シャイン
〜早朝デート2〜
「さーて!目標もできたし!お金もかかるし!稼がねば!」 まだ肌寒い3月上旬。 光はいつものごとく、薄闇を自転車のライトを灯して寝静まる商店街を 走っている。 プップー! (・・・やな予感) クラクションに恐る恐る振り返ると・・・ 高級車・・・ 「オーッはーvいっちごちゃんv」 俊也が手を振っている。 (・・・お調子者ホストのご登場ってか(汗)) 「今日も毎朝勤労ご苦労様!」 「・・・そっちも」 光は自転車をこぎながら歩道を走る。 「なぁ〜。朝からこの俺様に出会ったんだぜ?もっとハッピーな顔しろよ」 「ハッピーどころかアンハッピーだよ」 俊也はスピードを緩めて光の自転車を追う。 「いけず〜。ま、そこがまた戦闘意欲わくんだけど」 「・・・。こっちは勤労意欲が失うよ」 呆れ顔の光。 ブチ! 「ん?」 変な音がした。 ぷシュー・・・ よく見たら、自転車のタイヤの空気がぬけているではないか。 「あー・・・。パンクしてる・・・」 後輪のタイヤは完全にぺしゃんこ・・・ 「どうすんだ・・・。はぁ・・・。まぁ、新聞はもう配り終えた からよかったけど・・・」 俊也が車を停め、降りてきた。 「ふふふ。俺の出番がやってきた。さー。お嬢さんちょいとどいて」 「あ、何すんだ」 俊也は光の自転車をひょいっと持ち上げて、車のトランクにいれてしまった 「お、おい!」 「さーさ。乗った乗った。仕事は終わったんだろ? 送ってやるって。ふふ」 「・・・いーよ」 「・・・ったく。強制執行するぞ」 ついでに俊也は光もだっこして助手席に乗せた。 「お、おい!勝手な・・・」 「強引さが俺の持ち味♪さ、早朝デートしゃれこもうぜ」 「・・・拉致だろう。これは」 どうしてなのだろうか。 俊也のこのいい加減さは嫌いなはずなのに 根っこから嫌うことができない。 (・・・”ノリ”に乗せられてるのだとしたら・・・。 確かに隙があるのかもな) 光とパンクした自転車を乗せた俊也の車は朝焼けの海沿いのバイパス道路を 通る。 「・・・。お前。美容学校いくんだって?」 「・・・!?な、なんで知って・・・。あ、また妹から 情報入手したのか!」 俊也、ちゃっかり一恵の携帯のアドレスまで聞き出していた。 「・・・ったく・・・。一恵の奴。家帰ったら締めてやる・・・」 光はボキっと腕を鳴らした。 「恐いねーちゃんだねぇ。ふ。でもお前、ゆーきあるなぁ。 お前ば美容を語るなんて世の中の女たちをゆーきづける」 「・・・。朝から毒舌ありがとう。後で腕一本貸してもらおうか」 さらにボキっと腕を鳴らす光。 「はい。毒舌やめます。光ちゃん。綺麗な景色みせたげるから 機嫌直して♪」 と、甘えた声で俊也が停めた場所は・・・ 「・・・わ・・・」 赤い灯台。 展望台の屋上に登れば、地平線に朝日が顔を出す絶景が・・・ 「・・・ここ。通称”恋人の赤灯台”つって、縁結びの デートスポットなんだ。一緒に見た男女は・・・って。何やってんだ(汗)」 雰囲気を盛り上げようとしているのに。 「・・・草取り」 光はしゃがみ、ベンチの下に生えていた小花をひっこぬいていた。 「・・・お前の行動には理由があるのか(汗)」 「あるよ。私にとっては。この小花な・・・。乾燥させると綺麗なコサージュになるんだ。 髪飾りが作れる」 「・・・」 あきれ顔の俊也。 こんな絶景なら普通の女の子なら”きゃー綺麗!”とか言って 喜ぶのに。 それですぐ、口説ける状況にもっていける。 「この景色よりそんなきったねぇ草の方が今のお前は 気になるってか」 「ああ。あんたから見たら、面白くないリアクションだろうが 私はこの小花が今、大事だ。景色はちょいと視線を伸ばせば見られる」 小さな白い花の土をとって丁寧にハンカチに包む。 (・・・。外見に自信がない女は・・・。内面の良さを強調 してくるってのが相場だけど・・・。こいつは・・・それでもなさそうだ) 四角の穴があれば、誰でも四角の形の積み木を選んではめるだろう。 丸い穴なら丸い積み木をえらんで通すだろう。 決められた形、目で見たものだけで選ぶ。 