議はいいから 早くいってきなさい!」 ガチャ! 光は家から追い出され・・・。 「夕方まで帰ってこなくてもいいからね! なんなら止まってきてもいいよ」 「だっ誰が泊まるかッ!!一恵ッ」 おしゃまな妹が ”姉の恋愛”を応援している。 (・・・。応援は嬉しきことだが・・・。プレッシャーかけてくれるな。 我が妹よ・・・(汗)) 自転車をこいで 晃のマンションへ行く。 最近、 その片道の景色に とても安心感を覚えるようになった。 田んぼから 少しビル街がみえてくる途中。 (・・・。この穏やかな気持ちって・・・) 世の中でいうなら ”恋”というのか 愛というのか なら恋愛も (悪くないかも・・・) 待っていてくれる相手が居る悦び 自転車を止め、階段で上がっていく。 エレベーターもあるが 一歩一歩 待っていてくれる相手の元へは 自分の足で行きたい。 『3○5 真柴晃』 (・・・) リュックのポケットからリボン付きの鍵を取り出す。 (合鍵・・・。持っていていいのか。いまだに迷う) 合鍵を持っているというのは 巷では近しい人のみ。 「ふ、深い思考に捕らわれるな!わ、私はピザを 貰いに来ただけだ!」 ピシッと背すじを伸ばして 人差し指でインターホンを押そうとした瞬間。 ガチャ! 「わっ」 物凄い勢いでドアが開いた。 「あ。ご、ごめん。脅かして・・・。 光がドアの前に立ってる”気が”したから・・・走ってきた」 「・・・(汗)そ、そうか。すごい勘だな」 「・・・光だけにしか反応しない”勘”だ」 「・・・(汗)」 どうリアクションすればいいのだろう。 実感がこもった晃の言の葉に・・・。 (わ、私はピザを取りに着ただけ取りに来ただけ・・・) 心に呟きつつ。 頬が火照ってくる感覚も確かに感じている。 (貰うものもらったら・・・。おいとましよう) 「珈琲がいい?それともお茶?両方用意したんだ」 嬉しそうに急須と珈琲スタンドを見せる晃。 「えーあー・・・あの・・・」 (・・・ど、どうしよう) 晃のペースに戸惑いつつ光が注文したのは・・・ 「れっ冷水で」 「・・・。ああいいよ。ふふ。相変わらず遠慮がちだなぁ。 はは。光らしいや」 「そ、そうか・・・。す、すまん」 ”光らしい” ぽりぽりと鼻のてっぺんを指でなでつつ 晃の”光らしい”という言の葉に 嬉しさと、微かな不安が芽生える。 (ワタシらしい・・・。晃にとっての・・・”ワタシらしい”って・・・) 男の部屋に 仮にも女の自分が一人・・・ (お、女らしく・・・。は、恥らう表情を した方が晃も喜ぶのだろうか) ドラマでやってた。 小説で描かれていた。 恥ずかしがって身をすくめて、大好きな”彼”の リアクションを見守っている。 (・・・。た、体育座りより”女座り”の方がいいか??) ジーンズの足を横に倒して 女座りといわれる体勢にしてみる。 (・・・。あ、足が・・・。つりそうだ(汗)) もそもそと足を動かしていると 「はい。冷水」 「!あ、ありがとう」 光はさっと正座に座りなおした。 「足が痛いのか?」 「い、いや別に・・・。れ、冷水いただきますっ」 ゴクゴク。 一気飲み。 「う、旨かった。実にいい水だな」 「そうか?普通の水道水だけど・・・。光は 心も繊細だけど味覚も繊細なんだな」 「・・・」 (ほ。誉めてくれてありがとう。そ。それだけだよな(汗)) 晃の視線と 言の葉に 良くも悪くも 緊張してしまう。 「・・・はい。ピザ。旨く焼けてるかわからないけど・・・」 「あ、ありがとう。晩御飯のメインにさせてもらうよ」 「メインだなんて。オレの方がメインもらった気がする」 「え?」 「光のために作ったピザだから」 (・・・。・・・。あ、晃めっ。こっぱずかしい台詞 どっから仕入れてくるんだッ///) だが晃は真剣に 真面目に言っているから それが伝わってくるから (・・・。ごまかすことも・・・しちゃいけなくて・・・。 ちゃんと聞かないと・・・) 「光・・・。どうかした?なんか・・・。息苦しそうだ」 「えっ」 ぎくっとした。 漫画用語だがまさしくその擬音の通り・・・。 「あ、そ、そんなことは・・・」 「・・・ごめん。なんかオレ・・・。はしゃいでたかな」 「そ。そんな・・・。