結とユイ 〜君と過ごした日々〜 第一話 ベットの下に転がっていた男 ヒトも犬も ありとあらゆるイキモノは いつか 心臓は止まり 体が消える ヒトは僕らよりずっと消えることを怖がる でも僕は 大好きな君が泣くほうが 怖い ”結” 僕と同じ名前 泣かないで 泣きすぎると ちゃんとご飯を食べないと 結のココロが死んでしまう ・・・嗚呼神様。 どうかもう一度だけ 僕を結の元に 大好きな結の元へ・・・。 ※ 「・・・結子や。お願いだから一口でいいから・・・ 食べておくれ」 結子の祖母・ヨシがドアの前に小皿に乗ったお結びを置く。 「結や・・・。お願いじゃ」 「・・・」 孫一人祖母一人。 ずっと二人で暮らしてきた ・・・いや、3日前は3人だった 家族だった犬のユイが ・・・召された。 子供のころからずっといっしょだった。 犬種などわからない たぶん雑種。 顔は柴に似ているけど ただふわふわの栗色の毛と 右耳の裏が焦げちゃ色が目印だった。 「ユイ・・・」 絨毯じゅうにばらまかれたユイの写真 それからユイが大好きだった遊び道具たち・・・ 「・・・ユイ・・・」 20年間生きてきて 半分以上 一緒に居た 大切な大切な家族。 「ユイ・・・」 いじめられたときも さみしかったときも いつもそばにいてくれた。 あったかいふわふわの毛を抱きしめると ・・・悲しみなんて 飛んでいった。 「ユイのバカ・・・なんで・・・」 やんちゃなトコロもあったけど いつも一緒に眠ってた。 結子のベットに乗っかって 占領しちゃって困っていたほど・・・。 「・・・重いじゃねぇか」 「!??」 見知らぬ裸身の男がベットのシーツの下に・・・。 「ベットの右端っこはオレの領域だっただろう?。 ああ寒い」 (・・・) 平然とした顔で結子からシーツを奪い、腰に巻く。 「お、お、お・・・ばあちゃんッ!!!変な奴がいるーーーー!!!」 結は大声をあげる。 「相変わらずでかい声だなー・・・」 男・・・というよりは少年に近く年は17,8歳ほどか・・・? 肩まで長髪で割と筋肉質。 (・・・ってどこ見てるのよ。私は) 「おまえな、リアクション遅せぇ」 「アンタ何者!??・・・と、とにかくで、出ってよ!!!警察呼ぶわよッ!!!」 結は枕やらえんぴつたてやら写真たてやら、机やたんすの上にあるものを 少年に投げつける。 「や、やめろ!」 「おばあちゃん!痴漢だわ!!あ、そうだ、携帯で・・・」 「あ!その音やめろ!」 少年は結から携帯を取上げた。 「何すんのよッ」 「そのちっこい機械の音、オレが嫌いなの知ってんだろ!!」 「・・・た、確かにユイはそうだったけど・・・。 だからってなんであんたがうちに不法侵入してんのよッ」 「おれんちだからだろ」 「・・・はぁあ!??」 ふてぶしい態度。 目の前に見知らぬ少年が突然現れたというのに (何なのこのみょうなファイト感は) 「と、とにかくうちからでってて!!今すぐ!!」 「やだ」 「・・・。じゃあ警察呼ぶしかないでしょ。さて。 110番・・・」 「その音イヤダ!!」 「あっ!!」 少年は窓を開けて庭めがけて携帯を放り投げた。 「あ・・・」 ぽちゃん。 庭の池に見事にダイブで携帯は水の底に・・・。 「・・・フン」 「・・・なんてことすんのよ」 「・・・!!」 結の瞳からぽろぽろ涙が・・・。 「あの携帯には・・・”ユイ”との写メがいっぱい 入ってたのに・・・。いっぱい・・・いっぱい・・・」 「・・・」 急に少年は大人しくなる。 そこへ・・・ 「結子っ。大丈夫かいッ!??」 外は二人の大声に気づいて、 近所の人が交番に通報したのか 警官が玄関に来ていた 「・・・出ってよ・・・」 「・・・だって・・・。オレのうち・・・ここ・・・」 「知ったこっちゃないわよッ!!!悪戯にもほどがあるわッ!! 出てってば!!!!」 「結・・・」 「・・・アンタなんか知らないわよッ!!!出てってぇええッ!!!」 ガシャンッ!! 少年に向かって教科書やらまくらをなげるける 「でってって!!!ユイはもう戻ってこないんだから・・・っ」 「・・・」 少年はうつむいたまま タオルを腰に巻いたまま玄関へ・・・ 「ちょいとお待ち。そんな格好じゃ風引くよ。これ 着てきなさい」 少年にワイシャツとズボンをきせたセツばあちゃん。 「・・・これ・・・。トクジじーちゃんの服だろ・・・? 匂いがする」 くんくんとワイシャツのえりの匂いをかぐ。 「・・・アンタ・・・」 「ばあちゃん。アリガトな」 「おい。行くぞ」 警官に連れて行かれる少年をセツは・・・ (・・・悪いことするようには・・・見えないんじゃが・・・。 初めてあった気がしないというか・・・) 「ばあちゃん。結・・・。ちゃんとメシ食えるようになると いいな」 「・・・アンタ・・・」 「じゃ・・・」 少年は素直に警官に着いていく (・・・妙な少年じゃのう・・・) セツが少年を見送っている頃・・・。 結は池に落ちた携帯をさがしていた。 「・・・ユイ・・・」 携帯の音を嫌がっていたユイ。 けど、「写そうよ」って言ったら嬉しそうに 駆け寄ってきてくれた・・・ (ユイとの思い出がいっぱいつまっているのに・・・) 今日は最悪な日だ。 変な男は侵入してくるし 大切な思い出は消えてしまうし・・・。 「・・・ユイ・・・。ごめんね」 結子は携帯をぎゅっと握り締めてうずくまるのだった・・・