結とユイ 〜君といた日々〜 第4話 アッタカイ、アッタカイ 「あ、オレの写真がいっぱいだ」 「どこにアンタがいるの」 結子の部屋。 スーパーでの一件以来、結子は押入れの奥に閉まっていたユイの写真や アルバムを取り出していた。 ユイが天国に行ってから、見るのが辛くて 押入れの奥深くに封印していたのだ。 「・・・。思い出になるまで・・・。何年かかるか わからないけど・・・」 ユイがこの世にいた記憶を 忘れないために ユイとの楽しい記憶を生きていく糧にするために・・・。 「ユイ・・・。私・・・少しずつだけど・・・頑張るね」 「オレもがんばる」 「・・・アンタじゃなくて、こっちの可愛いーわんこに言ったんです」 ユイの写真を抱きしめて指差す結子。 「おう。オレのことだ」 (・・・。この問答にも疲れたからスルーしよう・・・汗) 「オレがいっぱいだ。オレがいっぱい写ってる! 結子、そんなにオレが好きなのか」 「・・・ええ、犬のユイはね」 「オレも好きだ!うれしい!」 (///あんまり素直に言われると・・・照れくさいけど) まだ心のおくの哀しみや痛みは消えない うずく。 けど・・・。 (癒えることは無くとも・・・。薄めることはできる・・・) 写真を見ると涙が出そう。 泣きつつも・・・。 毎日を大切に過ごしていこうと結子は思い始めていた・・・。 ※ 「それにしれもユイ太の買えの洋服がないわね」 突然増えた男の家族。 女物しかない。 「仕方ない。明日休みだし、買い物に行くか」 「結子と買い物か!?おう。行ってやってもいいぞ」 「・・・。誰の買い物するよのよ(怒)」 こうして、日曜日、二人で買い物へ出かけることに・・・。 ショッピングセンター。 青年向けの服売り場。 Tシャツとジーンズとワイシャツと・・・。 「じっとしてるの苦手だ」 「じっとしてなさいよ!ったく。サイズが分からないじゃない」 ユイ太の背中に服を合わせる。 「ったく・・・。馬鹿でかい背中して・・・。LLでやっとじゃない」 「・・・オレ、別に服なんかいらん。動物に服着せる 人間いるけど、あんまり好きじゃないし」 「・・・。防寒対策よ。とにかく黙って私のいうこと聞きなさい!」 「ちぇー仕方ねぇな。従ってやるか」 (・・・優しいんだかひねくれてるんだか・・・!) 子供っぽさと優しい面。 (ユイもそういうトコあったけど・・・) 「なぁ。結子。これもいるんじゃねぇか?」 「え」 ユイ太が持ってきたのは男物の下着。 「”サイズ”測んなくていいのか?俺、じっとしてるけど?」 「・・・。そ、それは適当でいいから」 「えー?でもサイズ・・・オレ知ねぇし。自分の」 「・・・(汗)いいから適当なの選んでいいから大声で言うなー!」 トランクスをパタパタと旗をひらめかせるように 手を振って大騒ぎ・・・。 そんなこんなで。 ショッピングセンターのハンバーガーショップ。 窓際の席をとって、 ビックバーガーと ポテトとシェイクを頼みました。 色々とこうしてお買い物をしたのですが。 「・・・。ふぅ・・・。いつもの数倍疲れた・・・」 「うまそうだ。にくいっぱい入ってる」 ぐったりの結子に対して ハンバーガーを喰らいつくユイ太。 「あんたねぇ、買ってやったばっかりの服、 汚さないでよ。ちょっと待って」 結子はユイ太の膝の上にハンカチを置き、 襟にもう一枚つけた。 なぜか嬉しそうなユイ太。 「・・・何よ。その笑みは」 「・・・。なんか・・・。お袋みたいだ」 「はぁー?」 ユイ太が指差す方向には。 少年と若い母親の親子連れが。 少年のひざにハンカチを置いて口元をふいてやっていた・・・ 「・・・いいなぁ。なんか・・・。 オレ、優しくされるの」 「・・・アンタは子供じゃないでしょうが」 「オレ、捨て犬だったからお袋の顔知らねぇんだ。 だから・・・ああいうの、なんか。いい。」 (・・・。いきなりシリアスな話題にしないでよ) 言葉が繋がらない。 「と、とにかく・・・。まぁまぁアンタにも色々 事情があるんだろうけど・・・。