ワタシのためにピザやいてくれたんだろ? う、嬉しいよ」 「・・・本当に・・・?」 だが晃には光の表情が どこか強張っているように見える。 ”私は・・・晃が好き” 一生分の勇気をはらって 一番欲しかった言の葉をくれたあの日以来。 光の記憶からは消去されてしまったが 晃の心には確かに刻まれていた 「晃・・・あの・・・」 「ごめん・・・。オレ・・・やっぱり一方的だった・・・。 光の気持ち・・・考えず・・・」 「わ・・・っ私の方こそなんていうか ”女らしく”出来なくて申し訳なくて・・・」 「・・・?女らしい?」 「だ、だってほら・・・。お、男の人っていうのは・・・。 女っぽい・・・恥じらいがあって・・・笑顔が可愛くて・・・。 そういうのが・・・安心なんだろ・・・?」 光の言の葉に 晃の視線が鋭く反応した。 (・・・。わっ。晃の心が”ピリ”っときた!??) 「光は立派にオレにとっては・・・。只一人の女の人だよ。けど オレが好きなのは・・・。光っていう心だよ」 (諭されている気分だ。晃が正論だ。けど・・・。けど・・・) 「じゃあ・・・。私”らしい”って何だ!?」 「光・・・?」 「私”らしい”って何だ!?女らしくなくていい”私”か!? 一体どんな私なら、許されるんだ。認めてもらえるんだ!?」 「光・・・!」 ずっと 心の奥で ひっかかっていた 棘。 表に出て どうにかしてくれと 暴れだす。 「愛されたいってどういうことだ。人を好きって どういう気持ちなんだ・・・!!解らない私はそんなにオカシイ 人間か・・・!??」 「光。落ち着いて・・・!」 「もう沢山だ!!!恋だ愛だ友情だ!?? 感情ってものには幾つ名前があるんだ。幾つ知らなきゃ” 平均”扱いしてくれないんだ!??私のペースじゃいけないのか!!」 ドラマだ 小説だ 映画だ 人を好きってどういうことだ 恋と愛の違いなどわかるものか 深すぎて 大きすぎて ”分からない”と 平等に扱ってくれない ・・・扱って欲しくも無い 「光・・・おちついて」 「晃には分からない!!分からないッ!!」 なだめようとする晃の手を 払ってしまった・・・。 (最低だ・・・。私・・・) 「光・・・」 「・・・。ごめん。晃・・・。ごめん・・・」 「・・・。光・・・」 「ごめん・・・。いつものことだ・・・。 私の・・・マイナス思考の・・・空周り・・・」 「・・・」 怖いだけ。 どんな感情か 分からないから 怖いだけ 「恋愛じゃなくていいよ」 「え?」 「分からないことなら・・・。一緒にオレは探したい。 恋も愛も」 「晃・・・」 晃は静かに コップをテーブルに置きなおした。 「でも・・・。オレって・・・。すぐ調子に乗ってしまうから すぐ期待しちゃうから。駄目なんだ。光もオレのことも・・・って」 すがるように 光の手を握り締める・・・ 震えている (・・・。晃も悩んでる。苦しんでる。どうしたらいいんだろう。 どうしたらいいんだろう) 自惚れな苦しみか。 贅沢な苦しみか。 けれど こんなに苦しいなら・・・ 「・・・。ごめん。なんか・・・。オレも光も・・・ 落ち着かないと・・・な。ちょっと頭冷やしてくるよ・・・」 パタン・・・。 光を残し・・・ 晃はマンションを出た・・・。 (・・・。一緒に・・・。いたら駄目・・・なのかな) 一緒に居たら お互いの 苦しい姿ばかり見えてしまうから (無理・・・。なのかな・・・) 「・・・。晃・・・。晃の心に・・・。 追いつけなくて・・・。ごめんなさい」 (何様なんだ。私は・・・) 硝子のテーブルに映る自分の顔。 (・・・”恋愛じゃなくていい”あそこまで 晃言わせてしまった私・・・。何様だ!私! 本当に醜い・・・。一番卑怯だ・・・!) 硝子に映る自分の顔が憎らしい ドンドンン!! 顔を潰したい。 この顔が この心が もっと綺麗になれば 綺麗に・・・ 「”私”なんて消えてしまえ・・・!やっぱり 汚い私・・・ッ!!消え・・・」 光の拳がピタ・・・と 止まる・・・ 何度打ち付けても 映る顔は 変わらない。 「・・・。”これ”が・・・。私なんだ・・・」 (温かい・・・) ”誰かのために作ったピザだから” (温かい・・・) 作ってから 2時間以上は経っているはずなのに まだ 温かい。 