でも・・・ (こいつはどんな形でも作ろうとするんだろうな・・・) ”俊也ちゃん。違うでしょ。貴方はもっと頭がいいはずよ” 狭い部屋で 数字の書かれた積み木に投げつけらる。 ”この数字とこの数字を足すの!こくらいできなくちゃ 付属小にははいれないのよ!” 俊也の頭の奥で胃が痛くなる甲高い声が一瞬蘇る。 「おーい。ホスト君。生きてますかぁ?」 光が俊也の顔の前で手をパタパタさせる。 「生きてるよ。ったく・・・」 「そうですか。なんか今一瞬、”幼いころの悲しい思い出”とかに 魂が飛んでったような顔、していたぞ」 「・・・」 あたらずも遠からず・・・ 妙に勘はするどく・・・ 「・・・光。お前、水晶玉か?」 「あ?それは褒め言葉か?」 「どっちでもねぇよ」 「ふぅん・・・ま、いいけど」 光は立ち上がり背伸びをして深呼吸。 「ふー・・・。ラジオ体操でもしようかな」 「あのな(汗)ここは恋人岬だぞ」 屈伸運動を始める光。 (んっとにこいつは・・・(汗)) いろんな顔、 つかみ所がない。 (ギャクなのか自然っ子キャラ醸しだしてんのか。わかんねぇけどな) 「俊也。ほい!」 光は苺キャンディを俊也に投げた。 「まずは糖分から補給せねば・・・ね」 「・・・ったく・・・。お前のそのつかみ所のなさ、には負けた」 「・・あんたこそ、毒舌なんだか誉めてるのか微妙だね。 でも、つかみ所がないっていうより・・・自分の中の自己嫌悪に負け ないようにしているだけだよ」 少し、襟足が伸びた光の髪がふわっと風になびく。 「・・・。ってか生傷はまだまだあるんだけど・・・。 今でも昼間の街をまっすぐ歩くのはきついよ。歩いてる人が 全部敵に見える・・・。ただの自意識過剰かもしれないけど」 「・・・。そんなら解決方法は簡単じゃねぇか 車の免許とればいいじゃねぇか。そしたら他人の 視線を多少はかわせるだろ?」 光は首を振って否定した。 「・・・逃げ癖は・・・。つけたくない」 「・・・そこまでギリギリな生き方しなくてもいいじゃねぇか。 適当に自分を守って。適当に自分を出して・・・」 俊也はズボンのポケットに手をつっこんだ。 「適当なんて・・・。器用なことはできない・・・。まっすぐ歩かなないと。 顔を上げてさ・・・。でないと・・・。この綺麗な景色も見られないだろ・・・?」 光はベンチの上に上がり、手をかざして 海を眺める・・・ 「・・・ふふ。光と語り合えて今日の早朝デートも満更じゃなかったな」 「・・・。別に・・・。あんたと語り合いたくはないよ」 光の横顔が少し照れている。 (・・・0,12秒、今、お前のこと可愛いって思ったよ。 いわねぇけどな) 苺の甘い味・・・ 潮の香りにまぜって・・・ 俊也の心は感じたことのない穏やかさを感じていた・・・ 光は家まで俊也に送ってもらった。 門の前でトランクから自転車を下ろす。 「自転車。治るのか?」 「いーや。直す」 「あ!?自分で治すのか!?」 光はにこっとわらってうなずいた。 「お金かかるんだよ。店で直すとさ。うち、受験する妹かかえてるから 経済事情きびしーんだ。タイヤ代も浮かせなくては」 「お前も春に受験生だろ?美容学校の」 「・・・あ、そか。あはは。妹のこと言えないな」 髪をぽりっとかいて笑う光。 (今は3秒と0,1秒可愛いって思った。でもいわねぇよ。ふふ) エンジンをかける。 運転席の窓を開け、光が見送る。 「今日は・・・。ありがとう。一応礼をいっておく」 「一応でも、光から感謝の言葉が出たってことだけでも 進歩だ。あと何歩で抱きしめられるかな」 「何歩もないよ。一生ないよ」 俊也はくすっと笑い、 「んじゃ一生待つかな。じゃあな」 ウィンクして去っていった・・・ 「ったく・・・。気障な台詞と毒舌は負けるよ・・・」 気が合う・・・ とまではいえない。 けれど 最初に感じた激しい嫌悪はきえた・・・ 「よーし!自転車直すか!」 オレンジ色の朝日を思い出しながら 光はペンチをつかってタイヤ交換。 (よーし・・・。頑張るぞ!) 前向きな気持ちだけを 持って・・・ 光の挑戦がはじまった。