甘えちゃいけないわよ」 「甘える・・・。それもあんまりよく分からない。 でも結子は優しいから、俺うれしい」 「・・・」 ・・・急に素直になられると 反論もできない。 それに・・・ (私も・・・分からないではないし・・・) 親に甘える 当たり前のことが 出来なかった子供の頃。 ”甘えて泣く” ”欲しいものを物をせがむ” ずっと抑えてきた・・・。 「・・・わーーー!!あんた、 シェイクがぶ飲みするやつがあるかーー!」 (ったく仕方ないなぁ・・・) と少し優しい気持ちで思いつつ。 ユイ太の口周りをごしごしと タオルで拭く拭く結子だった・・・。 ショッピングセンターを出た二人。 「さてと。大体のものは買ったし・・・。帰りますか」 「えー。もうちっといようぜー」 「夕飯のしたくもしなくちゃいけないし・・・」 「じゃあ、ちょっとだけ、あそこに寄り道したい」 「あそこって・・・どこよ?」 ユイ太の言う”あそこ”とは・・・ 「ここって・・・」 よくユイと一緒に遊んだ公園だ・・・ 黄色のブランコ二つ。 ぞうさんのすべり台が一つ。 青と赤のジャングルジムが一つ・・・ それから砂場。 遊具、4つしかない ちっちゃな、ちっちゃな、公園・・・ 「オレ、ここで結子に拾われたんだ」 「・・・」 日が暮れてしまった公園。 他の友達は母親が迎えに来て、帰ってしまった。 (夕暮れの公園が一番嫌いだった・・・) 結子は一人、ぶらんこであそんでいた そんなある日。 ジャングルジムの下で 小さな毛がふわふわのものが動いていて・・・ (・・・何コレって思ったんだよね・・・) あんまりぶるぶる震えて おびえていた・・・ 「結子が着てた服にオレ、包んでくれたんだ」 「・・・」 おびえる目が 人を恐れている瞳が ほおっておけなくて 自分のようで・・・ 「・・・それからオレ、この公園大好きになったんだ」 「ったく・・・。あんた私の日記どこまで盗み見したの? 暗記力はすごいけどね」 「別に何も見てないよ。覚えてるだけ・・・。 この公園が・・・オレと結子の大切な場所だってこと・・・」 ユイ太はブランコに座った。 キィ・・・。 「・・・結子は・・・。帰ってく親子を淋しそうに いつも見てたよな・・・」 「・・・。日記盗み見過ぎ」 キィ・・・。 いつもより少しおしゃべりなユイ太。 「・・・なんで・・・。人間の親子ってみんな、 手、つなぐんかな」 公園の前を手を繋いだ母子が仲良く歩いていく・・・。 「・・・迷子にならないようによ・・・」 「・・・ふーん・・・」 二人は静かに親子の後姿を 見送って・・・。 しっかりとつながれた手。 (・・・どんな・・・感触なのかな・・・) お母さんの手。 キクばあちゃんの手も大好きだけど お母さんの手のぬくもりってどんなだろう。 「・・・オレ・・・。人間になれてよかった」 「え?」 ブランコから降り、 そっと結子の手を握った。 「あ、アンタ突然なに・・・」 「犬のまんまだとこうやって手、つなげないもんな」 「・・・あんたねぇ・・・」 「嫌だったら離すけど・・・駄目か?」 (う・・・) 上目遣い。 ”ユイ”のおねだりする時の瞳に似ている・・・。 「・・・家までの50メートルだけよ」 「やった!じゃあゆーっくりゆーっくり行こう」 はしゃいで笑うユイ太・・・。 (まったく・・・なんだか怒る気も消えちゃうじゃない・・・) ユイ太はつぶやきながら 歩く・・・ 「アッタカイ・・・アッタカイ・・・」 (ホントに・・・アッタカイ・・・) ユイ太の手の温もり・・・? それとも優しい夕陽のぬくもり・・・? アッタカイ。 ただそれだけ ・・・ココロのおくの もやもやと いらいらと ぐちゃぐちゃと・・・ ソレ全部 やわらかくしてくれる ”アッタカイ” 「あったかい」 「・・・」 「すごくアッタカイ」 「・・・うん・・・」 切なくて大嫌いだった 夕暮れ アッタカイ、夕陽もあったんだと・・・ ちょっとだけ・・・ 好きになった結子だった・・・