食べて 元気を出して そう伝えているようで・・・。 「・・・」 ”光という心がすきなんだ” (・・・。私が一番欲しい”応え”を・・・。 晃はくれているのに・・・) 「・・・。言わなくちゃ。言わなくちゃ・・・」 もらってばっかりじゃ 駄目だ 「私も私もワタ・・・」 (!!) 心の中の一番大切な想いを 搾り出す作業 ・・・前にもした気がする 照れくさい 柄じゃないことを だからこそ 言の葉にする ・・・大切さ。 「・・・。何やってんだろう。結局・・・私・・・」 (でも、今度こそ忘れないで 確かに、確かに晃に伝えなければッ!!) 光は涙を拭いて・・・ 息を吸った。 「私はー・・・」 発声練習。 「私はー・・・晃のことがー・・・」 ちゃんと 今度こそ 今度こそ・・・ (伝えなきゃ。伝えなきゃ) ドアの隙間から 光の声が響く。 響く・・・ 「・・・ん?」 10分ほど経ってから 晃がマンションに戻る (・・・。光の姿が・・・。無い・・・) ドタン! ガラン・・・。 白いカーテンが 寂しく揺れる・・・。 「光・・・!?光!!」 (どこいったんだ・・・?帰ったのか!?) 光を困惑させたまま 帰らせた? 「光!!光!!」 (嫌われたくない。嫌われたくない) 求めすぎて 嫌われた。 「光ッ!!ひか・・・」 ふわっ ソファにかけてあった黄色のシーツが ずれた。 「・・・」 ソファの影で 体を九の字にまげて 眠っている物体が・・・。 「・・ひ・・・っ!光っ」 コロ・・・。 手から鉛筆が転がって 白いメモ用紙が・・・ まるで・・・。 遺書でもかいた死体のように 光も転がっていた・・・。 「・・・。光!!ひか・・・」 (ん?) スースーと寝息を立てている。 (な・・・なんだ・・・。眠ってるのか・・・(汗)) 光の生存を確認して(笑) 晃がさらに見つけたものは・・・ 『台詞1。私も晃と一緒に居たい 台詞2.晃。好きだよ』 と書かれたメモ・・・ 台詞3を見て晃は微笑んだ。 「・・・。ふふ。光。点が多いよ」 『台詞3.私は晃の事が・・・犬好きです』 「ふふ。ふふふ・・・」 きっと 自分が出て行ってから 練習したに違いない さっき、管理人から ”あんたの部屋から威勢のいい声が聞こえる” と聞いた。 緊張しすぎて 眠ってしまったんだ 「・・・。だから・・・。止められないんだ。光との恋愛は・・・」 求めて 求めちゃいけないとけん制して それの繰り返しで・・・ そして時々もらえる 可愛くてあったかい・・・ ”プレゼント” 「眠っている間だけ言わせてくれ。眠っている間だけ・・・」 想いの全部。 光がくすぐったがって 断るような 歯の浮くような 台詞 光が眠っている間だけ・・・ そっと耳元で呟いてみる。 「ずっと光と一緒にいたい。一分でも一秒でも 離れたくない」 「・・・。わ、わかった」 「!?」 顔を上げる晃・・・。 光が目覚めたのかと耳元から離した。 「・・・。トイレはそっちじゃない・・・。右だ」 「・・・。ね、寝言か(汗)」 「・・・。トイレは・・・むにゃ」 「・・・わかってるって。トイレまでは一緒じゃないよ(笑)」 どんな気障な台詞も 光の耳元では 通用しない。 人から 痛みを与えられて来た分、 自分を信じきれない分 ”恋や愛が分からない私はおかしいのか!?” 画面の中の 小説の中の 言葉じゃ通用しない。 本物の 本物の 想いでなければ (・・・。光を好きな自分が好きだ。ずっとそばに・・・ いるから・・・) 光が目覚めるまえに そっと メモはテーブルの上に戻しておこう。 (どんな顔するかな。・・・楽しみだ) 晃はそっと 光にタオルケットをかけて ピザを温めなおす。 温める時間約2分。 2分後に チーンという音と共に 光は目覚めて・・・ 「あ・・・ああああ!?晃。あ、そ、そのメモはー・・・」 光と晃の問答は再び始まった・・・。 晃の心はまた はしゃぎだすのだ・・・。 人の数だけ恋の形が 私たちの愛の形が ・・・想いの形がある。 それが 優しく 認め合えたら 幸せなことはない・・・ 「だ、だからさ。あの。そのメモについては・・・。 2時間ぐらい説明させてくれ・・・(汗)」 光の不器用な言の葉は 確かに 伝わっている・・・。